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調査・報告(野菜情報 2018年3月号)


レストランと連携したヨーロッパ野菜産地形成
~「さいたまヨーロッパ野菜研究会」の活動~

愛媛大学 社会共創学部 教授 香月 敏孝

【要約】

 さいたま市ではレストランでの需要がありながら、入手が困難だったヨーロッパ野菜の生産が拡大している。市行政がさいたま市産業創造財団を中心に、関係組織間の連携を推進してきた成果といえる。そして、この取り組みは単なる産地形成にとどまらず、地産地消とも関わって、地域における新たな食文化創造運動ともいうべき広がりを見せている。

1 はじめに

イタリア料理やフランス料理の食材として使いたいが、簡単には入手できない野菜は多い。特に、本場で修行し腕を磨いてきたレストランのシェフ達にとって、その悩みは大きい。こだわりの味を再現しようとすると輸入野菜に頼らざるをえないが、高価であるし新鮮とはいえない。そうした手に入りにくい野菜の総称がヨーロッパ野菜(写真1)である。

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それらは、通常、日本で流通している野菜にはない味、歯ごたえ、形状、色彩などに特長をもった個性的で新奇な野菜ばかりである。

こうした中、さいたま市では、地元産のヨーロッパ野菜を使った料理を提供するレストランが増えている。行政の支援を得ながら、生産者、流通業者、レストラン、種苗会社などが連携して、50品目以上ものヨーロッパ野菜の安定的な供給体制を作り上げたのである。本稿では、こうしたシステム構築の経過をたどりながら、その効果について考えてみたい。

2 ヨーロッパ野菜産地形成の背景と特徴

ヨーロッパ野菜の普及をめざす取り組みは全国各地で展開しているが、その中でも規模が大きく、先進的な活動を行っているのが、さいたま市である。その中心となっている組織が「さいたまヨーロッパ野菜研究会」(2013年4月設立、事務局:さいたま市産業創造財団)である。さいたま市の特徴は以下のようになる。

東京都心から20~35キロメートル圏に位置する埼玉県の県庁所在地さいたま市は、人口129万人の政令指定都市である。岩槻市(現・岩槻区)を組み込んで、現在の市域が形成された2005年には118万人であるから、その後も人口増加が続いている。東京通勤へのベッドタウンとして性格は強いものの、なおもって鉄道駅から離れた西区、見沼区、岩槻区など、場所によっては、ややまとまった農地が残存し、住宅地の中にも小規模な農地が点在している。こうした地理的条件を生かして、農業者は近郊野菜作などを行って、卸売市場、農産物直売所、スーパーなどへ多彩なルートを使った販売対応を行っている。

一方で、さいたま市の食料消費で特徴的なのは、全国の他の都市と比べてパスタ、チーズ、ワインの世帯消費量が多く、洋食などの外食に対する支出額も多いことである(表1)。さいたま市民は西洋料理に対するこうせいが強いのである。そうした点を反映して、市内には市街地のビル街のみならず、住宅地の一角にもイタリアンレストランやフレンチレストランを見かけることができる。

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これらの点は、さいたま市がヨーロッパ野菜を基軸にした地産地消の取り組みの可能性が大きいことを示している。

さて、さいたま市におけるヨーロッパ野菜産地の形成過程を模式的に示せば図1のようになる。まず、レストランと種苗会社が連携し、まだヨーロッパ野菜の生産には至らない構想段階から始まっている。次いで生産者を巻き込みようやく生産が開始されるが、この段階では安定的な物流ルートが整備されておらず、販売に苦戦している。その後、連携企業として流通業者が加わることで、生産・流通拡大段階へと進むことができた。

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そしてこれらの3段階のいずれもで、さいたま市産業創造財団を中心とする市行政の支援が継続して実施されていることが注目される。

詳しい産地形成過程については、後述するが、かかる過程において重要な点は、同財団が中小企業支援事業として、これら関係組織の連携のつなぎ役となっている点である。野菜生産農家に対する支援もそうしたスタンスの一環として行われている。従来、行政による農業支援は多数の農家を対象に技術普及・改善を中心として行われてきた傾向が強いが、ここでの支援は特定少数の先進的な農業者を対象に、財務・会計をめぐる農業経営手法の改善、法人の設立を含むマーケティング対応を中心に行われている。

こうした産地形成過程に深く市行政が関与してきたことから、これらの取り組みは単なる産地形成にとどまらず、地産地消とも関わって地域における新たな食文化創造運動とそれに伴う地域活性化への潮流を形作っていくことになる。

