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調査・報告(野菜情報 2017年4月号)


高知県施設園芸産地にみる新規就農者確保および定着への取り組み

高知大学農林海洋科学部 農林資源環境科学科
講師 松島 貴則

要約

 施設園芸が盛んな高知県では、この四半世紀で園芸用施設面積および施設園芸農家数がともに3分の1以上も減少したことから、産地組織を維持すべく関係組織・団体が一体となって新規就農者の確保・育成に取り組み、新規就農者数はここ数年で倍増している。本報告では、高知県の施設園芸産地における新規就農者確保・定着への取り組みを整理し、新規就農者数の増加に大きく貢献していると考えられる「産地提案型」新規就農者確保に注目し、産地での取り組み実態を踏まえてその意義・役割と今後の課題について検討した。

1 はじめに

平成の初めまで拡大し2000ヘクタール程度存在した高知県の園芸用施設(ハウス)面積は、その後減少の一途をたどり、現在では1300ヘクタールを割り込んでいる(2015年農林業センサスでは1237ヘクタール)。また、同期間におよそ8000戸あった施設園芸農家数は、5000戸を割り込むまで減少している(2015年農林業センサスでは4891戸)。この四半世紀で、実に面積、農家数ともに分の以上も減少していることになる(図)。

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このことは、集出荷場を核施設として生産力の高位平準化と共同販売による販売力強化を意図する産地生産者組織の弱体化・産地規模の縮小を示している。こうした状況の中、産地生産者組織が集出荷場の統合、産地指定(指定野菜・特定野菜)対象エリアの統合・拡大、高知県園芸流通センター整備による一元共販体制の強化などの措置を講ずるとともに、関係機関が連携して次世代の産地組織の担い手確保、特に農外からの新規参入者の確保に対する取り組みを強化してきた。

本報告では、まず高知県における新規就農者確保・定着に向けた施策概要を紹介するとともに、関係組織・団体の連携体制・役割分担などについて整理する。次に、新規就農者確保に実績を上げている、南国市長岡地区(長岡農業協同組合(以下「JA長岡」という)管内)と高知市春野町(高知春野農業協同組合(以下「JA高知春野」という)管内)の産地における取り組みを紹介し、新規就農者確保・定着の条件について整理する。最後に、以上を踏まえて、施設園芸産地における新規就農者確保に向けて残されている課題と、今後の施策の展開方向について考察する。

2 高知県における新規就農者確保・定着施策の概要

高知県では産業振興計画(注(平成21年度)において、年間の新規就農者確保数の目標を設定し、関係組織・団体が連携して農業人材確保に取り組んできた。その結果、それまで年間120人未満で推移していた新規就農者数は平成21年から増加傾向に転じ、25年以降は260人を3年連続で越え、27年は269人となっている(図)。産業振興計画における新規就農者確保目標は、第期(平成2123年度)年間150人であったものが、第2期(平成2427年度)では当初年間230人、途中上方修正され280人に、そして第期産業振興計画(平成28年度)では31年には320人へと上方修正され、さらに取り組みが強化されている。

注1:「人口の減少が県内市場の縮小をもたらし、そのことが若者の県外への流出を促し、人口減少がさらに加速する」という負の連鎖に、官民一体となって立ち向かっていく経済活性化の中心となるプランとして平成21年に策定され、28年度からは第3期高知県産業振興計画が実施されている。詳細は高知県のHPでご覧いただきたい。

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(1)全体概要

高知県における新規就農者確保・定着に向けた施策は、大きく段階(PR段階、相談段階、技術習得段階、営農準備段階、営農開始後、経営発展段階)に分けて体系的に整理されている(表)。

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<PR段階─高知県農業を知る─>

高知県での就農に関する情報発信のため、インターネットを活用して就農関係情報を提供するとともに、高知県の農業や農業技術の基礎知識を学ぶ機会をインターネット通信講座として提供する「新いなかビジネススクール」、講師を派遣して開講する「こうちアグリスクール」(東京・大阪・高知会場、全10回)、同様に農学系大学生を対象として講師を派遣して開講する「農学系大学版アグリスクール」などが行われている。

<相談段階─まずは相談─>

高知県新規就農相談センターを総合窓口として、人材確保に向けた体制強化のために「就農コンシェルジュ」を配置し、個別相談(面談・電話・メールなど)窓口としての対応力を強化するとともに、「新・農業人フェア」や各種ターン相談会をはじめとする関係イベントにも出向いて人材確保に努めている。また、高知県での就農に関心のある人を対象に、地域の農業者との交流や農作業を実体験する「こうちアグリ体験合宿」や「産地提案型農業体験ツアー」が用意されている(写真1)

