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海外情報(野菜情報 2018年10月号)


米国におけるいちごの生産および輸出動向

調査情報部


 米国のいちご輸出量の8割は生鮮品であり、そのほとんどがカナダ、メキシコ向けであるが、日本へも輸出されている。最大のいちご生産州であるカリフォルニア州では、労働者不足や人件費の上昇などにより、生産者戸数が減少している一方、メキシコでも生産を始める動きもある。

1 はじめに

米国は、中国に次ぐ世界第2位のいちごの生産国であるとともに、カナダやメキシコを中心に輸出も行っている。

日本のいちごをめぐる状況を見ると、2017年の供給量(生鮮、冷凍、調製品)のうち、輸入品が17%を占めた。輸入品のうち生鮮品は3176トンであり、このうち米国産が95%を占めた(図1、2)。米国産の生鮮品は、ケーキなどの材料として、国産が品薄になる夏場を中心に輸入されている(図3)。また、ジュースやジャムの原料となる冷凍品や調製品(ピューレなど)の輸入量に占める米国産のシェアは、それぞれ第3位(12%)および第2位(23%)となっている。

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本稿では、日本に生鮮を中心としていちごを供給している米国におけるいちごの生産消費および輸出動向などに関して紹介する。

なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=112円(2018年8月末日のTTSレート:1米ドル=112.06円)を使用した。

2 生産状況

(1) 生産量および生産地域

2017年の米国のいちご生産量は、前年比2.5%減の138万6000トンとなった(図4)。このうち、カリフォルニア州が9割を占め、最大の生産地となっている。同州では、州北部に位置するサンフランシスコから南部のサンディエゴにかけて、いちごが生産されており、主要産地は海岸沿いに集中している(図5)。同州の特徴として、温暖な気候に加え、いちごの栽培に適している排水性の良い土壌が挙げられる。

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カリフォルニア州以外では、フロリダ州が生産量の1割弱を占めており、カリフォルニア州の生産量が減少する冬期に収穫のピークを迎える。

カリフォルニア州いちご協会(California Strawberry Commission)によると、同州の生産者戸数は減少傾向にあり、2008年の約600戸から2018年には300戸まで減少した。労働者不足により人件費が上昇しており、生産コストを低減するために複数の生産者が統合した法人経営が増えてきている。

(2)単収

いちごの全米平均単収は、2010年から2017年にかけて、10アール当たり5.7~6.9トンで推移した(図6)。カリフォルニア州いちご協会によると、同州の単収は、農家が収量のよい苗の導入による増産に力を入れていることなどから、全米平均よりも高い傾向にある。

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(3) 規格

米国のいちごの規格には、Grade1、Grade2に加え、この2つを組み合わせたCombinationがある(表1)。これらの規格に該当するいちごは、果肉にヘタが付き、引き締まっており、過熟または未熟でなく、カビや傷みのないものでなければならないと米国農務省(USDA)により定められている。

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(4) 品種および栽培暦

カリフォルニア州いちご協会によると、カリフォルニア大学によって開発されたモントレー、サンアンドレアス、フロンテラスなどの品種が普及しており、これらは同州全体の約60%を占めている。残りの40%は、民間企業によって開発された品種が占めている。例えば、大手いちご生産企業のDriscoll’sは、パサディナ、アメスティ、マグダリーナなどの品種を独自で開発している。カリフォルニア州の主要生産地における主要品種を表2に示した。

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カリフォルニア大学農業天然資源部(Division of Agriculture and Natural Resources)によると、カリフォルニア州では夏から冬にかけての定植が一般的であり、セントラル・バレー内陸部では8月から、北部の沿岸地域では10月から定植が始められる。この時期に定植される品種は、秋から冬にかけて成長し春に実をつけるモントレー、サンアンドレアス、ポルトラ、カブリヨなどが多い。南部では、10月から12月にかけて定植され、短期間で収穫が可能なフロンテラスなどの品種が多い。

一方、フロリダ州では、9月下旬から11月上旬に定植し、11月から4月にかけて収穫する。同州の農家は、カリフォルニア州の収穫が本格化する3月以降は、いちごの販売価格が下落するため、それまでに収穫をほとんど完了する傾向にある(図7)

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(5) 栽培方法

米国では、露地栽培が一般的である。定植には、親株から伸びるランナーと呼ばれる枝の先端にできる子苗が用いられる。子苗の生産は、温室で行われる。

カリフォルニア大学農業天然資源部が行っている生産コスト分析調査を見ると、畝幅48インチ(約122センチメートル)、苗の間隔は12インチ(約30センチメートル)、列で定植している。同調査は、同州の中部沿岸地域であるサンタクルーズ郡やモントレー郡対象となっているものの、同州の一般的な栽培方法を反映していると考えられる。畝は、保水・保温および雑草の抑制、果実の保護のため、プラスチックフィルムで覆われている(マルチ栽培)。なお、地中にチューブを埋設した点滴かんがいが主流である。

