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産地紹介 野菜情報 2024年11月号

熊本県 JAやつしろ ~選ばれる産地を目指して!JAやつしろの氷冷箱詰めの新鮮ブロッコリー~

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八代地域農業協同組合 営農部 北部総合営農センター 松田 圭吾
写真

1 産地の概要

 八代地域農業協同組合(以下「JAやつしろ」という)は、熊本県八代市、氷川町を所管しており、県のやや南で八代海と九州山地との間に位置している。西側に、東西に流域を持つ球磨(くま)川と氷川(ひかわ)などからの土砂の堆積によりできた三角州を基部として、江戸時代初頭からの干拓により形成された平野部と、東側に九州山地の脊梁(せきりょう)地帯を形成する中山間部からなっている(図1)。

タイトル: p037b
 
 平野部では、水稲、いぐさ、野菜、花きなどの多彩な作物を生産しており、これらを組み合わせた複合経営や、施設野菜(トマト、ミニトマト、メロン、いちご)の専作経営が行われ、「はちべえトマト」で知られる冬春トマトは、日本一の産地となっている。近年は、ブロッコリーなどの露地野菜の作付面積が年々増加しており、また、飼料用稲は、農作業受託組織の活用により県下有数の作付面積となっている。中山間部では、立地条件を活かし、しょうが、(ばん)(ぺい)()、茶などの産地が形成されている。
 JAやつしろの露地野菜類の生産規模は、栽培面積726ヘクタール、栽培戸数は745戸、販売金額36億9118万円となっている(図2)。うち、令和5年度産のブロッコリーは、栽培面積317ヘクタール、栽培戸数166戸、出荷数量2802トン、販売金額11億4974万円となっている。その他の品目においても、ブロッコリーを筆頭に計8品目がそれぞれ販売高1億円を超えている。

タイトル: p038

2 八代地域における露地野菜の特徴

 八代地域は、農地の大半を干拓地が占め、水田区画の整備が進められてきた中、基幹作物であった「い草」の減少に伴い、施設野菜、露地野菜の導入を図り、地域を挙げて大転換を成し遂げた農業地帯である。裏作として水稲を栽培することから、水田化と畑地化を繰り返す圃場(ほじょう)環境であるため、野菜栽培の条件として、「高うね(30センチメートル)」が必須であり、排水対策の整備も併せて求められる。一見して条件不利地に見える野菜の栽培環境も、栽培終了後に水田化されることで、連作障害の回避にも繋がっており、「露地野菜+水稲」「施設野菜+水稲」「い草+水稲」と多様な栽培体系がある。ただし、一部地域を除いて「重粘土質(注1)」であるため、うね立て時の土壌条件は最も重要であり、長期平準出荷を実現するための「作型の分散」「適期品種選定」など、産地化を図る上での苦労は絶えないが、干ばつ時の水分供給条件は恵まれている(注2)
 現在は、「JAやつしろ第2次露地野菜振興計画(以下「2次振興計画」という)」を基軸として、需要動向を見据えたさまざまな展開を試みている。

(注1)重粘土質の特徴として、降雨が続くと土壌が固まり通気性と排水が悪くなる。
(注2)干ばつ時は、八代の特徴でもある用水などが整備されているため、干ばつの影響は受けにくい。

3 ブロッコリー栽培の拡大と出荷の平準化

 露地野菜産地化の一貫で「重点推進普及拡大品目」に位置付けたブロッコリーは、その鮮度を保つ氷冷箱詰出荷(発砲スチロール箱に氷を詰めて出荷)を行うため、製氷機第1号機を平成22年度に導入した(写真1、2)。これを機に、作付面積は約60ヘクタールから徐々に拡大し、25年度の第2号機の製氷機増設を機についに100ヘクタールを超え、27年度には、「JAやつしろブロッコリー部会」を設立し、さらなる品位(注3)の統一と規模拡大を図ったことなどにより、200ヘクタールを超えた(図3)。28年度に製氷機3号機を増設したことにより、さらに規模拡大し、30年度は300ヘクタールを超えた。

(注3)品質により合格と格外に区分したもの

タイトル: p039
 
 露地野菜を規模拡大する上で、そのけん引役となっているブロッコリーの規模拡大は、製氷機導入などにより順調に成長していたが、令和3年、出荷数量および販売金額が減少に転じた(図4)。
 これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響などもあったものの、一方で、ブロッコリーの急激な作付面積拡大による出荷量の増加により、既存の集出荷および予冷施設のみでは対応できなくなってきていた。これまでの製氷能力では対応しきれず、当日に氷詰め出来なかったブロッコリーを、「総合青果物センター」の予冷庫でストックしていたが、品質管理が困難で品質の低下が見られたため、新たに集出荷施設および予冷施設・製氷施設を整備する必要が生じた。
 
タイトル: p040a
 
 そこで令和3年、集荷体制を整えるべく、5カ所あった集荷所を2カ所(北部総合青果物センターおよび総合青果物センター)に集約した(写真3、4)。同年10月に北部総合青果物センターを稼動させ、氷詰め作業をすべて自動化し(製氷能力1日当たり約30トン)、出荷作業を省力化した。この製氷施設の整備前までは、手作業での氷詰めをしており、生産者も作業に入ることがあったが、全自動化した現在は、生産者は圃場の管理や出荷準備作業に専念できる環境が確保された。このような取り組みにより、適期の収穫や集出荷を安定させることで、品質の安定化・収穫量の向上を図っている。
 
