国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門
研究員 髙橋 徳
野菜全体の購入数量が減少する中、ブロッコリーは購入数量が伸びている数少ない品目である。特に、ブロッコリーは加工業務需要が高まっており、国産品へのニーズが高まっているものの、現状では輸入品にほぼ独占されている状況である。
本稿では、国産品によるシェア奪還を実現するための課題と生産コスト削減につながる「大型花蕾生産技術」について最新の研究成果を紹介する。
総務省が発表している家計調査(二人以上の世帯)によると、1世帯当たりの生鮮野菜全体の年間購入数量は、1998年の191.7キログラムから2008年の178.7キログラム、2018年の165.3キログラムと減少傾向にある。ほとんどの品目が減少傾向にある中で、顕著に増加している2品目がレタス(4.9キログラム → 5.6キログラム → 6.3キログラム)とブロッコリー(2.8キログラム → 3.7キログラム → 4.1キログラム)である。ブロッコリーの購入数量そのものはレタスを下回るが、20年間の増加率は46%と、レタスの29%を大きく上回っている。ブロッコリーは、食の洋風化に加え、彩りが良く、栄養価の高い緑黄色野菜として人気が高いため、今後とも安定した需要が期待されている。
国内の作付面積も増加しており、2018年の作付面積1万5400ヘクタールは、1998年の7890ヘクタールと比較してほぼ倍増しており、2008年の1万2700ヘクタールと比較しても21.3%増加している。国内で消費されるブロッコリーのうち、国産品の割合は1998年(40.6%)から2008年(68.7%)にかけては増加しているが、その後、2018年(64.9%)にかけて減少している(表1)。すなわち、2008年から2018年にかけては、国内生産量は増加しているものの、需要の増加がそれを上回っていることを意味している。特に冷凍ブロッコリーの輸入量は同10年間に約2万3000トンから約5万7000トンと2.5倍以上に増加している。その背景には、加工業務用需要の拡大が挙げられる。冷凍品は生鮮品と比較して長期保存が可能であり、価格も安定していることから、加工業務用として利便性が高い。また、すでに下処理(カット、ボイル)済みで、必要な量を解凍するだけで利用できるなど使い勝手もよい。さらに、2018年の東京都中央市場の卸売価格は国産生鮮品が1キログラム当たり410円であるのに対して、輸入冷凍品は同209円と、2倍近くの価格差がある。これらの理由から、国内の加工業務用需要に対しては国産品が利用されることはほとんどなかった。しかし、近年、消費者の食味や鮮度に対する志向性の高さから、国産品を利用したいというニーズが登場し、加工業務用ブロッコリー国産化の機運が高まっている(注1)。
成長性のあるブロッコリー加工業務用需要に対して、輸入品にほぼ独占されている現状を打開し、国産品によるシェア奪還を実現するためには、輸入品に対抗できる水準まで生産コストを下げる必要がある。本稿では、その実現に向けてわれわれの研究グループが実施した「大型花蕾生産技術」について、最新の研究成果を紹介したい(注2)。
注1:参考文献1
注2:参考文献2
産地や時期によってさまざまであるが、一般的に中心規格となる青果用ブロッコリーLサイズの花蕾径(花蕾の直径)は12~13センチメートル前後である。産地によってはそれ以上の2L、3Lサイズがある場合もあるが、15センチメートル以上のサイズとなると扱っている産地は少なく、規格外品とみなされることが多い。その一方で、成長の早い時期は花蕾径が1日で1~2センチメートル増加することもあり、収穫適期は極めて短い。さらに、ブロッコリーの花蕾肥大は揃いにくく、圃場内のサイズのばらつきが大きいため、生産者は花蕾を一つ一つ目で見て判断し、適したサイズの花蕾を選んで収穫する必要がある(選択収穫)。その時に取り残した花蕾は後日収穫することになるため、生産者は何度も同じ圃場に収穫に入らなければならず、作業効率が悪い。収穫後も、茎を決められた長さに切りそろえ、出荷箱の中に整列させて入れる必要がある。これらは全て手作業で行われるため、生産者にとって非常に大きな負担となっている。国内の主要産地で聞き取り調査を行ったところ、収穫から調製、梱包、出荷にかかる作業時間は、ブロッコリー生産にかかる総作業時間の7割以上を占める場合もあった。
