[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

調査・報告(野菜情報 2017年11月号)


グローバルGAP認証取得農業経営の現状と課題
~長崎県諫早市愛菜ファームを事例として~

中村学園大学 学長 甲斐 諭

要約

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機に、また農産物輸出拡大に伴い、GLOBALG.A.P.認証取得の機運が高まっている。本稿では認証を取得している大規模農業生産法人を対象に取得の経緯、経費、効果などを調査し、今後の課題解明に努めた。その結果、①認証取得により従業員の意識改革が進み、安全安心で信頼できる農産物の生産と流通が可能となり、②国内販売網の拡大ができ、③輸出も拡大した。しかし、①認証取得と更新に伴う経費が高く、準備のための労働負担も重く、②出荷箱などに認証取得の表示ができず、費用便益がアンバランスになっていることが明らかになった。

1 調査の背景と目的および方法

近年、GAPの認証取得の動きが活発になっている。それには3つの理由がある。第1は、欧米をはじめとする農産物の輸出相手国の実需者から取引要件として国際水準の認証の取得を求められるからである。第2は、国内の実需者・消費者が食の安全や環境保全への関心から国際水準の認証を求めているからである。第3は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において、持続可能で環境にやさしい食料を使用するという方針が示されているからである。

特にオリンピック・パラリンピック東京大会組織委員会が「競技大会の準備・運営段階の調達プロセスにおいて、法令遵守はもちろんのこと、地球温暖化や資源の枯渇、生物多様性の損失などの環境問題、人権・労働問題、不公正な取引などの問題へのインパクトを考慮に入れた調達を行うため、持続可能性に配慮した調達基準を策定(注1)しているが、この調達基準を満たすものとして、国際的に通用するGAPの取り組みを行っていることとしている。そのため、GAP取得の普及促進は焦眉の課題となっている。

本稿は、上記の社会的要請の背景を踏まえ、特に欧州の流通業者などにより策定され、広く普及している GLOBAL G.A.P.(注2)(以下「グローバルGAP」という)認証を取得している農業生産法人を調査し、取得の経緯、経費、効果、今後の課題などを実態に即して考察し、認証件数を増やすための課題を解明することを目的とする。

この目的を達成するために、平成23年にグローバルGAP認証を受け長崎県諫早市に立地している農業生産法人愛菜ファーム株式会社(以下「愛菜ファーム」という)の調査を実施した。愛菜ファームが、現在のようにグローバルGAP認証取得が話題になる以前に認証を受けたのは、同ファームが諫早市の干拓地に立地していたことも影響していることから、まずはグローバルGAP認証取得の背景としての長崎県と諫早干拓地での農業について概観する。

注1:参考文献(1)による。

注2:参考文献(2)による。

2 長崎県農業の現況

長崎県が平成29月に策定した「新ながさき農林業・農山村活性化計画」(注3)に依拠しながら長崎県農業の状況を概観する。

注3:参考文献(3)

(1)販売農家戸数と基幹的農業従事者数

表1のように平成27年の販売農家戸数推計値 2万2200戸で、この10年間で約22%減少しており、このまま減少が進めば、32年には1万7700戸まで減少することが予想されている。

049a

また表2のように基幹的農業従事者数ついても 27年(推計値)は3万4500人で、この10年間で約16%減少しており、特に22年時点で65歳以上の基幹的農業従事者が1507人と全体の約56%を占めるなど高齢化が進行している。

049b

(2)認定農業者と新規就農・就業者および耕地面積

認定農業者数は平成26年末には 5900経営体となっており、ピーク時の22年と比較すると約550経営体が減少している。

また新規就農・就業者は、自営就農者と法人経営などの雇用就業と合わせて、23年から26年の平均で約270名確保しており、10年前と比較すると69%増加している。

耕地面積は9900ヘクタールで年々減少しており、26年までの10年間に約3%減少している(全国は約4%減少)。このまま減少が進めば、32年には49000ヘクタールまで減少することが予測される。特に長崎県は耕地の傾斜度が高いために、区画整備率は、26年で水田52.8%、畑23.7%と遅れている。耕地の傾斜が厳しいことが長崎県での土地利用型農業の展開を大きく制約している要因になっており、諫早干拓地での効率的農業の導入が期待されたゆえんである。そこに新規参入したのが後述の愛菜ファームである。

