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調査・報告(野菜情報 2018年4月号)


野菜の品質保持技術

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
企画調整部 研究管理役 石川 豊

【要約】

 収穫された野菜が消費者に届くまでの品質保持技術、特に鮮度や品質の維持に重要な役割を果たす包装材料について、報告する。

1 はじめに

日本人の野菜消費量を見ると、平成28年は前年よりわずかに減少して1人1年当たり89キログラム(1日当たり約250グラム)であり、厚生労働省の「健康日本21」が推奨している1日当たりの野菜の目標摂取量350グラムに比べて非常に少ないといえる。さらに、世代別の野菜摂取量を見ると、すべての年代で摂取目標量に達しておらず、特に20歳代~40歳代で不足が目立っている(注1)

一方で、FAOの報告によると、農業生産から消費に至るフードサプライチェーンの中で、世界全体で人の消費向けに生産された食料の約3分の1に当たる13億トンの食料が毎年廃棄されている。わが国の流通時における野菜の減耗量に限って見ても、全体の約10%に当たる150万トンが毎年消費者の口に入ることなく廃棄されている(注2

野菜の消費を増やし、廃棄ロスを減らしていくためには、より低コストで高品質な野菜を消費者に提供する必要があり、そのためには輸送・貯蔵中の品質保持技術は必要不可欠なものと言える。その中でも呼吸や蒸散といった生理活性作用による品質低下および振動・衝撃による損傷に対する対策が特に重要であることから、本稿では特に「包装」というツールを使った技術を中心に紹介したい。

注1:参考文献(1)

注2:参考文献(2)

2 開封系包装

小袋にほうれんそうやこまつな、ねぎなど葉菜類を入れてそのまま封をしない開口包装や、レタスをハンカチで包むように四つの端を上部で合わせてねじるハンカチ包装、横に大きな穴を開けた袋の口をテープで 止めて巾着包装し、きゅうり、ピーマン、にんじんなどが蒸れないようにした有孔袋などが開封系包装(注3)である。これは密封していないため、酸素濃度を下げて呼吸を抑制するMA Modified Atmosphere による品質保持効果を期待することは難しいが、蒸散によるしおれ、目減り、乾燥などを防ぐ効果は十分期待できる。一般の野菜はこのような包装で店頭に並んでいることが多い。

(1)開口包装

防曇性延伸ポリプロピレン(OPP)を使った開口包装は、呼吸量の多いほうれんそうやこまつななど葉菜類の包装に最も一般的に見られる包装形態である(写真1(注4。ここで使われているOPPフィルムは透明で安価、さらに袋詰めや自動包装などの作業性に適し、しわにもなりにくいなどの特徴がある。防曇性フィルムとは、結露を防止するために、フィルム内面に非イオン系界面活性剤(グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなど)で表面処理を施すなどして、防曇性を持たせたフィルムであり、そのために野菜の包装フィルムの内面に結露が付着することがない。

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(2)ハンカチ包装

ハンカチで包むように、物を載せて四つの端を上部で合わせてねじる包装形態がハンカチ包装である。密封されていないため一定の通気性があり、蒸れ防止に役立っている。昭和40年代からセロファンを用いたレタスのハンカチ包装が広く使われるようになった。その後、さまざまなフィルム、包装形態が利用されるようになり、現在では延伸ポリスチレン(OPS)を用いたレタスのハンカチ包装が行われている(写真2)(注5

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OPSは、透明度に優れ、印刷適性が良いこと、また機械による自動包装での取り扱いが容易なことから採用されることが多い。ハンカチ包装することにより、①蒸散によるしおれ、乾燥、目減り防止、②輸送中の衝撃や、雑菌による汚染、段ボール内で密着したレタス同士の連鎖的な腐敗の防止などが可能である。さらに、OPSは、青果物包装に使われることの多い低密度ポリエチレン(LDPE)やOPPなどのフィルムに比べて水蒸気透過度が大きいという特徴があるため、包装内の結露対策には有効であるといえる。その他のメリットとしては、収穫後の青果物の鮮度保持に有効な真空冷却方式の予冷処理を行う際に、袋の密着部分付近に隙間があるため、包装後でも真空処理を行うことができることや、フィルムに光沢があることから外観を良くする効果があり、印刷適性が良いので商品名や産地を印刷することができることなどがある。

