[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

調査・報告(野菜情報 2019年7月号) 


斜里町農業協同組合におけるにんじん輸出の取り組みと課題

弘前大学 農学生命科学部 国際園芸農学科 教授 石塚 哉史

【要約】

 北海道の斜里町農業協同組合では輪作による既存の畑作品目に加え、にんじんなどの野菜を生産品目として追加することにより生産者の収入の向上を図っている。平成19年以降、同JAでは、新たな取り組みとして台湾向けにんじんの輸出を始めた。輸出に至った背景を今後の展望も含め、現地調査に基づき報告する。

1 はじめに

(1) 背景と目的

平成19年に政府により打ち出された「我が国の農林水産物・食品の総合的な輸出戦略」で輸出目標額が1兆円と掲げられてから、輸出促進の機運は年々、高まっている。25年の和食のユネスコ無形文化遺産登録にはじまり、政府主導で各種プログラムが策定されており、農産物関連機関の新設にも積極的である(表1)。

036a

こうした中で、30年のわが国における農林水産物・食品の輸出額は9068億円で25年から6カ年連続の増加を示しており、1兆円という目標達成に向けた明るいトピックといえよう。

農産物輸出に関して、政府は生産者および消費者(国民全体)双方にメリットを期待している。生産者にとっては①販路拡大に伴う所得向上および国内価格が下落した際のリスク軽減という直接的な効果②海外輸出を通じた国産品のブランドイメージの向上、農家経営の意識改革による地域経済の活性化という間接的な効果を指摘している。一方、消費者にとっては①生産量の増加による食料自給率の向上②農産物輸出入バランスの改善③日本の食文化の海外普及④世界各国への対日理解の醸成を指摘している。

こうしたなかで、最近のわが国における30年の農産物輸出額は5661億円となっており、前年と比較すると14.0%増加している(表2)。リーマンショック以降の円高や震災・原発事故以降の輸出停止措置および風評被害の影響から2600億円台で停滞していた状態から、回復しただけでなく、農林水産省が輸出統計を取りまとめて以降、最高値を継続して計上する段階にまで進展している。品目別に見ていくと、加工食品の割合が高く、27年以降は過半数を占めている。次いで、畜産品、穀物、野菜・果実などと続いている。野菜輸出が増加した背景として、多種多様な産地の取り組みが貢献していることも見逃せない。今後、継続した野菜の輸出拡大を図るには、先駆的産地の取り組みを整理し、共通した傾向を把握することが重要なポイントでないかと考えられる。

037a

野菜輸出に取り組む産地については資料が蓄積されつつある。しかしながら、その内容をみると品目では、ながいもの取り組み(注が引き続き多く、その他、かんしょ、キャベツ、レタス、セロリ(セルリー)(注と広がりをみせているものの、いまだ偏りが見受けられるために不明瞭な点が多く存在した状態のままであり、その動向を把握できている段階とは言いがたい。

そこで、本稿では海外での販売に対応できる等級を選択し、輸出を拡大しつつある産地農協に焦点をあて、輸出の契機、輸出数量の推移、流通ルート、輸出戦略の現状を分析し、輸出事業の今日的展開とその特徴について検討する。具体例として、斜里町農業協同組合(以下「JA斜里町」という)におけるにんじん輸出に注目し、販売部青果課の担当者を対象に実施した訪問面接調査の結果に基づいて前出の目的に接近していく。

注1:参考文献(3)、(4)、(9)を参照。 

注2:参考文献(1)、(2)、(5)を参照。 

(2) わが国におけるにんじん輸出の概要

表3は、最近のわが国におけるにんじん輸出の推移を示したものである。この表をみると、30年の輸出数量は183トンであり、前年比104.8%とやや増加した。輸出実績のある国・地域は、台湾、香港、中国、タイ、シンガポール、カタール、ロシアの7国・地域となっている。輸出相手国・地域はアジア諸国が中心であり、とりわけ中華圏への集中度が著しい。その中でも最大輸出相手国・地域である台湾の総輸出数量に占めるシェアは高く、おおむね80%以上という年次が大半である。

038a

前述の通り、21年はリーマンショック、23年は震災・原発の影響を受け減少している。24年から再び増加に転じており、28年においては,円安など為替変動に加えて,比較的安定した価格帯で推移したことに伴い564.4トンと過去最高の輸出数量を記録している。

