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調査・報告 (野菜情報 2020年8月号)


京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会における京野菜の輸出プロモーションに関する今日的展開

弘前大学 農学生命科学部 国際園芸農学科 教授 石塚 哉史

【要約】

 京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会では、香港およびシンガポールにおいて「京もの提供店」認定制度に取り組み、飲食店・小売店を中心に販路を確保することに成功した。生鮮品以外のアイテムをどのように増やしていくか、輸出先を拡大することによる業務への対応といった課題は残されているものの、同協議会のプロモーション戦略は輸出を目指す野菜産地にとって参考になる事例が多く存在している。

1 はじめに

周知の通り、政府による「我が国農林水産物・食品の総合的な輸出戦略」(平成19年)において、輸出額の目標を1兆円と掲げたことが契機となり、「和食」のユネスコ無形文化遺産への登録(25年)にはじまり、「グローバル・フードバリューチェーン戦略の構築」(27年)、「農林水産業の輸出力強化戦略」および「農林水産物輸出インフラ整備プログラム」「日本食品海外プロモーションセンター(J-FOODO)」(29年)、「農林水産物・食品輸出プロジェクト(GFP)」(30年)の策定設置、「農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議の設置(31年)、「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律の成立(令和元年)など積極的な取がみられる。しかしながら、その成果と位置づけられる輸出金額1兆円という目標額の達成年度は、円高や震災・原発事故などの影響を受けたことに伴い、幾度も改訂しているのが実情である。

令和元年のわが国における農林水産物・食品の輸出額は9121億円で、平成25年から7年連続増加したものの、またもや1兆円の壁に阻まれることとなった(表1)。輸出品目別の構成をみると、加工食品のシェアが35.9%と最も高く、農産物の過半数(55.7%)を占めている。こうした事象について、日本酒以外の加工食品は国産原料使用率が低いことから、加工食品輸出による産地および生産者への貢献については懐疑的な論考も登場しつつある注1)。このような学識者による指摘では、農林水産物・食品輸出金額1兆円の達成と産地へのバリュー・チェーンの実現を目指すには、野菜・果実、畜産物、穀物など加工食品以外の品目による輸出増加が必要不可欠であることが主張されている。とりわけ、政府が「農林水産業・地域の活力創造プラン」(26年)の改訂時に前出の輸出額1兆円の目標(設定年度:令和2年)を達成した先の目標(同12年)として5兆円の実現を目指すという目標を掲げたことを鑑みると、野菜・果実、畜産物、穀物の輸出拡大の成否が達成の鍵を握っているといっても過言ではないであろう。

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野菜・果実などの輸出額は、令和元年は445億円(前年比105.2%)となっており、農林水産物・食品輸出金額全体に占める比率は3~4%であるものの年々増加しており、引き続き拡大していくことが期待されている。

野菜輸出増加の背景には、複数の産地による多様な輸出への取り組みが貢献しており、筆者も本誌において地方自治体(協議会を含む)や農協による先駆的産地の事例について幾つか紹介している(注2)。これらの調査・報告で言及した内容は、主産地における輸出事業の目的および契機の解明、現地需要の実態、輸出に対応する生産・流通体制について検討したものが中心であった。このような調査・報告が蓄積されつつある中で、野菜輸出を行う上で必要とされる輸出先での販路拡大または販路確保に向けた取り組みの実態に関しては未だに情報が少なく、不明瞭な点が多いといわざるを得ない。

そこで、本稿は輸出相手国・地域において野菜産地が取り組む販路開拓および販路確保に焦点をあて、その特徴と課題について検討していく。具体的には、地域内の伝統野菜である京野菜の香港およびシンガポールへの輸出を中心に、現地の飲食店・量販店を中心に積極的なプロモーション活動を展開している京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会を事例として取り上げ、同協議会の京野菜流通部会事務局を対象に実施した訪問面接調査の結果に基づいて報告する。

