国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業研究センター 生産体系研究領域
作業技術グループ長 深山 大介
日本における野菜の研究開発の現状について、今号では、機械化一貫体系が確立されている稲作に比べて遅れている野菜生産における機械化の現状を、機械の普及動向や技術的動向を踏まえて報告する。
平成27年の野菜産出額は2兆3916億円と米の産出額1兆4994億円を超え、農業産出額全体の27%を占めている。一方で、機械化の現状を見ると、機械化一貫体系が確立されている稲作に比べて大きく遅れている。表1は、野菜の品目別、作業別の機械化の現状を示したものである。耕うんや防除作業はほぼ全て機械化が達成されているものの、全ての作業が機械化されている品目が少なく、全体としても機械化が遅れていることが分かる。
稲作と比べて機械化が大幅に遅れている要因としては、
①品目が多くかつ品目ごとに栽培様式が異なること
②同じ品目でも地域によって栽培様式が異なる場合があること
③収穫物の価格に関わる外観品質や出荷形態に求められる要求度が高いこと
などに起因し、機械化の技術的難易度が全般的に高いことが挙げられる。本稿では、野菜用機械の普及動向や技術的動向を踏まえて、野菜用機械化の現状について報告する。
一般社団法人日本農業機械工業会(以下「日本農業機械工業会」という)作業技術部会が集計している野菜用機械の出荷額の最近の傾向を見ると、年間50~60億円で推移してきたが、平成28年は、81億円と大幅に増加している。この要因としては、水田転作で野菜作の導入が進み、移植機や収穫機などの導入が進んでいるためと考えられる。
図1は、野菜移植機の植付け方式および走行方式別の出荷台数の推移である。野菜用移植機は、中心となる葉茎菜類の移植機が1990年代から普及が進み、現在では主にねぎ類の移植とその他葉茎菜類の移植作業に利用され、出荷台数は、増加傾向になっている。
全自動移植機はセルトレーから苗の抜き取りから定植までの一連の作業が全自動で行われるのに対し、半自動型は作業者がセルトレーから苗を抜き取り、機械に供給する作業を行う。
いずれにも乗用型と歩行型があり、近年はさまざまな作付け様式への対応や農家の経営規模や作業形態にマッチした機械が登場していることなどから、販売台数は増加傾向にある。特に2015年以降の伸びが顕著であるが、内訳を見ると半自動タイプが伸びていることが分かる。半自動タイプは、全自動に比べて比較的安価で軽量であること、人が苗を供給するため苗の状態の適応範囲が広いことなどの特徴から支持されていると考えられる。また、ねぎ類用移植機の台数も増加傾向であるが、葉茎菜類用の移植機も同様に伸びている事が分かる。
野菜用収穫機は、たまねぎ、ねぎ、にんじんの収穫機が1990年代ごろから実用化され、現在に至るまで生産現場のニーズに対応しつつ発展を続けている。図2は野菜用収穫機の出荷台数の10年間の推移である。2013年までは年間1000台強の出荷台数で推移していたが、2014年以降、非常に大きく伸びている。
特にたまねぎ収穫機の伸びが大きく、この背景には水田地帯での転作作物としてたまねぎの栽培が増加していることが関連している。その他、いも類の収穫機は別に集計されているが、自走式のいも類掘取り機の年間出荷台数は300台前後で推移している。自走式のいも類掘取機は、かんしょやばれいしょ、短根にんじんなど汎用的に収穫できるタイプや加工原料収穫用のタイプなど、産地の特徴に対応した機種が実用化されており(写真1)、省力的な産地形成に貢献している。
前述の通り、野菜作の機械化は全体的に遅れているが、農林水産省は平成5年度から機械化の遅れた野菜などの分野、労働のきつさの軽減が必要な分野を対象に高性能農業機械を開発する「農業機械等緊急開発事業(以下「緊プロ事業」という)」を実施してきた。ここでは、現状で普及している主要な野菜用機械の動向に加えて、緊プロ事業で開発された機械についても紹介する。
畝立て、施肥、施薬、成形を一行程でできる畝内部分施用機が普及している。これは、畝の中心部の苗の根域となる部分だけに肥料・農薬などの資材を帯状に土壌と混和して施用することで、従来の全面全層施用に対して部分施用により資材が節約できるメリットがあり、キャベツなどの葉茎菜類から、だいこん・にんじんなどの根菜、えだまめなど、幅広く利用される技術である。
一方、緊プロ事業では野菜用の高速局所施肥機(写真2)が開発中である。これは、肥料を効果的な位置に局所施用するもので、GPSを利用した高精度の肥料操出しや簡易耕起により高速で台形畝を整形できるなどの特徴があり、傾斜圃場で作られることもあるキャベツの産地などから、実用化が強く期待されている(注1)。
注1:引用文献(1)参照。
加工・業務用野菜に求められる「定時・定量・定価格・定品質」に対応した供給体制を確立するためには、従来の野菜産地に多い小規模で集約的な生産体制では不十分であり、大規模圃場で機械化一貫体系による高能率生産が重要となる。近年市販化されたキャベツ収穫機(写真3)は、刈り取ったキャベツを機上で作業者が選別・調製して大型コンテナへ収容する収穫機であり、4~6名の作業で1日に20アールの面積のキャベツを収穫調製できる。これは手作業の2倍の能率であり、キャベツ生産の全作業時間の約3割を占める収穫調製の機械化が低コスト化と規模拡大を実現し、さらには加工・業務用キャベツの産地形成にも貢献する。
