株式会社前川製作所 食品事業ブロック 課長 比留間 直也
【要約】
マイコンスーパーフレッシュは飽和に近い低温の空気を作り出す「除湿を防いだ超高湿クーラー」である。低温保存で青果物の呼吸を抑えるとともに、庫内の湿度を95%以上に保つことで、青果物からの水分蒸発を抑える。このクーラーで庫内の温度と湿度がブレない環境を整えることで、多くの青果物で通常の冷蔵庫の3倍から5倍程度の長期保存が可能になる。
野菜の全需要量に占める加工・業務用需要の割合が6割近くになっている。その中で、特にカット野菜の販売数と販売金額が右肩上がりで増加し、消費者は安心・安全・おいしさに加え、健康志向や手軽さを望んでいるといえる。こうした状況を反映して生産から集荷、加工、流通、販売のフードチェーンも従来の流れから大きく変化している。
一方、政府は農業の成長産業化と国際的な競争力強化を打ち出している。2020年までに農林水産物・食品の合計で輸出額を1兆円にする目標を掲げ、青果物の輸出増が期待されている。
そうした背景の中、青果物の鮮度を長期保存する技術が求められているが、当社は、1924年の創業以来、低温貯蔵やCA貯蔵(Controlled Atmosphere 貯蔵)など農産物の鮮度保持に取り組み、関係機関などとの連携により、加湿コンテナであるマイコンスーパーフレッシュ(以下「スーパーフレッシュ」という)による長期保存技術や海外輸出の実証に取り組んできたので、概要を紹介する。
生産から消費までのフードチェーンを見ると、業界ごとに青果物の鮮度に対するこだわりと長期保存への期待が見られる。
減農薬栽培や地域ブランド化など生産段階での差別化が進んでいるとともに、キャベツでは加工用原料の通年供給確保のため、産地リレーやモーダルシフトを進めている。レタスでは朝採りや予冷など、収穫後の鮮度を保つ工夫を積極的に取り入れている。また生産現場では、生産者の高齢化や収穫作業の効率化から、収穫機の導入が始まった。
加工・業務用では、ホール野菜(家計消費用)と比べて、付加価値を高めると共に製品化することで販売価格の安定が図れるため、売り上げを伸ばしている。背景として単身世帯や共働き世帯の増加で食の簡便化が進んでいることや、外食・中食などの業務人材不足で調理作業の省力化ニーズが高まっている点が挙げられている。品質の点では鮮度やテクスチャーはもちろんのこと、傷んだ葉や芯を抜いた状態で歩留まりの高い野菜が望まれている。また、産地指定の商品が増え、天候不順で原材料が欠品しないように食品メーカーや物流会社から原料保存の需要が高まっている。一方、食品製造工場では虫や異物の選別に人手がかかっており、カット野菜など加工品での納入の要望が増えている。
産地・中間地・消費地で動向が異なる。産地では市場流通品以外に加工・業務用向けの青果物が増え、通年出荷用に数カ月単位の長期保存が進んでいる。ばれいしょ専用やにんじん専用といった品目専用の大型冷蔵庫が多い。中間地の物流センターでは、端境期に良品を出荷できるように数週間から1カ月程度の長期保存の需要が増加している。保存形態はプラスチックボックスコンテナ(プラコンテナ)や段ボールに入れた状態での混載が多い。
消費地では、外食産業向けの小分け包装(リパック)で鮮度を維持して出荷できるように1週間程度の保存需要が増加している。ホールの状態でプラコンテナや段ボールで保存されているものも多いが、フィルム簡易包装されたものやカットされた食用の花など形状は多岐にわたる。
味や品種、栽培方法など、ここでしか買えないこだわりの製品が増えている。少しでも長く保存できる技術、端境期を外しても出荷できる保存の期待が多い。また、産地近郊の直売所に加え、都心での直売所やアンテナショップの展開が進んでいる。生産者と実需者の両者の情報を共有、マッチングフェアなどを通じた、市場外流通への積極的な取り組みが進んでいる。
外食チェーンでは、加工品の品質安定のために原料管理に気を配っている。ところが産地や収穫時期によっては品質が変化するため、こだわりの産地の原料を通年確保するための長期保存のニーズが高い。スーパーやコンビニエンスストアでは健康志向や手軽さに加え、新商品による需要拡大戦略でカット野菜のパック需要が高まっている。
一方、インターネット通販を利用した青果物の宅配サービスが拡大し、消費者が有機野菜や低農薬などのこだわりの青果物を手軽に手に入れることができるようになった。同時に生産者の取り組みや産地情報により消費者が安心して購入できる仕組みが広がっている。