注1:参考文献(7)、(8)、(9)を参照。

注2:参考文献(1)、(2)、(3)、(4)を参照。

2 京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会による京野菜輸出プロモーションの取り組み

(1)京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会の概要

京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会(以下「協議会」という)は、平成22年に「京都府産の安心・安全で高品質な農林水産物・加工品の輸出に係る現地調査、国内外での行催事の企画・調整などに取り組むとともに、輸出に取り組む意欲または関心のある団体・企業などを対象に広く情報提供やセミナーの開催を行い、京都府産農林水産物・加工食品を図ること」を目的として設立された。

京都府をはじめ、農林漁業団体、青果・食肉卸売業者、貿易関連機関など19団体注3)を中心に構成され、会長は京都府農林水産部長が務めており、事務局は京都府商工労働観光部経済交流課内に設置されている。協議会の中には、輸出に注力している品目別に「北山丸太部会」「宇治茶部会」「京野菜流通部会」(注4)「和牛部会」「経営者部会」の五つの部会が設置されており、それぞれの事務局は林務課、農産課、流通・ブランド課、畜産課、経済交流課が担当している。

協議会の主要な事業は、①輸出促進に係る普及啓発および広報に関する事業②輸出促進に係る国内外での行事等に関する事業③輸出に係る知的財産の保護―に関する事業の3つが挙げられる(表2)。

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表3は協議会の輸出実績の推移を示したものである(注5)。30年の輸出金額は8億1867万円(前年比110.9%)で29年に続けて2年連続で増加している。28年は為替レートなどの関係で前年を下回っていると想定されるため、23年以降は、ほぼ毎年、輸出額が前年を大きく上回るという状況が続いている。8年間で10倍に急成長していることからも、その著しい急増ぶりがうかがえる

注3:協議会の会員は、JA京都中央会、JA全農京都、JAグループ京都農業法人協会、京都府漁業協同組合、京都府中小企業団体中央会、京都青果合同株式会社、京都食肉市場株式会社、京都府森林組合連合会、京都府木材組合連合会、京都府茶業会議所、京都府茶生産協議会、京都府茶協同組合、京都府農業経営者会議、京のふるさと産品協会、農業ビジネスセンター京都、京都産業21、日本貿易振興機構京都貿易情報センター、京都府である。

注4:京野菜流通部会の構成員は、市場機能を活用した京野菜の輸出に取り組む意向のある京野菜の生産者組織、京野菜の生産、流通および販売に関わる団体、企業、市場流通関係者ならびに京都府農林水産部流通・ブランド課である。

注5:表中の数値は、京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会の会員からヒアリングした内容を取り纏めたものであり、年度によって事業者に差異が生じていることを留意する必要がある。

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(2)京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会による京野菜輸出の現段階

協議会における京野菜の輸出振興としては、平成29年から残留農薬問題および検疫制度に対する規制などが少ない香港、シンガポールを中心に以下の2事業に取り組んでいる(注6)

ア 海外輸出の足掛かりを構築する取り組み

香港を対象にした事業としては「京もの提供店」認定制度と京野菜の調理レシピ集の作成・配布、料理学校を活用した調理デモンストレーションが挙げられる。

「京もの提供店」認定制度

「京もの提供店」認定制度は、京都府産農林水産物およびそれらの加工品を常時取り扱う飲食店および小売店を認定する制度で30年からスタートした。令和2年3月時点で、「京もの提供店」は31店舗(その内、飲食店25店舗、小売店6店舗)が認定されており、認定要件は、日本料理店を中心に周年で京野菜など京都府産農林水産物を2品以上提供していることである。

登録制度の説明・案内および交渉に係る業務は、協議会が作業委託した情報通信企業(日系企業)が行っている。登録認定されると、協議会から「京もの提供店」と記した楯が提供され、店頭での来店客へのPRに活用されている。

