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調査・報告(野菜情報 2017年11月号)


主要野菜の加工・業務用需要の動向と国内の対応方向
~2015年度の推計結果をもとに~

農林水産省 農林水産政策研究所 上席主任研究官(食料・環境領域) 小林 茂典

要約

 主要野菜(ばれいしょを除く指定野菜13品目)の用途別需要の2015年度の推計結果をもとに、加工・業務用需要の動向を見ると、主要野菜の加工・業務用需要は引き続き増加しており、その割合は6割近くに達し野菜の加工原料化・業務用食材化傾向が一層強まっている。こうした状況の中で、今後、国産野菜の販路の確保・拡大を図っていくためには、加工・業務用需要に対応した国産野菜の生産・供給のさらなる強化が必要とされる。

はじめに

食の外部化の進行は、食品加工企業の加工原料や外食中食企業の業務用食材といったかい路を経て消費される食料の増大を意味しており、加工・業務用需要の増加と表裏の関係にある。こうした観点から、本稿では、食の外部化の進行状況と背景について概観した上で、主要野菜(ばれいしょを除く指定野菜13品目)の加工・業務用需要の動向と特徴について、2015年度の推計結果を踏まえながらその主要点を概観する。最後に、加工・業務用需要に対応した国産野菜の生産・供給の強化の方向について若干の検討を行う。

1 食の外部化の進行状況と背景

公益財団法人食の安全・安心財団によると、2015年の食の外部化率は44%と推計されている。この割合は、1980年が33%、1990年が41%であり、近年では、外食の相対的な比重の低下と中食のウエイトの高まりなどの動きを含みながら44~45%の水準にある。食の外部化は、基本的には、世帯構成の変化などを背景とした需要側の要因とこれに対応する供給側の要因とが重なり合いながら進行している。

こうした点について、まず、需要側の要因について確認することにしよう。

表1は、1990年から2015年にかけての、世帯構成の主な変化を示したものである。総世帯数が1.3倍の増加を示しているなか、これを上回る伸び率で、単身世帯が2.0倍、二人世帯が1.8倍へと、世帯人員が少ない世帯が増加している一方、四人世帯といった世帯人員が多い世帯は0.8倍と減少している。また、女性の社会進出の増加などを背景として、共稼ぎ世帯が増加し専業主婦世帯が減少している。さらに、高齢化の進展に伴い、高齢者世帯(注1)が4.1倍と大きく増加しているほか、単身世帯のほぼ3世帯に1世帯が65歳以上の者となっていることも確認することができる。

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こうした、単身世帯、共稼ぎ世帯や高齢者世帯の増加などといった世帯構成の変化と食の外部化の進行との関係の主要点について簡単にることにする。

表2は、主な世帯類型別の食の外部化の進行状況(世帯員1人当たり1カ月間の飲食料支出額に占める外食および調理食品(中食)の割合)を示したものである。

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全世帯(農林漁家を除く2人以上世帯)平均の食の外部化率は、1990年の23.7%から2015年の29.3%へ一貫して上昇している。こうした動きの中で、専業主婦世帯と共稼ぎ世帯を比べると、調理食品、外食ともに、その支出割合は共稼ぎ世帯が専業主婦世帯を上回っている。また、単身世帯(2015年)については、外食だけで飲食料費支出のほぼ3割を占め、これに調理食品を加えるとその割合は5割近くに達する。

なお夫婦高齢者世帯(夫婦ともに65歳以上の世帯)の場合、外食の割合が低いことを反映して食の外部化率は2割強で他の世帯に比べて相対的に低い。しかし、調理食品の支出割合はほぼ全世帯平均と同じ水準であり、さらに重要な点は、表3にみられるように、高齢者世帯の調理食品支出額は、全世帯平均を上回り単身世帯に次ぐ多さとなっていることである。

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従って、食の外部化における中食市場の拡大という点から見るならば、高齢者世帯の動向は重要な位置を占めるものといえる。このほか同表からは、全世帯平均と比べた単身世帯の支出額は、飲食料費計では1.7倍、外食費にいたっては3倍と際だって多いことも確認することができる。

