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海外情報 野菜情報 2025年7月号

生産の拡大により国際市場で存在感を増すエジプトのいちご

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調査情報部

【要約】

 冷凍いちごの輸出量が世界一のエジプトでは、作付面積の拡大により生産量を増加させてきた。近年は生産コストの高騰や単収の減少などの問題に直面するものの、世界的な需要の拡大がいちご生産を支えている。

1 はじめに

 わが国において、いちごは一季成りと四季成りに大別されるが、ケーキ原材料などの業務用需要に対応するため、四季成り品種の生産に取り組み、周年生産体系を確立する産地が増えている。一方、輸入冷凍いちごは年間を通じて輸入されており、アイスクリーム、ヨーグルト、スムージー、ジャム、ゼリー、ケーキ、飲料など、幅広い製品の原材料に仕向けられ、一部は国内産のいちごと競合している。
 日本の冷凍いちごの輸入先は中国やエジプト、モロッコなどが多く、中でもエジプトは世界最大の冷凍いちご輸出国であり(表1)、近年、日本でのシェア(市場占有率)を拡大するなどその存在感を増している(図1)。
 本稿では、日本における冷凍いちごの輸入先第2位であるエジプトのいちごの生産および消費、輸出動向などについて紹介する。
 なお、本稿中の為替レートは、1エジプトポンド(EGP)=2.90円(25年5月最終週のエジプト中央銀行平均値)、1米ドル=144.87円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の25年5月末TTS相場)を使用した。

タイトル: p056
 

2 生産状況

(1)エジプトの農業概要
 北アフリカに位置するエジプトは、国土の9割以上が砂漠地帯であり、水源の乏しい国の一つである。一方、国土を縦断するナイル川流域を中心に農業が発展し、特に河口部は「ナイルデルタ」と呼ばれる肥沃(ひよく)な三角州として知られ(図2)、地中海に面した同地域は農業と貿易により古くからエジプトの経済を支えてきた。また、同国東部は紅海に面しており、地中海と紅海をつなぐスエズ運河はエジプトが所有し、欧州とアジア諸国の貿易における要衝となっている。
 エジプトの気候は、内陸部が砂漠性気候であり、年間を通じてほとんど降雨がないのに対して、地中海沿岸部は地中海性気候であり、11月から3月にかけての冬に降雨が見られる(図3)。
 主要作物は、サトウキビ、てん菜、小麦、トマト、トウモロコシなどであるが(表2)、急速な人口増加や水利用に限り があることから、小麦などの食料の多くを輸入に頼る純輸入国となっている。
 
タイトル: p057
 
タイトル: p058a
 
(2)いちごの生産地域
 エジプト中央動員統計局(CAPMAS)によると、2021/22年度(10月~翌9月)のいちご作付面積は1万9228ヘクタールとされ、このうち9割以上はデルタ地域や隣接の新たに開墾された砂漠地帯に位置するブハイラ県、イスマイリーヤ県、カリュービーヤ県に集中している(図4、表3)。これらの地域はナイル川流域に位置しており、砂漠地帯ではあるものの灌漑(かんがい)地域であることに加え、日照や水はけがよく、いちごの栽培に適している。
 エジプトのいちご生産量の53%を占めるブハイラ県は、砂漠地帯での大規模生産が中心であり、輸出向けのいちご生産が盛んである。特に同県西部のヌバリア地域は1980年代後半から農地の開拓が進み、21/22年度にはブハイラ県のいちご生産量の61%(エジプト全体の32%)を占めるエジプト最大のいちご産地となっている。
 近年は、収益性の高さから首都カイロに近いシャルキーヤ県でも作付面積が増加しており、23/24年度冬季の生産量は6万トンを超え、21/22年度の同県全体の生産量から73%増加した。
 
タイトル: p058b
 
(3)生産量の推移
 エジプトでは、1990年代まではいちごの生産量が非常に少なかった。その後、米国産品種の導入や、欧州・中東地域向けを中心とした輸出需要の拡大により生産量が堅調に推移している。特に近年は政府による輸出向け施設整備の支援などもあり、22/23年度の生産量は16/17年度比2.8倍増の88万トンとなるなど、この間の生産拡大は特に顕著となっている(図5)。
 23年時点のエジプトのいちご生産量は、中国、米国(注1)に次ぐ世界第3位であり、欧州などの生産量が横ばいで推移する中、輸出需要拡大の恩恵を受けて成長してきたと言える。
 