2 JA斜里町におけるにんじん輸出の現段階と課題

(1) 調査対象の概要

ア 斜里町

斜里町は北海道の東端部に位置し、北はオホーツク海に面し、東南には知床連山がそびえ立ち、地域的にはオホーツク総合振興局管内に属している(図1)。農地は70~80%が平野部に広がっており、残りは標高220~230メートルのなだらかな山麓地帯である。気象の特徴としては1月下旬~3月にかけてオホーツク海が流氷により覆われる点、春にはフェーン現象により斜里岳から吹き下ろしの強風が吹くことがあり、播種後の農作物に被害をもたらすことがある点、夏は晴れの日が多く、日照時間が多い点(30年:1774.5時間)が挙げられる。年間平均気温6.5度、年間降水量867ミリである(注

038b

町内人口は1万2231人、世帯数は5547世帯、農家数は257戸である。農業就業人口は816人、経営者の平均年齢は51.1歳である。町内の1戸当たり平均経営面積は36.6ヘクタールで、これは北海道の平均値23.7ヘクタールを上回っており、大規模化が進展している地域に位置付けられる(表4)。

注3:参考文献(6)、(7)を参照。 

039a

イ 斜里町農業協同組合

斜里町農業協同組合(以下「JA斜里町」という)は斜里町を管内としており、組合員数は31年1月31日現在で3852名、その内訳は正組合員238名(6.2%)、准組合員3618名(93.9%)である。職員の総人数は114名(臨時雇用も含む)、役員は理事11名、監事3名である(注

管内は、てん菜、ばれいしょ生産および酪農が盛んな地域である。29年の販売事業実績は120億7553万円、その内てん菜20億3381万円、でん粉17億3707万円、ばれいしょ(食用・加工)8億4413万円、にんじん8億6839万円である。管内における主要な施設として、中斜里でん粉工場、ばれいしょ原採種園農場、小麦乾燥貯蔵施設、加工ばれいしょ集出荷貯蔵施設、中斜里青果センターが設置されている。

さらにJA斜里町の特徴(注として、①クリーン農業をめざして、生産履歴記帳、トレーサビリティへの対応を通して安全・安心に農畜産物を消費者へ提供することを重視している点②農業用廃プラスチック・廃油回収を行い環境整備に取り組んでいる点③首都圏からの農業実習生の受け入れに積極的に取り組んでいる点挙げられる。

注4:斜里町農業協同組合HP(http://www.ja-shari.or.jp/)を参照。 

注5:参考文献(8)を参照。 

(2) JA斜里町におけるにんじん輸出の概要

JA斜里町におけるにんじんの輸出は19年から開始されている(表5)。輸出の契機は、国内のにんじん生産量が豊作となった際に供給過多の抑制を目的とした需給調整対策の一環として、19年および20年の2年間において国内の業務用や加工用が需要中心の規格である「優品」を対象として試験的に取り組んだものであった。また、台湾産にんじんの端境期となっている夏場は北海道産の出荷ピーク時期と重なっていたという事情もある。

040a

040b

その後の21~23年の3カ年においては管内の「優品」の出荷量が伸びなかったことや、リーマンショックや震災の影響もあり一時、輸出を停止することとなったものの、24年から再開されて現在に至っている(注。26年以降は農林水産省の補助事業である産地パワーアップ事業により、中斜里青果センターを一部増強工事し、集出荷体制を強化(注したことによって、200トンを超える年(27年、28年)も見受けられる。再開後に輸出量が拡大した理由は、輸出相手国・地域の現地事情に詳しい商社に取引先を変更したことが関係している。

24年以降の輸出量は表5のとおりであり、50~264トンで推移している。最近5カ年の平均輸出量は154トン、同3カ年は160トンとなっており、増加傾向を示しており、国内で有力なにんじん輸出に取り組む産地農協といえよう。

注6:JA斜里町によると、にんじんの規格は「秀品」「優品」「C品」が存在している。輸出に仕向けられる「優品」は3段階の中の2番目という中位等級であり、さらに大きさに応じて大・中・小に3区分される。選別基準については、「青首」「短根」「ずんどう」「先端折れ」「曲がり」「先端細」などの項目でチェックされている。大きさに関して首の太さで決定されるため、重量は目安となっているが、大(190グラム以上)、中(100~189グラム)、小(100グラム以下)である。