単身世帯、共稼ぎ世帯、高齢者世帯などを中心に、食の外部化を推し進めている要因として最も大きいのが簡便化志向の高まりである。単身世帯においては、食材を購入して1人分の調理を行う手間や割高感を考えると、手軽に利用できる外食や中食への依存度が高まることとなる。

また、共稼ぎ世帯においては、調理時間の短縮などといった簡便化志向が専業主婦世帯に比べて相対的に高くなり、「時短」食材や「即食性」食品の利用の増加へ向かうものとなる。加えて、高齢者世帯においても、3食すべてを家庭内で調理するのではなく、下処理や手間がかかるものなどを中心に菜などの中食の利用を食生活に取り入れる傾向が強まるものとみられる。

簡便化志向の強まりなどを背景として、サラダなどの惣菜やカット野菜などの「即食性」食品や、冷凍野菜、冷凍調理食品や菜調味料などを利用した下処理などが不要で手間がかからず、調理時間の短縮を図ることができる「時短」食材などの利用者層の広がりの進行が指摘されている。

図1は、単身世帯(性別・年齢グループ別)を中心に、サラダの1人あたり年間支出金額の動きを示したものである。この支出金額が最も多いのは男性の3559歳層であるが、60歳以上の男性の利用が大きく増加しているほか、いずれの世帯においても支出金額は増加傾向を示しており、利用層の広範囲化が進んでいることを確認することができる。

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次に、食の外部化を推し進める供給側の要因について簡単に見ることにする。特に重要なのは、需要側の簡便化志向に対応し、あるいはそれを促進させるような「利便性提供型の食料供給システム」が展開していることである。その代表的なものとして、24時間営業の外食・中食企業、ファストフード、コンビニエンス・ストアなどの展開、さらには、冷凍(調理)食品やカット野菜などの利便性の高い食料の供給を挙げることができる。

以上、概観したように、食の外部化は、世帯構成の変化などに伴う生活スタイルの変化・多様化、特に簡便化志向の強まりといった需要側の要因と、この簡便化志向に対応し、あるいはそれを促進させるような「利便性提供型の食料供給システム」の展開といった供給面の要因が重なり合いながら進行しているものといえる。カット野菜の利用増についても、簡便化志向を背景とした「即食性」食品の需要増に対応しながら、カット野菜製品の種類も豊富化しており、キャベツなどの単品のカット野菜のほか、多品目のミックス品、加熱調理用や菜調味料とのセットなど、利便性だけでなくさまざまな付加価値を付与した商品供給が、こうした需要に対応し、さらに新たな利用を喚起させている。

なお、世帯構成の将来推計(国立社会保障・人口問題研究所による2013年1月推計)によると、2015年から2025年、2035年にかけて、単身世帯が33.3%から35.6%、37.2%へ、世帯主65歳以上の世帯が35.7%から38.4%、40.8%へ、それぞれ増加し、平均世帯人員は2.34人から2.25人、2.20人へさらに減少するものと予測されている。こうした世帯構成の将来予測と世帯類型別の食料費支出の特徴とを考え合わせるならば、①外食の相対的な比重の低下と中食のウエイトの高まり、②景気低迷などに伴う節約志向を反映した内食への一部回帰、などの動きを含みながら、食の外部化は今後もゆるやかに継続する可能性が高いものとみられる。

注1:高齢者世帯は65歳以上の者のみで構成するか、またはこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯であり、その数は厚生労働省「国民生活基礎調査」における推計値である。

2 野菜の用途別需要の動向と特徴

) 主要野菜の加工・業務用需要の動向と特徴

図2は、野菜の用途別需要のとらえ方を簡単に示したものである。野菜の用途別需要は、①食品加工企業がカット野菜、冷凍野菜、ジュース等の加工原料として使用する加工原料需要、②外食・中食企業が食材として使用する業務用需要、③消費者が小売企業等から購入し家庭で消費する家計消費需要の3つに区分することできる(注2)。そして、この加工原料需要と業務用需要を合わせたものが加工・業務用需要である。

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は、主要野菜の用途別需要のうち、この加工・業務用需要の割合の推移を示したものである。主要野菜全体(ばれいしょを除く指定野菜13品目計)の2015年度加工・業務用需要の割合は、2010年度から1ポイント増加し57%となっている。これまで進んできた野菜の加工原料化、業務用食材化傾向がより一層強まっているといえる。

