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海外情報 野菜情報 2024年5月号

メキシコのパプリカ生産、流通および輸出の動向

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調査情報部 渡辺 淳一、伊藤 瑞基

【要約】

 メキシコは気象条件がパプリカ栽培に適しており、潤沢に出荷され国内需要を満たしている。また、米国に隣接する地理的条件からパプリカ生産量の約3割を米国向けに輸出している。このようにパプリカ生産が一大産業である一方、政府は米国以外の輸出先の確保も重要とし、アジア向けの輸出に言及している。植物検疫上の課題が解決された場合のアジア向けの輸出に当たっては、アジア人が好む栽培品種への転換や、ニュージーランドなど競合国と同等以下の輸送コストの実現などが課題と考えられる。

1 はじめに

 メキシコ産パプリカ(注1)(写真1)は2024年4月現在、植物検疫上の問題から日本への輸入が禁止されているものの、メキシコのパプリカを含むトウガラシ属の生産量は、中国に続き世界第2位の水準であり、世界の生産量全体の約8%を占めている(2020年時点)。また、生産量の約3割が輸出に仕向けられ、輸出量も世界第2位である。
 日本では、需要の伸びなどを背景に、近年、パプリカの生産量は増加傾向にあるが、需要を満たす水準には達していないことから、国内で流通するパプリカの8~9割は輸入品であり、国内供給量に占める輸入品の割合は依然として高い。
 本稿では世界有数の生産地であり輸出国であるメキシコのパプリカの生産や輸出の動向などについて紹介する。
 なお、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」2024年3月末TTS相場の1メキシコペソ=10.13円を使用した。
 
注1:メキシコ農牧漁業情報局(SIAP)によると、トウガラシ属のうち厚肉大型で甘味種のチレ・モロンが日本でいうところのパプリカに該当する。本稿では、チレ・モロンをパプリカと表記する。また、2022年のパプリカの生産量はトウガラシ属の約2割を占め、同約3割を占めるハラペーニョに次いで第2位となる。
 
タイトル: p066

2 メキシコのパプリカ生産概況

(1)需給および生産地域
 2018~22年のメキシコのパプリカ生産量は、年間56万~68万トンで推移しており、このうち3割程度が輸出に向けられる(表1)。州別に見ると、比較的輸送経路が整い、気候が農業生産に適した北西部および中西部、または米国と国境を接する北部の州で生産されている(図1)。生産量が最も多いのは北西部に位置するシナロア州であり、2022年の同州の生産量は国内生産量の約5割を占めている(図2)。

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タイトル: p068a
 
 シナロア州の気候は図3のとおりであり、冬の気温は15~25度程度(日照時間は9~10時間程度)、夏は25~35度程度(日照時間は9~12時間程度)で推移し、一年を通じ温暖な気候である。湿度についても冬は約50~60%、夏は約50~70%と安定しており、パプリカ生産に適した気候となっている。

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(2)栽培形態
 メキシコのパプリカ栽培の形態は、(1)温室栽培(2)露地栽培(3)遮光ネット栽培―に大別される。最も作付面積が多いのは全体の44%(2022年)を占める遮光ネット栽培であり、続いて露地栽培(同29%)、温室栽培(同27%)と続く。遮光ネット栽培は、パプリカを強い日差しから守り、温度を下げ、パプリカの日焼けを防ぐために用いられる(写真2)。
 栽培期間は、一般に春夏期(4~9月)、秋冬期(10~3月)の2つとなる。遮光ネット栽培および露地栽培では、おおむね3~8月に播種(はしゅ)が行われる(図4)。
 
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(3)生産動向
 メキシコのパプリカ生産量は、国内外の需要の高まりを背景に2015年から19年まで増加傾向で推移していた。20年以降は新型コロナウイルス感染症拡大による需要の減少の影響もあり生産量は減少に転じ、22年の生産量は56万トンと20年の9割の水準となった。州別では、シナロア州の生産量が27万トン、続いてソノラ州が10万トンとなっている(表2)。
 メキシコのパプリカの平均単収を見ると、近年は10アール当たり7.9~8.3トンで推移している。作付面積および生産量のトップ2州であるシナロア州およびソノラ州では、一般的に遮光ネット栽培が主流であり、単収の少ない露地栽培も少なからずあるため、いずれもメキシコの平均単収を下回る状態が続いている。一方で、温室栽培が盛んなケレタロ州やハリスコ州などの単収は全国平均を大幅に上回っている。なお、日本の平均単収(同7.8トン)との比較ではほぼ同量であるが、日本の87倍(20年比)の作付面積が生産量の差となっている。