カリフォルニア州いちご協会は、病害への対処方法、耐性の強い品種などに関する情報提供を行い、病害の軽減に努めている。生産者は、定植前に土壌整備を行い、専門業者を雇って土壌くん蒸剤(土壌消毒剤)を散布する。米国のいちご栽培では、長年、土壌くん蒸剤として臭化メチルを使用してきた。しかし、臭化メチルは、1987年のモントリオール議定書でオゾン層破壊物質に指定され、カリフォルニア州では2016年までに漸次撤廃とされた。生産者は、臭化メチルの代替としてクロロピクリンを使用しているが、同州農薬規制局が薬剤に対する緩衝地帯を拡大しており、一部の生産者は、都市や住宅地から離れた農地への移転を余儀なくされている。

2017年、米国農務省およびカリフォルニア州いちご協会は、880万米ドル(9億8560万円)をカリフォルニア大学およびフロリダ大学に提供し、病害虫に強い新品種の開発、バイオフューミゲーション(生物的くん蒸)の研究を支援すると発表した。今後、いちご栽培における土壌くん蒸剤の使用を低減する取り組みが進められる見込みである。

(6) 生産コスト

いちごは、苗の植え付けから管理、収穫まで手作業で行われるのが一般的であることから、比較的生産コストの高い作物である。

2016年のカリフォルニア大学の調査によると、いちごの生産コストは、10アール当たり1万5384米ドル(172万3008円)であった。生産コストのうち、労働費が全体の4割、次いで資材費(クラムシェルおよびクレートの容器、マルチシートなど)が割強を占めた(表3)

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同調査では、18ヘクタールのじょうを、圃場監督者1名、収穫作業者(ピッカー)35名、ピーク時は監督者2名とピッカー65名により収穫する場合のコストを示している。カリフォルニア州の最低賃金は、全米平均と比較して高い。さらに、ほとんどの生産者は、時給に出来高を加えた賃金をピッカーに支払っているため、同調査では、1人当たりの時給を16.10米ドル(1803円)とした上で、ピッカーの賃金を計算している。また、同州は2022年までに最低賃金を現在の11米ドル(1232円)から段階的に15米ドル(1680円)まで引き上げるとしており、今後、労働費はさらに増加すると見込まれている。

カリフォルニア州では、労働者不足および農業従事者の高齢化が進んでおり、多くのいちご生産者が、メキシコからの季節農業労働者に頼るようになっている。しかし、季節農業労働者を雇用する際は、渡航費、宿泊施設、食費なども負担しなければならないため、生産者の経済的負担は大きい。いちごの栽培や収穫用の農業機械の開発・導入は進んでいない。現在5~6社が開発に取り組んでいるものの、実際に農業機械が開発・導入されるまでには数年かかると見込まれている。

3 流通・消費動向

(1) 国内向けの流通

いちごは、傷つきやすく、腐りやすい果実のため、手作業によって収穫され、収穫と並行して圃場でパッキングも行なわれる。米国では、クラムシェルと呼ばれるプラスチック容器での販売が一般的であることから、ピッカーは、収穫したいちごをこの容器に詰めていく。いちごが詰められたクラムシェル容器は、クレートと呼ばれる段ボール箱に入れられ、数十箱のクレートの山(パレット)で予冷室に搬送する。

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予冷室で度まで冷却されたいちごは、果実の酸化を最小限に抑えるため、パレットごとにプラスチックフィルムで梱包される。この梱包によって、パレット内の二酸化炭素濃度を上昇させ、カビの繁殖を抑制することにより、長時間の輸送でもいちごの品質を維持することができる。梱包後は、出荷までの間、保冷庫(0度)で最長2日保管される。

国内流通は、冷蔵トラックによる輸送がほとんどであり、生産地から全国の流通センターを経由し、各小売店へ納入される。収穫から小売店までの流通は、通常、1週間以内とされている。

(2) 対日輸出用の流通

対日輸出用のいちごも、国内向けと同様、圃場でパッキングされた後、冷却、梱包される。日本への輸送方法は、生鮮いちごでは、サンフランシスコ空港またはロサンゼルス空港からの空輸が多い。収穫から日本到着までに要する日数は、サンフランシスコ空港から2日程度、ロサンゼルス空港から3日程度であり、通常、収穫から1週間以内に小売店の店頭に並ぶ。対日輸出は、生産から流通までを一体化しているWELL PICT社やドリスコール社などの大手いちご生産企業によって行なわれている。

また、冷凍いちごの場合は、収穫、洗浄後、24時間以内に冷凍され、輸出までの間、冷凍庫で保管される。冷凍いちごは、通常、コンテナで海上輸送され、カリフォルニア州から日本到着まで10日程度を要する。米国から冷凍いちごを輸入している国内大手企業によれば、洗浄および目視による品質確認の工程で選別されているため、果実の粒はしっかりしているという。