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こうした動きを品目別に見ると、2015年度の加工・業務用需要割合は、にんじん、ねぎ、トマト、だいこんでは6割を超え、たまねぎ、レタス、さといもにおいてもほぼ6割を占めている。

このうち、にんじん、トマトの加工・業務用需要割合の高さは、ペーストなどの濃縮原料(主として輸入品)がジュースなどの加工原料として大量に使用されており、この濃縮原料を生鮮換算した場合、数倍の量の生原料に相当することによる数量の多さがベースになっている。

これに、にんじんの場合、カット野菜用などの多様な加工原料として使用される生鮮にんじんが、トマトの場合、業務筋でのホールトマト缶詰の利用などが加わることによって、加工業務用として使用される数量を押し上げるものとなっている。

ねぎについては、めん類系外食企業をはじめとする薬味需要や多様なカットねぎなどの原料需要増を反映して、加工業務用需要割合は5年前に比べてさらに増加している。

だいこんについては、漬物用の原料需要量は減少傾向にあるものの、外食・中食企業などで使用される、だいこんサラダ、刺身のツマ、おろし、おでん用などの需要が増加し、これに対応したカットなどの各種加工原料需要の増加分が、漬物用原料需要の減少分を上回る形で加工業務用需要の増加をもたらしているものとみられる。

また、たまねぎ、レタス、キャベツについては、外食中食企業の基本的食材として広く使用されていることに加え、カット野菜などの加工原料需要の増加が、加工・業務用需要の増加に影響しているものといえる。さといもについては、不可食部分が取り除かれ価格も安定している冷凍品の原料や和菜用の食材としての利用増などが、ほんれんそうについては、冷凍品の原料需要増などを背景として、それぞれ加工業務用需要が増加しているものとみられる。

このほか、はくさい、きゅうり、なすについては、外食・中食企業における多様な利用に加え、浅漬け(キムチを含む)用の漬物需要が、ピーマンについては、外食・中食企業における生鮮パプリカの利用増が、それぞれ加工・業務用需要割合を押し上げる方向へ作用している。

表4は、加工・業務用需要を食品加工企業の加工原料と外食中食企業などの業務用とに分けて示したものである。13品目全体で見ると、2000年度から2015年度にかけての15年間で、加工原料用は、2000年度の27%から2015年度の35%へ8ポイント増加している一方、同期間の業務用は、27%から22%へ5ポイント減少している。個々の品目をみても、ほぼ同じ傾向を示している。

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ただし、ここで留意しなければならないのは、こうした動きは、外食・中食などの業務筋で使用される野菜の減少を意味するのではなく、外食中食企業の野菜仕入において、ホール形態での仕入から、芯抜き・皮むきなどの前処理やカットなどの一次加工された形態での仕入へ転換する動きが一部では進んだことを反映したものである。

これについては、厨房での人手不足なども背景として、アルバイトなどでも可能な調理工程のマニュアル化や調理時間の短縮化、ロスや生ゴミの発生を少なくすることなどを目的として、前処理や一次加工された野菜のほか、カット野菜に肉・魚・調味料などの食材を組み合わせた「キット食材」などの利用が進んでいることを示している。

また、こうした業務筋での仕入行動に加えて重要なのは、家計消費においてもコンシュマーパックなどのカット野菜の利用が多様な消費者層に普及してきており、これに伴うカット野菜原料需要の増加が、加工原料需要のウエイトの高まりに結びついているものといえる。

注2:野菜の用途別需要の推計方法については、小林茂典「野菜の用途別需要の動向と国内産地の対応課題」、『農林水産政策研究』No.11、農林水産省農林水産政策研究所、2006年7月を参照。この推計値は、国内生産量に輸入量(生鮮換算値)を加えたものから輸出分を除いた「国内消費仕向量」を、粗食料ベース(水分蒸発等の減耗量を差し引いたもの)で推計したものである