(3)農業産出額と農業所得

農業産出額が、全国的に減少傾向にある中、表3に示すように長崎県の産出額は増加傾向で推移しており、平成25年の農業産出額は1444億円で、うち野菜が31%、肉用牛が14%、米が10%のシェアとなっている。

050a

10年前と比較すると105億円(10年前比%)増加しており、中でも野菜が89億円(同25%)、畜産が87億円(同23%)と大きく増加している。 一方、米は▲52億円(同▲27%)、果▲11億円(同▲8%)と減少している。

25年の農業産出額で見ると、長崎県は全国ランキングで22位になるが、生産農業所得(注4)では27位となっており、農業所得の向上を図るには多収化や、高品質化、ブランド化による生産額の増加に加え、生産コストの削減に取り組む必要がある。

また、25年の全国の主業農家の平均農業所得が505万円に対し、長崎県の認定農業者の平均農業所得は 450万円と、全国平均の約89%となっている。

注4:農業産出額から物的経費(減価償却費および間接税を含む。)を控除し、経常補助金などを加算したもの。

3 長崎県諫早干拓地域の農業の現況

(1)諫早干拓事業の概要

諫早干拓事業は、防災機能の強化(高潮・洪水・常時排水などに対する背後低平地の防災機能の強化)と優良農地の造成(かんがい用水が確保された大規模で平たんな生産性の高い優良農地の造成)という2つの目的をもって推進された国営干拓事業で平成元年より着工された。

計画面積は干陸面積が約942ヘクタール、調整池面積が約2600ヘクタールで、露地野菜、施設野菜、施設花き、酪農、肉用牛の経営が展開されることが計画され、総事業費は2533億円(最終事業費:2530億円)であった。

(2)諫早湾干拓地域の農業

諫早湾干拓地では、666ヘクタールの農地に39経営体(法人18、個人 21)が野菜、花き、飼料作物などを栽培している。また、安全・安心な農産物を供給する一大産地を形成するため、長崎県特別栽培農産物、または有機JAS農産物の認証拡大に取り組んでいる。さらには、「環境保全型農業直接支払交付金」(注5)を活用した環境保全型農業の実践が進められるとともに、加工・業務用野菜生産のための協議会も結成されている。

注5:化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取り組みと合わせて行う地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動を支援する。

4 グローバルGAP認証を受けた愛菜ファームの干拓地での野菜生産の取り組み

(1)キャタピラー九州株式会社の農業参入とグローバルGAP認証の経緯

愛菜ファームは、平成1917日に建設機械のディーラーであるキャタピラー九州株式会社(以下「キャタピラー九州」という)のグループ会社として設立された。

キャタピラー九州では、17年から農業分野の事業に取り組み、畜産関連の堆肥製造機や堆肥撒布機などさまざまな農業機械や土壌改良資材の販売に携わり、さらには、家畜飼料の製造販売や実証農場での試験栽培などを通じて、農業分野にも深く関わっていた。それは、建設機械のメーカーであるキャタピラージャパンが17年に鹿児島県で無農薬栽培の実験農場を設立し、ハウスを建設して資材費などを支払いながら営農していたことによる。鹿児島県は同社の営業管轄範囲でもあったので、事業の支援を通して、営農のノウハウを蓄積していった。

ところで、19わが国は不況に陥り、後半になると原油・原材料価格が高騰し、景気回復を支えてきた企業の収益が減少するとともに雇用情勢も悪化した。さらに、サブプライム住宅ローン問題を背景としたアメリカ経済の減速などによって、世界経済の成長が鈍化した。

