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調査・報告 野菜情報 2025年3月号

卸売業者における青果物輸出の今日的展開~京都青果合同株式会社の取り組み事例を中心に~

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弘前大学 農学生命科学部 国際園芸農学科 教授 石塚 哉史

【要約】

 京都青果合同株式会社は、香港への京の伝統野菜の輸出に取り組み、当地において量販店・飲食店への販路を確保した。今後のさらなる販路開拓・確保に関して課題が残されているものの、京都青果合同株式会社の取り組みには、青果物卸売業者による野菜輸出を実現するための参考となる事項が数多く存在しているものと考える。

1 はじめに

 令和2年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」において農林水産物・食品輸出は、グローバルマーケットへの戦略的な開拓の中心として掲げられている。政府が輸出促進に注力する理由は、消費者の低価格志向などによる国内の需要停滞に加え、今後の少子高齢化・人口減少に伴う国内マーケットの縮小が挙げられる。これに対して、アジア諸国をみると、経済発展を追い風に人口および富裕層の増加、世界的な和食ブームの広がりなどの影響から、伸長著しい有望なマーケットが創出されつつあり、このマーケットにおいて日本産農林水産物・食品を推進し、販路の新規開拓・確保を目指すことは大変意義のある取り組みといえよう。
 こうしたことから、わが国における農林水産物・食品輸出を巡る情勢を整理すると、日本経済全体がメリットを享受することが期待できる取り組みとして位置付けられ、政府を中心に急ピッチで体制整備や支援事業が実施されている。しかしながら、円高や震災の影響、輸出相手先の通関・検疫など制度面での日本との差異が隘路(あいろ)となっており、輸出額1兆円の達成目標年度は幾度も改訂を繰り返した末に、令和3年にようやく達成したところである。このような局面はあったものの、政府は前述の基本計画において、12年に輸出額5兆円という新たな目標を掲げており、積極的な取り組みの強化が継続して行われている。具体的には、農林水産物・食品の輸出への取り組みの強化に関連する事項として、農林水産物・食品輸出本部の設置(令和2年4月)、農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略の決定(同年12月)、農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律等の一部を改正する法律の成立(4年10月)が挙げられる。とりわけ、農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略については、決定後も3年11月、4年6月、12月、5年12月と4回にわたって改訂していることからも、政府の関心の高い重要な案件であることが示されていよう。
 こうした農林水産物・食品の輸出拡大への期待は、野菜においても例外ではない。前述の基本計画において野菜・果実などの輸出額目標は、7年924億円、12年2306億円と設定されている。この金額は、基準年である元年実績の445億円からそれぞれ207.6%(2倍強)、518.2%(5倍強)という大幅な増加が求められている。しかしながら、実績をみると、5年の輸出額は671億円であり、期待された増加に反して、前年(679億円)よりも減少しており、現状のままでは目標達成には厳しいものとなっている(表1)。
 
タイトル: p038
 
 以上のような野菜輸出の重要性やその実態を鑑みて、筆者は本誌にて先進的な取り組みを行っている輸出事業主体を対象とした事例分析に関する言及を行っており、取り組みの広がりについては確認していたものの、いまだ緒に就いた段階にあることは否めない。過去の本誌における野菜輸出に関する拙稿を整理すると、輸出事業主体として地方自治体(都道府県または市町村)や産地農協について言及したものに傾倒しており(注1)、卸売業者・小売業者に関する事例の言及は少ない。
 そこで本稿では、卸売業者の青果物輸出に焦点を当て、その特徴と課題について検討していく。具体的には、京都青果合同株式会社(以下「京果」という)による香港向けの京野菜輸出の事例を中心に分析していく。
 京果は、昭和23年4月に創業した京都市下京区(京都市中央卸売市場第一市場内)にある青果物卸売業者である。資本金1億円、年商は667億円(令和5年度実績)、従業員数は252人(それ以外にパートタイマーなどの従業員が49人)である。主要な事業は、1)青果物・青果物加工品の売買および販売の委託に関する業務、2)農林水産物・農産物加工品の輸出入および売買に関する業務、3)土地・建物および建物付属物の賃貸業務-である。
 本稿の事例に京果を選定した理由は、青果物の輸出実績がある卸売業者の中で比較的長期にわたって取引を行っている点、農林水産省主催「平成29年度輸出に取り組む優良事業者表彰」の受賞者(食品産業局長賞)である点の2点から卸売業者の先進事例としての取り組みがあるのではないかと判断したからである(注2)。なお、本稿で取り上げる京果の輸出事業は、系列企業である株式会社ローヤル(青果物などの専門商社。以下「ローヤル」という)と連携した取り組みであり、現地での展開はローヤルによる貢献が大きい。