3 ヨーロッパ野菜研究会の活動経過

(1)構想段階から研究会設立まで

ヨーロッパ野菜研究会の活動経過を表2で見てみる。研究会が設立される以前の構想段階では、さいたま市見沼区に本拠を置く「トキタ種苗株式会社」(以下「トキタ種苗」という)とさいたま市内でイタリアンレストラン4店舗を経営する「株式会社ノースコーポレーション」(以下「ノースコーポレーション」という)とが連携している。

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トキタ種苗では、2008年にイタリアに子会社を設立して、ヨーロッパ野菜の種子を導入し、日本の風土に合う品種の育成・改良に着手していた。一方で、ノースコーポレーションでは、本場のヨーロッパ野菜を日本で作ってくれる農家を探していたが、ヨーロッパとの気象・風土条件が異なることから、対応してくれる農家はほとんどいなかった。

そうした状況の下、トキタ種苗の取り組みを知ったノースコーポレーションが、連携を申し出て、一緒にヨーロッパ野菜の栽培にチャレンジしてくれる農家を探す活動に発展する。やがて、この取り組みに「さいたま市産業創造財団」が加わったことから、行政を交えた組織的な対応へと転換していった。

さいたま市産業創造財団は、さいたま市が中小企業、創業者をサポートするため設置した中小企業支援センターである。このため、市内で活動している中小企業としてのトキタ種苗、ノースコーポレーションの新規事業を支援することは、本来業務といえる。しかし、農業分野での中小企業支援については、多くの経験がなかったことから、同財団にとって、野菜栽培を行ってくれる農業生産者を巻き込むという新たな試みが必要となった。

準備、調整期間を経て、さいたま市産業創造財団を通じた、さいたま市の支援が具体化するのは2013年のことである。同年1月に開催されたイタリア野菜の勉強会には、市農政部局を通じて農業者にも参加してもらい、試作用の種を配布して、栽培を促した。

そうした取り組みを経て同年4月に、さいたま市産業創造財団を事務局とする、さいたまヨーロッパ野菜研究会が設立されている。同研究会の規約によれば、「本会は、市内の飲食関連企業のニーズに基づいたさいたま市内産ヨーロッパ野菜の生産および供給体制の構築を目指すとともに、飲食店、市内生産者および流通業者による事業化を研究することを目的とする」とある。しかしこの段階では、ヨーロッパ野菜の栽培を試みた農家はおらず、研究会の設立に農業者は加わっていない。

作ってくれさえすれば、レストランが買い上げてくれるという確実なニーズはあるものの農業者の反応はきわめて鈍かったのである。研究会としては、この反省を踏まえて、他地域で先行しているヨーロッパ野菜生産の実態を把握することとし、新潟県の「燕三条イタリア野菜研究会」を訪問した。そこでは若手農業者が生産を担当していることから、さいたまでも若手農業者に呼びかけることにした。やはり、新たな品目への挑戦は、ともすれば保守的になりがちな中高齢者層よりも、進取の気性に富んだ青年層にゆだねるべきと判断したからである。

(2)生産初期段階 

青年農業者にヨーロッパ野菜を栽培してもらうために、ターゲットにしたのが岩槻4Hクラブ(注)である。表3に示したように、岩槻区はさいたま市の中で、農業的色彩を残した地域であり、野菜作を中心に専業的農業者が多く存在し、若手農業者も比較的まとまっている状況に注目したのである。4Hクラブとは青年農業者の組織であり、農業技術の向上のほか、懇親もかねて祭りなどの地域活動へも参加しているグループである。

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トキタ種苗は、改めて4Hクラブ会員向けに、ヨーロッパ野菜の栽培講習会を開催した。この時に参加した農業者は8人ほどであったが、そのうち4人がヨーロッパ野菜生産者となった。10品目ほどを試作することなったが、それぞれの生産者の状況にあわせて、1~2アールとわずかの面積や比較的多めの10アールから始める生産者もいた。2013年の6月のことである。11月に収穫にこぎつけたのであるが、初めての栽培だったため、十分な作柄とはならなかった。しかし、生産者はいずれもが、野菜生産のプロであるため栽培技術上の問題は、経験を積むうちに克服できる自信を持ったという。

