三重大学大学院 生物資源学研究科 教授 徳田 博美
【要約】
いちごは労働集約性が高いため、農業労働力の高齢化・減少によって生産が減少している。そのため、出荷調製作業を受託するパッケージセンターを導入するいちご産地が増え、生産者の労働負担を軽減するとともに、浮いた労働力を生かし、所得拡大につなげることも期待されている。導入6年目の唐津農業協同組合では、いちご生産者減少を抑えるという点では一定の効果がみられるが、所得拡大では目に見える変化はまだみられない。パッケージセンターを生かしたいちご産地づくりには、長期的な展望を持った取り組みが重要であろう。
現在、わが国の農業で最も大きな問題は、農業従事者の高齢化、減少である。労働集約性の高い野菜農業では、労働力不足はより深刻である。そのため、野菜産地では労働力不足対策は喫緊の課題となっている。
その主要な方策の一つが、農作業受託事業の導入である。野菜産地では、野菜作を対象とした農作業受託事業を実施する農協が増えている。受託対象となる農作業は、第一に労働ピークを形成しており、第二に機械化の進展などによって、効率的な事業運営が可能となっている農作業である。そのような農作業の一つが出荷調製、すなわち選別、箱詰め作業である。これまで果菜類などの出荷調製の機械化が進んでいた野菜で、農協共販と一体化した形で、農協が出荷調製作業を請け負う共選共販事業が行われてきた。近年、共販とは一体化せず、希望者のみの出荷調製作業を受託するパッケージセンターの設立が広がっている。
パッケージセンターはさまざまな品目を対象として開設されているが、その数が増えているのがいちごである。いちごは労働集約性の高い品目であるが、特に収穫、出荷調製の時期には大きな労働ピークを形成し、いちご生産者は、その時期には長時間の労働を強いられてきた。そのこともあり、いちご生産者の減少が、近年加速化している。いちご生産者の労働負担の軽減を主な目的として、パッケージセンターを設立する産地が増えているが、いちごでは選別・箱詰め作業の機械化は遅れており、ほとんどのパッケージセンターは、手作業を主体とした作業体系を採っている。そのため、処理能力は限られており、いちご出荷量の中で、パッケージセンターで処理できる比率は低い場合が多い。
そのような中で、機械化の進んだ大型のパッケージセンターを整備し、いちご出荷量の大部分をパッケージセンターで処理できるようにしたのが、唐津農業協同組合(以下「JAからつ」という)である。JAからつのパッケージセンターは、いちご生産者および生産量を維持していく上で、貴重な取り組みである。本報告では、JAからつのいちごパッケージセンターの実態を紹介し、その効果と課題について検討したい。
JAからつの事例を紹介する前に、いちご生産の全国的な動向をみておきたい。
図1は、2005年以降のいちご生産者の変化を示したものである。2010年までは販売農家数、2015年は農業経営体数を示しているので、単純に比較できないが、この10年間でいちご生産者は大幅に減少していることがわかる。2005年には4万4000戸であったのが、2015年には2万4000経営体となった。10年間でほぼ半減しており、まさに激減している。その結果として、いちご生産も大幅に減少している。図2に示すように、2000~15年でいちご作付面積は26.8%、収穫量は22.7%減少している。年率に直すと、作付面積は2.1%、収穫量は1.7%の減少となる。
このような減少の背景として、まず指摘できるのは収益性の低さである。農林水産省の農業経営統計によると、2012年から14年の平均の数値で、施設いちご経営の農業所得は324万円にすぎず、施設野菜経営全体の数値と比べても74.5%にとどまっている。家族労働1時間当たり所得も700円であり、施設野菜経営全体の73.8%である。しかし、近年、いちご価格は上昇しており、一定の収益性の回復が指摘されている。それでも、いちご生産者の減少には下げ止まる気配はみられない。
いちご生産者減少のもう一つの大きな要因として、過重な労働負担がある。農業経営統計による施設いちご経営の年間の家族労働時間は4667時間(2012~14年平均)である。月平均農業経営関与者は2.49人であるので、農業経営関与者1人当たり労働時間は1874時間となる。