ほうれんそうについては、最近では冷凍原料用などに40センチメートル程度の大型規格が求められており、従来のように根付きの状態での収穫ではなく、地上部のみ刈り取るバラ収穫の導入が進んでいる。これに対応して、刈り幅の広い往復動刃でほうれんそうを地際で刈り取りコンテナに収容する作業形態の収穫機が実用化された。大型で油圧駆動の履帯走行式と、電動履帯走行式で歩行型のタイプがそれぞれ普及している。収穫作業時間は従来の1割まで短縮できるが(注2)、この刈り取り方式では手作業と異なり収穫物への雑草の混入が生じる場合があり、収穫物の選別作業は欠かせない。
えだまめは、収穫適期が短いことや契約栽培の定時定量出荷のニーズに応えるため、収穫機には高い作業能率とともに圃場状態が多少悪くても支障なく作業ができる機動性を備えていることが特徴である。油圧駆動の履帯走行式で乗用型のえだまめ収穫機や、トラクタ装着型のえだまめ収穫機が実用化されている。
府県産たまねぎの産地では、一般的にはミニコンテナを利用した拾い上げ収穫が行われているが(写真4)、軽作業化や規模拡大のため、大型のスチールコンテナやフレコンバッグを利用する体系を導入する事例も見られる。
注2:引用文献(2)参照。
一般的に軟弱な葉菜類は、労働時間に占める調製作業の割合が高く、中でもほうれんそうは、出荷基準に合わせた根切りおよび子葉、下葉の除去などの作業が必要で、これらの調製作業が全作業時間の6割近くを占める。
現在、緊プロ事業で開発中で、近く市販化が予定されている高能率軟弱野菜調製機(写真5)は、作業者がほうれんそうなどの軟弱野菜を1株ずつ供給するだけで下葉除去などの一連の調製を精度良く行い、既存の調製機に比べて仕上げ作業にかかる時間の削減が可能となっている。1台あたり2名の作業が可能で、調製作業の省力化も期待できる(注3)。府県産の乾燥たまねぎの根葉切り作業を省力化するたまねぎ調製装置(写真6)も同様に緊プロ事業で開発されている。この装置は、まとめて供給されたたまねぎを1玉ずつ向きを揃えて搬送しながら根切りと葉切りを行う。十分な精度とともに、従来の手作業に比べて2倍の作業能率が得られる(注4)。他にも青切りたまねぎ用の調製機や個人農家向けのものなども近年発表され、調製作業の機械化は進んでいる。
注3:引用文献(3)参照。
注4:引用文献(4)参照。
前述のキャベツ収穫機は、収容に大型コンテナ(メッシュボックスパレット)を利用するが、これにより従来の段ボール集出荷と比較すると、出荷にかかる資材費が40%程度削減できる。特に加工・業務用野菜生産で求められる低コスト化に対しては、機械化による省力化や規模拡大に加えて、流通経費の低減が重要である。
一方、大型コンテナの交換や圃場内運搬にかかる時間は、収穫作業全体の作業能率に大きく影響するため、ローダーやトラクタ装着型リフトなど運搬手段との効率的な組み作業は必須となる。さらなる省力化が求められる場合、この圃場内運搬作業の自動化が検討されることになろう。これまでにも緊プロ事業において、追従型野菜運搬車(写真7)が実用化されており、追従運搬作業でオペレータを必要としない体系が示された。今後は近年急速に進歩する自動走行技術の導入でさらに高度な運搬作業省力化の実現が期待される。
冒頭に述べたように、野菜は品目や栽培様式の多様性などの理由で作業の機械化が進まないが、そのような状況の中、機械化のポイントとなるのは汎用化技術である。前述のいも類掘取り機のようにすでに汎用的に利用されている作業機もあるが、既存機の基本構造を生かして多少の改造で他の品目にも対応させる技術の開発である。例えば、最近ではキャベツ収穫機の基本構造を利用して加工・業務用はくさいの収穫を可能とする汎用利用技術が報告され、高い注目を集めている(注5)。
注5:引用文献(5)および(6)参照。
以上のように野菜作の機械化は、稲作と比較すればまだ遅れている部分が多い。野菜作においてより広く機械化一貫体系を構築するには、機械化に適した品種や、生育がそろう栽培様式など、栽培技術面からのアプローチも重要である。
今後、水田を利用した野菜の産地づくりや、国際競争力が求められる加工・業務用野菜の産地づくりがさらに広がると予想され、野菜用機械の開発はますます重要になっていくと思われる。
引用文献
(1)千葉ら、「野菜用高速局所施肥期の開発」、農業食料工学会第76回年次大会講要、55、2017
(2)平成21年度関東東海北陸農業研究成果情報、「加工用ホウレンソウ収穫機は収穫時間を1割に短縮できる」、http://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/seika/kanto21/index.html
(3)農研機構プレスリリース「高能率軟弱野菜調製機を開発」、2017年10月17日
(4)貝沼ら、「たまねぎ調製装置の開発」、平成23年度生研センター研究報告会、1-8、2011
(5)農研機構プレスリリース「高能率キャベツ収穫機の汎用利用によるハクサイ収穫を実現」、2016年3月8日
(6)岡田邦彦、「加工・業務用野菜の品種などの研究開発」、『野菜情報』2017年12月号