前述の通り、香港における「京もの提供店」の登録飲食店は25店舗で、香港島リアが15店舗と過半数を占めている(表4)(注7)特に、政治・経済の中心地であるツォンワン」および香港有数の商業地である銅鑼トンローワン」で営業する店舗数が多い(図1)。認定数は、初年度(平成30年度)に16店舗、翌年(令和元年度)に9店舗と拡大している。品目別にみていくと「えび芋」「賀茂なす」「京みず菜」「京壬生菜」「聖護院かぶ」「聖護院だいこん」「九条ねぎ」「大黒本しめじ」「花菜」「堀川ごぼう」「万願寺とうがらし」などの伝統野菜が使用されており、なかでも、「九条ねぎ」「京みず菜」(6店舗)、「えび芋」(4店舗)の利用が多い。

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表5は、香港における「京もの提供店」に登録された小売店を示したものである。6店舗中4店舗がニュータウンとして発展した新界エリアの主要駅にある。認定は30年に5店舗、31年度に1店舗となっており、飲食店と比較すると限定的で内訳をみると量販店では、香港系のYATA(3店舗)、日系のAEON(2店舗)、青果物小売専門店が1軒となっている。全ての店舗で京野菜専用コーナーが設置されており、周年販売のほかAEONの2店舗では京野菜フェアを夏季(7月)と冬季(12月)1週間程度の期間で開催し、定期的なPR活動に取り組んでいるほか、週末にはAEONとYATAにおいて試食販売を実施している。

注6:詳細は、参考文献(6)を参照。

注7:一般的に香港の地域は、大別すると香港島、九龍、新界の3つに区分することができる。

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京野菜の調理方法の紹介

日系の料理教室であるABCクッキングスクールの香港スタジオ(中環、尖沙咀ツィムサーツォー太古城タイクーシンの3所)の協力を得て京野菜の調理に精通した料理人によるデモンストレーションを行っている。その映像はAEONおよびYATAの店舗で一年を通して再生されており、普及啓発に一役買っている。さらに平成30年からは京野菜料理の調理方法を図示し、中国語で解りやすく説明したレシピ集を作成し、「京もの提供店」に登録された小売店や協議会が主催するフェアなどで配布している(写真1)。

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イ アジア諸国へ「京もの」認知度拡大を図る取り組み

平成30年からシンガポールを中心に、現地の高級ホテルでシェフなど調理担当者やバイヤーを対象とした「京もの食材提案会」およびレストランフェアを開催している。この取り組みにおいてシンガポールを対象とした理由は、前述の残留農薬問題および検疫制度に対する規制などが少ないことに加え、アジア有数のハブ空港を有する交通・経済の拠点という人の往来が多い利点を生かして近隣地域への「京もの産品」の普及啓発を図り、認知度拡大を実現するため効果的な輸出相手国・地域と位置づけていたためである。上述の香港と同様にシンガポールにおいても「京もの提供店」の認定が開始されており、現時点では3店舗の飲食店が確認できる。これらの3店舗の担当者に対しては、京都から招聘した日本人の料理人による京野菜の調理方法に関するセミナーを実施し、普及啓発を図っている。なお、現地での「京もの提供店」の新規開拓や連絡・調整は協議会が直接行うのではなく、農産物輸出などの海外展開事業に精通したコンサルタント(日系企業)に委託して行っていた。

31年1月には、著名なホテルであるカペラ・シンガポールにおいて、京都府産の食材の調理デモンストレーションによって食事を提供する「京都シェフズテーブル」を開催した。開催期間は10日間で、前半の5日間を会席料理、後半の5日間は寿司メインとし、「聖護院かぶ」「えび芋」「金時にんじん」「九条ねぎ」といった京野菜が使用された(注8)。当イベントは、シェフやバイヤーに加えて、現地の報道機関にも公開され積極的に発信を行っていた。

以上の取り組みに加えて、協議会は対象範囲をマレーシア(京野菜および和菓子の物産展)および台湾(京野菜などの試食販売)にも拡大している。

注8:詳細は、参考文献(5)を参照。

3 おわりに

本稿では、協議会が取り組んでいる京野菜輸出プロモーションに焦点をあて、現地(輸出相手国・地域)での販路開拓の展開とその特徴について確認してきた。最後にまとめとして、残された課題とその展望について示していく。