むしろ問題となったのは、栽培上のロスやこれからのニーズ増大に備えて、多めの作付けを行った場合に、果たして売り切ることができるかという不安だった。トキタ種苗は、ヨーロッパ野菜の消費拡大を目指して、生産された品目を買い取って展示用として活用していた。また、研究会としては当初、販売に協力してくれる企業として青果仲卸業者に期待していたが、飲食店に配送するにあたって、まとまった量が確保できないため十分な対応が行えなかった。

注:4Hとは、農業の改良と生活の改善に役立つ腕(Hands)を磨き、科学的に物を考えることのできる頭(Head)の訓練をし、誠実で友情に富む心(Heart)を培い、楽しく暮らし、元気で働くための健康(Health)を増進するという、4つの信条の頭文字をとっている。

(3)生産・流通拡大段階

そもそもこの研究会は、ヨーロッパ野菜を食材として利用したいというレストランのニーズに応えるために設立された組織である。その際に必要なのは、飲食店が日々使用する少量ずつの多品目野菜を店舗に、こまめに届ける物流システムの構築であった。こうして、野菜生産者とレストランをつなぐ流通を担当する中間組織の整備が、次の課題となった。

そこで研究会が注目したのが、「関東食糧株式会社」(以下「関東食糧」という)(本社:埼玉県桶川市)である。同社は、レストラン向けに食材(加工・冷凍食品など)、調味料などを販売・配送する業務用食品卸業を主たる業務としていた。それまで生鮮野菜の取り扱いはなかった同社に、レストランまでの配送を担当してもらうよう交渉し、協力を得ることができたのである。

日々、飲食店が発注する乾物や酒類などと一緒に、ヨーロッパ野菜を届けてもらうという発想であり、レストラン側もその他の食材などと一緒に発注をかけることが可能である。関東食糧にとってもヨーロッパ野菜を取り扱うことで、業務分野の拡大と他社との差別化が可能となったといえる。同社は、その後、系列会社を置き鮮魚の取り扱いも開始してさらなる業務拡大を図っている。

こうした物流システムの構築によって、ヨーロッパ野菜の生産と流通は大きく拡大した。関東食糧は、現在では、埼玉県内で1000店にも及ぶ飲食店にヨーロッパ野菜の配送を行っている。その後、県外向けの出荷も増加したことから、関東食糧以外の物流企業も10社ほどが配送を担当している。

一方で、ヨーロッパ野菜の生産については、2013年当時の4戸では注文に対応できないことから、近隣の青年農業者に仲間に入るように呼びかけ、2014年には7戸に増加。2016年までには、自ら参加したいと申し出てくれた農家も加えて11戸までになった。

いうまでもなく、レストランのメニューに沿って食材として利用される品目は、数カ月にわたって途切れることなく安定的に供給される必要がある。このため、生産者側では、品目ごとにどの程度の需要があるのかという見込み量の把握を基礎に、それぞれ品目ごとに生産分担を行い、長期に安定して出荷できる作付計画を立てる必要があった。これに加えて、膨大な売り立て伝票の整理といった、生産者個々では十分に対応できない業務を実施するための販売組織を設立する必要性も強く意識するようになっていく。

このことが、2016年の農事組合法人「フェンネル」の設立につながっていく。

(4)産地形成を通じた行政支援の実態

この間、さいたま市産業創造財団を中心とする市行政の支援が継続して実施されている。主な支援事業を示したのが表4である。

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一連の支援事業は、研究会事務局の財団を中心に、関係組織間の連携を強化させる取り組みと、市民への広報活動を含めヨーロッパ野菜の消費拡大を図る活動とが一体となって実施されている。

2013年にヨーロッパ野菜は地域産業資源(中小企業地域資源活用促進法に基づく認可)に指定されている。このことは、その地域ならではのリソース(産業資源)としてヨーロッパ野菜が位置付けられ、それをテコに地域振興を図っていくことを意味している。

こうして2015年の販路開拓事業では、ヨーロッパ野菜の展示会出展のほか、広報活動として「さいたま野菜のバーニャカウダ」スタンプラリーと「さいたまヨーロッパ野菜」パンフレットの作成・配布が行われている。

スタンプラリーは、参加店でさいたま市産のヨーロッパ野菜を使用したバーニャカウダを食べ応募すると、抽選で景品が当たるというものである。パンフレットは、50品目以上のヨーロッパ野菜が紹介されたカラー刷り冊子万2000部が用意された。