そのような経済情勢の中にあってキャタピラー九州の取引先である建設関連会社などは建設事業の発注が減少し、新たな事業として農業参入を図り事業を多角化していたので、農業関連機械や農産物を介した取引が増加していた。

また例年のことであるが、建設業界が受注する公共事業の開始は月ごろ以降であり、4月から9月ごろまでは工事が少なく、雇用者の仕事の確保が課題であった。その解決策の一つとして農業参入が考えられたという側面もある。

キャタピラー九州が実際に農業に取り組むことにより、取引先の課題を知ることができ、さらには取引先との連帯感を醸成するために、実際に農業への本格参入を計画した。

特筆すべきはキャタピラー九州の社長である岡田章氏(注6)(愛菜ファームの社長)が日本の食料自給率の低いことを懸念し、その解決に自ら取り組みたいという思いがあったことも、キャタピラー九州が農業に本格参入し、愛菜ファームを設立した大きな要因となった。

折しもその時期に、諫早湾干拓農地への入植の公募があったので、応募することにした。しかし、当時はまだ企業からの参入が珍しく、長崎県からは簡単には参入を認可されず、何度も計画変更案を作成して認可された経緯がある。

諫早湾干拓地では、前述のように安全・安心な農産物を供給する一大産地を形成するために長崎県特別栽培農産物、または有機JAS農産物の認証拡大に取り組み、さらには、環境保全型農業の実践が求められていたこともあり、愛菜ファームでは「安全安心・新鮮で愛を育むおいしい野菜」をキャッチフレーズに野菜を提供するようにした。 そのことが契機になってグローバルGAPの認証を受けることになったが、認証を受けるには後述のように幾多の困難を乗り越える必要があった。営農経験は短いが、有能なスタッフと夢を持った若い社員の努力により、また多額の経費を投入して、グローバルGAPを受けることができた。その結果、愛菜ファームの農産物を「愛菜ブランド」として、こだわりの野菜を消費者に提供することが可能になった。

注6:平成29年10月13日に社長が交代した。

(2)愛菜ファームの規模と生産野菜の種類およびブランド化

愛菜ファームの経営面積は47.2ヘクタールであり、雇用者が約130名(うち社員12名、契約社員13名、他はパート員)である。栽培している野菜は主にばれいしょ、たまねぎ、にんじん、トマト、ミニトマト、こまつなの種類である。収穫時期は、図1の通りである。これらの野菜は①農法、②鮮度、③機能性、④安全・安心、⑤美味しさという5つのこだわりを持って生産しされ、「愛果菜」というブランド名をつけて、全国および海外に販売されている(図2)。

052a

053a

(3)愛菜ファームの野菜栽培に関する技術的特長

愛菜ファームの野菜栽培に関する技術的特長は、以下の通りである。

ア グローバルGAP

野菜栽培に関して安全性確保のみならず、環境保全、野菜の品質向上、労働安全の確保にも取り組んでいる。グローバルGAP取得により、野菜の生産から流通段階を経て消費者に届けるまでのシステムの中で、どこに、どのようなリスクが潜んでいるかを徹底的に検討するリスク分析を行うようになり、さらに作業工程を記録することで問題点が発生した場合には迅速に作業工程をトレースバックすることで原因が究明でき、次の栽培に生かすことができ、安全に野菜を消費者に届けことができる。

イ エコファーマー

野菜の作付前は緑肥であるソルゴー・ひまわり・ヘイオーツを植えて土づくりに励んでいた。干拓地の排水性向上のために愛菜ファームの特殊技術である「フォアス(FOEAS)」(注を施工し、地下水の調整を行うことにより適正な土壌水分のコントロールができ土壌の除塩と消毒を可能している。

