調査情報部
オランダ産パプリカは、ガラス温室などで環境をコントロールした高い生産効率と収益性を持ち、プントパプリカやスナックパプリカなどの新しい品種の需要も広がりつつある。今後は、生産技術の高度化や新品種の開発なども進めつつ、EU域内のみならず域外への市場開拓を進めていくと思われる。<
オランダは、ライン川下流の低湿地帯に位置し、国土面積は九州と同程度で、その4分の1が海面より低い干拓地となっている。地形はほぼ平坦で、国土の約45%に当たる185万ヘクタールが農用地として活用され、施設園芸による野菜や花きの生産を中心とした高い生産効率と収益性を持った農業経営が行われている。EU域内外の市場への積極的な輸出が行われており、パプリカはその主要な野菜の一つである。
パプリカの需要は、彩りなどから日本でも高まっており、韓国産、オランダ産を中心に輸入量が増加傾向にある(図1)。
本稿では、オランダにおけるパプリカの生産および輸出動向などについて報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=137円(1月末日TTS相場:136.58円)を使用した。
オランダは、日照時間が短く、気温も低い上、農用地面積も限られるなど、農業に適した環境ではないことから、日照や温度を人工的に制御し、最適な栽培環境を整えた施設園芸に特化している。農用地面積については、周年栽培と栽培期間の短縮による回転率の向上により、土地生産性を高めることで克服している。また、品質の高いトマトやパプリカなどを効率的に生産して、EU域内にとどまらず域外市場に輸出し、高い評価を得ている。
施設園芸は、ガラス温室栽培で世界的に有名なウェストランド地域に栽培面積の半分程度が集中しており、パプリカについても同地域での栽培が多い(図2、表1)。
施設園芸の主な栽培品目は、トマト、パプリカ、きゅうりなどの野菜と、ラン、菊、チューリップなどの花きで、このうちパプリカは、トマト、ランに続く第3位の生産額(4億1500万ユーロ(568億5500万円))となっている(表2)。
オランダ統計局(CBS)によると、2016年のパプリカの栽培面積は1315ヘクタールで、生産量は36万5000トンとなった(いずれも暫定値。図3)。
栽培面積は、2010年をピークとして、2015年まで減少している一方、生産量は、おおむね増加傾向にある。
特に、2014年以降の増産は、EUの新たな共通農業政策の下、競争力強化の一環として、ICT(情報通信技術)を駆使した高度な環境制御装置が積極的に導入されたことにより、生産性が向上したことが大きい。
栽培面積(ガラス温室)を色別に見ると、赤色が過半を占める。過去10年では、需要を反映して緑色が減少し、赤色の割合が高まっている(図4、5)。
パプリカには、多数の品種があり、オランダでは、ブロックパプリカ、プントパプリカ、スナックパプリカの3種類が一般的である。ブロックパプリカは、果実が大きく、収穫後の計量やパッキング作業が容易であることもあり、栽培面積の9割程度を占める。プントパプリカは、ブロックパプリカよりチリペッパーに近い形状(円錐形で細長い)で、近年市場が拡大し、日本へも輸出されている。スナックパプリカは、ミニサイズで、栽培面積はまだ2%程度と小さいものの、EU域内を中心にこれから需要が伸びると考えられている(写真1)。ブロックパプリカ以外は、収量も高くないため栽培はまだ少ないが、今後は収量も高い新品種の開発が進むとみられる。
オランダ農業の生産性の高さは広く認知されているが、パプリカも例外ではなく、2016年は、10アール当たり約28トンであった(図6)。
栽培面積は、国土が狭いことから、今後飛躍的には伸びないものの、単収については、官民による生産者への支援体制や、ワーヘニンゲン大学や民間企業による研究開発が充実していることから、今後も増加する可能性があると考えられる。
パプリカは、一般的に、ガラス温室などの施設で養液栽培されている(写真2)。生産者の多くは、種苗会社から購入した苗を12月下旬から1月上旬に定植し、3月上旬から11月中旬まで収穫する場合が多い。収穫後、次の播種の12月下旬までは温室内を清掃し、このサイクルを安定的に回している。一方、周年で栽培する場合、11月中旬から翌年の4月中旬ごろまでは生産量が少なくなる。
培土は、ロックウール、ココナッツ繊維、クレイ、ピートモスなどが主流である。これらの培土は、根を深く張ることができる上、植物が必要とする水と肥料を制御することができることから、パプリカの栽培に適している。また、資材によっては余分な水や肥料を集めて再利用できるため、コスト削減も可能である。さらに、最大の利点は、基材に病原菌が含まれていないことである。病害への対応は生産者にとっては収入減などにつながるため、病原菌リスクを少しでも軽減させることが重要である。
主な病気は、うどんこ病や菌核病などで、発生した場合は基本的に早めに患部対応をするが、拡大を抑えられないと、感染したハウス内の全ての植物体を廃棄することになる。また、アブラムシやキャタピラなどに対しては、各生産者で使用頻度を定めながら農薬を散布することが多いが、天敵害虫を活用するケースも見られる。
かんがいについては、ドリッパーによる点滴かんがいが一般的である。また栽培技術の指導については、外部の技術コンサルティング会社を利用している生産者が多い。
茎はおおよそ3~4メートルの高さにまで成長し、約1年間、1つの茎から約60個のパプリカが収穫される。なお、最初に開花した花は、通常、不規則な果実を形成するため、ほとんどの場合、摘花する。
