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調査・報告(野菜情報 2017年6月号)


鹿児島県日置市におけるアスパラガスの生産
~地産地消の販売戦略で高品質の作物を販売~

鹿児島事務所(現畜産振興部) 篠原 総一郎

要約

 鹿児島県日置市の吹上アスパラガス生産部会は、県内唯一のアスパラガス生産部会である。部会主導の生産・出荷環境整備や技術研修などの取り組みにより、県内の消費者に向けて、鮮度の高い高品質なアスパラガスを出荷している。

1 全国各地で栽培されているアスパラガス

アスパラガスはユリ科の多年生作物で、一度の定植で10年以上の収穫が可能である。現在、日本で栽培されているアスパラガスのほとんどはグリーンアスパラガスで、缶詰として販売されているホワイトアスパラガスは、収穫前のグリーンアスパラガスの芽に土をかぶせて軟白栽培したものだ。近年では生食用のホワイトアスパラガスも生産されているほか、紫アスパラガスといった種類も登場してきている。

土壌や気候など環境に対する適応性の良さから、北海道から九州まで全国各地で栽培されているが、主に寒冷地では露地栽培、温暖地ではハウス栽培されており、本稿で紹介する日置市においても、ハウス栽培が行われている。長年にわたって生産できる一方で、同一の土壌、株を用いた栽培となるため、定植前の土壌整備といった初期環境の整備や年間の生育管理が、翌年以降の収穫量に大きく影響していく作物で、適切な管理を継続して行うことが重要な作物である。

2 鹿児島県日置市の農業

日置市は鹿児島県薩摩半島のほぼ中央に位置し、平成17年に、東市来町、伊集院町、日吉町、吹上町の4町が合併して誕生した(図1)。市の西岸には日本三大砂丘の一つとされている吹上浜が広がり、また東側は鹿児島市と隣接している。日置市を管轄するさつま日置農業協同組合(以下「JAさつま日置」という)は、同市の他、いちき串木野市と南さつま市、鹿児島市の一部を含む地域を担当する広域JAで、管内ではお茶、早期水稲、かんしょ、かんきつ類などの園芸作物や畜産業が盛んに行われている。

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このような立地にある日置市南西部に位置する吹上地域は、鹿児島県では珍しいアスパラガスの生産を行っている。同地域においてアスパラガス生産が始まったのは平成10年のことである。当時の吹上町の新たな特産品づくりを目的として、町やJAの主導のもと生産者4戸、34アールの規模でスタートした。アスパラガスは、かつて県内全域で普及が図られたものの、比較的冷涼な気候を好むため、気温が高い地域などでは広がりが見られなかったが、同地域では平成13年に「吹上町アスパラガス生産部会」(以下「生産部会」という)を設立し、現在に至るまで生産を継続してきた。

3 生産部会の概況

(1)生産者数と栽培面積

生産部会を構成するのは戸の生産者で、平成28年作付面積が1.1ヘクタール、出荷量は15.1トンとなっている。生産者の年齢構成は40代が1戸、残り戸は60代以上となっており、生産額は約2005万円である。春収穫が中心の寒冷地の露地栽培と異なり、全じょうがハウス栽培であり、例年3月上旬から、初夏の立茎を経て10月末まで収穫を行っている。

生産部会の生産者数などの推移は表1の通りとなっている。なお、27年は同じ圃場面積で21.2トンの出荷量があったが、同年8月に、日置市を含む薩摩半島西岸に大きな被害をもたらした台風15号によるハウス倒壊や強風による根への被害などの影響で、28年産の出荷量に大きな影響が出たところである。

現在の主流品種はグリーンタワーだが、改植時には、より汎用性の高いウェルカムの導入も進めている。収量は、2年目から徐々に増加し、5~8年目でピークを迎えるという。

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(2)地域ぐるみの産地維持、発展の取り組み

生産部会は、春、夏に栽培管理などに関する研修会を実施し、年末には年間の生産や販売に関する報告および翌年の対策などを話し合う場を設けるなど、生産計画検討や栽培技術向上に努めている。これらの場には、県の地域振興局や日置市、JAさつま日置の担当者らも出席し、地域ぐるみの産地維持、発展に取り組んでいる。

生産部会では、部会員から生産量に応じて部会費を徴収し、堆肥センター、結束場、保冷庫などの共同で使用する施設の整備や運営に充てている。

20年3月に整備した堆肥センターでは、近隣の畜産農家と、牛ふん提供の契約を結び、安定的に堆肥を生産している。アスパラガスは定植前の土壌形成が重要であることから、10アール当たり20トンほどの牛ふん堆肥を土壌下層に投入して埋め戻している。加えて、定植時には適宜破砕を行い、硬い土壌のままだと根の張りが浅く、排水性も悪くなるため、根群を広く深く張らせるために、可能な限り深耕したうえで表層の作土層に堆肥を5トン投入し十分に耕転している。なお、既に作付している圃場への投入は、1月に10アール当たり5トン、3月に2トンという指標となっている。