2016年は農商工連携・マーケティング支援事業として、展示会出展とあわせ、「サポートレストランガイド」パンフレット1万2000部が作成された。サポートレストランとは、1年を通じて、さいたまヨーロッパ野菜を使った料理を提供するレストランである。パンフレットには店舗の所在地(表5)と店舗ごとにヨーロッパ野菜を使った料理写真が掲載されている。

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4 生産者の実態と販売組織  「フェンネル」

(1)生産者像

ヨーロッパ野菜の生産は、当初、見たことも食べたこともない野菜を作るという、戸惑いの中での出発であった。種苗会社と情報交換し、仲間うちで栽培方法の研究を重ねてきて今の姿がある。

現時点でのヨーロッパ野菜の生産者は11人である。いずれも岩槻区で代々続く農家の若手後継者である。多くが農外就業の経験があるUターン就農者であり、農業以外の多彩な職業経験が新たな品目生産にも生かされているといえる。ヨーロッパ野菜の作付面積は、露地野菜を中心に春作、秋作ともあわせて4ヘクタール程度であるが、ビニールハウスでの栽培も増加している。それぞれの生産者は、以前から栽培していた野菜などの生産も継続しながら、次第にヨーロッパ野菜へ比重を移している。

さいたまヨーロッパ野菜研究会のホームページの生産者紹介にあるように、小澤さんがゴルゴ、ビーツ、カーボロネロ(黒キャベツ)、森田さんがチーマ・ディ・ラーパ、花ズッキーニ、木村さんがカリフローレ、カラフルにんじん、池田さんがラディッキオ、サボイキャベツといった品目とともに掲載されており、それぞれのメンバーが品目を分担している(写真23)。各自が以前に栽培していた野菜品目で系統的に近いヨーロッパ野菜を作りわけてきたという。

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以下、個別農家(小澤祥記さんと森田剛史さん(写真4)のプロフィールを紹介する。

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小澤祥記さん(38歳)は、ヨーロッパ野菜を勧められた時の4Hクラブ会長で、当初からヨーロッパ野菜を作っているメンバーの一人である。現在は農事組合法人「フェンネル」の代表理事である。大学卒業後に、流通や建築関係の仕事をしていたが、父親が病気となったため農業を継ぐことになった。地域のスーパーで多くの野菜品目を直売していたが、徐々にヨーロッパ野菜を拡大してきた。現在は1ヘクタールほどのじょうの半分をヨーロッパ野菜にあて多品目栽培を行い、残りは長ねぎ、なすなどの従来野菜を生産している。

ヨーロッパ野菜の作付けが増えたことから、3人のパートを雇用し、将来的にはヨーロッパ野菜農家になりたいという希望の研修生を1人入れている。

森田剛史さん(35歳)も、当初からのメンバーである。和食店で板前の経歴があり、野菜の素材としての特徴や調理方法など目利きがきく貴重な存在である。説明会で初めて、ヨーロッパ野菜を知ったが、早いペースで栽培を拡大。すでに生産の8割ほどはヨーロッパ野菜が占めている。圃場1ヘクタールとビニールハウスを使った栽培である。

それまで、年間5、6回作付けができ、比較的せまい圃場でも収入があがるこまつなが中心だった。卸売市場に出荷していたが、販売価格が伸びない悩みがあった。そんなところにヨーロッパ野菜の話があった。

現在では、秋作のチーマ・ディ・ラーパ(西洋なばな)が中心で、春作には花ズッキーニ、ファーベ(生食用サラダそらまめ)を入れている。チーマ・ディ・ラーパは、煮込む、炒めるなど用途が多く、チェーン展開している結婚式場で肉料理の添え野菜として採用されたこともあり、需要が増加している。価格は1キログラム当たり1000~1500円である。10月上旬から3月まで、ほぼ毎日収穫するが、継続的に収穫できるように、6回に分けてしゅし、品種も替えている。月1トン以上の契約があり、規模拡大のためパート3人を雇用することになった。

森田さんは、フェンネルの会計も担当していることもあり、忙しい。作付け計画は自分で立てるが、日常の栽培作業はマニュアル化してパートさんにまかせたいとしている。栽培の素人でもスマートフォン動画の作業映像をみれば、対応可能であると考えている。

(2)販売対応と農事組合法人「フェンネル」

レストラン向けヨーロッパ野菜販売は、日々、多数店舗から少量多品目の発注を受け出荷することが必要である。農協の施設を借り受けた集荷場に、収穫品目を持ち寄り、物流会社に搬送してもらっている。その際の出荷伝票の整理は当初、手作業だった。出荷量の増加でその対応が難しくなっていった。

