(1)農業産出額
令和5年のブロッコリーの産出額は542億円で、主要農産物では33位、野菜では17位に位置している。年推移を見ると、平成29年までは右肩上がりで増加し、28年に500億円を超えて以降は横ばいで推移していたが、令和5年には単価の上昇などの影響で過去最高となった(図3)。主要産地の多くは増加傾向にあるが、特に北海道、長野県、徳島県、長崎県および熊本県は大きく伸びている。その一方で、埼玉県や愛知県については、近年は減少傾向となっている。また、埼玉県、愛知県、長崎県および熊本県では、単独市町村で産出額の過半を占めている(表5)。
(2)生産
ブロッコリーは全国各地で栽培されており、近年はほぼ毎年、作付面積拡大が続いてきたが、令和2年以降は拡大傾向がやや鈍化している(図4)。出荷量は、作付面積の増加に伴い右肩上がりで推移してきたが、近年は作付面積の拡大鈍化や単収の低下により、横ばいとなっている。
全国の単収は1000キログラム前後が平均だが、埼玉県や愛知県は特に高く、近年、愛知県は1500キログラム前後と高水準である。主要産地の単収などの詳細は表6の通りである。
47都道府県の令和4年と平成28年の作付面積を比較すると、約6割の都道府県で増加しており、ブロッコリーは栽培意欲が非常に高い品目と言える(表7)。特に北海道、長野県、徳島県、長崎県および熊本県が作付面積増加をけん引する一方、埼玉県、和歌山県、福岡県などでは減少傾向である。なお、作付面積が増加している都道府県が過半数に達する品目は、ブロッコリー以外ではミニトマトのみである。
続いて、農林水産省の農林業センサスによる「販売目的の野菜類の作付(栽培)面積」のデータを比較すると、2020(令和2)年は15(平成27)年に比べ市区町村数は増加しており、全国的に作付けが拡大していることが分かる(表8)。特に作付面積50ヘクタール以上の市区町村で大幅な増加が見られ、既存産地が拡大の中心となっていることが推測される。
北海道と熊本県の事例を見ると、北海道ではブロッコリーが土地利用作物として定着し、冷涼な気候を生かして夏作の栽培が幅広く行われている。特徴的な産地としてむかわ町があり、同町は2020年の作付面積が400ヘクタール超と大きいことはもちろん、1経営体当たりの作付面積が約26ヘクタールと非常に大規模であることが挙げられる。これは、全国各地の生産
圃場においてブロッコリーを通年で生産する農業法人の拠点の一つが同町であり、機械などを用いた大規模栽培を実現していることなどが要因と考えられる
(3、4)。
熊本県で注目すべき産地は、八代市である。同市は全国有数のトマト産地だが、ブロッコリーなどの露地野菜も、い草からの転換品目として、重点推進普及拡大品目と位置付けて生産振興を図るとともに、集出荷施設や製氷施設などを整備することにより品質向上や省力化に取り組むことで面積拡大を図ってきた
(5~7)。なお、2020年農林業センサスでは、八代市の作付面積は「Ⅹ(個人又は法人その他の団体に関する秘密を保護するため、統計数値を公表しないもの。)」となっているが、熊本県が行う「熊本県主要野菜生産状況調査」によると、令和5(2023)年度の同市の作付面積は850ヘクタールとなっており、同調査による県作付面積920ヘクタールの約92%を占める大産地となっている
(8)。
(3)市場流通
ブロッコリーの市場流通については、中央卸売市場の中で取扱量が最大である東京都中央卸売市場(以下「都中央」という)を中心に分析する。図5によると、入荷量は増加傾向にあったが、令和6年には出荷量の減少により大幅に落ち込んだ。単価は平成30年以降下落していたが、令和4年以降上昇に転じ、6年には1キログラム当たり500円を超えるまでとなった。
都中央の主要産地は、6~10月は北海道や長野県、11月~翌5月は愛知県や香川県、熊本県が中心である(図6―1)。特に7~9月は、北海道と長野県で出荷量の約9割を占める寡占状態にある。
主要産地の中では北海道、長野県、香川県、長崎県、熊本県が顕著に作付面積を増加させ、入荷量は令和6年と平成22年の比較で北海道は約2.4倍、長野県は約2.9倍、香川県は約4.5倍、長崎県は約5.2倍、そして熊本県では約57倍と大きく伸びている。一方、埼玉県は平成27年頃まで市場占有率2割前後を維持していたが、近年は入荷量が減少し、主要産地が西日本へ移行しつつある。また、入荷量が減少する夏場には、北海道や長野県が高単価を記録している。なお、大阪府中央卸売市場(以下「大阪府市場」という)については、7~10月は都中央と同様に北海道と長野県が主要産地であるが、11月以降は鳥取県、徳島県、香川県、長崎県が中心となる(図6-2)。特に徳島県は、都中央への入荷量は少ないものの、大阪府市場では占有率が3割を超える主要産地である。