(注1)中国および米国のいちご生産などに関する情報は
〇『野菜情報』2023年1月号「中国産野菜の生産と消費および輸出の動向(第10回:いちご)」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/2301_kaigaijoho1.html
〇『野菜情報』2018年10月号「米国におけるいちごの生産および輸出動向」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1810_kaigaijoho02.html
をご参照ください。

タイトル: p059a
 
(4)単収
 エジプト農業土地開拓省によると、2022/23年度のいちごの単収は10アール当たり3.6トンとされている(表4)。近年は干ばつなどの天候不順に加えて、苗の品質悪化により単収は減少傾向にある。つまり、近年の生産量増加は作付面積の増加によると考えられる。
 
タイトル: p059b
 
(5)いちごの品種と栽培歴
 エジプトで栽培される品種は、生鮮向けと冷凍向けに分けられる。生鮮向けはセンセーション種、フロリダフォーチュナ種などが主要な品種である。一方、冷凍向けは、フェスティバル種、フロリダフォーチュナ種、ビューティー種などが主要な品種となっている(表5)。これらの品種はいずれも米国原産であり、エジプトで米国産品種の割合が高い背景には、米国の大学などによるエジプトでのいちごの生産技術指導が考えられる。
 生産されるいちごの多くが生鮮または冷凍により輸出されるため、貯蔵性や輸送性に優れた品種が主流となっている。
 いちごの栽培暦は、主に9月に定植が始まり、11月から6月に収穫期を迎える。中でも12月~翌2月に出荷の最盛期となる(図6)。
 一方、一部の地域では、8月から定植を行い、春から夏にかけて収穫することもあるが、降雨がほとんどない時期の灌漑利用に制限があることなどから、この時期の作付面積は全体の0.1%程度と限られる。
 定植する苗は、国の認定育苗業者などがエジプト国内で生産している苗の他、米国などから輸入した苗も使用される。
 
タイトル: p060
 
(6)栽培方法
 いちご生産のほとんどは露地栽培であり、土面被覆(マルチ)が行われている。また、12月から1月にかけては霧が発生するため、ビニールトンネルで苗を覆うトンネル栽培が一般的である(写真1)。乾燥した地域で効率的な灌水を行うために点滴灌漑も行われている。
 また、温室栽培も行われているが、露地栽培よりコストがかかることから限られた作付面積の中で全体に占める割合は減少傾向にある。
 近年は、世界的な有機農産物需要の高まりを受けて、一部の生産者は有機農法に転換しており、作付面積全体に占める割合は少ないものの、増加傾向にあるとされている(注2)。有機農法を取り入れている農場では、生物学的な害虫駆除や有機肥料・堆肥を使用し、有機認証を受けたいちごを生産している。また、政府も輸出による収益性の確保や持続可能な農業を推進するために、有機農法を推奨している。
 (注2)現地でのヒアリングによると、有機農法によるいちごの作付面積は全体の数%程度とみられる。
 
 有機農法以外にも、持続可能かつ気候変動に配慮した環境に優しい農業生産技術が取り入れられている。いちごの加工・販売を行うMozare3社では、契約する小規模生産者のうち、30%が太陽光発電を行っており、今後数年間で太陽光発電の利用率を90%まで引き上げることを目標としている。
 いちごの収穫は手作業で行われる(写真2)。収穫したいちごのうち、生鮮輸出向け(注3)圃場(ほじょう)に併設したパックハウス(梱包作業場)で輸出用パッケージに梱包し、出荷する。一方、サイズの小さい果実は国内向けとなり、さらに変形しているものや過熟のものは加工向けとなる。
 (注3)生鮮輸出向けの場合、果実の熟度は75%程度で収穫される。
 
タイトル: p061
 
(7)病害虫対策
 エジプトのいちご栽培において、一般的かつ深刻な病気は黒色根腐病(茎などに黒色の斑点ができ根が腐敗する)である。一般的に黒色根腐病の防除には化学薬剤が使用されているが、生態学的な影響などを考慮して、国の研究機関である中央農業研究所(ARC)などは生物学的防除を推奨している。また、エジプトにおけるいちごうどんこ病(葉や果実などに発生し、果実に発生すると着色や肥大が劣る)対策として、密植を避け通風を良くし、発病初期から硫黄剤(殺虫作用や殺菌作用を持つ農薬の一種)やDMI剤(病原菌の細胞膜に作用して殺菌効果を発揮する殺菌剤)を10~15日ごとに予防的に散布することが推奨されている。
 地域的には、デルタ地域では過湿による黒色根腐病、萎ちょう病などの土壌病害、うどんこ病への対策が重要であり、一方、ヌバリア(ブハイラ県)、イスマイリーヤ県などの新開墾地では、センチュウなどの土壌害虫対策やハダニの長期発生への対策が課題となっている。
 政府機関や研究機関からは適宜、技術指導が行われており、ARCでは防除タイミングの指導や新薬剤の登録情報を提供している。
 現地の生産者によると、生鮮いちごの輸出はEU向けが多いことから、EUの農薬基準に合わせた製品を使用していることが多いとされている。
 