18年には、県が認証する「かごしまの農林水産物認証制度(K-GAP)」注1を取得し、以降、現在に至るまで継続して認証を更新している。同制度では10年以上にわたり継続して認証を取得している団体などを「K-GAPマイスター」として認定しており、生産部会も同マイスターに認定されている。加えて、部会員全員がエコファーマー(注2)の認定を受けており、土壌診断や減農薬栽培といった環境に配慮した生産に取り組んでいる。

注1:生産者の安心・安全な農林水産物を生産する取り組みを消費者に正確に伝え,鹿児島県産農林水産物に対する消費者の安心と信頼を確保するため,安心と安全に関する一定の基準に基づき審査・認証機関が認証する鹿児島県独自の認証制度。

注2:「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」において、土づくりや化学肥料,化学合成農薬の使用低減のために導入すべき技術が定められており,これらの技術を導入して農業者が策定した「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」を各県の知事が認定する仕組みになっている。この「県知事が認定した農業者」のことを「エコファーマー」と呼ぶ。

(3)栽培の工夫

台風襲来地域ならではの工夫も行っている。ハウスの柱を太く強固なものとし、吹き込んでくる雨を効率的に外に流し出す排水溝などを整備することで、台風の風雨被害を防ぐようにしている(写真1、2)。また、頑強なハウス構造にするために通常のハウスを3棟つなげたような構造となっている。このことは管理作業などが行いやすい反面、風通しがやや悪くなるため、防虫対策を行った上でビニールを開けるなどの工夫を施している。

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ハウス環境では風雨による病原菌感染拡大が防げるため、茎枯病などの病気の発生は比較的少ない。一方の害虫については、ハウス環境、気候ともに温暖であることから、夏季にネギアザミウマ(スリップス)、ハダニ、ハスモンヨトウなどの発生が見られる。そのため、走光性を利用した黄色灯を用いた捕獲や、フェロモントラップによる発生状況確認などを実施している。

以上のような、生産部会の一体的な活動は、生産者それぞれの生産意欲はもちろんのこと、JAなどによる支援も大きな影響を及ぼしているといえる。現在、JAさつま日置でアスパラガス部門を担当して6年目の西元大介主任は、日々の生産者宅訪問や技術指導などを通じて、生産者一人一人に寄り添うように支援を行っている。

4 内田力氏の経営

生産部会員の一人、うちちから氏の生産圃場を訪ね、経営状況などを伺うことができた。

内田氏は現在76歳で、会社勤めの後、作業員として働いていたが、アスパラガス生産者が高齢を理由に経営から退いたため、昨年、圃場やハウスなどを含め経営を引き継いだ。内田氏も70代ではあるが、自身は健康であり、圃場が結束場に近く、大型機械を扱うなどの重労働も比較的少ないことから、アスパラガスは比較的高齢者でも生産しやすいという。

会社勤めの頃は、特に農業との関わりはなかったが、一度、新聞で吹上地域のアスパラガス紹介の記事を読んだことがあり、「自分の住む地域でそんなものを生産していたのか」と驚き、頭の片隅にずっと残っていた」と話す内田氏は、退職後、ハローワークでアスパラガス生産の作業員の求人案内を偶然見かけ、応募した。

「六十の手習い」で農業に携わってみた内田氏だったが、次第に農産物生産の面白さに目覚めていった。就農当初は、永年性の作物は管理作業も簡単なのではないかと甘い考えも持っていたが、施肥やかん水のさじ加減や、収穫や立茎のタイミングなどの細かい管理が翌年の収量にダイレクトに反映されることに、失敗も経験しながら次第にやりがいを感じるようになった。

もう一つ、内田氏がアスパラガス生産に本腰を入れるようになったきっかけが、アスパラガス生産の盛んな佐賀県の生産者との交流経験である。内田氏の親戚が佐賀県に在住しており、偶然にも、その親戚宅近辺にアスパラガス生産者がいた。内田氏は、飛び込みでその生産者を訪ね、栽培技術などの教えを乞うた。幸い、快く指導を引き受けてもらえたため、内田氏はその後も何回か、この生産者を訪ねて指導を受けることができたのである。

