広島大学大学院生物圏科学研究科
准教授 細野 賢治
【要約】
わけぎはユリ科の多年草であり、関西では酢味噌和え(ぬた)などの食材によく使われてきた。一方で、主産県は全国出荷量の6割を広島県が占めているなど、地域特産野菜の典型である。
近年は、消費動向の変化や担い手の高齢化・後継者不足により、生産量が大幅に減少しており、伝統的に培われてきた地域農業の技術がいま存亡の危機に立たされている。本稿では広島県産わけぎを事例として、伝統的な地域特産野菜の産地形成および展開過程を明らかにし、これらを維持するための方策を検討した。
1 はじめに
農林水産省が地域特産野菜の1品目として位置付けているわけぎは、ピークである昭和53年の全国作付面積が1040ヘクタールであったが、平成26年では116ヘクタールとほぼ9分の1にまでに減少した。わけぎはユリ科の多年草であり、関西では酢味噌和え(ぬた)などの食材によく使われてきた。全国生産量の6割を広島県産が占めており、とりわけ瀬戸内海沿岸・島しょ部において栽培が盛んである。そして、後述するように広島県内で栽培されている品種のほとんどはわけぎ農家の自家採種をもとに選抜され受け継がれてきたものであるなど、わけぎは地域的な技術の蓄積と継承のもとで維持されてきた、いわば広島県の伝統的な地域特産野菜として位置付けられる。しかしながら、需要減退に伴って栽培面積、生産量とも大幅に減少し、伝統的に培われてきた地域農業の技術が今存亡の危機に立たされている。
そこで本稿では、地域特産野菜のうち需要が減退している伝統的品目に注目し、広島県産わけぎを事例としてその産地形成と展開の実態を明らかにし、産地の維持にかかる今後の課題を考察する。
2 わが国におけるわけぎ生産の動向
わけぎは、ユリ科のネギ属に属し、ねぎの仲間ではあるが、ねぎとは異なる独特な香りを持ち、関西を中心に酢味噌和え(ぬた)、汁物の具材や薬味として古くから珍重されてきた。田代洋丞の細胞遺伝学的研究(注1)によれば、わけぎはねぎを母親にシャロットを花粉親に持つ雑種第1代として起源したとされている。鱗茎から広がるように葉がついていることから、わけぎはかつて「子宝に恵まれる」縁起物として桃の節句に好んで食されてきた。
丸山竹男ほか(注2)によると昭和60年以降には需要拡大に伴って周年供給の技術が確立されたというが、一方で、全国生産量の6割を広島県産が占めるといったように、産地の地域性が強い作物でもある。これは、わけぎの生産条件が、①排水がよく、保水力を有する土壌条件、②気温15~20℃の温暖な気候であり(注3)、露地栽培であればとりわけ瀬戸内海沿岸・島しょ部の砂地が適していることに大きく関連している。
表1は、平成26年のわが国におけるわけぎの農業地域別生産状況について示している。同年における全国のわけぎ生産は、作付面積116ヘクタール、収穫量1215トンであるが、作付面積ベースで全国の58.6%、収穫量ベースで60.9%が広島県で生産されている。その他の産地は、収穫量ベースで福岡県が157トン、愛知県82トン、神奈川県45トン、茨城県38トン、大阪府30トン、群馬県27トンとなっている。
図1は、わが国のわけぎ生産の推移を示している。地域特産野菜生産状況調査が開始された昭和41年以降で作付面積および収穫量がピークであったのは昭和53年であり、それぞれ1040ヘクタール、1万6900トンであった。しかしながら、昭和50年代後半から白ねぎ、青ねぎなど葉ねぎ類の需要が急激に増加したなかで、わけぎは関西圏で主に酢味噌和え(ぬた)の食材として使われていた以外の消費方法があまりなく、「生態的特性および消費方法の特殊性のため」にほとんど需要が伸びなかった(注4)。このことが、その後の生産量の減少に大きく影響を及ぼしており、平成26年の作付面積は116ヘクタール、収穫量は1215トンとなっている。
注1:引用・参考文献(1)による。
注2:引用・参考文献(2)による。
注3:引用・参考文献(3)による。
注4:引用・参考文献(1)による。
3 広島県におけるわけぎ産地の形成と展開
(1)広島県わけぎ共販の展開
広島県では、瀬戸内海沿岸・島しょ部がわけぎ生産に適していたことから、戦前より産地が形成され、大消費地の関西の市場を中心に出荷されていた。戦後における産地拡大の契機は、昭和33年に尾道市農協(当時)、三原農協(当時)および向島町農協(当時)の3農協において合同の「広島わけぎ部会」が結成されたことにある。