しかも農作業は収穫、出荷調製時期に集中している。図3にいちごの農作業別労働時間割合を示したが、収穫・調製が29.1 %、包装・荷造・搬出・出荷が23.8%であり、両者で労働時間の過半を占めている。収穫・出荷調製時期には、それ以外の作業も行われるので、その時期への労働の集中はきわめて大きい。この時期の農作業は、朝に収穫を行い、その後、夜遅くまで選別、箱詰め作業が行われる。しかも、収穫適期の短いいちごは、収穫を休むことができないため、連日の作業となる。このような労働が、いちご生産者の離脱を早め、新たな生産者の確保を難しくしている。
このような状況の中で、収穫・出荷調製時期の労働負担の軽減抜きには、いちご産地の維持は困難となっている。そのための方策として、いちご産地の中で導入が進んでいるのが、出荷調製作業を受託するパッケージセンターである。いちごのパッケージセンターの中でも、大型で最先端の施設を導入したのがJAからつである。
佐賀県はいちごの主産県の一つであり、いちごは2015年における佐賀県の農業産出額の7.5%を占めている。佐賀県の中でもJAからつ管内はいちごの主要産地であり、作付面積でみると佐賀県全体の32.1%を占めている。
JAからつは、佐賀県北部の唐津市と玄海町を管内とする農協であり、唐津市、上場、佐賀松浦、松浦東部の4農協が2006年に合併して設立された。2016年度末の正組合員は5844人である。JAからつ管内の主要な農産物は肉牛、みかん、いちごであり、いちご生産者の多くは、いちご
を基幹品目とした水稲との複合経営である。2015年度の農産物販売金額は268億5000万円であり、そのほぼ半分は肉牛を主体とした畜産物である。次に大きいのは野菜で62.7憶円であり、そのほぼ半分がいちごである。畜産を除くと、いちごはみかんに次いで販売金額が多く、基幹品目となっている。
JAからつのいちご生産は、2015年実績で、生産者戸数293戸、栽培面積70.0ヘクタール、出荷数量2915トンで、販売金額は34.6億円である。生産者1戸当たりでは、栽培面積23.9アール、出荷数量9.9トンとなる。
JAからつでも、いちご生産の減少は顕著である。図4に示すように、2005年ころから、毎年生産者10戸、栽培面積2~3ヘクタール程度、減少し続けている。2005年から15年までの間に、生産者戸数は28.2%、栽培面積は29.0%減少しており、出荷数量でも22.9%の減少となっている。生産者1戸当たりの栽培面積はほぼ横ばいで推移しているので、生産者数の減少は、そのまま栽培面積の減少につながっている。図5は2016年にJAからつで調査したいちご生産者の年齢構成である。これは農家の中で最も若い農業就業者(後継者を含む)の年齢による分類である。60歳以上の農業就業者しかいない生産者が44.7%を占めており、栽培面積シェアでも37.3%に達している。一方、40歳未満の農業就業者を確保している生産者は14.4%にすぎず、その栽培面積シェアも17.6%である。このような実態からは、今後、さらに生産減少が加速化することが危惧される。そのため、今後の生産者の減少に歯止めをかけるとともに、生産者の規模拡大を支援することを主な目的として導入されたのが、パッケージセンターである。
JAからつのいちごパッケージセンターは、2010年にまず旧JA上場地区(上場パッケージセンター)で建設された。建設事業費は10億4000万円である。施設規模は、1時間当たり選別処理能力が11.5万個、1日当たり計画処理数量は1万327キログラムとなっている。年間稼働日数120日として、1250トン程度の処理が可能となる。当時の上場地区のいちご出荷数量は1400トン程度であったので、その9割程度の処理が可能となる。
パッケージセンターの処理工程は、図6に示すような流れとなる。生産者から搬入されたいちごは、まず原料予冷庫に搬入される(写真1)。そこから順次出され、選別ラインのパンに乗せられる。パンに乗せるのは人手であるが、その際に目視によって不良果は除かれる。パンに乗せられた果実は、カラーカメラ式画像処理装置で形状、色が計測される。その次にいちごセンサーによって糖度などの内部品質が計測される(写真2)。この2つのセンサーによる計測によって、等階級が決定される。いちごは決められた等階級の排出口で選別ラインから排出され、パック詰め台で人手によってパックに詰められる。いちごを詰めたパックは、パック搬送ラインで運ばれ、パックの形態に応じて、フィルムを被せられたり、段ボール箱に詰められたりして、製品予冷庫に入れられる(写真3)。
施設がフル稼働する場合に必要な作業員数は約100人である。作業員1人当たり処理数量は、1時間当たり50パック(1パック270グラム)程度となる。生産者が個選で行うと、1人1時間で20パック程度となるので、約2.5倍の作業効率の向上となる。またパッケージ作業場は、空調が完備され、入場する際にはエアシャワーを通らなければならず、農産物集出荷施設としては衛生管理が徹底している。