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<技術習得段階─技術を学ぶ(基礎と応用)─>

農業生産活動に必要な技術習得を支援するために、高知県立農業大学校への社会人入学制度や高知県農業担い手育成センターにおける「就農希望者長期研修」(基礎研修、実践研修、先進技術研修)が用意されている。また、就農予定市町村でのより実践的・応用的な研修を支援するために、産地において研修生を受け入れる指導農業士の確保に努めるとともに(28年26名認定、合計140名)、研修生と受入農家を経済面から支援する「新規就農推進事業」(県・市町村、青年就農給付金事業準備型との併用あり)が用意されている。

<営農準備段階─農地・施設─>

施設園芸においては農地の確保と園芸用施設とは一体として捉えられる場合が多く、高知県農業公社(農地中間管理機構)が農地と遊休ハウスなどの情報を一元的に収集し提供している。また、初期投資(特に園芸用施設)に要する経費の軽減を目的として、国の「経営体育成支援事業」(新規就農者ハウス整備区分、県1/8・市町村1/8上乗せ補助)とは別に、「園芸用ハウス整備事業」(研修区分・新規就農区分・流動化区分)が用意されている。一方、移住のための住居などの確保への支援については「移住促進事業」として産業・地域横断で一体的に実施している。

<営農開始後─農業を始める─>

営農開始後の認定就農者へのフォローアップ(経営状況の把握、営農・経営・資金面での助言)を行う「認定就農者経営改善支援事業」や、就農後経営が安定するまで経済支援を行う国の「青年就農給付金」(経営開始型、27年度実績236人)の年齢要件を満たさない(45歳以上)新規就農者を対象とした独自の給付金制度を設けた市町村も散見される。また、先進技術習得や経営者能力の向上を目的とした研修、新技術(環境制御や省エネ技術など)の導入に向けた「こうち新施設園芸システム推進事業」などが用意されている。

<経営発展段階─さらなる経営発展─>

規模拡大や法人化による経営発展を促すために、「農地中間管理事業」による規模拡大志向農家への農地集積、園芸用施設面積拡大のための「園芸用ハウス整備事業」(規模拡大区分・高度化区分)、企業的経営を志向する農業者を対象とした農業経営の法人化に向けたセミナー(「企業的経営体育成支援事業」)などが用意されている。

(2)関係組織・団体の連携体制と機能強化

上述のような支援施策のもとで、近年のターン者の主な就農プロセスは図のように整理できる。

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これら就農までのプロセスにおいて大きな役割を果たしているのが、就農相談の総合窓口としての新規就農相談センターや農業担い手育成センター、市町村担い手支援協議会である。農業担い手育成センターは、農業体験スクールや合宿(「新いなかビジネススクール」、「こうちアグリスクール」、「こうちアグリ体験合宿」)、そして農業技術研修(「就農希望者長期研修」、「農業基礎講座」、「農業機械研修」など)を担っている。また、市町村担い手支援協議会は、就農希望市町村での実践研修(新規就農推進事業など)において研修生の受入先となる指導農業士(注と、それを連携支援する地域関係組織・団体(JA・市町村・県農業振興センターなど)によって組織されている。

新規就農相談センターは、一般社団法人高知県農業会議と公益財団法人高知県農業公社(高知県青年農業者等育成センター、高知県農地中間管理機構)とが連携して設置している。同センターの取り組みとして注目されるのが就農コンシェルジュによる活動である。新規就農者確保・育成に関わる業務経験豊富な関係機関OBOGを中心とする就農コンシェルジュを配して、相談窓口業務の機能強化を図ってきた。その結果、個別相談件数は平成23年度の131人が27年度には265人に、県内外の就農相談への参加回数も24年度の回から27年度には19回へと飛躍的に増加した。この成果を受け、28年度からはコンシェルジュをこれまでの名から名増員して名とし、人材確保への取り組みを強化している。

農業担い手育成センターは、高知県での就農希望者が技術・経営の基礎から実践までを学ぶ場を提供することによって就農支援体制を強化するとともに、意欲的な農業者や指導者に対して先進技術や経営管理力の学びの場を提供し、高知県園芸農業全体の技術・経営管理水準を高位平準化するための「人材育成拠点」として、26年月に高知県立農業大学校研修課と高知県環境保全型畑作振興センターを統合して開設された。