その後、昭和43年には3農協での広域一元共同販売・共同計算が開始されており、平成2年度に販売金額15億円を記録している。しかしながら、その後の消費嗜好の変化などにより需要が減退し、生産量・販売金額は縮小傾向にあり、26年度は販売金額5億5000万円となっている。
16年に広島県内において農協の広域合併が実施され、旧尾道市、因島、向東町、向島町、世羅郡の各農協が合併して尾道市農業協同組合(以下「尾道市農協」という)となり、旧三原、瀬戸田町、竹原の各農協が合併して三原農業協同組合(以下「三原農協」という)となっているが、広島わけぎの共計・共販区域は拡大していない。なお、広島わけぎ部会は、22年に「広島わけぎ生産販売協議会」(以下「協議会」という)に名称変更されているが、合併後2農協による広域共計・共販は現在も継続して行われている。
協議会のメンバーは、各農協生産者部会の部会長および副部会長、農協営農指導担当部局、および全国農業協同組合広島県本部(以下「全農広島県本部」という)で構成されている。分荷権は全農広島県本部にあり、各農協は生産農家に対する営農指導や販売情報提供などを行っている。26年度の系統共販率は重量ベースで98%である。
(2)広島県わけぎ産地の現状
図2は、広島県内の主なわけぎ産地について示しており、生産は家族経営が主流となっている。現在生産は尾道市農協と三原農協管内で行われている。平成27年度における尾道市農協管内の生産者数は144人、作付面積は42ヘクタールであり、生産者数の内訳は尾道市向島町岩子島が80人、尾道市吉和町が40人、尾道市因島が20人、その他が4人となっている。また、三原農協管内の生産者数は94人、作付面積は21ヘクタールであり、生産者数の内訳は三原市木原町と三原市佐木島で三原農協全体の9割を超えるという。
図3は、平成12年以降の広島県内におけるわけぎ作付面積の推移について示している。広島県の作付面積は12年の112ヘクタールから16年に118ヘクタールまで若干拡大した後に漸減し、26年は68ヘクタールまで縮小している。市町別の比率は、尾道市向島町(岩子島を含む)が4割、三原市が3割、尾道市の沿岸部が2割程度となっている。また、露地・施設の比率は年次によって上下はあるものの、施設栽培の割合が全体の30~40%弱となっている。
広島わけぎとは、広島県内で生産され、協議会を通じて出荷されるものをいうが、図4で広島わけぎの品種別栽培管理の状況について示した。主に生産されている品種は、広島1号、2号、3号、5号、7号、11号、12号、13号、および宜野座の9品種である。これらは、主に広島県内の瀬戸内海沿岸・島しょ部のわけぎ農家が伝統的に自家採種してきた品種を農家集団自らが選抜して品種化したものであり、門外不出とされている。
わけぎは球根で栽培する品目であるが、現在は、農家集団が選抜してきたこれら品種の種球を全農広島県本部が和歌山県内の業者に依頼してウィルスフリー株にし、その株を生産農家が各園地に定植してわけぎ生産を行っている。農家集団自らによる品種の多様化は、図4にも示している通りわけぎの周年出荷を実現するために行われてきたものであり、このように広島わけぎは、農家自身の技術力の蓄積により伝統的産地として形成されてきた経緯を持つ。
広島わけぎのブランド性は、このような先進的な農家集団による地域内での技術継承と、早くから広域共計・共販体制を確立してきた農協系統と生産農家との連携・協同体制により確立されてきたといえる。なお、わけぎはねぎと比べてべと病になりやすいため、防除にとりわけ注意して適切に行うことが重要であるとされている。
広島わけぎは図4に示す通り、さまざまな作型、栽培品種の多様化により、3月下旬~12月下旬は主に露地栽培、1月上旬~3月下旬についてはハウス栽培で出荷を行い、周年出荷を実現している。しかしながら、5月~9月の出荷量が少ないのが課題となっており、広島12号、13号は、平成26年に導入された比較的新しい品種で栽培面積は小さいが、この時期の出荷がカバーできるか期待されている。