(3) 米国における消費状況

いちごの最大生産地であるカリフォルニア州では、生産量の75%が生鮮品、25%が加工などに仕向けられる冷凍品である。米国における生鮮いちごの消費量は、緩やかに増加しており、2010年の約112万トンから2016年には約130万トンとなった。2016年の一人当たり年間消費量は、3.64キログラムと10年間で約800グラム増加した(図8)。消費量が増加した背景としては、年間を通して流通するようになったことや、栄養価(アントシアニン、ビタミンCなど)が注目されたことなどが挙げられる。また、以前は、いちごはデザートとして認識されていたが、現在は、サラダのトッピングや間食として好まれ、健康志向の高い消費者にはいちごを使用したスムージーが人気である。米国では、スムージー人気の高まりに伴い、冷凍フルーツの需要が増加しているとみられ、冷凍いちごは特に需要が高いとされる。また、クラムシェル容器の登場により、鮮度の維持が向上したことなども消費量増加の要因と考えられる。

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(4) 小売価格

米国におけるいちごの小売価格は、2014年から2017年にかけて、1キログラム当たり約5~8米ドル(560~896円)で推移した。図9から分かるように、いちごの小売価格は、カリフォルニア州産が出回る3月頃に下落する傾向にある。カリフォルニア州産が品薄になる秋から冬は、フロリダ州産およびメキシコ産が流通するものの、価格は上昇する傾向にある。2014年、2015年は、カリフォルニア州で深刻な干ばつが観測され、いちご生産にも影響が生じたため小売価格も上昇した。

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4 貿易動向

(1) 輸入

米国のいちご輸入量は、米国国内での需要の高まりによりおおむね増加傾向にある(図10)。2017年の米国の生鮮いちご輸入量は、前年比0.8%増の16万7000トンとなり、メキシコ産が99%を占めた。同年の冷凍いちご輸入量は、前年比11.7%減の10万9000トンとなり、メキシコ産が80%を占めたほか、チリ、ペルー、トルコからの輸入があった。

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近年、米国産よりも比較的安価であることや、カリフォルニア州産が品薄になる冬期の収穫量が多いことなどから、メキシコからの輸入が伸びている。また、米国の大手いちご生産者は、年間を通して栽培すべく、メキシコでも生産を始めている。生産コストが米国より低く、2017年までは臭化メチルの使用が許可されていたことも、米国の大手生産者がメキシコでの生産に乗り出す要因となっていたと考えられる。

(2) 輸出

生鮮いちごは、2010年から2017年において年間12万トン~14万トン程度輸出され、いちご輸出の約80%を占めた(図11)。有機栽培いちごも輸出されており、生鮮いちごの輸出量の5%程度を占めている。冷凍いちごは、万5000~3万トン程度で推移しておりいちご輸出量全体の15%を占めた。

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2014年以降、国内需要の高まりにより輸出量はやや減少傾向にあったが、2016年以降は増加傾向に転じている。

米国産生鮮いちごは、主にカナダおよびメキシコへ輸出されており、2017年には米国産生鮮いちごの輸出量のうち、カナダが73%、メキシコが16%を占めた(図12)。カナダでは、寒冷な気候のため年間を通したいちご生産が困難であることから、米国からの輸入が多く、カナダ国内で流通している生鮮いちごの約割は米国産とされている。またメキシコでは、いちご生産のピークが5~6月となっており、生産量が減少する7~9月にかけ米国産が輸入される。その他、日本、サウジアラビア、香港などにも輸出している。

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生鮮いちごの対日輸出量減少傾向となっており、カリフォルニア州いちご協会は、この要因として日本の人口やいちごの消費量が減少していることを挙げている(図13)。

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カリフォルニア州いちご協会によれば、2016年に解禁された中国のほか、韓国やインド市場への参入も視野に入れているという。しかし、輸出に関しては、流通網、輸出コスト、需要等のさまざまな要素を熟慮する必要があり、特に生鮮いちごは鮮度が重要なため、輸出は生産者にとってリスクを伴うとしている。

5 おわりに

日本では、米国産いちごは、これまで業務用や加工用として利用されることが多かったが、近年、甘みが強く、果肉も柔らかい品種が流通するようになってきており、コストコやイオンなどの大手量販店では、夏場を中心に消費向けに販売されている。米国で開発された対日輸出向けの品種を輸入している国内業者によると、甘みや堅さなどが国産に近づいているとの評価もある。

一方、栄養価に着目したマーケティングの効果などにより、米国内でのいちご需要増加傾向で推移しており、生産者は国内への供給にも力を入れているとされる。米国への供給を目的とした、米国の大手いちご生産者によるメキシコでの栽培が増えていることから、今後、米国とメキシコを合わせた生産動向の把握が求められる。




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