収穫は、ほとんどの場合はさみを用いて手作業で行われる。病気対策のため、レーンが変わる際には、はさみを塩素消毒するほか、同一レーンでもはさみを一定の間隔で牛乳につけながら実施していることが多く、生産者自身のリスク意識は高い。はさみを牛乳につける手法は、日本の生産現場でも、防除のために使用されている。
パプリカを生産する経営体数の推移を見ると、2000年以降2014年まで一貫して減少し、2015年以降は横ばいで推移している(図7)。また、2010年までに小規模の経営体を中心に減少した一方、近年は競争力を高めるための大規模化が進展している。なお、日本と同様に、生産者の高齢化の傾向もみられる。
経営体の類型を見ると、市場を介さない流通に対応するため、企業や複数の企業から成る生産者組織が生産の多くを担っている。生産者組織はパプリカのほかトマトなど他の品目も扱っていることが多い(表3)。
オランダでは、農業は産業の1分野として扱われており、経済省の所管下にある。このため、予算についても、研究開発や企業化する農家の育成などに優先的に配分されている。
施設園芸には高額の設備投資が必要なため、減価償却費等の割合が大きく、全体の35.9%を占めている。次いで、人件費(23.3%)、光熱費(18.5%)となっている(図8)。なお、機械類は基本的に各企業が所有しており、生産者組織としては所有していない。生産資材についても、各企業が個別に購入している。
収穫後のパプリカは生産者から直接契約先へ納入されることが多い(図9)。生産者は、品質、サイズ、重量に応じて分類し、大規模生産者の場合は、自社の冷蔵施設で一時保管した後に、中小規模の生産者の場合は、所属する生産者組織の冷蔵施設を経由して、あるいは、収穫の当日又は翌日に出荷するのが一般的である。
国内向けでは、生産者が、収穫後に電話で集荷を手配する場合が多かったが、近年ではICTによるネットワークシステムの導入により、生産者が納品数を入力すると、出荷先別にトラックが自動的に手配され、ドライバーが集荷にくるというシステムも活用されている。
小売店では、1個ずつのバラ売りや2~3個入った袋詰め、赤色、黄色および緑色のセットによる販売などが主流となっている(写真3)。
生産者販売価格は、1キログラム当たり1.1ユーロ(151円)から1.3ユーロ(178円)前後で推移している(図10)。2009年および2014年は、前年から生産量が増加し供給過剰となったことなどから下落した。
パプリカの主な輸出先はEU域内であり、ドイツと英国で輸出量の6割近くを占めている(図11)。また、EU圏外では米国や日本などとなっている。
2013年以降、輸出量は微増したが、輸出額は、ポーランドなど低価格帯の輸出先への仕向け量が増加したこと、スペイン産との競合などから全般に平均単価が低下したことから、減少している。
パプリカは、ほぼ原体(無加工)で輸出されている。EU域内向けは、ほとんどが陸続きであるため、陸路で輸出されることが多い。一方、米国向けなどでは、空路での輸出が中心である。
ア 輸出量と輸出価格
日本への輸出は、8月から10月の間に多い(図12)。これは、この時期は端境期であり、日本市場において価格優位性を持っている韓国産とオランダ産との価格差が小さくなるためである(図13)。
日本向けが全輸出量に占める割合は近年1.5%以下で推移しており、市場規模としては非常に小さい。しかし、1キログラム当たりの輸出単価が、二大輸出先のドイツや英国の約2~3倍となっている(図14)。
イ 品種
日本向けは、ブロックパプリカがほとんどであり、主にNAGANO(赤色)、ボランテ(黄色)、オランディーノ(オレンジ色)といった系統が輸出されている。なお、これらは、特に日本向けに独自に開発されたものではない。
ウ 輸出の流れ
日本には空路で輸出されており、現地で収穫されてから4日目には日本に到着している(表4)。
なお、地中海ミバエトラップ、検疫官の定期検査費用、出荷時のネットとボール紙資材を含むパッキング費用などの諸経費は輸出業者が負担している場合が多い。
エ 日本向け輸出に対する評価
日本向けは、地中海ミバエへの対応などの手間がかかる上、大きさなどの選別基準に対する細かい注文が多く、パッキング作業に手間やコストがかかり、品質に対する要求水準が非常に高いことがデメリットとして捉えられている。一方で、高い品質が評価され、ドイツや英国などに比べ高値で販売できる市場として期待されている。
現在の輸出は、ドイツ、英国を中心としたEU域内向けが主であり、日本など域外向けはわずかな数量にとどまっている。また、最近はスペイン産の台頭があり、輸出先における競争が激化しつつある。
ロシアは、EUからの青果物の輸入を規制しており、現状では今後の可能性を見いだせない。中東は、すでに成熟市場となっており、競合も多いことから、さらなる開拓はむずかしいと捉えている。
このような中、関係者によると、中国が有望視されている。現在、同国への輸出はほとんど実績がないが、両国を結ぶ鉄道が2017年9月に完成し、それによって陸路での輸送が可能になれば、今後大きな市場になるのではないかと期待されている。
日本については、品質の良さが理解され、高値で販売できる市場とみている輸出業者も多く、今後の輸出拡大に対する意欲は高い。
オランダでは、ICT(情報通信技術)を駆使した高度な環境制御装置が導入されたガラス温室などにより、高い生産効率と高い収益性を持ってパプリカが生産されており、域内外への輸出拡大を図ってきた。
今後は、中国など域外市場の開拓が進むものと考えられる。日本については、高い品質が評価される市場として、プントパプリカやスナックパプリカなど新しい品種を含めて、さらなる拡大が期待されている。