広島県内のわけぎ農家の経営であるが、そのほとんどが家族経営であり、平成27年度における農業就業者の平均年齢は69歳である。また、同年度における1戸当たりのわけぎ生産面積は26アール、出荷量3.1トン、販売金額約200万円、10アール当たり収量は1.1トンである。
年間の栽培回転数は平均2~3回転であり、専業農家はわけぎ単作のほかに、他作物と複合経営を行っているケースも多い。例えば、尾道市吉和町はわけぎ単作農家が多いが、尾道市向島町(岩子島を含む)はトマトと複合、尾道市因島はすいか、ピーマンなど夏野菜と複合経営を行っている農家が多い、また、三原市佐木島では、スナップえんどう、絹さやえんどうなどと複合で生産を行っている農家が多い。さらに、水管理を適切に行えば春どり品種を導入して水稲の後作として水田でわけぎを栽培することも可能である。そして、瀬戸内海沿岸・島しょ部といった地域性もあり、柑橘類との複合経営を行っている農家も存在する。
このようなことから、広島わけぎは産地としては周年供給体制を確立しているが、個別農家の経営をみると、周年出荷を行う者、春先の出荷のみを行う者、秋冬の出荷のみを行う者に分かれており、出荷時期はそれぞれの農家の経営事情に従って選択されているようである。
また、わけぎ生産量の最盛期であった昭和55~平成7年ころまでは年4作という経営が主流であり、既に植え付けて成長したわけぎとわけぎの条間に新たにわけぎを植えつけて栽培する間作という方法もとられていた。中には柑橘の圃場にわけぎを混植していたケースもあったが、18年のポジティブリスト制度の施行が契機となり、現在でわけぎの混植は行われていない。
写真1は、三原市佐木島の農業生産法人によるわけぎの露地栽培について、春どりわけぎの最終出荷前の状況である。
収穫後の農家の調製・選別・出荷作業であるが、広島わけぎは個選共販の形態をとっている。表2は、広島わけぎ共販の出荷規格を示している。生食用わけぎの荷姿は、2キログラム段ボールと小袋包装の2種類存在し、2キログラム段ボールは100グラムごとに結束して20束ずつ箱詰めする。小袋包装は、小袋包装した束を30束ずつ箱詰めするが、出荷時期によって量目が異なっており、9月~翌年5月は1束100グラム、6月~8月は1束80グラムとなっている。
農家は収穫後、皮をむいて根についた土を圧搾空気で飛ばしたのち、根をつけたまま表2に示したように2階級または3階級に選別し、結束又は小袋包装を行った後に箱詰めする。農家1戸当たりの1日平均の出荷量は、小袋包装で15~20ケース(50~60キログラム)であるが、中には1日30ケース(100キログラム)出荷する農家も存在する。尾道市農協の営農販売担当者によると、秋作(秋冬どり)の場合、家族労働時間のうち37%を収穫・調製作業に、さらに40%を選別・出荷作業にそれぞれ費やしているという。
なお、加工用わけぎの荷姿は、結束せずにバラで3キログラムを段ボールに箱詰めし、階級もLサイズのみである。加工仕向の場合、生食用に比べて価格は下がるものの、表2に示すようにサイズの指定も生食用に比べて大まかであることから、生産農家の調製・選別・出荷作業にかかる労働時間が短縮される。しかしながら、昔ながらの広島わけぎ農家にとっては、わけぎのブランド性の源泉が伝統的に受け継がれてきた地域品種とともに、地域内で蓄積されてきた調製技術にあると考えられており、生食仕向への生産志向が強い。また、調製・選別・出荷作業を「自らの手間賃収入」と考える傾向があり、これらへ家族労働力を投入して高価格形成によって農業収入を得るという考え方が根強く存在する。このため、調製・選別・出荷作業のための家族労働力が確保できない状況になると、生食用わけぎが出荷できなくなるとして、わけぎ生産そのものを断念してしまう農家も少なくない。
(3)広島わけぎの販売動向
図5は、広島わけぎにおける近年の全農広島県本部の取扱数量の推移を示している。平成5年の数値は比較対象のために示しているが、このころまでは3000トンを超える取扱数量であったが、17年は1730トンであり、その後も徐々に取扱数量は減少し、27年は723トンとなっている。全農広島県本部は、農産物直売所を広島市内に設置し運営しているが、広島わけぎの場合はそのほとんどが市場出荷となっており直売所を活用していない。27年は、市場出荷の割合は99.7%である。