) 加工・業務用需要における輸入品利用の動向と特徴

は、加工業務用需要に占める輸入品の割合を示したものである。2015年度の13品目全体の輸入割合は、2010年度から1ポイント減少して29%となっている。13品目全体の輸入量(生鮮換算値)が2010年度から2015年度にかけて約2万2000トン増加している中で、加工業務用需要に占める輸入割合がわずかではあれ減少している。

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このことは、国産野菜の加工・業務用需要への対応の強化が一定程度進んでいることを反映したものといえる。しかし、図示していないが、2015年度の家計消費需要に占める輸入割合は、2005年度、2010年度と同じ2%であり、ほぼ3割の水準にある加工・業務用需要の輸入割合は依然として高いものといえる。

これを個々の品目別に見ると、トマトの場合、輸入割合は8割前後を占める高い水準にあるが、これは、主として、濃縮還元ジュース・ケチャップなどの原料として使用される輸入ペーストの多さのほか、業務筋における輸入ホールトマト缶詰の利用が広く普及していることによる。2015年度の輸入割合は、2010年度に比べて4ポイント増加してさらに高まっているが、これは、2015年度のトマト加工品の輸入量(生鮮換算値)が2010年度に比べて約12万トン増加したことが影響している。

にんじんについては、野菜(および果実混合)ジュースなどの原料となる輸入ペーストのほか、カット野菜などの加工原料や外食・中食用食材として使用される生鮮品が輸入形態の中心である。このうち、2015年度のペーストの輸入量は約20万トン(生鮮換算値)で2010年度とほぼ同じであるが、生鮮品の輸入量が約1万トン減少しており、このことが輸入割合を引き下げる要因となっている。

たまねぎの場合、主な輸入形態は、生鮮品(むき玉を含む)、乾燥品、ソテーなどである。このうち、生鮮品は、カット野菜をはじめとする各種加工原料や外食・中食用食材として、乾燥品は、各種スープ、カレールー、ドレッシング類やインスタント食品の具材などとして、ソテーは、カレールー、各種タレ類をはじめとするさまざまな食品原料として使用される。2015年度の輸入割合は、2010年度に比べて10ポイント以上減少しているが、これは、輸入形態の中心である生鮮品の輸入量が約10万トン減少したことが大きく影響している。この背景として、2015年度の国産たまねぎは、北海道産の豊作により、国内だけでなく、台湾・韓国などへの輸出を行うほど、潤沢に供給できたことも影響していることに留意する必要がある。

このほか、ピーマン、ほうれんそうで、2015年度の輸入割合が2010年度に比べて増加しているが、これについては、ピーマンでは業務筋で広範囲に利用される生鮮パプリカが、ほうれんそうでは冷凍ほうれんそうが、それぞれ輸入量を増加させたことによる。

一方、さといもの場合、中心的な輸入形態である冷凍さといもの輸入量の減少に伴い、2015年度の輸入割合は2010年度に比べ減少している。ねぎについては、生鮮品、乾燥品、冷凍品などの形態で輸入されているが、2015年度の輸入量は2010年度とほぼ同じ水準となっている。

3 国産野菜の加工・業務用需要への対応強化の方向

以上、①主要野菜の加工・業務用需要は引き続き増加しており、その割合は6割近くに達して野菜の加工原料化・業務用食材化傾向が一層強まっていること、②この加工・業務用需要は輸入品との結びつきが強く、その輸入割合は3割を占めていること、③加工・業務用需要の増加と表裏の関係にある食の外部化は、世帯構成の変化などに伴う簡便化志向の強まりを背景として、その動きは今後も継続する可能性が高いこと、を概観した。

こうした状況の中で、今後、国産野菜の販路の確保・拡大を図っていくためには、加工・業務用需要に対応した国産野菜の生産・供給のさらなる強化が必要とされる。この場合、大切なのは、野菜の生産・供給を取り巻く環境の変化を踏まえた、加工業務用対応型の野菜生産・供給体制の構築を図ることである。

中でも、①コメをめぐる状況が厳しさを増す中、今後、増加が見込まれる、水田利用(転作・裏作)などの新たな野菜産地づくりの動き、②異常気象の発生頻度の高まり、③トラックドライバー不足などを背景とした、従来型のトラック物流の困難化などの物流環境の変化、などの新たな動きや環境変化を踏まえた対応が重要である。