アジアをはじめとする海外では、日本の青果物は安心・安全であるとともに、健康維持のための薬効的な期待も大きい。同時に海外への輸送インフラ整備も進んでいる。一方、コストダウンのために航空機輸送からコンテナ輸送へ切り替える取り組みが進んでいるが、日本からの青果物は少量多品種のため、1品目でのフルコンテナ化が難しいなど課題も多い。
一般的に青果物には5度程度の冷蔵庫保存が使われてきた。ところが長期保存の場合、温度や湿度の環境変化は青果物の品質にじわじわと影響する。また、青果物の種類によって温度適性があり、温度が合わないと突然障害が発生する場合がある。そこで「いつでもシャキシャキのサラダが食べたい」、「味や鮮度にハズレの無い野菜や果物をいつも食べたい」や「長期保存したいがフォークリフトでの搬送やリパックなど頻繁に出入りがある」といったニーズに応える技術が要求される。
一方、温度以外を制御することでこれに答える技術が実用化されている。なお、技術は万能ではなく一長一短があり、用途によって使い分ける必要がある。
水蒸気がリッチな雰囲気を作り青果物からの蒸散を抑えて保存する。一般的には低温と組み合わせることで呼吸を抑制する。実際はプラコンテナや鉄コンテナなどに入れてばら積みで保存することが多く、保存中も人が出入りして作業する。循環空気にオゾンなどを混ぜ、殺菌作用を持たせることができるため、カビによる腐敗が発生しやすい品目や、換気をしながら保存が必要な青果物に向く。半面、結露など管理によっては雑菌が発生しやすい。クーラーだけでなくエアカーテンや二重扉など作業中も外気を入れない工夫が必要でコストがかかる。スーパーフレッシュ冷蔵庫は、これに該当する。
外気を遮断して庫内の空気組成(窒素/酸素/炭酸ガス)を調整し、低温環境にすることにより、青果物の呼吸を最小限に抑制して鮮度や品質を長期間保つ貯蔵システムである。1970年代に採用されて以来、りんごの長期保存が有名である。半面、気密性を保つために設備コストがかかる。空気組成を調整しているため保存中は人が出入りできない。また、冷凍機は除湿するため、萎れやすい野菜には不向きである。
個包装することで青果物からの蒸散を防ぐ。酸素透過性の異なる素材を使うことで空気組成を調整し、CAと高湿度の利点を生かした保存ができる。また、個包装のため、共腐れの危険分散ができる。半面、包装設備コストと資材のランニングコストがかかる。
スーパーフレッシュは、飽和に近い低温の空気を作り出す超高湿度クーラーで、以下の特徴を持つ。また、顧客の冷蔵庫の規模やニーズに合わせて最適な設計を行い、数坪の冷蔵庫から数千トンの大型保存庫まで実績がある。
一般的に冷蔵庫で、加湿器を使って湿度コントロールを行うと、冷蔵庫内で加湿(加湿器)と除湿(蒸発機)の2重サイクルが回り、特に大きな空間では湿度を一定に保つことが難しくなる。スーパーフレッシュは、蒸発機に直接散水装置を組み込むことで飽和に近い低温の空気を作り出す「除湿を防いだ超高湿クーラー」である(写真1、図1)。
庫内は常に90%以上の飽和に近い空気状態を保ち、青果物への結露を防ぎながら蒸散を防ぐ仕組みである。
庫内のほこりや雑菌などは水に取り込まれクリーンな空気が庫内循環する。
スーパーフレッシュは顧客の冷蔵庫の規模やニーズに合わせて最適な設計を行う。今回20フィートリーファーコンテナにスーパーフレッシュを組み込んだ「スーパーフレッシュコンテナ」を試作し、青果物の長期保存実証試験を行った(写真2)。なお、データは平成28年度青果物流通システム高度化事業(全国推進事業)貯蔵技術検討委員会(以下「青果物流通システム高度化事業」という)で実施した保存試験と平成26年度北海道経済産業局ものづくりネットワーク形成支援事業(注1)(以下「ものづくりネットワーク形成支援事業」という)で、実施した北海道からシンガポールへの青果物の輸出実証試験の一部を紹介する。
注1:経済産業省が平成26年度補正予算で「地域オープンイノベーション促進事業(ものづくりネットワーク形成支援事業)」の公募を実施したところ、北海道経済産業局経由で応募した(株)前川製作所の「次世代型鮮度保持コンテナの開発」が採択された。
野菜の安定供給やカット野菜の需要拡大に対する長期保存のあり方に対して生産、流通、加工といった専門委員の意見を基に最新の技術の検証を行った。平成28年度はその中でも加工の需要が高く長期保存が望まれているにんじん、キャベツ、レタスについて試験を行った。