(8)生産コスト
 エジプトのいちご生産コストに関する統計情報はないものの、いちご生産は手作業が多く人手を必要とすることから、生産コストに占める人件費の割合が高いとされている(表6)。このため、経済成長による人件費の上昇が生産コスト高騰の一因となっている。加えて、海外からの苗や生産資材の輸入などは為替相場の影響を大きく受ける(注4)。エジプトでは、2022年から24年までに4回の通貨切り下げを行ったことにより(図7)、エジプトポンド安が進行し、生産コストの上昇を招いている。現地報道によると、23/24年度の生産コストは前年度の約2倍になったとされている。
 22/23年度のいちごの生産者出荷価格は、1キログラム当たり9.527エジプトポンド(28円)であり、生産コスト高を反映して前年度の約1.6倍となった(表7)。
 (注4)苗の輸入に加えて、米国産品種の種子利用に係るライセンス料も為替相場の影響を受ける。
 
タイトル: p062

3 流通・消費動向

(1)サプライチェーン
 エジプトのいちご生産では、大規模農場は企業経営により輸出向けのいちごを生産する一方、小規模農家は現地の生産者組合を通じて市場に出荷している。
 収穫したいちごは、冷却して1~2日以内に生鮮で出荷するか、収穫後数時間以内に冷凍加工される。収穫後の設備や施設は過去10年間で改善され、多くの農場が冷却施設やパックハウスを所有している。
 冷凍いちごの場合、圃場から冷凍工場までは、鮮度を維持するため冷蔵トラックにより輸送される。現地のいちご事業者によると、輸送時間は20分から3時間程度とされている。この事業者の冷凍加工工場では、欧州企業の機材を使用し、1時間当たり2~3トンの冷凍能力を有する施設を設置している(写真3)。一方、欧州向けの生鮮いちごについては、収穫後すぐに0~1度に冷却し、圃場からトラックで4時間ほどのカイロ国際空港から空輸で出荷する場合と、パレットを真空にして二酸化炭素を充塡し、1日かけて港に運んで船便で輸出する場合がある。
 欧米向けの冷凍いちごの輸出の場合、主に地中海に面したアレクサンドリア港などを使用した船便で、これらの港からの輸送は南欧までは1週間、北欧までは2週間程度を要する。一方、中東や東南アジア向けは紅海に面したアインサフナ港やサファガ港が使用される(図8)。
 
タイトル: p063a
 
(2)市場価格
 国内の市場価格は、生産コストの上昇を反映して2022年以降、高値が続いており、22年11月の市場価格は前年同月比2.5倍の1キログラム当たり20エジプトポンド(58円)となった(図9)。主産地であるブハイラ県ヌバリア地域からのいちごの販売チャネルを示したものが図10となる。この中で、輸出向けのいちご(生鮮、冷凍)については、生産者と加工業者や輸出者が直接取引を行うことが多い。
 
タイトル: p063b
 
タイトル: p064a
 
(3)消費状況
 エジプトにおけるいちごの仕向け先は、一般的には利益率の高い輸出向けが優先されるとみられる。2023年のいちごの生産量は88万トンであるのに対し、国内向けは(粗食料)5割程度(表8)となり、さらにエジプト国内でジャムや菓子などに加工した後に輸出されることも多いため、現地生産者によると、エジプト国内の小売りに回る生鮮いちごは、国内仕向け量の10~20%程度とされている。現地冷凍いちご輸出事業者にも話を聞いたところ、エジプト国内の消費者がいちごを食べる機会は少ないという声もあった。
 エジプト国内では、生鮮いちごはスーパーマーケットや伝統的な市場、路上などで売られている(写真4)。スーパーマーケットでは、250、500、750、1000グラムにパッキングされた生鮮いちごが、25年3月時点で、冷蔵で1キログラム当たり90~200エジプトポンド(261~580円)で販売されている。一方、冷蔵設備のない路上販売では、1キログラム当たり40~60エジプトポンド(116~174円)でバラ売りされている。
 