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(4)価格
ア 生産者販売価格
 パプリカの生産者販売価格は、2013年に1キログラム当たり7.6メキシコペソ(77円)であったが、22年には同15.2メキシコペソ(154円)となり、10年間で2倍になっている(表3)。
 主要生産州の同価格を見ると、生産量第1位のシナロア州では毎年全国平均を下回っている。作付面積および生産量は大きいものの、単収および同価格が小さいことで生産性および収益性は低い状況にある。また、第2位のソノラ州も同様に、19年以降は全国平均を下回っている。
 一方で、これとは対照的に、作付面積の8割以上を温室が占めるグアナフアト州、ハリスコ州およびケレタロ州の同価格は全国平均を上回っており、中でも2000万人超の市場を有するメキシコシティ都市圏に隣接するハリスコ州では、長期的に高い水準を維持している。

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イ 卸売価格
 メキシコ国家情報市場統合システム(SNIIM)によると、2022年のパプリカの卸売価格は、1キログラム当たり43.3メキシコペソ(439円)となっている(図5)。また、20年以降は生産量の減少などにより、卸売価格は上昇している。
 生産地や流通経路によって卸売りや小売りにかかる経費(生産者販売価格との差)は異なるが、それらは生産者販売価格の倍以上となっている。メキシコシティの小売店の販売価格(2024年1月)を見ると、1キログラム当たり89メキシコペソ(902円)および3個入りパックが48.9メキシコペソ(495円)で販売されている(写真3)。
 
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【コラム1 遮光ネットによるパプリカ生産(シナロア州)】

 メキシコ北西部に位置するシナロア州は、パプリカ生産に適した気候や主要輸出先である米国への輸送経路が整っていることなどから、同国最大のパプリカ生産州となっている。同州のパプリカ作付面積の半分弱は、強い日差しによる日焼けを避ける効果があることや、温室栽培に比べて設備など初期投資が小さいこと、また輪作や転作が比較的容易なことから、遮光ネットが広く利用されている。
 同州の主要パプリカ生産企業であるAgrícola Chaparral(アグリコラ チャパラル)社(以下「Chaparral社」という)は1970年から緑パプリカの生産を開始し、現在の栽培面積は190ヘクタールである。このうち、緑パプリカは70ヘクタール(露地40ヘクタール、遮光ネット30ヘクタール)、赤パプリカは120ヘクタール(露地40ヘクタール、遮光ネット80ヘクタール)で栽培している(コラム1―表)。パプリカは3.25メートルまで生育し、単収は10アール当たり7.2トン、年間1万3600トンを生産している(コラム1-写真1)。このほか420ヘクタールの農地でトマトも栽培している。
 米国の需要に対応するため、栽培品種は、シナロア州農業協会連合(CAADES)が同州内の生産を調整している。Chaparral社では現在、緑色のSV1675PBとマルクス(Marx)および赤色のロブレ(Roble)とガジャルド(Gallardo)など大型品種を栽培しており、黄色や(だいだい)のパプリカは生産していない。