同センターで開設されている研修メニューと参加者数をみたのが表である。この中で特に重要と考えられるのが「就農希望者長期研修」であり、その研修概要を表に示す。

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「就農希望者長期研修」は、高知県下で栽培される主要な施設野菜および露地野菜について幅広く学び、自身の適性にあった品目を選択するとともに、選択した品目について、基礎から応用・先端技術を学ぶ場を提供する(写真2)。研修生の希望により、カ月から年間の研修期間となる。これまで研修受入定員は20名であったが、28年度からは宿泊施設を増築して40名へと倍増した。現在、果樹と花きは研修メニューとして未対応で、今後の課題といえる。

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さて、新規就農者の参入障壁としてよく指摘されるのが資金、技術、農地、住居のつである。このうち農地と住居に関しては、就農希望市町村における農家での実践研修と並行して確保していくのが一般的であり、そこで大きな役割を担うのが実践研修を受け入れる指導農業士である。国や県の支援施策をいかに強化しても、就農希望市町村における受入体制が整っていないと、スムーズに就農できない。今日では、多くの市町村に指導農業士と連携して就農希望者を支援する体制(担い手支援協議会など)が整いつつあり、指導農業士の負担も全体として軽減されつつあるが、いまだに市町村・地域間の格差が大きい。

そうした中で、市町村・地域における受入体制の整備・強化とともに、就農希望者への的確な情報提供による計画的な新規就農者の確保・育成への取り組みとして重視されているのが「産地提案型」の新規就農者確保である。

注2:「優れた農業経営を行いながら新規就農者等の育成に指導的な役割を果たしている」として都道府県知事が認定した農業者をいう。指導農業士であることは、国の青年就農給付金制度(準備型)における研修先(先進農家・農業法人)としての要件を満たしていることを示す。

(3)「産地提案型」新規就農者確保の概要とその意義

「産地提案型」の新規就農者確保とは、「産地や地域で新規就農者を受け入れる」ではなく、「産地や地域における自分たちの仲間を募り増やしてく」という意識・姿勢のもと、産地・地域の農業関係者・関係機関・団体が一体となって『産地提案書』(新規就農者の募集要項ともいえよう)を作成し、積極的に情報発信していくとともに、計画的に新規就農者(仲間)の確保を実現していく取り組みといえる。

平成25年度のJA高知春野きゅうり部会の取り組みに始まり、提案書の数(取り組み市町村数や対象作物)も年々増加し、28年10月時点で高知県下の28市町村で『産地提案書』による新規就農者の募集が行われている(図)。

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具体例として、高知市春野(JA高知春野きゅうり部会)の『産地提案書』(平成28年度)を示す(図)。『産地提案書』に共通する項目は、就農までのプロセス(取り組まねばならないこと)、産地・地域の支援体制、産地・地域の求める人材(年齢などの要件)、先輩就農者の紹介、産地・地域の紹介、年間の作業体系と経営モデル(就農後の経営収支など)であり、毎年度逐次更新される。

「産地提案型」新規就農者確保は、新規就農希望者と産地・地域(受入側)との相互情報不足によるミスマッチを予防するとともに、新規就農希望者にとっては就農までの道筋が明確になり就農後の営農状況もイメージしやすく、研修や就農準備に不安なく取り組める。また、産地・地域にとっては、将来の仲間を確保するために、農業者や関係組織・団体が新規就農希望者の就農までの道筋とそれに対する支援を計画・協議・評価することにより、就農までの支援を指導農業士のみに負わせるのではなく、産地・地域全体として責任を持って果たしていくという意識変化や、支援体制の強化につながるといえる。

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3 産地における新規就農者の確保・定着への取り組み状況

ここでは、高知県下でも早くからターンによる新規就農者の受入実績を積み上げてきた南国市長岡地区、「産地提案型」新規就農者確保にいち早く取り組み実績を上げている高知市春野町の地区における取り組みを紹介する(図)。

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(1)南国市長岡地区(JA長岡管内)

南国市長岡地区は南国市のほぼ中央部、船入川と国分川に挟まれた物部川の扇状地上に位置する。JA長岡は出荷者数約80人、売上高約億円の旧長岡村を管内とする非常に小規模なJAで、主要品目はピーマン、ししとうがらし、にらなどである。

