札幌事務所 黒澤 和寛
【要約】
たまねぎ生産量全国一位を誇る北海道北見市にある株式会社グリーンズ北見は、冷凍加工たまねぎなどを食品メーカー、外食企業などに通年で安定供給することに成功している。世帯構成の変化などにより調理食品や外食の利用が増え、食の外部化・簡便化への指向が高まっているほか、安全やおいしさの面で国産食品に対するニーズが高い中、加工・業務用野菜需要を支える重要な存在として、今後もその役割が期待される。
国勢調査によると、平成12年と27年では、夫婦と子どもがいる世帯数の割合が32%から27%へと減少した一方、単身世帯が28%から35%、夫婦のみの世帯が19%から20%へと増加している。特に、世帯主が65歳以上の世帯は、単身世帯が23%から32%、夫婦のみの世帯が44%から58%に増加するなど、その傾向が顕著となっている。このような世帯構成の変化に伴い、1世帯当たりの平均世帯人員についても、2.67人から2.33人に減少している。
1世帯当たりの食料消費について、食料消費額に占める調理食品と外食の割合を見ると、二人以上世帯の平均では調理食品13%、外食16.4%に対し、単身世帯の平均では調理食品16.2%、外食28.0%、高齢単身世帯については前者が15.3%、後者が15.6%となっており、単身や高齢の世帯においては調理食品や外食が多く利用されていることが分かる。
このように世帯構成の変化は、社会全体における調理食品や外食の利用の増加となってあらわれてきており、わが国の食料消費全体に占める外食・中食の消費割合を示す「食の外部化率」は昭和50年以降上昇傾向にあり、平成27年では44%と推計される。そして、この傾向は今後も続くと見込まれている。
また、株式会社日本政策金融公庫が平成29年7月に実施した食の志向に関するアンケート調査によると、「食料品を購入するとき、あるいは外食するときに国産品かどうかを気にかけるか」に対して、食料品購入時は8割、外食時は3割が「気にかける」としており、消費者の国産に対するニーズは一定程度あることがうかがわれる。また、安全面に係る食品原料の国産ならびに輸入に対するイメージについては、国産の場合、71%が「安全である」というイメージを持っている一方で、輸入の場合、「安全である」は2%であり、「安全面に問題がある」が45%という結果となっており、国産品への信頼があるのが、うかがえる(図1)。
調理食品や外食などの加工・業務用需要は、定時・定量で安定的な食材の供給を求めるものであり、これは穀物であっても、野菜であっても事情は同じである。食品加工メーカーや外食産業にとって、商品やサービスを安定的に提供するためには、原料を安定的に確保することも、また必要不可欠なことである。
本稿で取り上げるたまねぎは、生食用や加工食品の原料、冷凍食材として、一般家庭だけではなく食品メーカーや外食店などで幅広く使われている野菜である。
27年度の主要野菜全体(ばれいしょを除く指定野菜13品目計)の加工・業務用需要の割合は57%、その中でもたまねぎは、59%で全体よりわずかに高くなっており、そのうち輸入が4割を占め、主に中国から手当されている(注1)。
本稿では、地域の系統組織と一体となり、加工・業務用需要において、たまねぎの国産需要に対応している株式会社グリーンズ北見(以下「グリーンズ北見」という)の取り組みを紹介する。
注1:参考資料4
北見市は北海道東部のオホーツク総合振興局の管内に位置し、オホーツク海に面した地域から内陸部まで東西に延びる道路距離が約110キロメートルに達する面積の大きな市である(図2)。
平成18年3月に旧北見市、旧端野町、旧留辺蘂町、旧常呂町が合併して現在の北見市が誕生している。
市の大部分は内陸部に位置することから、寒暖差があり年平均気温も低いが、日照時間が長く降雪量が少ないといった特徴がある。
農業については、第2次世界大戦前までハッカの生産が盛んであり、世界の生産量の7割を占めていた時期もあった。戦後は輸入品に押されて生産は縮小したが、たまねぎやてん菜など、道内でも有数の畑作地帯となっている。
27年の状況を見ると、農業産出額は291億円となっており、最も多いのがたまねぎを含む野菜で165億円、次いでてん菜など工芸農作物27億円、いも類22億円、生乳など畜産物53億円などとなっている。また、主な畑作物の作付面積は、たまねぎ3720ヘクタール、ばれいしょ2000ヘクタール、小麦5720ヘクタール、てん菜3680ヘクタール、収穫量は、たまねぎ23万9800トン、ばれいしょ6万2200トン、小麦3万1800トン、てん菜23万6700トンとなっている(表1)。
たまねぎは、作付面積では全国の14%、収穫量 においては全国の19%を占める日本一の産地であり、グリーンズ北見の集荷エリア(注2)で見ると、全国シェアは作付面積で30%、収穫量で38%に達する。このようなオホーツク管内におけるたまねぎの生産基盤は、豊作凶作に左右されないグリーンズ北見の原料の安定的確保を後ろ盾となって支えており、グリーンズ北見の最大の強みの一つとなっている。