主な出荷先市場は、大阪府内の3つの中央卸売市場、京都市中央卸売市場、および広島市中央卸売市場(2市場)となっており、全出荷量の6割を京阪市場に、2割を広島市場に出荷している。販売金額が10億円を超えていた時代は、中京市場から北部九州市場まで合計20近くの卸売業者に出荷していたという。
図6は、平成27年の広島・大阪・京都の各市場における広島県産わけぎの月別取扱状況を示している。年平均の取引価格は京都市場が1キログラム当たり768円と最も高く、ついで大阪市場716円、広島市場670円となっている。月別の出荷量をみてみると、10月~翌年2月までは大阪市場への出荷が最も多く、3月~4月は広島市場への出荷が最も多くなっている。
なお、京阪神市場では現在でも主に酢味噌和え(ぬた)の原材料として認知されているが、近年、家庭内で酢味噌和え(ぬた)を自家調理するよりも既製品をスーパーの総菜コーナーで購入するといった消費形態に変化しているという。このため、卸売市場で生食用として取引された広島わけぎであっても、関西の総菜メーカーが仕入れているケースは少なくない。
また、前述の通り全国わけぎ出荷量の6割を広島県産が占めている状況にあるにもかかわらず、広島県内でわけぎを食べる習慣があまりなく、地場消費が伸びていないという点も課題となっている。これに対し、全農広島県本部、尾道市農協、三原農協は、地元広島県でのわけぎ消費拡大をねらって、わけぎギョーザなどの商品開発、学校給食と連携しての食農教育と給食メニューとを結びつけた取り組み、オリジナルのゆるキャラを使った販売促進活動などを共同で行っている。
(4)広島わけぎ産地再生の兆し
広島わけぎ産地では、これまで述べてきたような需要減退と生産基盤の縮小のもとで伝統的に培われてきた地域農業の存亡が危ぶまれている。このような状況に対し、広島わけぎ関係者が一体となって生産振興や地場消費拡大の取り組みを開始するなど、産地再生への兆しも見え始めている。
ア 生産振興の取り組み
生産基盤の底上げの主な取り組みとしては、①尾道市農協におけるわけぎ新規就農者支援制度の創設、②三原農協管内におけるわけぎ生産法人の設立、がある。
まず、尾道市農協のわけぎ新規就農者支援制度であるが、平成28年4月に開始されており、農協が就農希望者(とりわけ非農家のIターン希望者)を面接し、年間1~2人を研修生として選定する。そして、まずは農業体験ボランティアとして農協わけぎ部会役員の農地で研修生の実地研修を行っている。また、尾道市農協は「わけぎ塾」を主催し、研修生に対して生産の基礎知識習得と就農計画作成の支援を行っている。またその間に、尾道市農協が部会役員の協力の下で賃借可能な農地を確保し、研修生が就農可能な状態となった際に部会役員の仲介により農地斡旋が行われるというシステムになっている。
次に、三原農協管内のわけぎ法人であるが、農事組合法人キララさぎしま(以下「キララさぎしま」という)は、25年11月に三原市佐木島において設立されたわけぎ専作の集落営農法人である。組合員4人(農家)、雇用労働1人(非農家)の合計5人で農業生産を行っており、わけぎ作付面積は露地栽培で1.2ヘクタールとなっている。26年産からわけぎの出荷が開始されており、目標生産量は15トンである。この法人では生食用・加工用の両方のわけぎ出荷を行っているが、選別・調製・出荷労働の軽減をねらって、加工仕向の数量を拡大させたい意向である。
イ 地場消費拡大の取り組み
地場消費拡大の主な取り組みとしては、①尾道市農協による市内宿泊施設や地場食品加工業者へのわけぎメニュー提案の取り組み、②三原農協による学校給食におけるわけぎ料理のメニュー提案と食材供給の取り組みが挙げられる。
まず、尾道市農協の取り組みであるが、尾道市内のある観光ホテルにおいて、尾道市農協営農販売担当者の働きかけにより、27年11月からわけぎ料理7品目がレストランの新しいメニューに採用された。また、地場食品加工業者とのタイアップ企画として、新たに28年5月からお土産として人気がある蒲鉾店へわけぎを供給し、店舗でわけぎ蒲鉾を販売してもらっている。
次に、三原農協の取り組みであるが、三原市内に設置されている2カ所の学校給食共同調理場にわけぎを供給している。図7は、三原農協におけるわけぎの学校給食への供給状況であるが、平成27年度は2つの共同調理場に合わせて414キログラムを提供し、28年度は、3月分が未計上であるが、364キログラム提供されている。