JAからつでは、2015年に2つ目のいちごパッケージセンター(唐津地区パッケージセンター)を建設した(写真4、5)。2つ目のパッケージセンターは、旧JA上場以外の3つの旧農協管内を対象としており、2つのパッケージセンターで農協管内全体をカバーできるようになった。2つ目のパッケージセンターの総事業費は13.0億円と最初の施設よりもやや多いが、基本的な仕様、規模ともに最初の施設とほぼ同じである。
2つのパッケージセンターで年間2500トン程度のいちごの出荷調製処理が可能と考えられる。最近のJAからつのいちご出荷量は3000トン程度であるので、総出荷量の8割程度はパッケージセンターで処理できるとみられる。
現在のパッケージセンターの利用状況は、上場パッケージセンターは、建設から6年が経過しており、ほぼすべてのいちご生産者が利用している。一方、唐津地区パッケージセンターは建設後間もないこともあり、いちご生産者190戸中利用者は150戸である。未利用者は高齢者、小規模生産者が多い。そのため、栽培面積でみると、利用率は85%程度に高まる。パッケージセンターの利用は生産者の希望によるものであるが、大部分の生産者が利用しており、生産者のニーズに適応した施設整備といえる。
パッケージセンターの効果としては、出荷調製作業での生産者の労働負担の軽減とコスト削減およびマーケティング上の効果が期待できる。
労働負担の軽減に関しては、大きな労働ピークを形成している収穫・出荷調製時期の労働を削減できるので、その効果は大きい。図7は2011年に上場地区で行ったアンケート調査の結果であるが、パッケージセンターを利用することで変わったこととして、「体が楽になった」が19%、「家族の時間がもてる」が31%で、両者で50%を占めており、時間的なゆとりができたことを評価している者が多い。佐賀県農業試験研究センターの調査によると、栽培面積10アール当たりの出荷調製労働時間は、パッケージセンターを利用しない生産者では771時間、パッケージセンターを利用した生産者は223時間となっているので、大幅な労働時間の削減が実現されている。
コスト削減効果を大雑把に試算する。パッケージセンターの利用料金は、施設によって若干異なるが、唐津地区パッケージセンターのいちご1キログラム当たり料金は以下のとおりである。施設利用料(施設償還費相当)20円、資材費70~80円、労務費80円程度(実費)であり、合計で170~180円となる。既述のように個選での作業効率は1人1時間当たり20パック程度であるので、1時間当たり人件費を1000円で見積もると、1パック当たりでは50円となる。パッケージセンターの利用料金から資材費を除くと、1キログラム当たり100円となり、1パックでは27円となる。
このような試算では、パッケージセンターは出荷調製コストの大幅な削減を実現していることになる。ただし、個選での作業では家族労働力が大きな部分を占めている。家族労働の部分は、実際の賃金支出は発生しない。従って、家族労働の削減部分については、パッケージセンターの利用料金の分だけ、生産者の支出は増加することになる。なお、出荷調製作業や収穫作業で雇用労働力を利用していて、パッケージセンターを利用することで、雇用労働を削減できた場合には、その賃金分だけ支出は減る。
パッケージセンター利用のみでは、大幅なコストの削減、所得拡大は期待できない。パッケージセンター利用によって浮いた労働を生かすことで、所得拡大が実現できる。浮いた労働を生かした所得拡大として期待できることは、第一に栽培面積の拡大である。いちご生産では、収穫・出荷調製期が最大の労働ピークとなっており、そこが規模拡大のボトルネックとなっている。収穫・出荷調製期の労働削減が実現できれば、規模拡大の可能性は広がる。
第二に、栽培面積を拡大しなくても、栽培管理などの集約化によっても、所得拡大は可能である。これにも、二つのことが期待されている。一つ目は、実質的な単収の上昇である。個選では収穫・出荷調製のピーク時には、すべての果実を採りきれないことがある。パッケージセンターを利用することで、ピーク時でもすべての果実が収穫できるようになる。その結果として収穫量の増加が期待できる。もう一つは、秀品率の上昇である。収穫・出荷調製のピーク時には、時間の余裕がないため、丁寧な選別ができずに、秀品になるべきものの一部が優品に分けられてしまうことがある。それが、パッケージセンターでは正確に選別されるので、優品にされていたものが秀品に引き上げられ、その分、秀品率が高まるとされる。前掲の図7をみると、「廃棄していた分も出荷」が31%、「収量や品質が向上」が12%あり、実質的な収量向上の効果は、生産者も認識している。
