(1)リステリア菌集団感染事件への対応
豪州のメロン産業において、近年、最も世間の
耳目を集めたのは、2018年に発生したロックメロンに関するリステリア菌(河川水や動物の腸管内など環境中に広く分布する細菌)集団感染事件である。同年1月から4月の間に、ニューサウスウェールズ州で6例、ビクトリア州で8例、クイーンズランド州で7例、タスマニア州で1例発生し、汚染メロンを食した計22人が感染、うち7人が死亡するなど、社会的にも大きな事件となった。ニューサウスウェールズ州政府による検証結果では、同州内の特定のメロン農家が生産したメロンに砂嵐などの悪天候によりリステリア菌が付着したことが主な原因と結論付けられた。当時、メロンの売り上げは事件発生前と比較して9割以上減少したとされているが、本件を受け、メロンズ・オーストラリアはニューサウスウェールズ州政府と連携し、 1)メロンの洗浄方法などに関する衛生基準の見直し 2)メロン農家への同基準の普及および遵守への取り組み 3)消費者に対するメロンの安全な取り扱いや保存方法などに関する広報活動-などを行っている。
(2)トレーサビリティ
前項のリステリア菌汚染事件を契機として、メロンズ・オーストラリアは、ニューサウスウェールズ州第一次産業省と共同でトレーサビリティ・プロジェクトを実施しており、豪州農林水産省(DAFF)からも補助金を受けている。本プロジェクトは、メロン業界のトレーサビリティ・システムを確立し、病原菌汚染に関する危機管理およびブランド力強化による輸出競争力の強化を目的としている。
これにより、 1)サプライチェーン内の流通管理 2)事故発生時の迅速な商品回収 3)不正取引の防止 4)ブランドの識別とプロモーション 5)農場のバイオセキュリティ(農作物や家畜への病原体の侵入や病気の蔓延を防ぐための取り組み)と生産管理の向上-などに貢献し、メロンに対する消費者への安心と信頼性を提供している。
(3)課徴金制度
豪州には、生産者の発意により、業界発展のための各種取り組みに活用する課徴金(チェックオフ)制度が存在する。本制度はDAFFを徴収者として法制化され、支払いは義務化されており、メロンに関しては2017年から導入されている。メロンは販売時または輸出時に1キログラム当たり0.004豪ドル(0.384円。ただし、病害虫の豪州国内侵入がない場合)の課徴金が徴収されており、これらは以下の三つの使途に向けられる(表2)。ただし、会計年度中の20トン未満の販売(路上マーケットや小規模レストランへの販売など)および輸出については、徴収の対象外となる。
ア プラントヘルス・オーストラリアの活動費
豪州の植物衛生を担う非営利研究団体のプラントヘルス・オーストラリアの運営費およびバイオセキュリティ対策に充てられる。同団体は、バイオセキュリティ問題に関する専門的な技術アドバイスや病害虫侵入時の支援、バイオセキュリティ計画と戦略の策定を行っている。
イ 研究開発費
メロン生産者の生産性および収益性を向上させるための研究開発、技術普及活動に関する費用に充てられる。
ウ 緊急植物病害虫対応費
豪州へのミバエなどの病害虫侵入により、バイオセキュリティが脅かされた場合に活用される緊急的な基金に充てられる。このため、病害虫の侵入が発生するまで、徴収義務は生じない。
(4)研究開発
上記のDAFFが徴収した課徴金の使途の一つである研究開発費は、園芸関係の非営利団体であるホート・イノベーションに配賦され、政府補助金などを合わせて年間100万豪ドル(9597万円)以上が研究開発費に充てられている。主な研究例は、 1)小売店などの店頭に並んだメロンの酸化を遅らせることによる賞味期限の長期化 2)メロンの熟成度を示す果皮色の基準化 3)メロンを丸ごと購入したいが、従来のサイズのメロンは食べ切れないというニーズに対応した小型メロン品種の開発と増産-などであり、現在、メロンに関する研究開発プロジェクトは、全部で30を超える(表3)。
これら研究開発プロジェクトの予算配分については、ホート・イノベーションがメロンズ・オーストラリアやメロン生産者と組織する諮問委員会により、研究開発に関するメロン戦略投資計画
(注3)に基づき、優先研究課題を設定している(表4)。
(注3)2022~26年までの5カ年計画で、メロンの生産性の向上と安定供給、需要創出や持続可能性などについて、それぞれの戦略とKPI(Key Performance Indicator 組織やプロジェクトの目標達成度を測るための指標)が設定されている。