また、写真2は学校給食におけるわけぎメニューの採用例である。中央に「照り焼きチキン」とともに「わけぎのぬた」が配置されているのがわかる。わけぎメニューの採用数について、例えば平成28年12月~29年3月でみてみると、東部共同調理場で小学校6回、中学校6回、西部共同調理場では小学校4回、中学校3回となっている。また、三原農協では、学校給食と食農教育とを結び付けた取り組みとして、市内小中学校の児童・生徒のわけぎ収穫体験受入などを行っている。
4 おわりに
─広島わけぎ産地の課題─
昭和41年より隔年で行っている「地域特産野菜生産状況調査」で取り上げられている品目は平成26年調査時点で41品目であるが、調査初年次から数えるとその調査対象は延べ63品目にのぼる。これらの中には、例えば、こまつな、しゅんぎく、アスパラガスなど、近年の需要増に伴って14年に「指定野菜に準ずる野菜」として位置付けが変更され、全国的に生産が拡大傾向にある品目が存在する。
一方、わけぎは、伝統的な地域特産野菜として生産されてきたが、消費者嗜好の変化に伴う需要減退という状況の下で、生産者の高齢化、後継者不足、新規参入もあまり見込めないといった状況から、生産が縮小傾向にある品目の典型であるといえる。
広島わけぎの特徴は、①瀬戸内海沿岸・島しょ部のわけぎ農家が自家採種したものを選抜した品種化した門外不出の種球を使用している点、②関西の市場で確立された地位を維持するため、広域的な共計・共販が早くから行われていた点、③伝統的なブランド性への認識から、生食用生産の志向が強い生産農家が多い点、などである。
一方で、近年の消費動向の変化や担い手の高齢化・後継者不足は、広島わけぎ生産量の恒常的な減少傾向を生み出しており、伝統的な地域特産野菜産地として持続性を確保するための課題も浮き彫りとなってきた。
第1に、担い手の高齢化・後継者不足への対応であるが、尾道市農協が行っているような新規就農者支援制度は、生産意欲の高い若手の担い手を育てるという点で意義が大きい。産地の持続性を確保するために、研修生の自主性を尊重しながらもわけぎ関係者の協力・支援体制の下で伝統的技術を伝承するという視点を持つことが肝要である。
また、このような取り組みと併せて、家族労働力の8割近くを費やしている収穫・調製・選別・出荷作業の省力化方策を検討する必要がある。その方策の一つとして、出荷規格が簡素な加工仕向に対する再評価は肝要である。これは、大消費地である関西において、酢味噌和え(ぬた)調理の外部化といった消費形態の変化が進んでいる点にも配慮しなければならない。
第2に、わけぎの生産拡大の一方策として、三原市佐木島に25年に設立されたキララさぎしまのような法人経営の設立や既存の集落営農法人におけるわけぎ導入など、組織経営体へのわけぎ生産振興は重要である。また、これと併せて、共計・共販区域の拡大という視点も必要である。これまで地域内で蓄積されてきた伝統的な生産技術を絶やさないためにも、発想の転換が求められている。
第3に、関西における伝統的な消費形態に依拠した販売体制では、今後の消費の先細りへの懸念がある。わけぎの市場規模を確保するためには、尾道市農協や三原農協で行われている地元広島県での消費拡大の取り組みを引き続き行うことが肝要である。
これらの方策を実行するためには、伝統的に培われてきた高い技術を持つ農家集団と先進的な販売対応を行ってきた共販組織との連帯関係の維持が欠かせない。そのためには、信頼関係を高い水準で維持するための密なコミュケーションと、その下で継続的なイノベーションの実践を引き続き行っていくといった取組姿勢が今後も重要となっている。
参考・引用文献
(1)田代洋丞(1984)「ワケギの起源に関する細胞遺伝学的研究」『佐賀大学農学部彙報』第56号
(2)丸山竹男・下原孫一・松尾和文・毛利文男・高山裕章(1988)「ワケギの周年栽培技術」『大分県農業施 術センター研究報告』第18号
(3)広島わけぎ生産販売協議会(2014)「わけぎ栽培マニュアル」
(4)内藤重之(2002)「地域特産野菜『水ナス』の需要構造と産地の課題」『大阪府立農林技術センター研究 報告』第38号