注7:JA斜里町中斜里青果センターは、18年ににんじん洗浄選別施設・集出荷予冷施設を中心に設立された施設である(事業費:12億3600万円)。27年には選別施設・予冷施設の増強工事を実施した(事業費:8億6400万円)。施設の延床面積は4165平方メートルである。

輸出相手国・地域は台湾が中心である。それ以外の国・地域への販路拡大に関しては、28年のみシンガポールへ輸出実績があるものの、試験的な取引であった。前述の通り、前年よりも大幅に輸出量が減少した26年および29年に関しては、台湾および日本の輸出入国・地域双方のにんじんを取り巻く事情が影響している。

まず、台湾におけるにんじんの供給は、台湾産→日本産→ニュージーランド産という国内外の産地よるにんじんのリレー出荷によって行われている。現在の台湾市場における日本産にんじんは、台湾産およびニュージランド産の流通量が少ない端境期(8月中旬~10月末までの2カ月半)に流通する位置付けである。従って、台湾産が豊作で供給量が多い年においては、通常よりも日本産の出回る時期が短くなってしまうため、値段の高い日本産は台湾市場で不利な状況となっている。

一方、日本国内および北海道、JA斜里町のにんじんの作況をみると、輸出が停止していた期間(21~23年)は、北海道産が21年および22年と連続して前年比を下回る出荷量(17万トン以下)であったことから、国内需要向け対応が主となり、輸出まで対応することが困難であったことがわかる(表6)。その後、北海道産の出荷量が17万トンを回復すると輸出も増加している。

041a

JA斜里町についてみていくと、24年および29年は「優品」の比率が20%以下と他の年度よりも低い(表5)。つまり、JA斜里町管内における「優品」の出荷比率が低い場合は、前述の北海道の動向と同様に国内需要への充当だけで供給量が満たされてしまうため、輸出への対応が困難となることがわかる。それに対して、輸出実績が多い25年、27年、28年は全て「優品」の構成比が20%を上回っている。JA斜里町のにんじん生産量における輸出比率は全体の1%程度と少量ではあるものの、「優品」のみに限定してみると1.4~8.7%の範囲で推移している。なお、輸出再開後に限定してみると、「優品」の5%以上のシェアをコンスタントに計上できる段階となっており、これらの規格の価格維持に対しては一定程度の役割を果たしているものと想定される。

図2はJA斜里町における台湾向けにんじんの輸出ルートについて示したものである。管内で収穫されたにんじんは中斜里青果センターにおいて、「洗浄」→「選別」→「梱包」→「予冷」という各作業を施された後、コンテナ詰めされ、G社(北海道)およびM社(東京都)という日系商社2社を経由し海外へ流通している。

042a

海外への輸送コストに関しては、産地にG社、Mが引き取りに来るため、JA斜里町では負担はしていない。G社は北海道内で生産される農林水産物・食品を国内外へ流通する業務に精通していることが取引関係を構築したポイントとなっている。

最終販売先は、台北市および高雄市に立地する量販店が中心である。また、長期輸送や輸出相手国・地域が日本国内よりも輸送時の温度・湿度管理が劣っていることを考慮し、冷凍焼けなどのトラブルを回避するため、19年の開始時から段ボールへ梱包する際にビニール袋で内装を施すなど国内と異なる作業を加えていた(写真2)。この対応によって、箱の隙間から風などが入り変色すること、にんじんが必要以上に乾燥しないようにすることなどのトラブルを回避できた。しかしながら、内装に使用するビニール袋を追加することにより、資材の経費は1箱当たり20円程度(1キログラム当たり1~2円程度高額となる)のコスト増という負担も発生することとなった。

043a

(3) 輸出向けにんじんの価格および規格

台湾における北海道産にんじんの小売価格は280円(小サイズ・2本)であり、台湾産250円(大サイズ・4本)と比較すると価格差は著しい。現地では180グラム以上の重量のものの需要が高く、それより小さいと店舗へのクレーム対象となるため、比較的大きいサイズの人気が高い。台湾ではJA斜里町による独自のプロモーション活動は実施しておらず、日系商社のM社に一任している。具体的な取り組みとしては、30年にM社による台湾のバイヤー向けの動画作成の際に管内の圃場における収穫および中斜里青果センターでの選別、洗浄、梱包に収録に出演するなどの撮影協力を行った程度であり、農協による負担は少ない(注