長岡地区におけるIターン就農者支援については、小規模JAの利点を生かし、JAが遊休農地・園芸用施設(空きハウス)の情報を収集して仲介役を担うとともに、指導農業士が技術研修と地域組織(JA青壮年部、地区消防団など)との仲介を担っている。地域組織での活動を通して地域の人々に仲間として認知され、就農に向けた準備(特に農地、空きハウス、住居の確保)が円滑に進むように配慮されている(図)。

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JAを中心とする取り組みにより、同地区ではこれまで10名のIターン者が就農を実現している。最初のIターン就農は平成7年であり、その後10年間はなかったが、17年名、20年以降はほぼ連年Iターン就農が続いた。これまで離農者は皆無である。また、最初のIターン就農者が指導農業士となり、Iターン就農希望者の実践研修を受け入れ、名を就農に導いている。

長岡地区での新規就農者の確保・育成における高い実績の背景には、次のような要因があると考えられる。

 ①地域農業資源に関する情報を収集・管理するに際し、JA長岡の規模が適していた。

 ②最初のIターン就農者の経営者能力が高く、また地域貢献実績が優れていたことにより、Iターン就農に対する地域の認識が好転したこと。

 ③就農希望実践研修生と地域とを結ぶ組織活動、特にJA青壮年部(平成28年度部員数30名)の活動が活発なこと。

 ④体験研修やJA青壮年部活動体験などによる実践研修希望者との入念なマッチングを通した研修受入可否の判断。

一方で、次のような課題も存在する。

 ①高知県における1JA化への動きのなかで、これまでJA長岡が果たしてきた役割を担うことを目的として設立された任意組織「長岡営農センター」(27年設立、農地中間管理機構の業務受託)がどの程度機能するのかが不透明であること。

 ②地区エリアが狭く、地区内に遊休農地、空きハウス、空き家などが常に存在するとは限らない。よって、地区遊休資源に期待した実践研修の受入にはおのずと限界がある。今後は新規就農者用施設の新設なども考慮する必要がある。

(2)高知市春野町(JA高知春野管内)

高知市春野町は市の南部、太平洋に面した仁淀川下流東側の平たん部に位置する。平成20年月の合併により、吾川郡春野町から高知市春野町となった。仁淀川からの取水による吾南用水の恩恵を受け、高知県でも有数の施設園芸産地である。主要な品目はきゅうり、トマト、メロン、新しょうがなどであり、特にきゅうりは県下生産量のおよそ半分近くを占め、その大部分が自動選果機を導入したJA高知春野の大規模野菜集出荷場「グリーン春野」を経由して出荷されている。

JA高知春野きゅうり部会が中心となり、「産地提案型」新規就農者確保に取り組む契機となったのは、24年に行われたきゅうり生産農家に対する経営意向調査である。その調査結果は、実に暗たんたるものであった。

きゅうり生産農家数218戸、10年後には55戸減少して163戸になると予想され、後継者が確保されている農家もわずか15戸程度しか存在しないという結果は、関係者に衝撃を与えた。集出荷場の施設更新時期も迫るなか、産地を維持していくために、新規就農者確保に関係者が協議して一体的に取り組んでいくことになる。

まず、新規研修支援事業による農家での実践研修の受入体制を整えるために、研修受入農家となる指導農業士の確保(認定申請を支援)に急きょ取り組むとともに、JA内に窓口を設けて新規就農者確保に取り組んだ。しかし、随時相談受付では個別対応に追われて効率が悪く、就農までを見通した計画的な就農支援が困難であり、また産地の求める就農者像と相談者の考えるイメージのミスマッチも多く、これらを解消するための有効な方策としてたどり着いたのが、『産地提案書』による新規就農者の募集である。

これにより、産地としては求める人材の確保に結びつき、就農希望者にとっては就農までの道筋を見据えた準備を指導農業士をはじめとする関係者の支援を受けながら進めることができるようになった。結果として指導農業士のもとでの実践研修者は25年度1名、26年度3名、27年度2名、28年度2名で、さらに2名が実践研修前段の農業担い手育成センターの長期研修を受けている。

現在、きゅうり部会の指導農業士は名であり、JA高知春野に合併する前の旧9JA単位におおむね配置されている。指導農業士は、関係組織・団体と連携し、研修生の受入指導、研修生と地域住民・組織との仲介、各地域における遊休資源(農地、空き園芸用施設、空き住居など)の情報収集、それらの研修生への仲介・斡旋を担っている。

