調査情報部
ニュージーランドのパプリカは、温暖な気候である北島を中心に、主に生産性の高い施設栽培で生産されている。近年、生産者の大規模化が進展し、作付面積も増加傾向となっている。南半球に位置していることから、日本のパプリカの国内供給が減少する冬季を中心に輸出することが可能となっている。しかし、日本向け輸出量は、国内需要の拡大や日本への過度な輸出依存からの脱却を目指していることから減少傾向で推移している。また、生産コストも増加傾向にあるため、大幅な輸出量の増加は見込みがたい。
パプリカは、1993年にオランダから初めて国内に輸入された。パプリカは、食の洋風化に伴う食材や彩り食材として注目されており、国内では宮城県、茨城県などで栽培されているものの、国内で流通しているパプリカの約90%は輸入品となっている。
パプリカの需要は、家庭用のほか、加工・業務用においても伸びており、輸入量は2015年以降、4万トン前後で推移している(図1)。
なお、全輸入量のうち、ニュージーランド(以下「NZ」という)は、韓国、オランダに次いで第3位で、全輸入量の約10%を占めている。今回は、日本と季節が反対であることを生かして、国内の生産量が減少する秋から春にかけて輸入量が増加する傾向にあるNZ産パプリカについて、生産および輸出動向を紹介する。
なお、本稿中の為替レートについては、1NZドル=74円(2019年6月末TTS相場=74.26円)、1米ドル=109円(2019年6月末TTS相場=108.79円)を使用した。
日本におけるNZからの輸入量は、2015年に初めて5000トンを超えたものの、その後は減少傾向で推移しており、2018年は3067トン(前年比18.0%減)となっている。
2018年の輸入量を月ごとにみると、NZからの輸入量は、日本の市場でパプリカの入荷量が減少する10月から3月に多い(図2)。NZは南半球に位置し、生産のピークが北半球と逆である特性を生かし、国内の生産量や輸入割合が高い韓国産の輸入量が減少傾向となる冬場を中心にその不足分を補う形で輸入されていることが分かる。
また、NZの輸入単価は2018年に1キログラム当たり500円を超えており、同じく空輸で輸送されるオランダ産と同程度となっている一方で、韓国産は日本に地理的にも近く、海上輸送が主であるため、NZ産、オランダ産と比較して価格競争力がある(図3)。
NZは、日本の約4分の3の国土で、北島と南島に分かれており、ほぼ全土が西岸海洋性気候に属している。
NZのパプリカの3分の2は施設栽培で生産されるため、年間を通して生産が可能となっている。なお、輸出向けはすべて施設栽培で生産されている。施設栽培の作付面積はほぼ横ばいだが、露地栽培の作付面積が3年連続で増加しており、2018年の全体の作付面積は85ヘクタールとなっている(図4)。
生産量は、2016年以降、増加傾向で推移している。これは、パプリカの国内需要が堅調に推移し、作付面積の増加など生産体制が強化されたためである。
また、10アール当たりの収量は24.7トンと推定され、日本の同12トン(注)と比べて2倍近い。NZの生産性が高い要因としては、面積の大きいガラスハウスで環境制御型の高度な施設栽培をしている点などが考えられる。
なお、2018年の生産者戸数は22戸と、2010年の133戸の6分の1まで減少している一方で、生産量は増加していることから、生産者の大規模化が進展していることが分かる。
注:農林水産省「平成28年産地域特産野菜生産状況」におけるパプリカの収穫量が多い宮城県の収量に基づく。
NZにおいて、冬期にパプリカを生産している企業は4社で、そのうち、New Zealand Gourmet(以下「NZG社」という)およびSouthern Paprika(以下「SP社」という)の2社が日本に輸出している最大手の企業である。
ア NZG社
NZG社は1982年に設立され、輸出に積極的に取り組んでおり、現在は事業の8割が輸出で占められている。同社は6つの子会社(「Paprika社」「Mokai社」「Blueberries社」「Waiuku社」「Summer
fruit社」「Sweet Red社」)を有しており、子会社で生産されたパプリカを共通ブランドの「NZ Gourmet」という名称で販売している。パプリカは主に「Paprika社」および「Waiuku社」が生産しており、両社の温室施設はオークランドにある。栽培面積は両社合わせて約17ヘクタールであり、栽培時期をずらすことにより通年生産が可能となっている。なお、アジア市場に向けた輸出がメインであるため、栽培される品種はアジアで好まれる小ぶりなものとなっている。
イ SP社