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タイトル: p073
 
 遮光ネット栽培は温室栽培と比較して初期投資がはるかに少なく、栽培管理にも高度な技術が不要などのメリットがあるとされる。また、連作障害を防ぐための輪作や、土地の多目的利用が容易である点、ネットによって虫の侵入を防げる点もメリットとされる。
 一方、遮光ネット栽培は温室栽培で可能な窓の開閉による湿度の調節ができないため、土壌内の湿度上昇から病害の発生につながりやすいとされる。苗に病害が発生した際には、雑草防除や地温の上昇抑制を目的に土壌を覆っているマルチシートを取り除き、土壌内の湿度を下げるなどの対策を行っている(コラム1-写真2)。このほか高温障害にも注意が必要になる。
 Chaparral社では、夏期の気候がパプリカ栽培には適さないため通年の栽培を行っておらず、夏期の3カ月間は労働者を雇用していない。しかし、非雇用期間後も前期と同じ労働者を雇用することで、新たな教育などの必要がなく経営上も効率的である。このため同社は農場内に簡易的な診療所や教育施設、食堂などを設置し、雇用環境を整備することで家族単位の労働者を受け入れている。これらが奏功し、労働者の6~7割は夏期の3カ月間は他で働くものの、再び雇用契約を結んでいる。

3 輸出動向

(1)米国向け輸出
 メキシコのパプリカ生産量は国内の需要を十分に満たしているため、その約3割が輸出に仕向けられており、輸出の6割弱が遮光ネット下で栽培されている(表4)。また、メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)によると、一部のトウガラシを含むパプリカの月別の輸出量(注2)は、秋から増加し1月にピークを迎え、夏に向けて減少する(図6)。輸出のほぼ全量が米国向けとなり、わずかにカナダにも輸出している。地理的優位性や米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)による無関税貿易が、北米中心の輸出の背景となっている。
 
注2:SIAPは月別の輸出量を公表していないため、INEGIが公表している一部のトウガラシを含むパプリカの輸出データを参照した。

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(2)輸出規格
 メキシコの輸出用パプリカの規格は、おおむね(1)小サイズ(Chico):120グラム未満(直径6センチ未満)(2)中サイズ(Mediano):120~280グラム(直径6~9センチ)(3)大サイズ(Grande):280~400グラム(直径9~12センチ)(4)特大サイズ(Extra grande):400グラム超(直径12センチ超)―に分類される。日本で広く流通するMサイズの160グラムは、メキシコの輸出規格では中サイズに相当するが、メキシコでは日本に比べて大型のパプリカが生産されている。

(3)政府による支援
 メキシコ農業農村開発省(SADER)の前身である農畜水産農村開発食料省(SAGARPA)の時代の2017年9月に、国家農業計画(2017-2030)により、パプリカは戦略的生産・輸出強化対象品種と位置付けられた。この中で2030年のトウガラシ属の生産目標を400万トンと設定し、有機パプリカは生産量が少ないものの生産者販売価格が高い(表4)ため、輸出向けとして栽培強化が掲げられている。その後、23年時点で輸出強化などに関する具体的な施策などは示されておらず、また、生産資材や施設などの整備に対する補助など、生産者への支援策は行われていない模様である。
 このほか、メキシコ全国農業協議会(CNA)やCAADESが生産者向けの講習会や海外でのPR活動などを行っているが、これらはいずれも生産者からの会費で実施されている。

【コラム2 温室栽培によるパプリカ生産(ケレタロ州)】

 ケレタロ州のパプリカ生産量は国内第5位であるが、温室栽培で行われており、10アール当たりの単収では国内で最も高い水準にある(表2)。温室栽培では、地温を26度前後に管理した施設で発芽・育苗し、定植する。発芽には8~10日ほど要し、定植から約3カ月で収穫可能な状態となり、週に1~2日のペースで収穫される。
 同州のパプリカ生産大手のHortigen Produce(オルチガン プロデュセ)社(以下「Hortigen社」という)は、2012年に温室栽培によるパプリカ生産を開始した。温室栽培の面積は29ヘクタールであり、10アール当たりの単収は26トン、年間の生産量は7500トンになる(コラム2―表、コラム2―写真1)。生産する品種は、米国の輸入業者による指定や、種苗会社による需給調査を踏まえた提案で決められており、オランダなどで開発された赤色のジーナ(Gina)や橙色のオービット(Orbit)、黄色のエウリクス(Eurix)など大型品種である。
 温室内の温度や湿度の管理、かんがいは、オランダやイスラエルから導入したシステムで制御している(コラム2―写真2)。しかし、メキシコ特有の強い日差しや乾燥した気候に適応したシステムではないため、Hortigen社のシステム管理責任者による微調整が必要となる。湿度はパプリカの蒸散量を測定し、温室の窓を開閉することで調節しており、病気を防ぐために慎重に行われている。