(3)有孔袋

包装袋や包装容器に少し大きめの孔を開ける包装形態である。比較的呼吸・蒸散の少ないきゅうり、ピーマンにんじんなどの果菜類や根菜類ではOPPの有孔袋を用いたり、ミニトマトではOPSの有孔容器などが使われることが多い。有孔袋では孔の数は袋当たり24,6個というようにいくつかのタイプのものが用意されており、青果物の種類や量に応じて適当なものを選択することができる。

注3:参考文献(3)

注4:参考文献(4)

注5:参考文献(4)

3 MA (Modified Atmosphere)包装

青果物の呼吸を左右する要因には、温度、湿度、ガス環境、損傷、振動などさまざまなものがあるが、品質保持のための呼吸抑制方法の一つとして、MA Modified Atmosphere(注6)包装がある。これは、青果物自身の呼吸による酸素消費・二酸化炭素排出とフィルムのガス透過性をバランスさせて、包装内を青果物の保存に適した低酸素・高二酸化炭素の雰囲気にする方法である。このようなガス環境により、青果物の呼吸が抑制されることで、糖などの成分の消耗を抑えることができ、品質低下が抑えられることになる。ここで重要なのは、青果物の呼吸に合わせて、それとバランスするガス透過性を持つフィルムを選択することである。

しかし、一般的に青果物用として使用されるプラスチックフィルムは、材質や厚さ、ガス透過性などが限られてしまうため、それぞれの青果物の呼吸量にフィルムの特性をうまく対応させることが難しく、また、流通環境の温度変化が、青果物の呼吸量と、包装フィルムのガス透過性に大きく影響するため、一般にMA包装を行うことは簡単ではない。青果物の呼吸量に対してプラスチックフィルムのガス透過性が不足すると、著しく酸素濃度が低下し、無気呼吸によりアセトアルデヒドやエタノールなどが発生して異臭を発生させたり、品質劣化を引き起こしたりすることにもなる。反対に、ガス透過性が高すぎる場合には、鮮度保持効果が期待できなくなることから、実際の流通現場におけるMA包装の利用は限られてきた。

注6:参考文献(5)(6)

(1)微細孔フィルム

そこで、青果物の呼吸に合わせて必要なガス透過性をフィルムに与える方法として、微細孔フィルムが開発された(写真3)。微細孔フィルムは、ベースフィルムのガス透過性に加えて、フィルムに開けた孔の大きさや数などにより包装袋全体のガス透過性を調整するものであり、現在市販されているえだまめなどの野菜に利用されているフィルムには、さまざまな孔の形状などのものがある。代表的なものは、直径20100マイクロミリの微細孔を1平方ミリ当たり101000個開けたもので、孔の大きさと数をもとにガス透過量をコントロールできる。微細孔フィルムを用いた包装による鮮度保持効果は、ほうれんそう、ブロッコリー、梅などにおいて、鮮度保持効果が優れていることが報告されている。

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(2)微細孔包装(パーシャルシール包装)

微細孔フィルムではあらかじめフィルム表面に加工する必要があることから価格が高くなってしまうなどの問題が指摘され、実際に使用できる対象作物は、呼吸量が多く、鮮度低下が早い、さらに高価格な作物に限定されているというのが現状である。そこで開発されたのが、微細孔を開けて袋のガス透過性を調節するといった基本的な機能はそのままにして、従来とは全く異なる安価で取り扱い易い微細孔包装(パーシャルシール包装)である。この新しい微細孔フィルムを使うことにより、にらや葉ねぎ、なばななどで鮮度保持効果が確認されている。特ににらで多く利用されている。

パーシャルシール包装とは、青果物をフィルムで連続して包装する際に使われる横型ピロー包装機のセンターシールローラーの表面形状を変えることによって、センターシール部に微細な空隙を作り、袋のガス透過性を調整する方法である(写真4)。包装機のセンターシールローラーの一方を平らに、もう一方は凹凸をつけた歯車状とすることで、凸部では加熱によりヒートシールされるが、凹部はフィルムに非接触であるためシールされずに通過するためこの部分が微細孔として適度な通気を保つ仕組みである(写真5)。