SP社は地元企業のAlexander Cropping社とオランダのLevarht社の合併企業としてLevarht社が北半球の冬にもパプリカを提供できる体制を整えるため、1998年に設立された。NZにおいて、3棟からなる最大のパプリカ専用の温室施設を所有し、その栽培面積は合わせて22ヘクタールになる。1株につき、40個のパプリカが収穫でき、施設内には100万株のパプリカが栽培されている。温室施設はオークランドの北部に位置しており、NZ航空のカーゴ部門と提携し、パプリカを輸出している。同社のパプリカの生産割合は赤色が55%、黄色が35%、オレンジが10%である。
北島は温暖な気候であるため、農作物の生産が多く、パプリカの生産についても北島にほぼ集中している(図5)。特に、オークランドとワイカト地方はパプリカ生産の7割を占めている。このうち、オークランド地方はパプリカの2大生産会社であるNZG社およびSP社の拠点を有しており、生産の57%を占めている。
これらの地方以外では、南島のタスマン地方などでも施設栽培で生産されているものの、規模は上記の生産地と比較すると小さい。
前述の通り、NZのパプリカの3分の2は施設栽培が占めており、通年生産が可能となっている。施設栽培では、ロックウールやヤシの実の繊維由来の固形培地などを用いた養液栽培が一般的となっている。
パプリカの栽培は、固形培地で育苗されたのち、ハウスに移植され2カ月後から収穫可能となる(例:5月に移植した場合は、7月以降に収穫開始)。大規模生産者は複数の温室施設を持っているため、移植時期をずらすことで通年の生産体制を実現している(写真1、2)。
栽培に使用する水は、紫外線を用いて水由来の病原体を殺菌するなどの処置を行い再利用する。温室施設内は二酸化炭素濃度のほか、天然ガス(南島では主に石炭や木材チップ)を用いて温度(21~28度)や湿度(85~90%)を調整している。
日本に輸出するために栽培されている赤いパプリカの主な品種は「スペシャル」で、特徴として大きさが日本で好まれるMサイズ(150~200グラム)であり、特に保存期間が長く、日本までの輸送に品質を損なうことなく耐えられる点が挙げられる。また、アジア市場の嗜好に合わせた、さらに小ぶりな品種を栽培している生産者もいる。
施設栽培の生産で最も多く発生する病害虫はキジラミ、アザミウマおよびアブラムシである。アザミウマやアブラムシ対策に天敵の捕食者を用いることはよくあるものの、キジラミはNZでは比較的新しい害虫であり、有効な天敵が見つかっていないため、同国の施設栽培に大きな損害を与えている。現在では、キジラミ対策として殺虫剤が使用されているが、使用に伴いアザミウマとアブラムシの天敵であるカメムシも死滅させてしまっているため、アザミウマとアブラムシの発生も増加している。なお、アザミウマも黄化えそ病の発生を招くなど、施設栽培にとって大きな課題となっている。
生産コストの中で、労働費および燃料費が最も大きな割合を占めており、そのうち労働コストは右肩上がりで増加を続けている。NZ統計局のデータによれば、農業部門における賃金は過去5年年率2%の上昇を続けており、10年前と比較すると約20%上昇している(図6)。
また、燃料費については、気候変動に対応するため、2010年に燃料や電力分野に導入された排出量取引制度(以下「NZ-
ETS」という)の影響が大きい。NZ-ETSは企業に排出枠(温室効果ガス排出量の限度:キャップ)を設定し、かつ企業などの間での排出枠の取引(トレード)を通じて、全体的に温室効果ガスの排出量削減を目指すキャップ・アンド・トレード型の取引制度である。農業分野は温室効果ガス排出量の50%を占めており、燃料を多く使う施設園芸へのコスト増をもたらしたと考えられる。
梱包や流通は企業により異なるため、例として、大型のパッキング施設を有するSP社について紹介する。パプリカの収穫は手作業で行われ、収穫後はパッキング施設に運ばれ、施設内で色、品質およびサイズによって自動選別される。SP社が有しているパッキング施設の処理能力は最大で1日当たり60トンである。
自動選別が行われた後、顧客の要望に応じて色が同じもの同士、または異なるもの同士で袋詰めが行われる。通常中身が見やすいように梱包に使われる袋は透明である。袋詰めされたパプリカは箱詰めされた後に12度の冷蔵庫で保管し、オークランドなどの都市へと輸送され、小売業者などへ引き渡される。通常であれば、収穫からほぼ1日でスーパーマーケットの店頭に並べられる。
収穫からパッキングまでの工程は、NZG社でも同様に行われている(写真3)。
国内向けの流通は梱包業者から卸売業者へと続き、卸売業者は小売、外食などの各販売先へとパプリカを販売するが、卸売業者については複数経由する場合もある(図7)。
近年、パプリカの栄養価などが評価され、国内市場は著しい勢いで拡大を続けている。2018年の国内需要推定規模(重量ベース)は1万7287トンと、2014年の約2倍となっている(表1)。