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 また、病害虫では、トウガラシゾウムシ(Anthonomus eugenii)やヤシオオオサゾウムシ(rhynchophorus ferrugineus)およびトマト黄化えそウイルス(tomato spotted wilt virus)の発生があり、天敵昆虫を用いた防除や、ウイルスに感染した植物体の除去などで対応している。
 温室の加温は冬季のみ必要となり、収穫の際に用いる収穫機器のレーン内に温水を流して加温している(コラム2―写真3)。同社のオーナーが所有する近隣の肥料工場で排出される温水を利用しているため、燃料費は発生していない。また、現在の農場責任者およびシステム管理責任者は勤続1年半と短い。同業他社での15年程度の経験を有しているため運営は順調であるが、このクラスの人材の流動性は高いことから、優秀な人材の確保が常に求められている。
 
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 輸出向けと国内向けの生産工程は同一であり、輸出基準に満たないものが国内向けに出荷される。しかし、輸出向けの販売利益は国内向けの5倍に相当するため、85%を輸出向け、15%を国内向けに出荷できるよう管理目標が定められている。輸出に当たっては、メキシコ北東部のタマウリパス州を経由して米国へ陸送されている。
 経営面の課題として、生産者では調整できない要素ながら売り上げに直結する「市場価格」や、生産効率に影響する「人員の確保」、さらに「為替」を挙げている。輸出は米ドル建てであるが、給料など必要経費の多くはメキシコペソで支払うため為替の影響が大きく、23年は米ドルに対するメキシコペソ高により20%の差損が発生したという。

4 アジア向け輸出について

 (1)日本のパプリカの輸入状況
 日本のパプリカ輸入量は、2017年の4万3000トンをピークに近年は減少傾向にあり、20年は3万6000トン、23年は2万5000トン(前年比13.0%減)に減少している。輸入先別では韓国産が輸入量全体の約8割、ニュージーランド(NZ)産が約1割を占めている(図7)。

タイトル: p078a
 
 韓国産パプリカ(注3)は、冬春型と夏秋型の収穫期が重なる4~7月に輸入量が増える一方、南半球のNZ産パプリカ(注3)は、日本を含めた北半球の日射量が低下する1~3月に輸入量が増加する傾向にある(図8)。オランダ産パプリカ(注3)は、韓国産およびNZ産が減少する8~10月に輸入量が増加する傾向にあるが、23年の占有率は1~2割に低下している。

注3:韓国産パプリカについては、『野菜情報』2019年1月号「韓国のパプリカの生産、流通および日本への輸出動向」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1901_kaigaijoho02.html)、NZ産パプリカについては、『野菜情報』2019年8月号「ニュージーランドのパプリカの生産および日本への輸出動向」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1908_kaigaijoho01.html)、オランダ産パプリカについては、『野菜情報』2018年3月号「オランダにおけるパプリカの生産および輸出動向」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1803_kaigaijoho02.html)もご参照ください。

タイトル: p078b
 
 前述の国家農業計画(2017-2030)では、米国向け輸出が減少した場合に備えて仕向地を多様化することが重要とされ、仕向地および方策は以下のように(うた)われている。
 
  • USMCA、メキシコとEUとの自由貿易協定(TLCUEM)、欧州自由貿易連合(EFTA)の加盟国に対しては、関税非課税の維持、高品質商品の提供、市場の差別化および高価格帯を目指した知的財産権保護の整備
 
  • 日本、香港、中国などのアジア諸国に対しては、アジア太平洋地域における輸出の流れを拡大するために、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)や、日本・メキシコ経済連携協定を通じた交渉を継続
 
 なお、メキシコ国家科学技術審議会(CONACYT)および食品開発研究センター(CIAD)は21年3月、日本は世界でも高い価格帯でパプリカを取引する国であるとし、植物検疫上の課題とされるタバコべと病菌の防除について科学的な実証をしていると述べている。
 