現在の生産規模は、ハウス4棟で約20アール。アスパラガスの専業で労働力は基本的に内田氏1人だが、必要に応じて家族や親せきの手を借りることもある。

内田氏の年間作業スケジュールは図通りである。

年間作業の中でも、特に重要な項目が立茎作業である。立茎作業とは、春期の収穫を適時に止めて茎を伸ばして展開させ、秋期にかけて光合成を行わせることで養分を蓄積させることを指す。貯まった養分は、冬期になると根に送られて、翌春に発芽する茎の養分となる。すなわち、立茎作業を行うタイミングや管理が収量・品質に影響することとなる。

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収穫から立茎作業に切り替える目安は大きく分けて

①株の年数によって差はあるものの収穫開始から40~60日経過した

②1日当たりの収穫量が約5キロまで落ちてきた

③根の貯蔵養分量が低下して若茎が細くなるなどの茎形状に変化が見られ

の三である。茎径が10~13ミリの茎を10センチ以上の間隔で立て、1カ月ほどかけて素質のいい茎を選んでいく。立茎させる茎が決まったら、それ以外の若茎はすべて収穫する。生産者としては価格の高い春期の収穫量を増やしたい気持ちはあるものの、収穫を欲張りすぎて立茎作業が遅れると、翌年春の発芽に必要な養分を十分に貯蔵できず、収穫量が減少してしまうジレンマがある。

かん水は、時期によって量や頻度は異なるが、畝に横たえてあるホースから土壌の表面が乾かないように注意して行う。

内田氏は、毎日最低1回は、全ハウスの畝を丹念に見回ることを日課としている。見回りを毎日行うことで、害虫や病気などの異変を早期に発見し、迅速な初期対応を施すことが増収につながると考えている。また、見回りを行うということは、ハウス内の温度や風通しの程度を確認することでもあり、年々温暖化が進んでいるように感じているが、アスパラガスに適した温度をなるべく保つように配慮している。

収穫作業は涼しい朝方に実施する。測り棒を用いて27センチ以上となっている若茎を、ハサミを用いて手収穫している。また、夏場は日中に茎が伸びるため、朝夕の2回収穫を行う。

収穫したアスパラガスは、すぐに結束場の保冷庫に運び込むが、結束場は最も近隣のハウスからは100メートルも離れていない場所に位置し、搬入も容易であることも少ない労働力で経営できている理由の一つである。

前経営主が生産中止の意向を示した際、このまま生産部会の生産体制が1戸分減るのか、内田氏が引き継ぐのかは、両者および関係者間で何度も相談が行われ、内田氏自身もかなり迷ったという。しかし、せっかくの特色ある産地をなくしたくないという思いから、承継を決意した。「今年からは経営主なので、責任を持って栽培管理を行っていきたい」と意気込みを語っていた(写真3、4)。

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5 アスパラガスの結束・出荷

圃場で収穫されたアスパラガスは、各部会員が所有しているカット機によって、出荷規格である25センチに切りそろえられ、サイズ分けされる。サイズはから3の5種類である(表)。その後、生産者各自で結束場まで運搬し、結束場内の保冷庫に保管する。

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保冷庫では、収穫後に伸びた茎が曲がらないよう立てて保管する。また、収穫当日は茎の水分量が多いため、結束作業は、適度な水分量となる翌日に行う。

結束作業は、作業員3~4名が行う(図)。まずは、分芽が出ているもの(関係者間では「茎が開く」という表現が用いられていた)や、茎が大きく曲がっているものなどの出荷に適さないアスパラガスを取り除く。

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その後、計量機のホッパー(取り込み口)に1本ずつ投入していくと、計量器のコンピューターが自動的にアスパラガスを選別し、結束機が105グラムの束を作って結束する(写真5)。

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結束されたアスパラガスは、作業員の手によって10束ずつに梱包され、午前午後の2回、結束当日中にJAさつま日置選果場の冷蔵庫に運ばれる。その後、県内各地に出荷される。

取材当日は、まだ出荷開始直後だったため、結束場は午前中のみの稼働であったが、出荷最盛期には、週に6日、時30分から17時まで作業が行われる。

6 県内での販売

アスパラガスは、全量、JAさつま日置を通じて鹿児島県経済農業協同組合連合会(以下「経済連」という)に出荷されている。連合会メインの取扱店であるコープのほか、コープかごしまなど県内のスーパーマーケットで取り扱われている。また、産直品としてコープかごしまへ平成16年ごろから出荷している。

サイズ別では、消費者需要の高い~2サイズがスーパーマーケットで扱われ、3Lサイズは経済連が運営している直売所「おいどん市場」で販売されている。茎の太いアスパラガスは硬いという印象を持たれがちであるが、吹上産は、鮮度の高いまま店頭に並ぶため柔らかく、3Lサイズでの販売も好評である。

ここに、吹上産アスパラガスの、地産地消で産地を確立しているという強みがある。生産量が限られている分、全量を鹿児島県内で販売し、また、県内最大の消費地である鹿児島市に隣接している土地柄を生かし、鮮度の高い品物を販売できている。