注2:グリーンズ北見のたまねぎの集荷エリアであるオホーツク管内では、北見市を筆頭に隣接する訓子府町(作付面積1370ヘクタール、収穫量9万2900トン)など、管内1市9町で栽培されており、管内全体の作付面積は7721ヘクタール、収穫量は47万6910トンとなっている。
グリーンズ北見は、JAきたみらいほかオホーツク管内の10JAで生産されるたまねぎを集荷し、自社工場で冷凍加工たまねぎや冷凍調理食品、オニオンスープなどの製造・販売を行う第3セクターの会社である(写真2)。
グリーンズ北見は、昭和62年、「北見市の活性化と地場農産物の付加価値向上」を目的に北見市、北見振興公社、当時北見市内にあった3農協(北見市農協、上常呂農協、相内農協=いずれも現在はJAきたみらい)の出資により設立され、たまねぎの規格外品を原料にソテーやスープを製造・販売することから事業をスタートさせた。
事業開始に当たっては、北見市周辺からたまねぎを購入する実需者であったエム・シーシー食品株式会社と当時関連企業であった淡路農産食品株式会社が資本参加し、加工施設に関するノウハウの習得や人材育成などが行われた。同年中には第一工場が完成し、翌年から操業を開始した。その後、より広域的な規格外品の受け皿として規模拡大を望む地域の声などもあり、平成4年にオホーツク農業協同組合連合会(注3)(以下「オホーツク農協連」という)とホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という)による増資が行われ、平成6年には農林水産省の補助事業を活用して第二工場を建設し施設の能力を拡大させていった。10年にはたまねぎの年間取扱量は1万トンを超え、現在ではさらに増加し、年間取扱量は1万8600トンとなっている。
当初1000万円だった資本金は、現在では3億8720万円となり、従業員数は141名(平成29年7月末現在)、売上高についても年々増加傾向にあり、28年度では26億3600万円となっている(表2)。
売り上げの7割は冷凍加工たまねぎであり、調味料やドレッシングなどの原料となるオニオンダイス、オニオンペーストや、カレーなどに使用されるオニオンソテーなど製品アイテム数で200を超えている。ユーザーは、道内外の食品メーカー、外食企業、総菜企業など加工・業務用が大半を占めているが、近年では全国の生協を通じた一般消費者への販売も伸びている。
そのほかの売り上げは、たまねぎを使用したコロッケ「たまコロ」など冷凍調理食品が1割、同社の看板商品でもあるオニオンスープなど顆粒状スープが1割などとなっている(表3、写真3)。
注3:平成29年11月1日に、北見農業協同組合連合会より名称が変更となった。
グリーンズ北見が使用するたまねぎは、オホーツク管内のたまねぎ産地である10JAから供給されている(図3)。原料取扱量は平成28年産で1万8600トンにのぼる。
原料調達に当たって、グリーンズ北見は、仕入量や仕入値などに関する事業計画を毎年策定している。事業計画は取締役会の承認を得ているが、このことは、原料調達先のJAの代表者でもある同社の役員の承認をもらうことで、生産側の承認をもらうことをも意味している。
年間の事業計画に基づく実際の原料調達に当たって、大きな役割を果たしているのがホクレンである。ホクレンはグリーンズ北見と原料調達先の各JAとの間に立ち、調達先や調達数量の調整などを一手に担っている。ホクレンが資本参加する以前は、グリーンズ北見が直接各JAと協議していたが、ホクレンが資本参加した平成4年からは仕入先がホクレンに一本化された。
形が悪いなどの規格外品は、グリーンズ北見設立当時1割程度発生し、取扱原料のすべてを規格外品で賄うなど、 その付加価値化が会社設立の大きな目的の一つであったが、その後の品種改良や栽培技術の向上などにより、規格外品の発生率は半減している。生産者にとって規格外品の発生率が減ることは、収入の増加ならびに経営の安定化につながる喜ばしいことである。しかし、ユーザーへの安定供給が求められるグリーンズ北見にとっては、規格外品の発生率低下は、原料の安定調達・安定供給のリスク要因となった。こうしたことから、平成7年よりグリーンズ北見は原料調達方法に契約取引を採用し始め、このことにより、原料調達コストは上がっているものの、生産者側が求める手取りの増加と、ユーザーが求める安定供給を両立させている。現在では、原料に占める規格外品と契約取引の割合は3:7となっている。
グリーンズ北見は、設立当初より原料供給先JAからの供給がなくなる5月から8月上旬まではたまねぎの加工は行わず、にんじんやほうれんそうの加工により、周年雇用や工場の稼働率の維持に努めてきた。