) 加工・業務用野菜の生産・供給における「供給リスク」

こうした点を念頭においた、加工業務用野菜の安定供給に向けた体制構築が必要とされるが、ここでいう安定供給とは、「必要なところに、必要な時に、必要な品質・形態で、必要な量を、適切な価格で」供給することを意味している。そして重要な点は、安定供給に係るリスクを「供給リスク」としてとらえ、それへの対応を踏まえた、「供給リスク」軽減型の加工・業務用野菜の安定供給体制の構築を図ることである。

現在の加工業務用野菜の安定供給に係る「供給リスク」は、主として、「作柄リスク」、「価格リスク」、「輸送リスク」の3つのリスクから構成されると考えており、それを概念図的に示したものが図である。

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このうち、「作柄リスク」は、天候不順や病害虫の発生などによる作柄の変動を指している。「価格リスク」は、「作柄リスク」にも関係し、作柄や需給状況などによる数量変動を反映した相場の変動である。そして、「輸送リスク」は、トラックドライバー不足なども背景とした従来型のトラック物流の困難化や気象条件などに起因する輸送障害の発生といった、モノがあっても運べない可能性を意味している。

この場合、重要なのは、異常気象の発生が異常ではなくなりつつある状況(異常気象の発生頻度の高まり)の中で「作柄リスク」が、また、この気象変動などにも関係する突発的・一時的な輸送障害の発生の可能性に伴う「輸送リスク」が、それぞれ高まることによって、これらに起因する「価格リスク」はより一層高くなることである。さらに、加工業務用野菜の供給において留意しなければならないのは、加工・業務用実需者の非弾力的な調達行動が、「モノ不足」に伴う基本的な価格上昇をさらに押し上げる方向に作用することである。

家計消費用の場合、たとえば、不作などで出荷量が少なく、価格が高めで推移するときは、小売企業における4分の1、8分の1カットなどの販売単位の小型化による弾力的な対応が可能である。

これに対して、加工・業務用の場合、外食中食メニューや野菜加工製品の内容の短期間での変更は困難であること、加工施設の稼働率の維持を図る必要があること、などにより、「定時・定量・定質・定価」および周年安定供給に対する要求が強く、加工・業務用実需者の調達行動は、小売企業のそれに比べて非弾力的な性格を有している。

このため、加工・業務用実需者およびそこへの納入義務を負っている中間事業者は、「モノ不足」状態のなかで必要量の確保を図るため、卸売市場などでの追加購入の動きに向かいがちであり、このことは基本的な価格上昇の幅をさらに押し上げる方向に作用する。

) 物流機能の一層の活用による、加工・業務用野菜の安定供給体制の構築

こうした点を踏まえながら、安定供給を図るために必要な、加工・業務用対応型の野菜生産・供給体制の概要を模式図的に示したのが図である。

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加工・業務用野菜の生産・供給において、中間事業者は、産地と実需者をつなぎながらさまざまな調整活動を行っており、「必要なところに、必要な時に、必要な品質・形態で、必要な量を、適切な価格で」供給する上で重要な役割を担っている。

従って、安定供給に係る「供給リスク」の内容は、中間事業者が担っているリスクと重なる面が多い。これに関連して、中間事業者は、加工業務用実需者が求める「定時・定量・定質・定価」および周年安定供給に応えるため、①収穫・出荷が同じ時期の調達先(契約産地)の複数化、②収穫・出荷時期が異なる産地の収穫時期の流れに沿ったリレー出荷の調整、などを行いながら「供給リスク」の分散・軽減を図っている。

ア 「現場確保」を図るための「一次貯蔵活用型」物流の仕組みづくり

こうした中間事業者の調整活動にも重なりながら、加工・業務用野菜の「供給リスク」の軽減については、「数量・価格・品質の相対的安定化」を図る仕組みづくりと密接に関係する。上述したように、「供給リスク」は、「作柄リスク」、「価格リスク」、「輸送リスク」の3つのリスクから構成されると考えるが、この3者に共通するリスク要因として最も重要なのは、不作時などにおいて、「必要な時に、必要なモノを入手できない」という「現物確保」の困難性に起因するものである。