出荷シーズン中には、大型店舗を中心に販売店に生産者が出向き、店頭でPR販売を実施している。生産者数が限られているため、1シーズンに数回しか行っていないが、販売店や消費者の反応は良く、実施回数を増やしてほしいなどの要望も受けている。そのため生産部会では、ベーコン巻や浅漬けなどの簡単なレシピを記載したリーフレットなどを作成し、売り場に配置するなどのフォローアップを行っている。

コープかごしまに対しては、生活協同組合ならではの販促活動として、コープかごしまの産直二者認証制度への対応と、産地見学の受け入れに取り組んでいる。

産直二者認証制度とは、コープかごしまが、さまざまな生産物の品質などについて、農薬使用状況など生産から流通に至るまでの各段階における確認事項を生産者と取り決め、毎年、審査、確認するものである。

生産部会においても、年に1回、春の出荷シーズン前に、生産者とJA担当者らで、前年産アスパラガスの減農薬体制や施肥状況、結束場での衛生管理体制実績と当年産の計画をコープかごしまに報告し、審査を受けている。

また、年に1~2回、組合員の産地見学を受け入れており、消費者にハウスや結束場を見学してもらっている。これらの場では、組合員から積極的に質問されるため、生産サイドとしても、新たな視点に気づかされる点が多いという。

7 課題

西元主任によると、JAさつま日置としては生産者、生産規模ともに再び拡大させていきたい意向だという。そのための課題として挙げられるのが、小規模生産者の確保と改植のタイミングである。

アスパラガスは、一度定植すると何年間も同一圃場、同一サイクルで生産を行うため、アスパラガス専業で新規就農すると、作物転換が困難になったり、栽培技術の応用範囲が狭められたりする恐れがある。そのため、生産部会や関係者は、水稲やその他野菜などと組み合わせて、数アール規模から生産を始める者を育成できるような経営モデルを検討中である。

改植のタイミングについては、10年先を視野に入れて行われることが望ましいが、改植後1年間は株の養成で収入がなくなるため、病害虫の発生などによる大幅な収量減少が発生した時などに限り、ハウス単位で実施されているのが現状である。一方、畝ごとに少しずつ改植を行えば、収入減を小幅に抑えることはできるが、改植時の違いによる株年数のバラツキを、効率的に管理する必要が生じるという。そのため、改植は経営状況などを見極めながら、臨機応変に実施していかなくてはならない。

県内での知名度は一定程度確立できていることから、改植を効率的に実施して10アール当たりの単収を3トンまで押し上げることができれば、高い需要にも応えていけるのではないかと西元氏は考えている。

8 まとめ

3月30日に、平成29年産のアスパラガス出発式が、結束場にて関係者参集のもと行われた。例年、出式は3月上~中旬に行われるが、今年産については、先述の27年の台風15号による影響が依然として残っており、生育に遅れが見られ、月末での開催となった。

このような状況のため、取材を行った3月中旬頃においては、筆者の確認した範囲では、吹上産のアスパラガスが陳列されていたのは鹿児島市のコープのみで、他の販売店では佐賀県や長崎県産が並べられていた。ただし、販売担当ではない西元氏のところにも、販売店から「今年の本格的な流通はいつごろになるのか」という問い合わせがあったということで、歯がゆい思いをしたという。出発式の模様はニュース番組や新聞などでも取り上げられ、周囲の注目の高さをうかがわせている。

今回の取材を通じて、長い期間生産が続けられるアスパラガスだからこその、関係者間連携の重要性を感じた。生産部会員もベテランぞろいであり、高い生産技術を持って生産に取り組んでいるため、担当6年目の西元主任でも、未だ教え教えられつつの関係であるように見えた。しかし、結果としてそれが双方の関係をより深いものとし、部会の生産が今日に至るまで継続されてきたように思われた。生産部会員は少数であるが、部会費を活用して生産環境を整備してきた。こういった部会活動が部会員一人一人の生産意識を高め、かつJAなどと連携し、貴重な県内産アスパラガスを生産しているという誇り、やりがいに通じているのではないか。

部会員には40代の生産者もおり、JAとしてもその生産者などを手本にしながら若手生産者の育成に努めていきたいということで、将来的には高い需要に応えられるようなアスパラガス生産体制が整うことを期待したい。

お忙しい中、取材にご協力いただいたJAさつま日置の西元大介主任、生産者の内田力氏にこの場を借りてお礼申し上げます。



参考文献

元木悟・井上勝広・前田智雄(2008)『アスパラガスの高品質多収技術』農山漁村文化協会

元木悟(2003)『アスパラガスの作業便利帳』農山漁村文化協会

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