また、長崎県特別栽培農産物の認証を受けているので、化学肥料の施用量を県基準の半分以下にするとともに、有機配合肥料使用し、微生物相の改善を行っている。さらに化学合成農薬の使用量を県基準の半分以下(実際には分の1を目標)にするため、太陽熱消毒を行い、土壌消毒剤は使用していない。

注7:高い排水機能と地下からのかん水機能を併せ持ち、地下水位を自由に設定できる地下水位制御システム。

(4)愛菜ファームの効率的栽培と多角的販売の取り組み

ア 規模拡大から質への転換

入植当初はばれいしょの6ヘクタールの栽培から開始したが、土壌が粘質で大きな塊になり、栽培に困難をきたした。それを経験豊富な人材を採用することにより、徐々に土壌問題を解決した。しかし、収穫物は不ぞろいで、収穫に多くの労働力を要したために経営的には営農開始から5年間は赤字が継続し、6年目から辛うじて黒字に転換することができた。

現在の栽培品目と栽培面積は表の通りである。平成28年の総販売額は約6億円であるが、それには農業資材や機械の販売額の約2億円も含まれるので、野菜販売額は約4億円である。干拓前の海底土壌がミネラルを豊富に含んでいたので、特にトマトやミニトマトの味が濃く、購入者からたまねぎも他産地の物とは違うとの高い評価を受けている。今後は露地栽培の規模拡大からハウス栽培の規模拡大により、量の追求から質を高める対策を重視していく方針である。

054a

イ 土壌改良と除草剤を使わない除草

干拓地であるので、一番苦労したのは土づくりであった。ソルゴーなどの緑肥作物を栽培し、土壌改良に努めた。ひまわりは景観形成のために栽培している。

愛菜ファームでは、地下かんがいシステムを利用し、ハウス内の水を自由にコントロールできるので、地下と地上に水を溜め、夏のハウス内の高温によって雑草の種子を死滅させ、除草剤は使用していない。

ウ 露地栽培における大型機械よる省力作業

現在35ヘクタールある露地野菜栽培地の作業は、すべて機械化を導入した。以前は、たまねぎの収穫ピーク時に毎日約30人の労働者の確保が必要で、大きな負担であったが、現在では機械の運転などに従事する8人だけが必要なほどに省力化されている。しかも収穫量は2倍に増加しており、大変な効率化である。今年のたまねぎの収量は約700トンになったが、機械化の効果により労働者の確保問題は発生していない。以前はたまねぎの入った20キログラムの重いコンテナを抱えなければならず、女性には負担が大きかった。また以前はハサミで切っていたたまねぎの茎を機械が裁断して収穫し、900キログラム入る鉄の箱に機械がたまねぎを自動的に入れ、それが満杯になったら自動車でじょうから乾燥室に運ぶので、非常に省力化されている(写真1)。乾燥室から出して選別するときも基本的に機械選別である(若干の人手も必要であるが)。ばれいしょの選別はカメラを利用した機械選別である。

054b

問題点は、機械が高額であり、品目によって機械が異なるので、投資額がかさむことである。たまねぎ収穫機は、1台が1000~1200万円であり、2台保有している。また、にんじん収穫機は大型1台800万円、小型500万円の計2台を保有している。ばれいしょ収穫機は、栽培面積が2ヘクタールと少ないので、1台が500万円のものを保有している。ここでのばれいしょ栽培は、付着する土壌が乾燥すると白っぽくなるので、味は良いが、色目が白くなる。また、たまねぎと作業が重複するため、契約分のみ作付し、栽培面積を制限している。

エ ハウス栽培における労働集約作業と雇用問題

ハウス内でのミニトマトとトマトの収穫は手作業であり、また選別作業にも手間が必要である(写真2、3)。しかし、ミニトマトとトマトが人気商品であるので、栽培面積を拡大し、近々のうちにハウスを7ヘクタールまで増設予定である。そうなると1日に6~7トンの収穫が見込まれるので、今後は、それに対応した作業員の確保が大きな課題となる。今は、外国人技能研修生はいないが、今後は研修生の受け入れも視野に入れる必要がある。