今後の輸出の展望に関しては、輸出に対応可能な規格が限られていることもあり現状維持の方向で進めていく方針であった。わが国では加工用をはじめとする業務用需要が堅調であるため、輸出量を増加させると国内向けが供給不足となることが容易に想定できるためである。無理に輸出を増やすことにより他県産や輸入品へシフトする可能性も否めず、販路先確保の側面や価格低下を防ぐ意味でも現行のバランスを変化させる可能性は少ないといえよう。こうしたことから、JA斜里町は国内の供給に影響を与えずに望ましい輸出シェアとして「優品」の10%と設定していた。

3 おわりに

本稿では、JA斜里町が取り組んでいるにんじん輸出、すなわち台湾向けの中位等級品輸出の取り組みに焦点をあて、輸出事業の展開とその特徴および課題についてみてきた。最後にまとめとして、残された課題とその展望について示していく。

JA斜里町は、輸出相手国・地域である台湾との内外価格差および国内の販売価格を維持するために中位等級である「優品」に焦点をあてた輸出戦略に取り組んでいた。流通ルートは商社を経由した間接輸出であり、JA斜里町の業務は一部の梱包時の作業を除けば国内流通とほぼ同様な作業形態で対応することが可能であった。当初の輸出規模は少量であったものの、最近では「優品」において一定程度の比率が5~9%まで拡大しており、産地に与える影響も以前よりも大きくなりつつあった。台湾では現地産と有力な輸入国であるニュージーランド産の端境期にスポットをあてており、JA斜里町によるにんじん輸出は台湾が求めている販売時期および価格、製品(規格)にフィットさせたターゲット・マーケティングを実現した優良なケーススタディとして位置付けられよう。

このように、台湾市場への中位等級品の輸出を実現させたJA斜里町であるが、残された課題も存在している。

第1に、海外市場に新規販路を開拓することによって価格低下へ対応することを目的とした輸出であるため、数量は限定的で当然のことながら基本的には需要大き国内市場への対応第一義的なものと位置付けている。こうしたことを踏まえると、管内および他産地の国内向けの流通量減少した際には輸出へ仕向ける数量が不足する可能性を有しているだけでなく、海外需要の拡大に対しても柔軟な対応が行いにくい点である。第2に、国内向けの出荷はサイズと形状を重視している一方、台湾では重量を重視することから2L以上の規格が好まれる傾向がある。また、内装にビニールを使用する梱包など日本と異なる作業面、コスト面での負担が増大することが挙げられる。従って、現在のように産地農協だけで対応していく場合、作業とコストの負担に耐えうるマンパワーを確保することが困難な点も挙げられる。

以上のように、いくつかの不安定要素があるものの、輸出事業を再開させてからわずかな期間で中位等級品の輸出量を拡大させたJA斜里町のにんじん輸出事業は、他の産地にとっても参考となる事象が存在しているものと判断できるため、筆者も今後の動向に注視していきたい。

謝辞

本稿の作成にあたり、筆者は平成31年1月に斜里町農業協同組合販売部青果課を対象に訪問面接調査を実施した。ご多用であるにもかかわらず、ご協力いただいた河田博司課長、西館和也係長をはじめ、関係職員の皆様へこの場を借りて謝意を申し上げる。

参考文献

(1)石塚哉史「川上村野菜販売戦略協議会による高原野菜輸出の取り組み」『野菜情報』 vol.134(2015年5月号)、43~51頁

(2)石塚哉史「産地農協におけるセルリー輸出の今日的展開-JA信州諏訪の事例-」 『野菜情報』vol.143(2016年2月号)、48~55頁

(3)石塚哉史「野菜産地における輸出の現段階と課題-ながいもの事例を中心に-」『日本健康学会誌』第84巻第6号、232~241頁

(4)石塚哉史・神代英昭『わが国における農産物輸出戦略の現段階と展望』筑波書房、2013年

(5)下渡敏治『日本の産地と輸出促進』筑波書房、2018年

(6)斜里町「平成31年度斜里町農業の概要」平成31年4月

(7)斜里町「第5次斜里町農業・農村振興計画-平成31~平成35年度(2019-2023)-」2019年

(8)平石康久「JA斜里町による野菜生産の拡大と加工・業務用野菜需要への対応」 『野菜情報』vol.151(2016年10月号)、48~54頁

(9)福田晋『農産物輸出拡大の可能性を探る』農林統計出版、2016年



元のページへ戻る


このページのトップへ