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(3)2種類のフィルムを貼り合わせた包装袋

透明性に優れ、見栄えの良いポリプロピレンフィルム(PP)がほとんどの農産物に使用されているが、ガス透過性が低すぎる。一方、ガス透過性が高いという特性を持つ安価なポリエチレンフィルム(PE)は透明性が劣るという欠点がある。そこで、これら2種類のフィルムを貼り合わせることにより、両者の長所を取り入れた鮮度保持効果を持つ新しい包装袋が開発され、市販されている。PEの面積を増やすと酸素濃度を高めることができ、PEの厚さを増すと酸素濃度を低くすることができる(注7

注7:参考文献(7)

4  緩衝包装

振動・衝撃・圧縮などから商品を守るために、箱の耐衝撃性、緩衝・固定、箱の圧縮強度、防湿性、密封性などが必要となる。このような要因から商品を保護するものに緩衝包装(注8)がある。青果物用の緩衝材には、発泡フィルム・シート、発泡ネット、発泡バラ緩衝材、パルプモールド成型資材、各種エアー緩衝材などがあるが、多くが果実用に使われている。

野菜の品質保持のための緩衝包装資材として近年各種いちご容器が開発されているので紹介する。いちご用のパッケージは、国内では通常2段積みで輸送されることが多いが、少し高価なものになると平積みになり、さらに高級なものはホールトレーに並べて出荷されるというのが一般的である。近年では高級品、海外輸出を視野にさまざまな形態の容器が開発されている。

上フタと下フタの一辺が連結された二枚貝のような形状で、容器の一部で果柄をはさんで把持する構造によって果実に触れるものがない状態で包装できる容器が開発されている(写真6)(注9)。容器は、果柄把持部を下にして自立し、果実硬度の高い果底部で自重を支える姿勢となる。容器は、サイズや容器質量の違う型と型の2種類がある(表)。

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容器の外装はPET(注10)を素材とし、同素材により容器内部に柱構造を作った。容器の内側にはいちごの果実形に成型されたPEを張り、PETの柱でPEフィルムを支えることでいちごを宙吊りにすることができる。容器は上下に分かれており、重ね積みされた際に PET製の柱構造により容器全体の強度が確保される仕組みである(写真7)(注11

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フィルムとフィルムの間にいちごを入れて運ぶというもので、例えば引っ越しなどの際に精密機器をフィルム間にはさみ込んで宙に浮かせるような形で輸送する容器があるが、これを応用したようなものとなる(図)(注11。この容器を使って例えば福岡県の久留米から東京まで輸送した場合、パック詰めでは輸送中に中身が動いて傷んでしまうのに対し、中身が整列したままで輸送できるので劣化を防ぐことができる。久留米からタイでも同様の輸送実験を行っているが、ここでも好評であった。

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また、郵便でよく使われるレターパックという形態を利用した、500円で全国にいちごが輸送できるという容器も開発している。輸出では国内輸送と同じような包装形態にすると中身が傷んでしまうことが多いので、こうした包装形態が効果的である。ただし青果物の場合、輸送する場所や時期や商品価格によって包装形態を変えることが大切となる(注12

注8:参考文献(3)

注9:参考文献(8)

注10:polyethylene terephthalateの略。エチレングリコールとテレフタル酸から合成されるポリエステルの一種。磁気テープやフロッピーディスク、ペットボトルなどの飲料容器に利用される。

注11:参考文献(9)

注12:参考文献(10)



参考文献

(1) 農林水産省「野菜をめぐる情勢,平成30年2月」 http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/attach/pdf/index-40.pdf

(2) 農林水産省「平成28年度食料需給表,平成29年8月」 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/

(3) 横山理雄ら,『平成18年度標準技術集食品用包装容器』,特許庁,129-145(2007)

(4) 石川豊,『農産物流通技術2013』(2013)

(5) 石川豊,『食包協会報,143』15-25p(2014)

(6) 石川豊,『食品用機能性包装の新展開(シーエムシー・リサーチ)』,198-207(2015)

(7) 農研機構「研究成果情報 平成16年度」 www.naro.affrc.go.jp/org/karc/seika/kyushu_

  seika/2004/2004537.html

(8) 紺屋朋子・貝沼秀夫・藤岡修,『農業食料工学会誌,77(1)』,51∼57p(2015)

(9) 馬場紀子・江嶋亜祐子・大石高也・折野太陽・車政弘・安武正剛・宮崎良忠・樺島勝・渡邊健太郎,『福岡県農業総合試験場研究報告,31』27-31p(2012)

(10) 石川豊,『食品包装,58(5)』 ,40-44p(2014)

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