そこで、さいたま市産業創造財団の紹介により、芝浦工業大学(大宮キャンパス)と連携し、市販のスマートフォンアプリを同大学のアドバイスをもとにカスタマイズした農業生産・販売支援ITシステムの運用を2015年春から開始することになった。これは、スマートフォンを用いて生産者の情報共有ができるシステムである。リアルタイムで各生産者の品目ごとの生産状況がわかり、これを基礎に受発注を行うシステムである。データを蓄積することで、次年度の生産・販売計画に活用することができる。こうして、ヨーロッパ野菜研究会は産官学連携の取り組みとしての性格も持つことになった。

さらに販売量が増加する中で、農事組合法人「フェンネル」を設立することになった。2016年月のことであるフェンネル(写真5)は皆が栽培に苦労したセルリー(セロリ)系の野菜で、法人の名称はそんな経験に由来している。販売組織として法人を設立することで、生産者グループの社会的信用を向上させ、より安定的な販売対応を図るのが目的である。生産者11人が組合員(全員が理事)となり10万円ずつ出資している(写真6)。

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販売金額の15%を手数料としてフェンネルの運営費にあて、うち5%程度が組合員の労務費となっている。組合員は代表のほか、会計、広報などの役割を分担して共同販売事業を実施している。

フェンネルのメンバーで検討すべき重要課題は、実需者であるレストランのニーズに応えうる作付・販売計画の策定、価格交渉などである。

ヨーロッパ野菜は販売見込み量よりも余分な作付けをしている。不作時にも欠品を出さないようにし、通常より多めの注文があった場合でも、これに応えることで、一層の信用を築くことができるという。価格は、シーズン一定で、こちらから提示することも多い。輸入価格が一応の目安となっているが、品目によっては輸入品の方が供給が安定的かもしれないが、フェンネルを通じて販売される野菜は新鮮さが売りである。

また、作付拡大に伴って過剰生産が懸念されるため、今後は加工品の開発も考えていきたいとしている。

5 おわりに

生産者とシェフたちは、年に5回ほどヨーロッパ野菜を使った料理を提供しているレストランに集まって会食しながら、情報交換を行っている。そこでは双方の視点から新しい品目導入の可能性を提案するなど活発な議論が行われている。

改めてヨーロッパ野菜をめぐる最近の状況について整理すれば、以下のようになる(前掲表2参照)。まず、2016年から「ヨーロッパ野菜料理コンテスト」が開催され、県内の若手シェフを対象とした創作料理の挑戦の場となっている。また、ヨーロッパ野菜は寿司ネタとしても利用され、和食にも合う食材として注目されている。

こうした動きと並行して、ヨーロッパ野菜は小学校の副読本で紹介されるなど、地域の農業特産物として位置付けけられている。一般市民を対象としたヨーロッパ野菜を使った料理教室の開催や小学校での給食提供も行われている。そして、このような取り組みの多くは、ヨーロッパ野菜研究会メンバーの参加と市の支援によって行われている。

こうしてヨーロッパ野菜をコンセプトとした食育を含む地産地消の動きは大きな広がりをみせており、今後ともヨーロッパ野菜の消費拡大の基調は継続するとみられる。

そしてこの活動は、さいたま市の新たな食文化創造ともいえる性格を帯びており、かかる点でも今後の展開が注目される。

(付記)

本稿のとりまとめのために実施したさいたま市での実態調査では、さいたま市産業創造財団支援・金融課(さいたまヨーロッパ野菜研究会事務局)の福田裕子氏ほか、生産者の小澤祥記氏、森田剛史氏にも対応いただき、貴重な情報を収集することができました。厚く御礼申し上げます。



参考・引用文献等

(1) (公財)さいたま市産業創造財団(2013)「食産業がさいたまを元気にする」、「ネクストステージ」№28

(2) 公益社団法人やどかりの里(2014)「ヨーロッパ野菜で『自立する農家』へ」、『大宮見沼よみさんぽ』第10号

(3) さいたまヨーロッパ野菜研究会(2017)「生産者とシェフが連携した新たな『ヨーロッパ野菜』の産地づくりについて」(パワーポイント資料)

(4) 金丸弘美(2017)「飲食店に求められる海外品種栽培で大きく飛躍―さいたまヨーロッパ野菜研究会(さいたま市)」、『地方行政』2017.7.3

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