(注1)主要なものとして参考文献(1)~(4)が挙げられる。
(注2)農林水産省(各地方農政局含む)のホームページによると、卸売業者による輸出取り組み事例は(参考)の通り。

 
タイトル: p039

2 青果物輸出の展開

(1)青果物輸出の展開過程
 京果における青果物輸出は平成14年から開始されたが、当時は香港やシンガポールに向けたリンゴ、梨、柿など果実の輸出のみであった。本格的に野菜輸出に参入することとなった契機は、26年に香港で開催された「アジア国際果実・野菜マーケティング展(ASIA FRUIT LOGISTICA)に京都市中央卸売市場、京都青果協会、仲卸業者などと共同で出展したことである(注3)。当展示会へは、コロナ禍の時期(2年間のみ)を除いて出展を継続しており、令和6年時点で11回目となっている。現在は海外で開催されるこの他の展示会にも出展しており、京の伝統野菜(以下「京野菜」という)(注4)と国産果実のプロモーションに積極的に取り組んでいる。京野菜や国産果実を品目ごとに展示することで来場者のニーズや反応を的確に把握できるよう工夫しており、現地情報を入手する上での貴重な機会となっている。また、二度目の出展時以降、ホットプレートや蒸し器などをブースに持ち込み、興味・関心を持ったバイヤーに調理しながら試食を提供するスタイルでプロモーションしている。昨今の日本食ブームやインバウンド需要の増加によって、海外でも知名度が高い京都の地場野菜を扱っていることもあり、京果による京野菜輸出は、国内の他産地の野菜よりも、プロモーションを行う上で興味・関心を集めやすいという特徴を有している。
 27年には、京野菜の輸出相手先である香港での認知度向上とニーズの掘り起こしを目的として、飲食店での京野菜メニューの作成と商品化や、現地のインポーターと連携して百貨店・量販店、料理教室などで京野菜を利用した試食会や販売促進に関するイベントの開催に取り組んでいた。
 28年は、前年までに生じていた輸送中の品質劣化の課題を解消するため、鮮度保持技術向上の必要性が高まった。そこで、エチレン吸着剤などの鮮度保持資材や包装資材の効果測定をするため、国内の印刷業者などと連携して、最適温度帯の異なる品目(京夏ずきん、賀茂なす、九条ねぎ、万願寺とうがらし、京みず菜)を使って冷蔵コンテナ混載便で神戸港から香港までの輸送試験を実施した。15度設定の冷蔵コンテナ便で香港へ輸送し、通関後(7日後)に開封して品質を調査した結果、全品目で充分な鮮度が保たれていた。詳細は、参考文献(6)を参照いただきたい。
 同じ時期に、京都市が策定した京都市中央卸売市場第一市場マスタープラン(注5)の基本戦略の中で、集荷・販売に関する競争力強化のための取り組み事項の一つに、輸出促進が掲げられていることも、京果の取り組みが継続する上での追い風となっている。
 京果が他の国内産地と異なる輸出の取り組みをする背景には、(主要輸出相手先である)香港は他産地からの日本産青果物の輸出が活発で、市場参入が後発的であった京都市および京果は、徹底した差別化が必要と判断したからである。また、このような取り組みができる理由として、地方自治体(京都市:京都市卸売市場第一卸売市場の運営主体)、商社(系列会社のローヤル)との官民連携がとりやすい体制が整備されていることも利点として挙げている。
 
(注3)「アジア国際果実・野菜マーケティング展」は、アジア市場において青果物を取り扱う業者(輸出入業者、生産者、卸売・小売業者など)を対象に行う国際展示会である。平成19年にタイで開催されて以降、毎年9月に3日間の開催期間で実施されている。令和5年に開催されたシンガポールでは、おおむね700の出展者(43カ国・地域)、1万3000人(70カ国・地域)を超える来場者となった。詳細は参考文献(5)を参照いただきたい。