実際にパッケージセンター利用が所得拡大につながっているのか、先行してパッケージセンターを導入した上場地区の導入前の2010年と導入後の2015年の変化
を、2015年から導入し、実質的な稼動が2016年からの唐津地区における変化と比較したのが表1である。これをみると、建設後5年時点の結果であるが、生産者数および栽培面積の変化を除いて、明確な違いはなく、パッケージセンター導入による所得拡大は確認できない。生産者1戸当たり栽培面積は、両地区とも2010年と比べて2015年はわずかながら減少してしまっている。単収、販売単価は上昇しているが、上場地区のみでなく、唐津地区も上昇しているので、パッケージセンター導入の効果とは言い切れない。
このようにみてくると、建設後5年しか経過していない段階ではあるが、パッケージセンターの建設による生産者の所得向上の効果は限定的であるようにみえる。それにもかかわらず、ほとんどの生産者はパッケージセンターを利用している。それは収穫・出荷調製時期の長時間労働の解消が大きな要因であると考えられる。2010年から15年の生産者数の減少率では、両地区間に違いがあり、パッケージセンターを導入した上場地区の方が減少率は小さい。長時間労働の解消は、生産者の離脱を抑えるということでは、一定の効果があったと考えられる。
パッケージセンターの導入は、販売面でも効果が期待できる。まずは、実需者のパッケージなどでの要望に柔軟に対応できることである。JAからつでは、いちごのパッケージはレギュラーパック、平詰パック、ソフトパックの3種類が主体である(表2、写真6)。通常のレギュラーパック、平詰パックは一般の市場出荷に使用しており、ソフトパックは洋菓子業者などの業務需要向けの出荷で使用している。近年は実需者からの独自のアイテムの注文が増えており、平詰パックでは、実需者の注文に応じたアイテムも作成している。一般の市場出荷向け以外の独自アイテムでは、数量が決まっており、他の流通ルートでの販売が難しいため、確実に注文に応じた数量を作成する必要がある。生産者ごとにパック詰めを行う個選では、あらかじめ生産者ごとに作成する独自アイテムの数量を配分し、それを確実に集荷しなければならない。これは大変に煩雑な業務となる。一方、パッケージセンターでは、注文に応じた独自アイテムをその都度パック詰めすればよく、生産者との調整の手間は不要で、急な注文にも対応できる。
もう一つは、外観とともに、糖度などの内部品質の計測も行っており、それを生かした高級アイテムの作成が可能となることである。みかんなどでは、糖度センサーの利用が一般化し、高糖度の高級アイテムを作成する農協が多いが、いちごでも高糖度アイテムの販売が可能となる。JAからつでは、糖度11度以上の特選品を作り、高価格で販売している。ただし、特選品の出荷比率は1%にも満たないものであり、それが総売上額の大幅な拡大を実現するものではない。むしろ、産地の評価や知名度の向上、多様なニーズに応じた商品づくりを可能とすることで、市場競争力の向上につながることが重要であろう。
生産者の高齢化、減少を背景として、パッケージセンターを導入するいちご産地が増えている。パッケージセンターには、生産者の労働負担の軽減と所得拡大を実現することで、生産者を確保するとともに、その規模拡大を促進することが期待されている。
JAからつでは、大型で最新鋭のパッケージセンターを建設し、出荷されるいちごの大部分をパッケージセンターで処理できるようになった。1つ目のパッケージセンター建設後5年の実態をみると、生産者数の減少を抑える効果はあったと言えそうであるが、所得拡大では、まだ目に見えるような成果が上がっていない。
パッケージセンターを利用することで、従来の家族労働力を主体とした経営規模を超えた大規模で企業的な経営展開の可能性が広がる。JAからつでのパッケージセンターの導入と合わせて、佐賀県などの共同研究で大規模高収益いちご経営モデルの構築を目指した技術開発が進められた。しかし、大規模経営を確立するためには、施設・機械装備のための大きな投資が必要であり、短期間での実現は難しい。パッケージセンターを生かしたいちご産地の確立には、長期的な展望を持った取り組みが重要である。今後のJAからつにおけるいちご産地の展開に注目していきたい。