このため、「供給リスク」の軽減を図るためには、「現物確保」を可能とする方策が不可欠であり、そのためには、当該時期に収穫されるものだけでなく、当該時期以前に収穫された「品質状態のよいもの」を一定量、ストックポイントなどで一時貯蔵し、この貯蔵品も生産者・中間事業者・実需者などから構成されるグループ内で計画的に利用することによって、「モノ不足」状態に陥るリスクをグループ全体の取り組みの中で軽減していくことが重要である。

この場合、収穫した野菜(特に遠隔産地で収穫された野菜)を順次、消費地や中間地点のストックポイントまで運ぶことが必要となるが、①トラックドライバーの不足などを背景とした、従来型のトラック物流の困難化といった構造的な課題や突発的・一時的な輸送障害への機動的な対応に加え、②大量輸送による輸送コストの低減という観点から、幹線輸送手段をトラックから鉄道・船舶へ転換する「モーダルシフト」が重要な取組事項となる(輸送コストの低減については、積載率の向上などを含む共同物流の取り組みや、ロットの大型化や荷役作業の省力化・効率化などに必要な広域集出荷体制(施設)・消費地分荷体制(施設)の整備も重要)。

そして、加工・業務用実需者の周年安定調達要求に対応し、リレー出荷の仕組みの中にストックポイントなどでの一時貯蔵の活用を組み入れて、周年にわたる「現物確保」を可能とする体制の構築が重要であり、これについては、一般的な「リレー出荷」ではなく、「リレー・貯蔵出荷」と呼ぶことができる。

イ 新たなリスクの発生とそれへの対応

ただし、ここで留意しなければならないのは、ストックポイントなどを活用した一時貯蔵の実施により、新たなリスクが発生することである。その主なものとして、「品質低下リスク」、「余剰リスク」、「貯蔵コストの発生」の3点を挙げることができる。これらのリスクへの対応のうち、「品質低下リスク」への対応として必要不可欠なのは、当該時期以前に収穫された「品質状態のよいもの」を貯蔵することであり、今日のさまざまな鮮度維持技術は、高鮮度・低コストで貯蔵できる仕組みをハード面から支えるものとなる。「余剰リスク」への対応については、いかにして相場に影響を与えずに有効利用するかが重要であり、乾燥野菜(粉末を含む)、冷凍野菜、ペーストなどのより保存性の高い形態への加工とそのグループ内などでの利用を図る仕組みづくりが重要である。また、「貯蔵コストの発生」への対応については、受益者負担の観点に立った、貯蔵コストなどに係る関係者の応分の負担のルール化が重要な検討事項であるといえる。

これらの点を踏まえながら、「現物確保」に向けた一時貯蔵などの物流機能の一層の活用による、「数量・価格・品質の相対的安定化」に向けた「供給リスク」軽減型の加工・業務用野菜の安定供給体制を、関係者の連携・グループ化を基盤として構築していくこと重要である。

(3) 水田利用(転作・裏作)などによる新たな野菜産地の形成に向けて

そして、この加工・業務用野菜の生産体制については、既存の野菜産地の対応はもとより、水田利用(転作・裏作)などの新たな野菜産地づくりの動きを、今後の加工・業務用野菜の生産基盤の強化へとつなげていくことが重要である。

これについては、後発産地としての参入であるため、品目、出荷時期、販路などの選定(中間事業者などとの連携による販路・出口を確保した取)はもとより、その担い手や産地規模など将来の産地の姿も見据えた産地戦略の明確化が不可欠である。

また、新たな品目の導入にあたっては、生産者の自己負担・初期投資の軽減を可能とする、農業機械の共同利用体制の構築のほか、地域全体としての規模拡大、計画的出荷などに向けた、集出荷・調製・貯蔵などに係る共同利用施設の整備や、収穫・選別・調製作業などに係る支援体制の構築も重要である。

さらに、省力化・規模拡大などにも不可欠な機械化一貫体系などの導入はもとより、水田利用(転作・裏作)における野菜生産での単収の向上・安定化を図るためには、当該地域のじょう条件などに適合した、効果的な排水対策をいかにして実現させるかが重要な技術的課題となる。



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