(注4)京の伝統野菜は、昭和63年3月、京都府農林水産部により(1)明治以前の導入栽培の歴史を有するもの(2)京都府内全域を対象とするもの(3)たけのこを含むもの(4)キノコ類、シダ類(ぜんまい、わらび他)を除くもの(5)栽培又は保存されているもの及び絶滅した品目を含むもの-と定義されている。具体的には、京みず菜、賀茂なす、伏見とうがらし、えびいも、九条ねぎ、京たけのこ、鹿ケ谷かぼちゃ、堀川ごぼう、聖護院だいこん、京壬生菜(きょうみぶな)
(壬生菜)、金時にんじん、くわい、やまのいも、紫ずきん、京山科なす、京こかぶ、聖護院かぶ、京夏ずきん、京の伝統野菜に準じるものとして万願寺とうがらし、花菜などが挙げられる(写真)。

(注5)平成28年3月に京都市が策定した、市場の再整備(改修・建替)を契機に先進的な食品流通拠点としての役割を実現するための基本方針である。実施期間は平成28年度から同37年度(当時。現在の令和7年度)までの10年間である。
 
タイトル: p040-041a
 
(2)青果物輸出の実態
 表2は、最近の京果における青果物輸出額の推移を示したものである。平成26年度に600万円であった輸出額が、翌年度は8700万円、翌々年度には2億1000万円と増加し、軌道に乗ったことがわかる。コロナ禍の影響などにより令和元年度のみ一時的に減少したものの、その後、令和2年度以降は継続して増加し、5年度には5億2000万円となっている。このように最近10年間の輸出額は600万円から5億2000万円と約87倍に成長していることが分かる。
タイトル: p041b
 
 なお、京果における青果物輸出額のうち、野菜が占める割合は20~30%であった。野菜の主力アイテムである京野菜のみではロットが少ないため、ビジネスチャンスを逃してしまう状況にある。しかしながら、他の輸出事業主体と異なり、京果は野菜以外にもリンゴ、梨、ぶどうなどの海外需要が大きな果実(京都市内外の産品)を取り扱うことで取引の機会の幅を広げていた。このことによって、他産地では困難な青果物の周年供給も可能となり、現地とのコンタクトやコミュニケーションを密に行えるメリットも有していると考えられる。
 調査時点(2024年2月)において京野菜の輸出実績のある国・地域は香港のみであった。輸出相手先が香港である理由は、他国・地域と比較して検疫制度や残留農薬基準が緩やかで、輸出しやすい点が挙げられる。それに加えて、輸出開始当初は日本的な食材のニーズが高まっていた影響もあったとのことである。
 主力品目は、周年供給が可能な「九条ねぎ」および「京みず菜」であり、それぞれ4~5トン/年の輸出実績がある。その他にも「賀茂なす(出荷時期:5月上旬~10月下旬)」「えびいも(同:10月下旬~2月下旬)」「聖護院だいこん(同:11月中旬~2月下旬)」「万願寺とうがらし(同:5月下旬~10月下旬)」「京夏ずきん(同:8月中旬~8月下旬)」など多岐にわたっているが、前述の2品目と比較すると取り扱い時期が短いため、取引の範囲は限定的である。
 また、京野菜以外の地場産野菜の取り扱いとしては、平成27年よりほうれんそうの輸出実績がある。このように、一部の品目において、京野菜輸出の波及効果が確認できる。
 青果物輸出における販売先の構成は、量販店97%、飲食店3%であり前者が中心である。輸出事業を開始した当初は、飲食店の比率が現在より高い時期もあったが、量販店と比較すると取り扱うロットが小さく、それに伴う作業が煩雑であったため、平成27年以降は徐々に取引量を減らして現在に至っている。なお、京野菜は、日系量販店(イオン、そごう)での販売が中心であった。輸出相手先への輸送は船便が中心で、主に使用する港湾は神戸港であった。荷姿は国内と同様に段ボール箱で行われていた。輸出相手先での小売価格は、日本国内の価格と比較するとおおむね2倍程度となり、この価格差は、主に輸出に係る事務作業などの経費および輸送料に起因している。
 京果は輸出のメリットとして、現時点では取扱量は少額ではあるものの、売り上げの純増につながっており、少子・高齢化の影響により国内市場の縮小が予測される中で、販路の新規開拓としては期待が持てる取り組みと位置付けていた。一方、デメリットは、海外との取引に要する証明書類(衛生証明書、梱包証明書)などの対応が煩雑である点を挙げていた。具体的には、輸出相手先によって書式や記載事項が異なるため、今後京野菜の輸出先を広げるに当たってはその対応が負担となる点(輸出に対する関心度が低い産地や農協では証明書の対応が困難なところも存在)である。それに加えて、燃料費や人件費の上昇に伴い輸送費も高騰しており、香港以外の輸出相手先への提案がしにくくなっている点も、今後の懸念材料であるとのことであった。

