(1)需給および生産地域
2018~22年のメキシコのパプリカ生産量は、年間56万~68万トンで推移しており、このうち3割程度が輸出に向けられる(表1)。州別に見ると、比較的輸送経路が整い、気候が農業生産に適した北西部および中西部、または米国と国境を接する北部の州で生産されている(図1)。生産量が最も多いのは北西部に位置するシナロア州であり、2022年の同州の生産量は国内生産量の約5割を占めている(図2)。
シナロア州の気候は図3のとおりであり、冬の気温は15~25度程度(日照時間は9~10時間程度)、夏は25~35度程度(日照時間は9~12時間程度)で推移し、一年を通じ温暖な気候である。湿度についても冬は約50~60%、夏は約50~70%と安定しており、パプリカ生産に適した気候となっている。
(2)栽培形態
メキシコのパプリカ栽培の形態は、(1)温室栽培(2)露地栽培(3)遮光ネット栽培―に大別される。最も作付面積が多いのは全体の44%(2022年)を占める遮光ネット栽培であり、続いて露地栽培(同29%)、温室栽培(同27%)と続く。遮光ネット栽培は、パプリカを強い日差しから守り、温度を下げ、パプリカの日焼けを防ぐために用いられる(写真2)。
栽培期間は、一般に春夏期(4~9月)、秋冬期(10~3月)の2つとなる。遮光ネット栽培および露地栽培では、おおむね3~8月に
播種が行われる(図4)。
(3)生産動向
メキシコのパプリカ生産量は、国内外の需要の高まりを背景に2015年から19年まで増加傾向で推移していた。20年以降は新型コロナウイルス感染症拡大による需要の減少の影響もあり生産量は減少に転じ、22年の生産量は56万トンと20年の9割の水準となった。州別では、シナロア州の生産量が27万トン、続いてソノラ州が10万トンとなっている(表2)。
メキシコのパプリカの平均単収を見ると、近年は10アール当たり7.9~8.3トンで推移している。作付面積および生産量のトップ2州であるシナロア州およびソノラ州では、一般的に遮光ネット栽培が主流であり、単収の少ない露地栽培も少なからずあるため、いずれもメキシコの平均単収を下回る状態が続いている。一方で、温室栽培が盛んなケレタロ州やハリスコ州などの単収は全国平均を大幅に上回っている。なお、日本の平均単収(同7.8トン)との比較ではほぼ同量であるが、日本の87倍(20年比)の作付面積が生産量の差となっている。
(4)価格
ア 生産者販売価格
パプリカの生産者販売価格は、2013年に1キログラム当たり7.6メキシコペソ(77円)であったが、22年には同15.2メキシコペソ(154円)となり、10年間で2倍になっている(表3)。
主要生産州の同価格を見ると、生産量第1位のシナロア州では毎年全国平均を下回っている。作付面積および生産量は大きいものの、単収および同価格が小さいことで生産性および収益性は低い状況にある。また、第2位のソノラ州も同様に、19年以降は全国平均を下回っている。
一方で、これとは対照的に、作付面積の8割以上を温室が占めるグアナフアト州、ハリスコ州およびケレタロ州の同価格は全国平均を上回っており、中でも2000万人超の市場を有するメキシコシティ都市圏に隣接するハリスコ州では、長期的に高い水準を維持している。
イ 卸売価格
メキシコ国家情報市場統合システム(SNIIM)によると、2022年のパプリカの卸売価格は、1キログラム当たり43.3メキシコペソ(439円)となっている(図5)。また、20年以降は生産量の減少などにより、卸売価格は上昇している。
生産地や流通経路によって卸売りや小売りにかかる経費(生産者販売価格との差)は異なるが、それらは生産者販売価格の倍以上となっている。メキシコシティの小売店の販売価格(2024年1月)を見ると、1キログラム当たり89メキシコペソ(902円)および3個入りパックが48.9メキシコペソ(495円)で販売されている(写真3)。