このように、ブロッコリーは収穫適期が短く、成長が揃いにくいという特性を持つ作物でありながら、厳密な出荷規格が設定されているため、生産者は収穫から出荷作業に多大な労力を費やさざるを得ないのが現状である。近年の労働力不足の深刻化から、収穫から出荷作業の省力化の要望は極めて大きい。
加工業務用需要に対して国産品を導入するためには、価格が2分の1程度の輸入品に対抗できる水準まで生産コストを下げるということであり、非常に挑戦的な課題である。われわれの研究グループでは、ブロッコリーの需要の高まりを受けて、青果用規格を満たす花蕾を1株から二つ収穫する技術の開発を行い、単収増加を図ってきた。しかし、それでも収穫個数1.6~1.8倍の増加にとどまり、輸入品との価格競争力を付与するには至らなかった。加工業務用ブロッコリーの国産化のためには、2~3倍程度の増収が必要と見込まれ、既存の概念とは異なる革新的な技術開発が求められた。
そのような中で、加工業務用ブロッコリーが主に小房を切り分けたフローレット状で利用されていることに着目し、従来の青果用規格にとらわれず花蕾を大型化させることで、フローレットの増収ができるのではないかと考えた。通常、ブロッコリーは収穫適期を過ぎると、開花に向けて花蕾の締まりが失われるとともに、黄化、枯花が発生するなど、品質低下につながる危険性がある。ただし、条件次第では可販品質を保ったまま大型化する場合がある。フローレットの収量が花蕾の大きさ(投影面積)に比例すると仮定すると、青果用規格に対してx倍の増収を達成するためには、投影面積がx倍(花蕾径が√x倍)になるまで大型化させればよいことになる。すなわち、花蕾径12センチメートルで収穫する慣行栽培に対して、その√3倍である花蕾径20~21センチメートル程度まで大型化させることができれば、3倍の増収が達成できるのではないかと考えた(図1)。
そこで、大型化しても花蕾の品質が保たれる高収量品種を特定し、大型花蕾生産技術を確立することを目的として、2018年から2019年にかけて、春作と秋作をそれぞれ2回ずつ、合計4回の栽培試験を実施した。国内の早生、中生、晩生品種それぞれから3~4品種、合計10品種を用いて、慣行的な青果用規格(花蕾径12センチメートル)で収穫する対照区と、可販品質を保つ限界まで栽培期間を延長し、花蕾を大型化させてから収穫する大型区を設け、多肥(窒素成分10アール当たり40キログラム)および、やや疎植条件(株間40センチメートル、畝間160センチメートルの2条、条間60センチメートル、10アール当たり3125株)で栽培を行った。それぞれの区で収穫した花蕾は花蕾径、頂花蕾の新鮮重(頂花蕾重)計測後、長さ5センチメートル程度のフローレットに分解し、1株から得られるフローレット状の新鮮重(フローレット重)を計測し、それぞれ10アール当たりの頂花蕾収量(キログラム)、フローレット収量(キログラム)に換算した。
試験の結果、10品種中、春作、秋作ともに、大型化によって安定的に高収量となった品種は「グランドーム」(注3)であり、大型化によって頂花蕾収量は10アール当たり約3トン、フローレット収量は同約2トンに達することが明らかとなった(表2)。試験結果の概要について、あまり高収量とならなかった品種「ピクセル」(注3)と比較しながら以下に述べる。
注3:株式会社サカタのタネのブロッコリー品種