3 おわりに~課題と展望~

 本稿では、京果が取り組んでいる青果物輸出に焦点を当て、卸売業者が対香港向け京野菜輸出に対していかなる展開を示しているかについて確認してきた。最後にまとめとして、本稿によって明らかとなった特徴を整理した後、残された課題とその展望について示す。
 京果は、卸売業者という特性を生かし、地方自治体やローヤル(専門商社)と連携して地場野菜のみでなく、他産地の果実の輸出にも取り組んでいた。こうした連携強化を図ることによって取扱品目数が広がり、輸出相手先の取引先とのコミュニケーション機会が増えたため、関係強化だけでなく、他産地の輸出事業主体が困難であった周年的な輸出の実現につながったものと考える。
 それに加えて、京果の青果物輸出への参入は後発的であったにも関わらず、京都という伝統や文化的な地域特性を生かして、他産地との差別化を図っていることも輸出拡大に影響していよう。輸出を継続したことにより、京果は京野菜だけでなく、地場産野菜(ほうれんそう)にも波及効果を生む段階にまでなっている。このことは、輸出品目を増やすことを志向する産地や事業主体が多い中で、有益な実践例に位置付けられよう。
 このように香港での新規販路開拓を実現した京果の野菜輸出であるが、課題もある。現在は輸出が好調な香港であるが、以前よりも経済成長の伸びは小さくなっており、中長期的な視点で考えると新たな販路の開拓は必要であると考えられる。香港以外の輸出先を開拓したいところであるが、検疫制度などの対応などが煩雑になることが予想されるため、新規市場の開拓が難しいが実情である。それに加えて、海外での需要拡大が実現したとしても、輸出関連業務に対応可能な域内産地の確保が必要となる。このことについては、農家や産地農協による輸出への関心を高める必要があるが、卸売業者のみでの対応には限界が生じるのは明らかである。
 以上のように幾つか課題はあるものの、輸出事業開始から短期間で軌道に乗せ、輸出額は増加で推移し続けている京果の取り組みは、他の青果物卸売業者にとって参考となる事象が数多く存在しており、筆者も今後の動向に注目していきたい。
 
 
 謝辞
 本稿の作成に当たり、筆者は令和6年2月に京都青果合同株式会社、株式会社ローヤル、京都市中央卸売市場第一市場に訪問面接調査を実施した。お忙しい中であるにもかかわらず、ご協力頂いた京都青果合同株式会社の松本雄治取締役、向瀬正人参与、株式会社ローヤルの飯田顕成執行役員、京都市中央卸売市場第一市場の池田正文課長補佐をはじめ、関係職員の皆様へこの場を借りて謝意を申し上げる。
 
 
参考文献
(1)石塚哉史「川上村野菜販売戦略協議会による高原野菜輸出の取り組み」『野菜情報』vol.134、43~51頁、2015年(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1505_chosa02.html
(2)石塚哉史「産地農協における多品目野菜輸出の取り組みと課題~湧別町農業協同組合の事例~」『野菜情報』vol.157、62~69頁、2017年(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1704_chosa03.html
(3)石塚哉史「斜里町農業協同組合におけるにんじん輸出の取り組みと課題」『野菜情報』vol.184、36~44頁、2019年(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1907_chosa01.html
(4)石塚哉史「京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会における京野菜の輸出プロモーションに関する今日的展開」『野菜情報』vol.197、36~43頁、2020年(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2008_chosa01.html
(5)Asia Fruit Logistica /メッセベルリン 日本代表部 - Messe Berlin(https://messe-berlin.jp/mihon/trade/afl.html
(6)LOGISTICS TODAY(2016年8月22日)「香港向け京野菜輸出に成功、冷蔵コンテナ混載便で」(https://www.logi-today.com/250989