一般的に収穫したにんじんは茎、根切り、洗浄工程を経て、鉄コンテナに積載して冷蔵庫などで保存される。水気を嫌う野菜と言われ、水滴がついていると傷みやすい。保存期間は数週間で、保存中に黒斑点症状を示す黒スス病が発し、歩留まりを大きく下げることが問題となっている。そこで試験では市場経由のにんじんをクール宅配便で当社の実験施設がある茨城県の守谷工場まで輸送し、スーパーフレッシュコンテナで2カ月間保存した。一般の冷蔵庫との比較試験を行うためリーファーコンテナを準備して対照区(注2)とした(写真3、4)。測定項目などは以下に示す。
・品 目:にんじん(北海道産)
・試験期間:2016年11月2日~2017年1月6日
・保存場所:スーパーフレッシュコンテナ(試験区)、リーファーコンテナ(対照区)
・保存温度:2.5度
・保存方法:プラコンテナ
・測定項目:外観、重量歩留、腐敗率
スーパーフレッシュコンテナは小型のスーパーフレッシュクーラーを搭載して高湿度環境を作っている。リーファーコンテナは一般的な冷蔵設備で湿度は成り行きである。
スーパーフレッシュは湿度が95%以上で安定している点が大きな特徴である(図2)。
リーファーは湿度が70~80%の間で常に変動している。一般的に冷蔵庫は湿度が変動する(図3)。
保存中のにんじんの経時変化を見ると、保存1カ月の時点でリーファーのにんじんは乾燥とともにカビによる腐敗が急速に進行した。スーパーフレッシュでは1カ月は大きな変化は無いが、2カ月では表面がわずかにやせた感じが見られた(写真5~11)。
減耗率(保存中のにんじんからの水分の蒸散)はスーパーフレッシュでは1カ月で7%、2カ月で10%であった。対照のリーファーは1カ月で70%と大きく減った(図4)。
リーファーでは減耗率が進むと同時にカビによる腐敗率が急上昇した。スーパーフレッシュでは2カ月経っても腐敗は0であった(図5)。
注2:ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験を対照実験という。当該実験で比較対象を設定する際、ある特定の条件を除外して行われる一連の実験は試験区といい、一方を対照区という。
一般的にキャベツは大きな外葉を外して鉄コンテナに積載して冷蔵庫などで保存される。家計消費用と加工用では品種が異なり、加工用の方が大玉で巻が多い。また冬キャベツと春キャベツがあるが、冬キャベツの方が、加工特性が良く好まれる傾向にある。北海道から九州までを産地リレーで結び通年の生産を確保していて、最近では自動収穫機による省力化やJR貨物を使った輸送(モーダルシフト)も進んでいる。一般的に保存期間は冷蔵庫で数週間程度と言われている。
試験では市場経由のキャベツをクール宅配便で茨城県の守谷工場まで輸送、スーパーフレッシュコンテナで2カ月間保存した。一般の冷蔵庫との比較試験を行うためリーファーコンテナを準備して対照区とした。測定項目などは以下に示す。
・品目:キャベツ(茨城産)
・試験期間:2016年11月2日~2017年1月6日
・保存場所:スーパーフレッシュコンテナ(試験区)、リーファーコンテナ(対照区)
・保存温度:2.5度
・保存方法:プラコンテナ
・測定項目:外観、重量歩留、腐敗率
保存中のキャベツの経時変化を見ると、保存1カ月の時点でリーファーのキャベツは急速に乾燥し、痛んだ葉からカビが発生し、2カ月目にはさらに進行した(写真13、15、17)。スーパーフレッシュでは1カ月は大きな変化は無いが、2カ月では表面の葉が黄色く変色した(写真12、14、16)。
2カ月経過すると外側の4枚は黄色く変色した。一部でカビが発生したものも見られた(写真18)。
ただし表面の葉を4枚外すとほぼ痛みの無い状態になった(写真19)。
表面の緑色も残っており、カビの影響も受けていないため、加工用としては歩留まりが高い。
内部芯の部分の成長も少なく腐敗もない(写真20)。
減耗率(保存中のキャベツからの水分の蒸散)はスーパーフレッシュでは1カ月で5%、2カ月で9%であった。対照のリーファーは1カ月で17%、2カ月で23%でと大きく減り、明らかに軽くなった(図6)。
リーファーでは重量の減少とともに1カ月で全体にカビが発生した。スーパーフレッシュでは1カ月では腐敗0、2カ月でも10%とカビによる腐敗を低く抑えた(図7)。
一般的にレタスは気候に影響を受けやすく、かつ収穫後鮮度の劣化が進みやすい野菜である。このため収穫は、夜明け前から行う朝採りを行ったり、真空予冷で急速に冷やす工夫が流通に導入されている。それでも流通や保存の過程で腐敗が生じやすく日持ちがしない野菜の代表である。