タイトル: p064b
 
タイトル: p065a

4 輸出動向

(1)輸出の状況
 エジプトでは、生産技術と品質管理技術の向上に伴い、冷凍いちごを含む冷凍野菜や冷凍果物の輸出が拡大している。また、エジプト農業銀行を通じて、輸出向けいちごの生産面積1エーカー(約0.405ヘクタール)当たり9万エジプトポンド(26万1000円)の低金利融資を行うなど、政府による輸出促進支援も輸出拡大に寄与している。
 2024年のいちごの輸出量は40万9351トンであり、その86%を冷凍が占めている(図11)。
 主な輸出先は、生鮮の場合、中東諸国と英国やEU向けで8割以上(24年)を占める(図12)。一方、冷凍はEU向けが43%を占め、その他ロシアや中国、ブラジル、米国など、世界各国に輸出されている。
 これらのうち、生鮮は11月から3月の収穫期最盛期に輸出され(図13)、特に11、12月は主要輸出先の欧州地域の収穫期ではないことから、輸出価格も高値で推移する。
 一方、冷凍は年間を通じて輸出されるものの、生鮮の輸出が減少する3月ごろから増加する傾向にある。冷凍いちごの輸出価格は、年間を通して1キログラム当たり1米ドル(145円)を超える程度である。
 
タイトル: p065b
 
タイトル: p066
 
(2)輸出先での消費方法
 輸出された生鮮いちごは、輸出先の小売店などを通じて販売される。一方、冷凍いちごは、輸出先で主にジャムや菓子、飲料などの加工食品に使用される。輸入業者によると、日本向け冷凍いちごも加工食品の原材料として使用されている。
 
(3)対日輸出動向
 エジプト産冷凍いちごは、日本における冷凍いちご輸入量の18.9%を占め(2024年)、中国に次ぐ数量となっている(図14)。日本におけるエジプト産冷凍いちごの輸入は、10年前に比べ40.5%増加しており、近年存在感が増している。
 日本で輸入するエジプト産冷凍いちごの大きな特徴として、他国と比較して安価な生産コストを反映して輸入価格が低いことが挙げられ、24年の輸入単価は中国産(1キログラム当たり315円)より安価な同253円であった(図15)。
 日本の国産いちごは、本来の旬である3月ごろをピークに、クリスマス需要期である12月~翌4月ごろにかけての生産が多いが(参考)、ケーキ用など業務用の需要が1年を通じてあるため、エジプト産冷凍いちごを含む輸入品が国産いちごの端境期である5月から7月にかけて多く輸入される(図16)。
 
タイトル: p067

タイトル: p068

5 今後の課題

 いちごの生産は、利益率が高いだけでなく、エジプトの農村地域で多くの雇用を生み出していることから、現地では「赤い黄金」と呼ばれており、過去数十年にわたり成長を続け、エジプトの主要輸出農産物として同国の農業を支えてきた。
 一方、気候変動による干ばつや気温の上昇、単収の減少による生産への影響に加え、為替変動による生産コストの高騰は、今後の安定的ないちご生産に向けての問題となっている。
 輸出面に目を向けると、収穫後の流通段階で30%以上の果実が廃棄されていることや、国際輸送コストが高騰しているなどの問題があり、現地事業者からは、政府と業界が一体となって解決に向けて取り組んでいくことが求められている。
 これらの問題を解決するために、業界では政府の支援を受けて2024年にいちご生産者・輸出業者協議会を立ち上げた。同協議会では、国内の研究機関と協力して、エジプト独自の品種開発や輸出先のニーズに沿った生産体系の確立、パッケージなどの統一化などに取り組んでいくとしている。

​6 おわりに

 エジプトはいちごの栽培に適した砂質土壌であることや、地理的に欧州や中東向け輸出に優位なこと、価格面で高い競争力を有することなどから、特に冷凍いちご市場での存在感を増してきた。一方、前述の通り変動が激しい為替相場や人件費などの生産コストの高騰などの課題に直面する中、輸出価格をこれ以上圧縮することは難しいとみられ、今後も国際的な競争力を維持するためには、単収の増加や品質の向上・安定化が必要不可欠とされる。
 このような中、エジプト政府は、いちごを含む農産物輸出を拡大するため、砂漠地帯での農地開拓と輸出拡大に向けたインフラ整備を支援している。エジプトは今後もいちご輸出国として国際市場で高い競争力を維持していくものとみられる。