この『産地提案書』による新規就農者確保への取り組みは、県内の他産地にも注目され、今日では「産地提案型」新規就農者確保は全県的な広がりをみせている。しかし、取り組み開始から年余りしか経過しておらず、これからが正念場で、改善の余地も大きいといえる。現在直面する課題として、次の事項を挙げることができる。

 ①きゅうり部会の生産者数を維持するには、年間名程度の新規就農者が最低必要になるが、そのためにはI・Uターン者だけでなく農家子弟の就農(親元就農)にも傾注する必要がある。

 ②指導農業士名で旧JA管内を担当するには負担が大きすぎる。旧JA管内単位で指導農業士を支援する体制整備が必要で、そのためにまず旧JA単位でのきゅうり部会員の連携が不可欠である。

 ③現在の部会の取り組みをJA高知春野全体、春野町全体の取り組みへといかに広げていくか。そのためには「産地提案型」新規就農者確保による独立自営就農者が地域農業・地域社会の担い手として地域住民に認知されるように実績を積む必要があり、独立自営就農後のサポート(フォローアップ)体制の整備も重要である。

4 おわりに─高知県施設園芸産地における新規就農者確保・定着に向けて─

以上を踏まえ、高知県下の施設園芸産地に共通する新規就農者確保・定着に向けた今後の主要な課題について整理しておきたい。

全体として、新規就農相談センターや農業担い手育成センターの機能強化や、「産地提案型」新規就農者確保による産地・地域の受入体制の整備が進み、新規就農者確保・定着への取り組みは強化され、成果も増大しつつある。その一方で、次のような共通課題を挙げることができよう。

 ①いかに遊休農地や空き園芸用施設、空き住居などが就農を希望する産地・地域に存在していても、就農希望者自身が地域の一員(仲間)として地域住民に認知されなければ、円滑な権利移転(確保)はできない。特に、産地での実践研修期間中には、新規就農者と地域を結びつける工夫が不可欠である。

 ②就農とともに園芸用施設を用意するのは、高額投資や生産の不安定性を考えればあまりにもリスクが大きすぎるため、多くの場合、空き園芸用施設を確保して就農する。しかし、営農実績がないと融資や補助事業の対象とならなず、自己資金がなければ就農を断念することになる。実践研修修了者に貸与する園芸用施設を、市町村などが用意する事例も増えている。

 ③新規就農者の確保・定着における指導農業士の役割は非常に重要であるが、その資質(栽培技術水準、知識・知見など)については不明確な点が多い。指導農業士としての活動に不可欠な要件を整理し、それを身につけるための研修の場を提供していく必要がある。

 ④平成31年の高知県域農協発足に向けた動きが本格化するなか、産地における新規就農者確保・定着への取り組みに対する影響を軽減する策を今から準備しなくてはならない。

 ⑤やむを得ぬ理由から実践研修受入市町村と就農市町村が異なる、あるいは居住市町村と営農市町村が異なるようなケースが生じた場合に、各種補助金の給付や認定新規就農者申請などにおいて不利益が生じないように、関係機関が連携して配慮する必要がある。

(付記)本稿をまとめるにあたり、高知県新規就農相談センター(高知県農業会議、高知県農業公社)、高知県農業担い手育成センター、高知県農業振興課農地・担い手対策課、JA高知春野営農渉外課、JA長岡(長岡営農センター)の皆様にはご多用中にもかかわらず快く調査にご協力いただきました。また、高知県農業担い手育成センターからは掲載写真のご提供いただきました。ここに厚く御礼申し上げます。




参考・引用文献等

(1)丸山義昭(2012)「青年新規就農者定着のための条件」『農業と経済』78(11)5-15.

(2)守屋洋(2012)「データに見る青年新規就農者の動向と就農実態」『農業と経済』78(11)18-27.

(3)高知県新規就農相談センター(2016)『Let's Try Farming 2016 高知県新規就農支援ガイド』

(4)高知県新規就農相談センター(2016)『新規就農ガイド2016 ~「産地提案型」により産地が求める人材を募集しています~』

(5)高知県立農業担い手育成センター(2016)『農に就く ~農業を自分の仕事にしたい方へ~ 平成28年度研修生募集』

(6)高知県農業振興部 産地・流通支援課 次世代園芸推進室(2016)『拝啓 全国の企業のみなさん 進化し続ける園芸王国高知で、新たなアグリ・ビジネスを始めませんか!』

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