(2)日本の輸入パプリカの市場価格
 1993~99年に東京中央卸売市場で取引された輸入パプリカは、オランダからの空輸パプリカが大半を占め、取引価格は1キログラム当たり600~800円で推移し、輸送コストは産地出荷価格の2倍以上となった(産地出荷価格:140~150円、輸送コスト:300~400円)。その後、2000~05年から韓国産のパプリカの輸入が増加し、船舶輸送によるコストの削減から、同市場の輸入パプリカ取引価格は同410~530円に低下した(産地出荷価格:250円、輸送コスト40円)。直近5年(19~23年)の同市場の韓国産パプリカの取引価格は、19年の同399円から23年の571円へと毎年上昇している(表5)。この価格の上昇は、韓国国内の需要の増加や、香港やシンガポールなどへの輸出の増加による日本向け輸出の減少や、韓国国内の天候不順による生産減などが一因とみられる。
 
(3)今後のアジア向け輸出について
 メキシコからアジア向けのパプリカ輸送に際し、収穫からアジアの倉庫に到着するまで約1カ月を要するため、冷凍・冷蔵に特化したリーファーコンテナを用いた海上輸送であっても、海上輸送はほぼ不可能である。このため、アジアへの輸出手段としては空輸が考えられる。日本向けメキシコ産アスパラガス(注4)は、空輸により輸出されるが、(1)収穫当日に箱詰め・出荷(2)2日目に米国のロサンゼルスなどの空港保冷倉庫に到着(3)3日目に同空港を出発(4)4日目に日本到着・空港冷蔵倉庫搬入(5)5日目に検疫通過・出荷を待つ冷蔵倉庫への移送―が一般的なスケジュールとなっている。パプリカはメキシコシティなどの空港からの空輸や、アスパラガスと同じく米国西海岸からの空輸が考えられる。このため、メキシコ産パプリカがアジア市場で一定の競争力を保有するためには、輸送コストが課題になると考えられる。
 日本の輸入パプリカの流通時期を例に、想定されるメキシコの流通時期とを比較すると、メキシコ産パプリカがアジア向けに輸出を行う場合、主にNZ産との競合が想定される(図9)。メキシコは温室栽培の強化により一部では通年供給が可能となっているものの、主産地であるシナロア州などからの供給量が増加するのは、NZ産と重なる12月~翌5月である。
 
注4:メキシコ産アスパラガスについては、『野菜情報』2021年11月号「メキシコにおけるアスパラガスの生産、流通、消費および輸出動向」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/2111_kaigaijoho1.html)もご参照ください。

タイトル: p080a
 


タイトル: p080b

5 おわりに

 メキシコの気候はパプリカ栽培に適したものであり、最大生産地のシナロア州の年間の最低気温は15度程度であることから、暖房費用は発生しない。また、栽培期の湿度が50~60%程度であることも、病害リスクの軽減につながっている。
 一方、同国のパプリカ産業は米国市場に大きく依存しているため、同国政府はリスク分散の観点からアジア市場の開拓を目標に掲げている。しかし、現在米国向けに栽培されている品種は、アジア市場で流通しているものに比べて大型であり、アジア向け輸出の実現にはアジア人の市場ニーズに適した品種の栽培が必要となる。これには、現行の生産ラインの複数化や労働者への教育など、新たなコストも見込まれる。
 また、米国向け輸出量が増加する12月~翌5月は、日本などにおいてNZ産が増加する11月~翌3月と重複するため、NZ産と競合する。メキシコは、NZと比較してアジアへの輸送距離が長く、直行で空輸する場合も便数などの面などで優位性が低い。このため、現実的には、現在のアスパラガスと同様に米国経由の輸出の検討が必要となる。2022年のメキシコの輸出向けパプリカの産地出荷価格(生産者販売価格)は1キログラム当たり165円(表4)であり、同年の東京都中央卸売市場でのNZ産の取引価格は同676円(表5)であった。このため、空輸を含めた輸送コストのほか、米国や輸出先国での冷蔵倉庫保管費用および検疫や通関に要する経費などの合計が、同511円であればNZ産と同等になる。日本への輸出は植物検疫上の問題から禁止されているが、今後、アジア向け輸出を検討する際には、この経費をどの程度縮減できるのかがカギとなってくるだろう。