都中央の月推移(図7)を見ると、入荷量については11月から増加傾向が続き、夏場の8~9月に大きく減少する。単価は夏場の入荷量減少時に上昇し、11月~翌5月には下落傾向となっている。
(4)家計消費
図8によると、1人当たりの購入数量と支出金額は増加傾向にあり、特に平成30~令和元年にかけて購入数量が大幅に増加し、1600グラムを超えた。ただし、元年以降は伸び悩み、価格高騰の影響による単価上昇を受けた6年には大幅に減少した。月推移では、購入数量と支出金額は都中央の入荷量と類似しており、8~9月に減少、11月~翌3月に増加する傾向がある(図9)。
ブロッコリーは、野菜としての人気はトマトやたまねぎに比べ劣るものの、調理の簡便さや栄養価の高さが評価されている。タキイ種苗株式会社が毎年行っている「野菜に関する調査」
(9)の2025(令和7)年の調査では「子どもの好きな野菜」で5位にランクインしたものの、「大人の好きな野菜」では10位以内に入らず、家庭での人気は限定的である。一方、日本農業新聞が実施した同年の「農畜産物トレンド調査」では、野菜部門で1位となり、流通・販売関係者からの期待が高まっている
(10)。
なお、ブロッコリーの家計消費については、生鮮野菜としてのブロッコリーだけでなく、冷凍野菜としてのブロッコリーも含まれている。また、食の簡便化により、家庭内でも冷凍食品が多く利用されるようになったことから、小売店で販売される家庭用の単品冷凍野菜としての需要が増加しているといわれている
(2)。つまり、後述する輸入(冷凍ブロッコリー)の一部についても、家計消費として利用されている点を留意する必要がある。輸入の詳細については、次の(5)を参照いただきたい。
(5)輸入
ブロッコリーの輸入については、生鮮ブロッコリーと冷凍ブロッコリーのデータが利用可能だが、近年は冷凍ブロッコリー(以下「冷凍物」という)が輸入量の約98%と大部分を占めているため(令和6年)、冷凍物のデータを基に分析を行う。
冷凍物の輸入量は右肩上がりに増加しており、平成22年の約3万トンから令和6年には約8万5000トンに達した(図10)。これは、国内出荷量の約半分に相当するなど、国産と並んでブロッコリーの国内供給の大きな柱となっている。増加の要因としては、1)近年の外食・中食の加工・業務用需要が高まったこと、2)在宅勤務など在宅時間の増加に伴い家庭内調理の機会が増えたことで、利便性の高い冷凍品の需要が高まったこと―などがあるといわれている
(11)。主要輸入先は中国とエクアドルであり、両国で輸入量の9割以上を占めている(6年実績:中国産:58%、エクアドル産:40%)。ただし、エクアドル産は円安やコスト増の影響で令和5年以降輸入量が減少傾向にある。輸入単価は中国産が200円台、エクアドル産が300円台で、いずれも上昇傾向にあり、国産品の市場単価との差が縮小している。
特に、中国産品との価格差は大きく縮小する傾向にあり、国産品への切り替えのチャンスである一方で、加工が容易で保存性の高い冷凍品を求める実需者も多く、冷凍加工コストを上乗せした価格を比較すると、国産品と輸入品の価格差は依然として大きいといわれている
(2)。
月推移については、輸入量・輸入単価ともに安定しており、輸入量は毎月5000~7000トン、輸入単価は1キログラム当たり250円前後で推移している(図11)。
(6)加工・業務用
ブロッコリーは、加工・業務用についても需要が大きいといわれているが、現時点(令和7年)では指定野菜でないことから、加工・業務用向けの出荷量に関する調査は実施されておらず、また、需要についても推計が行われていないことから十分な分析に至っていない。しかし、輸入情勢や各種調査などを踏まえると、確実に加工・業務用としての需要が伸びていると思われる
(2、12、13)。しかも、近年は加工・業務用においても国産品のニーズが高まっており、生産技術や機械の開発なども進んでいることから
(14、15)、加工・業務用原料としてのブロッコリーの生産も選択肢の一つとなりつつある。