この2品種では、栽培日数を春作で約5~6日、秋作で約9~17日延長させることで、花蕾径が約20センチメートルに達し、頂花蕾重、フローレット重、それぞれの収量は大幅に増加した(表2、図2)。これらには大きな品種間差があり、常に「グランドーム」の方が高い値を示した。この2品種の地上部形態を比較すると、地上部全体の新鮮重は「グランドーム」の方が大きかった(図3)。これは、早生品種の「ピクセル」と中晩生品種の「グランドーム」の早晩性を反映したもので、栽培期間の長い「グランドーム」の方が大きな株になりやすかったと考えられる。続いて、大型化に伴って、両品種とも地上部に占める頂花蕾の割合が増加し、「ピクセル」では約19%から約25%に、「グランドーム」では約17%から約27%になった。さらに、頂花蕾重のうちフローレット重の割合は、対照区では52~60%である一方、大型区では62~74%となり、フローレットの割合も大型化によって増加していた(表2)。すなわち、大型化によって収穫指数(植物体地上部に占める収穫物の割合)が向上しており、花蕾の大型化はブロッコリーの生産効率を高めるといえる。また、側枝発生の多い「ピクセル」では、大型化によって側枝の割合も増加している一方、側枝発生の少ない「グランドーム」では、大型化しても側枝の割合は低く保たれ、光合成産物が頂花蕾に集中しやすい形態をしていた(図3)。花蕾の内部を観察すると、花蕾径12センチメートルの時点で、「ピクセル」の花序は全て表出しているが、「グランドーム」 の内部には、表出していない未熟な花序が存在していた(図4)。花蕾径が20センチメートル程度になると、どちらの品種にも内部に未熟な花序は見られなかった。大型化によるフローレット重の増加割合には品種間差が見られ、「ピクセル」では約2倍である一方、「グランドーム」では約3倍であったが(表2)、花蕾内部の観察結果から、「グランドーム」では、花蕾径12センチメートル時点で存在する未熟な花序の分だけフローレット重の増加余地が大きく、大型化による増収効果が高いと考えられた。
農水省統計によると、2018年の全国ブロッコリー平均単収は10アール当たり999キログラムであり、われわれの試験結果では花蕾径12センチメートル時の花蕾に占めるフローレット部分の割合は50~60%程度であることから、全国のフローレット換算の平均単収は10アール当たり約500~600キログラムと推定される。対照区でのフローレット収量は「ピクセル」で10アール当たり588~647キログラム、「グランドーム」で同705~802キログラムとなっており(表1)、どの値を基準とするかでその評価は大きく変わり得るが、「グランドーム」の大型化によって得られたフローレット収量(10アール当たり2トン)は、慣行的な収穫基準と比較して3倍程度の増収が達成されたと考えて差し支えないように思われる。
大型花蕾生産「技術」と表現しているが、技術の要素は適切な品種選定と栽培期間の延長であり、施肥量や防除回数などの増加は伴うかもしれないが、特別な資材や処理を伴うわけではないことからも、省力的・低コストな技術といえる。国内産地の栽植密度は10アール当たり約3000~6000株と幅があるが、本試験の10アール当たり3125株というのは比較的疎植条件であり、種苗費や育苗から定植の作業労働性についてはむしろ有利となる。詳細な経営試算は、別途、現地実証試験が必要であるが、これだけの増収が達成されていれば、仮に輸入ブロッコリーと同水準の価格で取引されたとしても、生産者にとっては採算が取れると期待される。
加工業務用途での出荷の際、いくつかの野菜品目では、鉄コンテナやプラスチックコンテナに大小のサイズが混在した状態で出荷され、重量単価での取引がされている。ブロッコリーでもまた、加工業務用途では混み玉コンテナ出荷および重量取引の実施が期待される(図5)。その場合、調製・梱包作業が省力化され、梱包資材の経費も削減されることは言うまでもないが、ブロッコリー栽培上の大きな課題であった収穫作業の改善が図れるというメリットもある。大小混み玉出荷の場合、サイズのばらつきが許容されるということであるから、適切サイズのみを収穫する「選択収穫」から、全てを1度に収穫する「一斉収穫」も可能になるためである。実際は、1度に全てを収穫してしまうと大小の振れ幅が大きいであろうから、2~3回に分けて収穫しきるのがよいであろうと思われる。それでも、同じ圃場に5~6回も入るような現状の選択収穫よりはずっと省力的になると考えられる。近年、ヤンマーアグリ株式会社からブロッコリー一斉収穫機も開発・販売されているが、サイズのばらつきが許容できる加工業務用ブロッコリーの生産とは相性が良く、省力化に向けて相乗効果が期待される。