協議会は、「京もの提供店」認定制度を構築したことにより、香港の飲食店、小売店を中心に販路確保を実現することができた。その販路確保を継続させるために、小売店において専用コーナーやフェアなどを定期的に開催していることも効果的であった。さらに新規販路の開拓に向け、シンガポールのシェフやバイヤーに向けた食材提案会や調理デモンストレーションを開催するなど多角的な展開を行っていた。

このように、香港での販路確保、シンガポールでの販路開拓を実現しつつあるが、幾つか課題も存在している。第1に、香港では協議会による販路が構築できたものの、現行の生鮮のみの流通では周年供給を維持してくことには困難な点があるものと想定される。とりわけ、夏季と秋季の端境期の10月および冬季と秋季の端境期である3月が供給不足となる傾向が強いのではなかろうか。したがって、今後はたけのこの水煮などの野菜加工品の参入も検討すべき必要があるものと考えられる。その理由として、本稿で幾度か述べているように香港・シンガポールは関税と検疫の特性から、日本国内の各産地からの輸出が活発な地域といわれている。過去の筆者による論考でも言及している通り、主要な輸出相手国・地域では、日本国内の輸出産地による産地間競争が既に発生している。そのために現存の販路維持が持続的な輸出を実現する上で絶対条件であるといえよう。

第2に、香港に加え、シンガポール、台湾、マレーシアと輸出相手国・地域を拡げているところであるが、それに伴って相手国・地域の市場によるニーズに基づいた対応が増え、煩雑になる点である。京都府(日本)と他国産の内外価格差を鑑みると現実的には、輸出量が短期的かつ大幅に増加する可能性が少ない中で、これらの作業に要するコストを協議会単体で全て賄うことが困難なのは容易に想定され、京都府内また関西域内も含めた広域的な連携を目指した取り組みが望まれている。

以上のように課題はあるものの、輸出事業の開始から僅かな期間で、香港およびシンガポールでの販路開拓、販路確保を実現した協議会のプロモーションの取り組みには、他の野菜産地にとって参考となる事象が数多く存在しており、筆者も今後の動向に注目していきたい。

謝辞

本稿の作成にあたり、筆者は令和2年3月に京都府農林水産物・加工食品輸出促進協議会の京野菜流通部会事務局である京都府農林水産部流通・ブランド戦略課を対象に訪問面接調査を実施した。お忙しい中であるにもかかわらず、ご協力いただいた伊藤俊技師をはじめ、関係職員の皆様へこの場を借りて謝意を申し上げる。

参考文献

(1) 石塚哉史「川上村野菜販売戦略協議会による高原野菜輸出の取り組み」『野菜情報』vol.134(2015年5月号)、43~51頁

(2) 石塚哉史「産地農協におけるセルリー輸出の今日的展開」『野菜情報』vol.143(2016年2月号)、48~55頁

(3) 石塚哉史「産地農協における多品目野菜輸出の取り組みと課題」『野菜情報』vol.157(2017年4月号)、62~69頁

(4) 石塚哉史「斜里町農業協同組合におけるにんじん輸出の取り組みと課題」『野菜情報』vol.184(2019年7月号)、36~44頁

(5) 一般財団法人自治体国際化協会 シンガポール事務所「京都シェフズテーブルをカペラホテルにて開催!!」http://www.clair.org.sg/j/country-info/201901-sin-kyotofu-chefs-table/、2019年

(6) 京都府農林水産部「農林水産物の輸出対策の現状と課題、目指す方向」www.pref.kyoto.jp/nosei/vision/documents/04yusyutu.pdf、2019年

(7) 神代英昭「日本産加工食品の輸出の現状と課題-国際的知名度と取組主体の規模に注目して-」『開発学研究』第25巻第3号、12~19頁、2013年

(8) 神代英昭「日本産加工食品輸出の意義と現段階」『農業市場研究』第25巻第3号、28~36頁、2016年.

(9) 三島徳三「よくわかるTPP協定-農業への影響を品目別に精査する-」農文協.2016年



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