タイトル: p040b
 
 全国的にも課題となっている「出荷の平準化」については、さまざまな条件が異なるため、細やかな「品種構成」と「栽培または作付け時期・適期」の見極めは必須であると考えられ、JAやつしろでは、八代地域の「気象条件」+「土壌条件」をうまくマッチングさせて、この安定出荷を確立しつつある。10月~翌6月までの9カ月間と収穫期間が長いことによって、1シーズン2作型の作付けが可能となっている。秋冬~春作までの植替えを伴う長期栽培および、長期出荷を継続するために多数の品種を導入し、主要10品種を中心に、試作を含めれば約35品種の作付けを行っている(図5)。特に、品種の切り替わりとなる「12月下旬~1月上旬どり」「1月下旬~2月上旬どり」「3月どり」が安定供給の課題となっており、品種選定に重点を置きながら、消費地に対する「定時・定量」供給を念頭に、産地の拡大を図っている。
 
タイトル: p041
 

4 販売戦略

 令和8年度からブロッコリーが指定野菜に追加されることとなり、国の支援が強化されるため、生産者の一層の経営安定が期待され、産地の生産意欲も上がっている。
 一方で、当JAも産地として指定を受けるために必要な面積要件などを満たせるよう、現在の生産規模の維持・拡大に努めるほか、政令改正の手続きなどの動向にも注視したい。近年、国産ブロッコリーの需要が高まり、特に冷凍食品やサラダ用としての利用が増えていることから、収益性の向上や安定供給を目指しつつ、「加工・業務用」に取り組み、実需者とのマッチングを図りたい。
 JAやつしろでは、露地野菜振興の後発産地としての産地化戦略として、加工・業務用野菜需要に向けた生産販売戦略を設定し、キャベツ、レタスについては、規格や資材などさまざまな面での簡素化を進め、経営の安定と規模拡大を図ってきた。しかし、令和4年度産の夏秋時期の青果物の販売交渉の中で、取引先各社から、求められる安全性・持続可能性への対応といった「見えない価値」を客観的に見える化するため、GAP認証(注4)を取得してはどうかという話が出てきた。実際にGAP認証の取得が無ければ、契約が出来ないという取引先もあり、GAPへの取り組みが急加速で進んでいることから、令和5年度にキャベツ、レタス類で「JGAP認証」を取得した。GAPへの取り組みを拡大することで「農場運営」「食品安全」「環境保全」「労働安全」「人権の尊重」に関する取り組みを見直し、各農業経営体の改善や効率化を図るとともに、産地の信頼を高め、消費者や市場からの信頼確保に努めることを念頭に推進している。今後、ブロッコリーについても、JGAP認証の取得を目指している。
 
(注4)GAPは、Good Agricultural Practicesの頭文字をとった言葉で、一般的には「農業生産工程管理」と呼ばれている。GAPは、農業生産の各工程の実施、記録、点検、評価を行うことによる持続的な改善活動であり、食品の安全性向上、環境保全、労働安全の確保などに資するとともに、農業経営の改善や効率化につながるとされる取組。JGAPやGLOBALG.A.P.などがある。

5 今後の展開

 JAやつしろでは、今後の展開として、(1)品位・規格の平準化(2)貸切運賃などによる輸送効率向上(物流問題への対応)(3)迅速な出荷対応と正確な産地情報の発信(4)露地野菜JAやつしろブランド確立-といった取り組みを掲げている。それぞれの取り組みの詳細は表のとおり。
 
 「2次振興計画」を基に「生産基盤の拡大」と「農産物の販売力強化」「生産・流通コストの低減」を目的とし、露地野菜類の集出荷体制を、北部総合青果物センターおよび総合青果物センターの2拠点・2サテライト体制に再編したことで、(1)物流コストの低減(2)出荷ロット数確保による産地間競争力の強化(3)精度の高い出荷計画の把握・強化(4)予冷庫の有効活用-などが進展し、現在その効果が着々と現れてきている。
 また、「2次振興計画」では、激動する環境変化に対応した「持続可能な経営基盤の確立」を将来像とした取り組みを展開し、産地一体となって活力ある強い農業を目指し、環境変化に対応した農産物作りと安定供給に努め、さらなるブロッコリーの拡大と露地野菜としての産地発展と、消費者に支持される「やつしろブランド」の実現を目指している。

タイトル: p043
 

◆一言アピール◆

○やつしろの自然豊かな環境で育てた新鮮なブロッコリーは、収穫後すぐに氷詰めし出荷することで、味と栄養を最大限に保っています。
○安全・安心で環境にも人にもやさしい、持続可能なやつしろ農業の実現に取り組んでいますので、おいしいブロッコリーをぜひ安心してお召し上がりください。

◆お問い合わせ先◆

担当部署:JAやつしろ北部総合営農センター
住  所:〒869‒4202 熊本県八代市鏡町内田732‒1
電話番号:0965‒52‒0300
FAX番号:0965‒52‒3335