一方、国内販売額は2014年から2017年の間では4700万NZドル(34億7800万円)まで増加したものの、2018年は2500万NZドル(18億5000万円)に減少している(表2)。
NZでは、国産品を消費する傾向にあるが、冬期(北半球の夏期)に国産品が品薄になるとオランダ、豪州などから輸入される。前述の通り、国内の生産コストが増加しているため、小売価格も値上がりしている(図8)。
2018年は、日照量が例年より少なく、冬期に生産量が減少し国内向けが不足気味となった上に、豪州から輸入されたパプリカにカビ類が検出され輸入が滞った結果、出回り量が減少し、一時的に小売価格が上昇した。
(3) 輸出
輸出向けの流通は、梱包業者が主に担うが、集荷業者が複数の梱包業者などから集荷し、輸出する場合もある(図9)。輸出先の小売店の店頭に並ぶまでの期間は、通常、収穫後約2~3日となっている。
なお、過去9年でパプリカの輸出量は大きく増減している(図10)。2010年には約6000トンの輸出があり、2年後の2012年には約9000トンまで増加したものの、2018年には5000トンを下回るようになった。この要因としては、NZ国内の堅調な需要の他に、コスト増による価格競争力の低下が挙げられる。
最大の輸出先は日本であり、全体の75%程度を占めている。豪州は20%程度で、残りはフィジーや仏領ポリネシア、ニューカレドニアなどの近隣諸国が占めている。
輸出金額を見てみると、輸出量と同様の推移となっており、2016年に一時的に2000万米ドル(21億7580万円)を超えたが、その後は減少傾向となっている(図11)。2018年の輸出金額は1440万米ドル(15億5520万円)と、ピークだった2012年の3074万米ドル(33億4420万円)の半分以下となっている。
また、平均輸出単価は、2015年まで下落し、1キログラム当たり2.80米ドル(305円)となった(図12)。その後は上昇し、2018年は同3.50米ドル(381円)となっている。
日本はNZ産パプリカの最大の輸出先であり、輸入業者の要望に合わせて日本市場に合うサイズなどで収穫、出荷が行われている。日本向けの輸出は日本の冬期を中心に出荷されるが、主な輸送手段は空輸である。前述の通り、日本向けに栽培される品種は「スペシャル」が中心である。同品種はオランダの種苗会社であるエンザ社が開発しており、果実サイズがMサイズ(150~200グラム)で収穫しやすく、形は丸型である。秀品率、玉揃い、色上がりに優れ、尻腐れと裂果に強いとされている。それ以外では、赤色系のスピリットや黄色系のフィエスタなどの品種も栽培されており、いずれも保存期間が長いという特徴を持っている。
日本での用途は、小売店での販売の他に加工・業務用として利用されていると推測され、完熟度の高い赤色と黄色のパプリカの輸入が多い(写真4)。なお、NZG社によれば、日本向けのパプリカは赤色が60%、黄色が20%、オレンジが10%、緑色が10%の割合となっている。輸出される形態は24~27個または28~32個入りの5キログラム単位の箱が主体となっている(写真5)。NZ産パプリカは季節性の違いの他にNZのクリーンなイメージなどから、品質が良いと評価を得ている。
日本向けのパプリカの輸出量の動向を見てみると、2016年まで約5000トンを超えていたものの、2017年以降減少し、2018年は3500トンとなっている(図10)。この減少傾向の背景には、NZ国内の国産品の需要拡大が理由として考えられる。なお、生産コスト(労働費、燃料費など)の急増の影響で、中小企業が少なくなり、大手企業がより大きくなる傾向は今後も継続すると思われる。また、生産については、国内需要の拡大に伴う形で増加傾向が進むと思われるものの、輸出については、業界団体が、「日本への過度な輸出依存から脱却し、米国への輸出条件の緩和および中国・韓国への輸出アクセス改善が業界の優先事項となっている」と述べていることから日本以外へのシフトがより鮮明になると考えられている。
NZのパプリカ生産は栽培面積の拡大などにより、順調に拡大傾向であることが分かった。しかし、施設栽培が主であるため、燃料コストが高く、また国内の労働コストの増加に伴い、全体的な生産コストが増加傾向にあるとみられる。
さらに、業界としては日本への輸出依存度を低め、米国、韓国や中国などの市場への輸出強化を目指している。一方で、国内需要が堅調に推移していることから国内向けに出荷される量が増え、輸出量は近年減少傾向にある。
日本において、NZ産パプリカは高品質であるとの評価を得ており、かつ季節性の違いから品薄となる冬期の重要な調達先としてなっている上、NZの生産者は日本市場に合わせた品種を選んで生産し、日本の冬期に合わせて出荷を行っている。そのため、今後もある程度は安定して日本へ輸出されるものとみられるが、前述の通り、輸出量自体が減少傾向にあることから、日本への輸出量が大幅に増えることは見込みがたい状況にあると思われる。