(1)青果物輸出の展開過程
京果における青果物輸出は平成14年から開始されたが、当時は香港やシンガポールに向けたリンゴ、梨、柿など果実の輸出のみであった。本格的に野菜輸出に参入することとなった契機は、26年に香港で開催された「アジア国際果実・野菜マーケティング展(ASIA FRUIT LOGISTICA)に京都市中央卸売市場、京都青果協会、仲卸業者などと共同で出展したことである
(注3)。当展示会へは、コロナ禍の時期(2年間のみ)を除いて出展を継続しており、令和6年時点で11回目となっている。現在は海外で開催されるこの他の展示会にも出展しており、京の伝統野菜(以下「京野菜」という)
(注4)と国産果実のプロモーションに積極的に取り組んでいる。京野菜や国産果実を品目ごとに展示することで来場者のニーズや反応を的確に把握できるよう工夫しており、現地情報を入手する上での貴重な機会となっている。また、二度目の出展時以降、ホットプレートや蒸し器などをブースに持ち込み、興味・関心を持ったバイヤーに調理しながら試食を提供するスタイルでプロモーションしている。昨今の日本食ブームやインバウンド需要の増加によって、海外でも知名度が高い京都の地場野菜を扱っていることもあり、京果による京野菜輸出は、国内の他産地の野菜よりも、プロモーションを行う上で興味・関心を集めやすいという特徴を有している。
27年には、京野菜の輸出相手先である香港での認知度向上とニーズの掘り起こしを目的として、飲食店での京野菜メニューの作成と商品化や、現地のインポーターと連携して百貨店・量販店、料理教室などで京野菜を利用した試食会や販売促進に関するイベントの開催に取り組んでいた。
28年は、前年までに生じていた輸送中の品質劣化の課題を解消するため、鮮度保持技術向上の必要性が高まった。そこで、エチレン吸着剤などの鮮度保持資材や包装資材の効果測定をするため、国内の印刷業者などと連携して、最適温度帯の異なる品目(京夏ずきん、賀茂なす、九条ねぎ、万願寺とうがらし、京みず菜)を使って冷蔵コンテナ混載便で神戸港から香港までの輸送試験を実施した。15度設定の冷蔵コンテナ便で香港へ輸送し、通関後(7日後)に開封して品質を調査した結果、全品目で充分な鮮度が保たれていた。詳細は、参考文献(6)を参照いただきたい。
同じ時期に、京都市が策定した京都市中央卸売市場第一市場マスタープラン
(注5)の基本戦略の中で、集荷・販売に関する競争力強化のための取り組み事項の一つに、輸出促進が掲げられていることも、京果の取り組みが継続する上での追い風となっている。
京果が他の国内産地と異なる輸出の取り組みをする背景には、(主要輸出相手先である)香港は他産地からの日本産青果物の輸出が活発で、市場参入が後発的であった京都市および京果は、徹底した差別化が必要と判断したからである。また、このような取り組みができる理由として、地方自治体(京都市:京都市卸売市場第一卸売市場の運営主体)、商社(系列会社のローヤル)との官民連携がとりやすい体制が整備されていることも利点として挙げている。
(注3)「アジア国際果実・野菜マーケティング展」は、アジア市場において青果物を取り扱う業者(輸出入業者、生産者、卸売・小売業者など)を対象に行う国際展示会である。平成19年にタイで開催されて以降、毎年9月に3日間の開催期間で実施されている。令和5年に開催されたシンガポールでは、おおむね700の出展者(43カ国・地域)、1万3000人(70カ国・地域)を超える来場者となった。詳細は参考文献(5)を参照いただきたい。
(注4)京の伝統野菜は、昭和63年3月、京都府農林水産部により(1)明治以前の導入栽培の歴史を有するもの(2)京都府内全域を対象とするもの(3)たけのこを含むもの(4)キノコ類、シダ類(ぜんまい、わらび他)を除くもの(5)栽培又は保存されているもの及び絶滅した品目を含むもの-と定義されている。具体的には、京みず菜、賀茂なす、伏見とうがらし、えびいも、九条ねぎ、京たけのこ、鹿ケ谷かぼちゃ、堀川ごぼう、聖護院だいこん、京壬生菜(きょうみぶな)(壬生菜)、金時にんじん、くわい、やまのいも、紫ずきん、京山科なす、京こかぶ、聖護院かぶ、京夏ずきん、京の伝統野菜に準じるものとして万願寺とうがらし、花菜などが挙げられる(写真)。