同社の事業規模が拡大していった平成7年ごろから、ユーザーからの要望や工場の稼働率向上を図るため、たまねぎの通年加工を行っていく必要性が高まっていった。そのためには、管内産たまねぎの供給がなくなる5月から8月上旬までの原料をどう確保するかが課題となるが、同社は管内で生産されたたまねぎを使用しながら通年加工を目指すこととする。そのために同社が行ったことは、たまねぎの貯蔵期間を伸ばすことであった。
たまねぎは貯蔵しやすい作物であるがゆえに、冬期に農作物の生産ができない北海道で多く生産されてきた訳であるが、季節によって貯蔵に当たっての条件が異なる。冬期は氷点下の気温が続くことから、貯蔵しているたまねぎを凍らせない必要があり、春期~夏期は気温の上昇による発芽・発根を防ぐ必要がある。この時に必要不可欠となるのが、冷蔵機能付きの保管倉庫である。
グリーンズ北見は原料の保管倉庫を所有しておらず、原料は保管倉庫を所有する各JAから毎日、受け入れている。そのため、原料貯蔵期間の延長は、保管倉庫の所有者であるJAと連携して行われた。取り組みを開始した当時はたまねぎの夏期貯蔵などできるわけがないといった批判的な意見があったが、保管開始時期や保管温度の維持などの試行錯誤を経て、年々少しずつ貯蔵期間を延ばしていき、平成10年には、夏までの長期貯蔵に成功し、オホーツク管内のたまねぎを使用しての通年加工を実現した。このことによって、グリーンズ北見は特定産地のたまねぎの通年加工による定価・定量供給体制を確立し、ユーザーからの評価をますます高めることとなった(写真4)。
グリーンズ北見の作業工程のうち、最も人手を必要とするのはたまねぎの皮むき作業である(図4)。同社に搬入された原料は平成28年に導入した自動皮むき機で外皮とヘタや根の部分はカットされるが、傷害部や皮の残りなどの検品除去(トリミング)は人の手で行わなければならず、女性従業員の約3割に相当する25~30名が必要とされる(写真5、6)。また、JAきたみらいなど自前の皮むき設備を持つ者に委託することにより皮むき作業の省力化を図っている。
作業の省力化を進めている背景には、従業員確保の問題がある。主力は50~60代の女性を中心に女性従業員が勤務しやすい8時から17時を工場稼働の定時としているものの、人手が集まりにくい状態が続いている。また、たまねぎを自社加工していた業者が新たにグリーンズ北見に外注する例も増えている状況にある。
受入原料に占める自社での皮むき率は3割程度にとどまっているが、同社は今後も加工需要の増加と人手不足が続くことを見込んでおり、そういった状況下でも製造量を増やしていけるように前述の自動皮むき機械を導入し、日産の剝皮能力を従来の1.5倍に増加させたところである。
グリーンズ北見は、同社の事業であるたまねぎ加工は、増加する加工業務用需要に対応する時代の流れでもあり、ビジネスとして伸びていくという考えの下、今後も、熟練の手と感覚が求められる作業には人員を配置しつつ、機械化可能な単純な作業の自動化などの省力化を進めて、原料処理量2万トンに増やしたいとしている。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、わが国の総世帯数が2020年をピークに減少する中、単身世帯については2030年まで増加することが見込まれている。世帯構成の変化に伴う食の外部化・簡便化の流れを踏まえると、調理食品や外食などに対応するニーズは国産志向と相まって、今後も高まっていくことが見込まれる。
平成28年10月、全国のご当地コロッケを競う「第4回全国コロッケフェスティバル」において、グリーンズ北見の冷凍調理食品である「たまコロ」が見事優勝を果たした。「たまコロ」は、コロッケによく使われるばれいしょを使わず、具の7割にたまねぎを使用しており、北見市の学校給食のメニューに使われているほか、道内外のスーパーマーケットでも販売されている。こういった一般消費者への訴求は、国産たまねぎの消費拡大につながるのみならず、北見市の地域ブランド化にも寄与している。
グリーンズ北見は29年に会社設立30周年を迎えた。これまで、社会の変化に柔軟に対応して事業を展開してきたが、30年間一貫して変わらないのは、設立当初の目的である地域の活性化とたまねぎの付加価値向上である。グリーンズ北見が地域関係機関による後押しの下、今後も確実視される加工・業務用の需要拡大に対応しつつ、ますます発展していくことが望まれる。
最後になりましたが、ご多忙の中、本取材にご協力いただいた株式会社グリーンズ北見さま、JAきたみらいさまにこの場を借りて深く感謝申し上げます。
参考資料
(1)総務省「国勢調査」
(2)総務省「国勢調査」
(3)公益財団法人食の安全・安心財団「食の外食率と食の外部化率の推移」
(4)農林水産省農林水産政策研究所 小林茂典 2017「主要野菜の加工・業務用需要の動向と国内の対応方向~2015年度の推計結果をもとに~」『野菜情報』2017年11月号(農畜産業振興機構)
(5)農林水産省「生産農業所得統計」
(6)農林水産省「野菜生産出荷統計」
(7)国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」