青果物としてのブロッコリーは、花芽の粒が揃い、濃緑色でボリュームのあるドーム型の花蕾形状のものが好まれる。また、寒さにあたるなどしてアントシアンが発生し、赤く着色した花蕾は等級が落ちるか出荷不可となることから、アントシアンを発生しないという特性が重要視される。不整形花蕾や茎部に生理障害(茎空洞、かさぶた症状など)が発生したものも同様に出荷不可の原因となる。ただし、花蕾の形状や茎部の障害はフローレットに分解された時点で問題ではなくなり、アントシアンの着色は加熱によって消失する。したがって、調理済みのものとして消費者に利用される加工業務用では、青果用では規格外とみなされるこれらの生理障害さえも許容される可能性がある。そうすると、不可販品の減少による増収や、優良品種であるがアントシアン発生の危険性から作期や産地が限られていた品種の適応域が広がることも考えられる。ただし、これはあくまで実需者の受入条件次第であることに注意してほしい。
また、形状についても、青果品として好まれるようなドーム型である必要は必ずしもなく、同じ長さのフローレットに切り分けやすい扁平形状が好まれるかもしれない。洗浄やボイルといった工程での歩留まりの高さも重要になってくるであろうと思われる。栽培特性上も、一斉収穫機の利用がしやすいように、生育の揃いや、茎の長さ、コンテナ出荷しても傷つきにくい物理的強度の重要性が増すかもしれない。こういった形質を有した品種は加工業務用に特化した品種として注目される可能性がある。ただ、従来の青果用品種でも加工業務用として使用可能であり、その場合、一部の良質な花蕾を青果用に選択収穫しつつ、同じ圃場の残りの花蕾は加工業務用に一斉収穫するような併用のパターンも成立し得る。
本研究では〝やや疎植条件〟で、〝品質が保たれる限界〟を収穫基準とし、品種の大型化ポテンシャルを最大限発揮させた場合には、花蕾は20センチメートル程度まで大型化し得るということを示した。別の言い方をすれば、20センチメートル付近を限界として判断したということである。したがって、必ずしも20センチメートルでの収穫を推奨するわけではなく、実用化にあたっては、それより数センチメートル小さい状態で収穫する方が品質の点で心配が少ないと思われる。冒頭で触れた豊島氏の記事(注4)では、花蕾径15~17センチメートル前後を受入基準としているように、実需者の要望に応じても、収穫するべきサイズは変わり得る。収穫するサイズに応じて、栽植密度を増加、すなわち収穫個数を増加させることで単収の維持は可能であると考えらえる。サイズ、産地に応じて、適切な品種もまた変わってくると思われる。このように、収穫基準、栽植密度、品種については、実需者による要望と品質評価も踏まえながら、今後も慎重に検討していく必要がある。いずれにしても、従来の青果用規格である花蕾径12センチメートルにこだわらず大型化させることで、国内のブロッコリー生産量を飛躍的に高めることが可能である。さらに、混み玉コンテナ出荷、一斉収穫の実施によって収穫から出荷作業の大幅な省力化が可能となり、収穫機の導入によってさらなる省力化が期待される。これらを通じて生産コストは大幅に低下し、加工業務用ブロッコリーの国産化が進み、生産者は収益が増加し、市場には安全・安心で高品質なブロッコリーが流通するようになる。国産品を原料とした冷凍ブロッコリー生産も拡大すれば、長期保存が可能になり、端境期の解消や、さらには、外国への輸出品目としての可能性も浮上する。
このように、増収と省力化を同時に実現し得る大型花蕾生産技術は、加工業務用ブロッコリーの国産化において非常に有効な手段であると思われ、今後の普及を期待したい。
参考文献
1:横浜市場センター株式会社 豊島広之(2020年)「国産ブロッコリーのコンビニエンスストア向けサラダへの導入について」『野菜情報』197号(2020年8月号)農畜産業振興機構
2:Takahashi M. et al. (2021) Hort. J. UTD-241
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hortj/advpub/0/advpub_UTD-241/_article/-char/en