055a

055b

オ 多角的販売対策と流通システム

前述のようにグローバルGAPの認証を受け、安全性が保証され、またミネラルを多く含んだ土壌で栽培された野菜の味の評価が高く、北海道から沖縄まで販売網が広がっている。取引先は2030カ所であるが、出荷先は8090カ所である。最近では関東への出荷が増加し、関西への出荷が減少している。それは、関東は味の良さを高く評価し価格に反映されるが、関西では品質の良さが価格に反映されず低価格となるので、自ずと関東中心の販売になり、集荷先の逆転現象が発生している。

卸売業者への出荷は長崎市中央卸売市場の株式会社長果(以下「㈱長果」という)と東京都中央卸売市場大田市場の東京青果株式会社(以下「東京青果(株)」という)が中心である。特に㈱長果は転送により全国のスーパーなどに懸命に販売してくれており、東京青果(株)も顧客に熱心に販売してくれる。一方、福岡市中央卸売市場には九州各県から青果物が搬入され、販売競争が厳しい状況であることから、同市場にはたまねぎ、にんじんを少量出荷しているにすぎない。

また、全国の卸売市場の仲卸業者への販売が増えている。百貨店やイオンなどのスーパーマーケットへの産直の直接出荷もあるが、スーパーマーケットだと日々の納入数量の確保を厳しく求められるが、天候により厳守できないこともあり、仲卸業者への出荷は安心であるというメリットがある。

品目では、ミニトマトの需要が全国的に高まっており、価格も上昇傾向にある。次がトマトである。たまねぎなどは、他の産地との競争で価格的にも厳しく、苦戦している。

5 愛菜ファームのグローバルGAP認証の準備と対策費

(1) エコファーマーとJGAPからグローバルGAPへの進化

愛菜ファームがグローバルGAP認証を受けた契機は前述の通りであるが、認証を受けるには相当の準備と対策費を投入している。

入植当初は、干拓地の入植条件であった環境保全型の農業のエコファーマーから開始し、次にJGAPの認証を目指した。しかし、JGAPの認証は商社や農協主導で推進され、世界基準と認識されていなかったことから、世界に通じる野菜作りを目指し、営農開始1年半の平成21年からグローバルGAP取得の準備に取り掛かった。技術の改善と文書作成で大変な苦労をしたが、営農開始から3年目の平成23年にグローバルGAP認証を受けることができた(写真)。

056a

(2)グローバルGAP認証の範囲と経費

グローバルGAPは、GAP認証機関の審査員が審査する。

当時は、グローバルGAPの要求事項(チェックリスト)は英語で書かれており、認証機関が和訳してくたが その和文も難解で、文章の意味の受け取り方で対応を変えねばらない局面もあり、苦労するとともに人材の確保も必要であった。

初年度は書類作成の人件費として約150、技術的改善のための資材費として約150万円の合計約300万円を要した。愛菜ファームでは出荷も行っていることから選果場の認証も必須であり、圃場と選果場販売流通も認証の範囲となっている。これにより国内の販売先はもちろん、海外の輸出先からも安心して購入してもらっている。

グローバルGAPを維持していく上では、毎年の更新が必要である。そのためグローバルGAPのバージョンが変更された際には、コンサルタント会社などが開催する研修会に参加しているまた、愛菜ファーム場合、現在依頼している認証機関は、教育研修などは行っていないため、研修を受ける機関と実際に認証を受ける機関が、異なっているとのことである。

毎年の更新費(審査料)は、審査員の旅費と宿泊費などでを含め約25万円を支払っている。支払い経費以外に愛菜ファームの社員が膨大な資料の整理などの労力を投入している。毎年の更新手続きは、検査を受ける1カ月前から書類の整理に追われるのが実態で、また、衛生対策として備品の購入などが発生し、その物財費や修善費が毎年約100万円必要になっている。