試験は市場経由のレタスをクール宅配便で茨城県の守谷工場まで輸送、スーパーフレッシュコンテナで2カ月間保存した。一般の冷蔵庫との比較試験を行うためリーファーコンテナを準備して対照区とした(写真21)。また段ボールとの比較も行った。測定項目などは以下に示す。
・品目:レタス(静岡産)
・試験期間:2017年1月17日~2月17日(1カ月)
・保存場所:スーパーフレッシュコンテナ(試験区)、リーファーコンテナ(対照区)
・保存温度:2.5度
・保存方法:プラコンテナと段ボール
・測定項目:外観、重量歩留、腐敗率
保存中のレタスの経時変化を見ると、保存0.5カ月の時点でリーファーのレタスは急速に乾燥し、表面の葉は萎れた。1カ月では腐敗が目立った。
スーパーフレッシュでは0.5カ月は大きな変化は無いが、1カ月では段ボール区で腐敗が進行した(写真22~29)。
リーファーでは乾燥による萎れが進み1カ月で10%以上減少した。スーパーフレッシュでは1カ月後も減耗率5%に抑えた(図8)。
1カ月経つとスーパーフレッシュでも段ボール区は腐敗が増加した。通気性の良いプラコンテナは10%以内に抑えた(図9)。
北海道では一次産品から加工食品まで道内のあらゆる産品の集荷が可能な大手生鮮食品卸企業を中心に、アジア・中東への輸出拡大に向けた取り組みが加速している。一方、一次産品のうち特に青果の輸出では、特殊コンテナを活用した鮮度保持輸送が不可欠となるが、温度・湿度の精緻なコントロールを同時に実現可能なコンテナは存在しなかった。
そのため、当社では、青果の長期鮮度保持を実現するための次世代型鮮度保持コンテナを開発して、輸出の際の鮮度保持に関する実証試験を行った。
・輸出国:シンガポール
・品目:トマト、ミニトマト、かんしょ、キャベツ、レタス、ブロッコリ-、ばれいしょ、たまねぎ、ながいも、だいこん、みずな、こまつな、ほうれんそう、ちんげんさい、まいたけ 計15品目
・輸送期間:2016年2月17日~3月12日
・輸送設備:スーパーフレッシュコンテナ
・輸送温度:4度
・輸送方法:段ボール
札幌からシンガポールへの輸出試験は、まず市場経由の青果物15品目を常温トラックで札幌まで輸送、スーパーフレッシュコンテナに載せかえた。コンテナは札幌から苫小牧まで陸送、苫小牧から横浜へは内航船で輸送し、横浜からシンガポールへ外航船で輸送した。到着後に状態の評価を、専門家を交えて実施した(写真30~38)。
適正温度の異なる15品目を4度の条件の混載で輸送したこともあり外観上は葉緑素の変化が見られた。特にちんげんさい、みずな、こまつなは個包装でラッピングされているためリパックが必要であった。ブロッコリーは一部で花が咲いたりカビが発生しているものもあったがおおむね良好であった。トマトは実割れとカビが発生し、レタスは細菌による腐敗が見られ、そのままの状態では販売は難しいと判断した。
かんしょは両端の切り口にカビが見られたが、両端を切り落とすことで問題ないレベルであった。キャベツは表面の葉を数枚外すことで問題なかった。そのほかの品目はそのまま販売しても問題が無いレベルであった。
札幌市からシンガポールまでの輸送には、約1カ月かかり、長期保存できる技術がないとコンテナ輸送が難しいが、スーパーフレッシュコンテナを利用すると可能になることが実証できた。
スーパーフレッシュは飽和に近い低温の空気を作り出す「除湿を防いだ超高湿クーラー」である。低温保存で青果物の呼吸を抑えるとともに、庫内の湿度を95%以上に保つことで、青果物からの水分蒸発を抑える。このクーラーで庫内の温度と湿度がブレない環境を整えることで、多くの青果物で通常の冷蔵庫の3倍から5倍程度の長期保存が可能になる。
これまでの保存は一般的に「温度」のみの1軸による評価で合否を判断するケースが多く、湿度が高いから腐敗が進行するイメージがあるが、必ずしもそうではなく、多くは乾燥などで傷んだ葉に腐敗が生じ、それがまん延して歩留まりを下げていた。また通常難しいとされる温度帯の異なる野菜の混載も「湿度」の条件が入ると問題のない範囲で傷みが収まる場合もある。
今後は「温度」と「湿度」の2軸で評価することで、貯蔵の見方が変わり、日持ちを大幅に伸ばすことが期待できると考えられる。
参考資料
(1)フードシステムイノベーションの現状と将来展望2015 ㈱富士経済
(2)月間マテリアルフロー11 2016 Nov. No.680 流通研究社
(3)平成27年度青果物流通システム高度化事業報告書 平成28年3月:野菜流通カット協議会
(4)平成28年度青果物流通システム高度化事業報告書 平成29年3月:野菜流通カット協議会