(注5)平成28年3月に京都市が策定した、市場の再整備(改修・建替)を契機に先進的な食品流通拠点としての役割を実現するための基本方針である。実施期間は平成28年度から同37年度(当時。現在の令和7年度)までの10年間である。
(2)青果物輸出の実態
表2は、最近の京果における青果物輸出額の推移を示したものである。平成26年度に600万円であった輸出額が、翌年度は8700万円、翌々年度には2億1000万円と増加し、軌道に乗ったことがわかる。コロナ禍の影響などにより令和元年度のみ一時的に減少したものの、その後、令和2年度以降は継続して増加し、5年度には5億2000万円となっている。このように最近10年間の輸出額は600万円から5億2000万円と約87倍に成長していることが分かる。
なお、京果における青果物輸出額のうち、野菜が占める割合は20~30%であった。野菜の主力アイテムである京野菜のみではロットが少ないため、ビジネスチャンスを逃してしまう状況にある。しかしながら、他の輸出事業主体と異なり、京果は野菜以外にもリンゴ、梨、ぶどうなどの海外需要が大きな果実(京都市内外の産品)を取り扱うことで取引の機会の幅を広げていた。このことによって、他産地では困難な青果物の周年供給も可能となり、現地とのコンタクトやコミュニケーションを密に行えるメリットも有していると考えられる。
調査時点(2024年2月)において京野菜の輸出実績のある国・地域は香港のみであった。輸出相手先が香港である理由は、他国・地域と比較して検疫制度や残留農薬基準が緩やかで、輸出しやすい点が挙げられる。それに加えて、輸出開始当初は日本的な食材のニーズが高まっていた影響もあったとのことである。
主力品目は、周年供給が可能な「九条ねぎ」および「京みず菜」であり、それぞれ4~5トン/年の輸出実績がある。その他にも「賀茂なす(出荷時期:5月上旬~10月下旬)」「えびいも(同:10月下旬~2月下旬)」「聖護院だいこん(同:11月中旬~2月下旬)」「万願寺とうがらし(同:5月下旬~10月下旬)」「京夏ずきん(同:8月中旬~8月下旬)」など多岐にわたっているが、前述の2品目と比較すると取り扱い時期が短いため、取引の範囲は限定的である。
また、京野菜以外の地場産野菜の取り扱いとしては、平成27年よりほうれんそうの輸出実績がある。このように、一部の品目において、京野菜輸出の波及効果が確認できる。
青果物輸出における販売先の構成は、量販店97%、飲食店3%であり前者が中心である。輸出事業を開始した当初は、飲食店の比率が現在より高い時期もあったが、量販店と比較すると取り扱うロットが小さく、それに伴う作業が煩雑であったため、平成27年以降は徐々に取引量を減らして現在に至っている。なお、京野菜は、日系量販店(イオン、そごう)での販売が中心であった。輸出相手先への輸送は船便が中心で、主に使用する港湾は神戸港であった。荷姿は国内と同様に段ボール箱で行われていた。輸出相手先での小売価格は、日本国内の価格と比較するとおおむね2倍程度となり、この価格差は、主に輸出に係る事務作業などの経費および輸送料に起因している。
京果は輸出のメリットとして、現時点では取扱量は少額ではあるものの、売り上げの純増につながっており、少子・高齢化の影響により国内市場の縮小が予測される中で、販路の新規開拓としては期待が持てる取り組みと位置付けていた。一方、デメリットは、海外との取引に要する証明書類(衛生証明書、梱包証明書)などの対応が煩雑である点を挙げていた。具体的には、輸出相手先によって書式や記載事項が異なるため、今後京野菜の輸出先を広げるに当たってはその対応が負担となる点(輸出に対する関心度が低い産地や農協では証明書の対応が困難なところも存在)である。それに加えて、燃料費や人件費の上昇に伴い輸送費も高騰しており、香港以外の輸出相手先への提案がしにくくなっている点も、今後の懸念材料であるとのことであった。