これらのグローバルGAPの認証に関わる人件費、物財費の投入は衛生管理や職員をはじめ雇用者全員の意識の向上に大きく役立っている。とはいえ、審査料は面積とか品目数には関係なく発生するので、大規模経営でないと認証を受けにくい側面があるものと思われる。表は、最近のグローバルGAPの認証に関わるおおよその費用である

057a

(3)グローバルGAP認証取得の輸出促進効果

グローバルGAPの認証は農場で働く従業員の意識向上や安全性の確保および販売先の安心のためであり、消費者に直接的に安全性を訴求するものではないので、出荷箱などにグローバルGAP認証取得を記載してはならない規則になっている。販売先への販促には利用できるが、それが必ずしも商品単価の引き上げには直結していない。

最近になってグローバルGAPが注目されるようになったが、それは輸出の促進と2020年の東京オリンピック・パラリンピックの影響でもある。

愛菜ファームは、3年前から香港、シンガポール、マカオに海外輸出している。品目は、トマト、ミニトマトを中心に、たまねぎ、にんじんも輸出している。現在は1000万円程度で少額であるが、グローバルGAP認証を受けているので、毎年、増加し、今後とも増える見通しである。国内向け価格より若干高く福岡市内の商社が買い取ってくれるので、その商社経由で輸出している。今朝収穫した野菜を本日中に福岡空港に送れば、翌日朝の飛行機で香港に約3時間で空輸され、翌日の夕刻にはデパートなどに陳列される。少なくとも翌々日の朝には陳列される。

6.むすび

~愛菜ファームの事例からみたグローバルGAP認証の効果と今後の課題~

愛菜ファームが平成23年という早い段階でグローバルGAP認証を受けることができたのは、

①19年に諫早干拓地に入植したことである。諫早干拓地では特別栽培農産物の導入が必須であり、当初から環境保全型農業に取り組んでいた。

愛菜ファームの職員が単なる環境保全型農業に飽き足らず、一段と高いグローバルGAPを目指した高い志である。

愛菜ファームがキャタピラー九州の子会社であったので、入植当初の赤字経営にもかかわらず、親会社の支援によりグローバルGAP認証の多大な負担費に耐えられた。

という3点である。

次にグローバルGAP認証を受けたことの効果について見ると、

従業員の意識改革が進み、安全安心で信頼できる農産物の生産と選果に取り組むことができた。

国内の需要者に安心感を与えることができ、全国に販売網を拡大できた。

海外輸出が可能になり、順調に輸出額が伸びている。

の3点である。

しかし、以下の課題も残されている。

毎年の認証更新に伴う経費と準備のための多大な労働負担である。政府もGAPの普及に取り組み農林水産省の平成28年度補正予算として予算措置を行っているが、グローバルGAPの取得の際の審査に要する経費の補助は補助の対象となっているが、認証更新に伴う費用は、対象となっていない。

出荷する際の段ボールにグローバルGAP認証を受けていることを表示するなど、もっと広くアピールすることが禁止されており、負担と利益のバランスがアンバランスになっている。

人気のあるミニトマトなど施設野菜の生産を拡大する計画であるが、そうなると生産と選果において手作業が格段に増加し、労働者確保が困難になる。外国人技能研修制生の受け入れを検討する必要があるが、外国人にグローバルGAPの理念と安心安全作業の徹底を教育するのに時間を要する。

これら課題を克服し、愛菜ファームがさらに発展されることを期待したい。

最後に本調査に際し、ご多忙中にもかかわらず、全面的なご協力を頂いた愛菜ファームの皆様に感謝します。



参考文献

(1)公益財団法人オリンピック・パラリンピック東京大会組織委員会

(2)栗原眞(2017)「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた野菜生産について」『野菜情報」2017年3月号(農畜産業振興機構)

(3)長崎県「新ながさき農林業・農山村活性化計画」平成29年3月

(4)愛菜ファームのホームページ

元のページへ戻る


このページのトップへ