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海外情報 野菜情報 2023年12月号

豪州およびニュージーランドの労働力不足への対応 ~コロナ禍における園芸部門での対策を中心に~

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調査情報部

【要約】

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、世界の各国・地域に対してあらゆる分野でさまざまな課題を突き付けた。豪州とニュージーランド(NZ)では、かねてから野菜を含む園芸作物の生産における労働力不足が課題となっていたが、COVID-19の世界的な大流行を契機に対応の具体的進展が見られた。豪州では、従来の対応である外国人労働者の確保を主体としたのに対し、NZでは自国民の労働者の増加を目指すなど、各国の事情・実態に合わせ、業界団体なども巻き込みつつ、短期的および長期的な観点から本課題に係る取り組みが進められた。

1 はじめに

 南半球に位置する豪州およびニュージーランド(NZ)は、日本とは気候が反対となる利点を生かし、日本の野菜生産の端境期を中心に、かぼちゃやたまねぎ、メロンなどさまざまな野菜の主要な輸入先となっている(表1)。一方、両国の園芸作物の生産は、農業分野の労働者数が比較的少ないことなどを背景に、従来から収穫時などの作業は外国人労働者と季節労働者に大きく依存している。このような中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による外国人に対する国境閉鎖などから労働力不足に陥り、両国ではその解消に向けた対応を迫られた。
 本稿では、両国の園芸作物の生産における労働力不足の解消に向けた政府の動きや、業界団体の取り組みなどについて報告する。
 なお、本稿中特に断りのない限り、豪州の年度は7月~翌6月、NZの年度は6月~翌5月であり、為替レートは1豪ドル=97.19円、1NZドル=89.21円(注1)を使用した。
 
注1:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年10月末TTS相場。

タイトル: p060

2 豪州およびNZの園芸部門を取り巻く状況

(1)豪州
ア 園芸部門の概要

 豪州の主な園芸作物は、野菜のほか、果物、ナッツ類、芝(草)、苗木であり、その多くは伝統的に小規模な家族経営の農家で栽培されているが、近年は中・大規模農家も増加している。主要生産地域は、大都市近郊、沿岸部、内陸部の主要河川を利用したかんがい設備を有する地域など、水資源を確保できる地域となっている(図1)。
 豪州農業資源経済科学局(ABARES)の報告では、2022/23年度の果物・ナッツ類生産額は63億120万豪ドル(約6124億円)であり、野菜生産額は57億9900万豪ドル(約5636億円)となっている(図2)。これら園芸部門は農業総産出額の13%に相当し、全体で第3位となる。一方、同年度の輸出額は、それぞれ26億2562万豪ドル(約2552億円)、3億9025万豪ドル(約379億円)と、農畜産物の総輸出額の4%弱となっている。

タイトル: p061

タイトル: p062a
 
イ 園芸部門に従事する労働者
 豪州の園芸作物の生産では、特に収穫時期の作業は、外国人労働者と国内の季節労働者に大きく依存している。
 外国人労働者は、同国政府が制定した季節労働者プログラム(SWP:Seasonal Worker Programme)および太平洋労働スキーム(PLS:Pacific Labour Scheme)(注2)による太平洋島しょ国9カ国および東ティモールからの労働者か、ワーキング・ホリデー・メーカー(WHM:Working Holiday Maker)プログラムにより、豪州で休暇を過ごしながら働くことが認められたワーキング・ホリデー労働者である(表2、写真1)。
 
注2:SWPとPLSを合わせて、太平洋豪州労働力移動計画(Pacific Australia Labour Mobility、PALM)と呼ばれる。

タイトル: p062b

タイトル: p063a
 
 ABARESが2022年に行った園芸部門の農家9763戸を対象とした2021/22年度の労働力に関する実態調査によれば、大規模農場(労働使用量の上位1位(上位25%)にある農場)が総労働者使用数の64.4%、外国人労働者使用数の86.3%を占めるとされている(表3)。
 また、COVID-19流行前である19年7月~20年3月においては、園芸部門の全労働力のおよそ3割は外国人労働者(WHM、SWPおよびPLS)に依存していた(図3)。

タイトル: p063b

タイトル: p064
 
ウ COVID-19流行による労働者数への影響
 豪州では、2020年1月にCOVID-19が初めて確認されて以降、感染が拡大し、同年3月20日にすべての非居住者に対して国境が閉鎖された。その後、22年2月21日にワクチン接種証明書の提出など一定の条件を満たすことにより豪州への入国が認められるまで、約2年を要した。
 上述のABARESの調査結果によれば、1カ月当たりの平均総労働者数は、COVID-19流行前(19年7月~20年3月)の14万8594人から、COVID-19流行後(20年7月~21年3月)には13万6694人と、1万1900人(8%)減少した。このうち、最も減少幅の大きかったのはWHMであり、COVID-19流行前の3万9022人からCOVID-19流行後には2万8684人と、1万338人(26%)減少した(図3)。
 国境閉鎖期間中の推移を見ると、WHMの減少は豪州政府による国境閉鎖が解除された22年2月まで継続していた(図4)。一方、SWPおよびPLSについては、一時的に減少する時期もあったものの、国境が閉鎖されていた期間中も堅調に増加していた。これは、園芸部門を含む農業分野と食肉加工分野での労働需要に応えるため、豪州政府が20年9月から太平洋諸国(太平洋島しょ国9カ国および東ティモール)からの再入国を許可するとともに、3(1)ウに後述するような、制度改善が図られたことなどが影響したと考えられる。

タイトル: p065
 
(2)NZ
ア 園芸部門の概要

 NZの園芸作物は輸出主導型であり、主力はキウイ、リンゴ、アボカドなどの果物である。野菜では、たまねぎ、ばれいしょ、かぼちゃが主要作物となっている。北島は粘土質な土壌が多く、たまねぎ、ばれいしょなどの野菜のほか、キウイ、リンゴ、アボカドなどさまざまな果樹も栽培されている。南島は砂質の土壌が多いため、農用地などの利用にはかんがい施設が必要となっている(図5)。
 NZ第一次産業省(MPI)の報告では、2022/23年度の園芸品目の輸出額は69億2000万NZドル(約6173億円)である。そのうちキウイが24億2000万NZドル(約2159億円)と全体の35.0%を占めており、生鮮および加工野菜は7億1000万NZドル(約633億円)と同10.3%を占めている(図6)。

タイトル: p066a

タイトル: p066b

イ 園芸部門に従事する労働者
 NZの園芸部門は、豪州と同様に、特に収穫時期の作業について、外国人労働者と国内の季節労働者に大きく依存している。
 外国人労働者は、認定季節雇用者(RSE:Recognised Seasonal Employer)制度により雇用された、太平洋島しょ国9カ国およびアジア諸国などからの労働者か、ワーキング・ホリデー・スキーム(WHS:Working Holiday Scheme)により、NZで休暇を過ごしながら働くことが認められたワーキング・ホリデー労働者が中心となっている(表4)。その他にも、すでに留学生ビザなどでNZに滞在しており、園芸部門で季節的な仕事をしたい場合に認められる補足季節雇用(SSE:Supplementary Seasonal Employment)の就労ビザなどにより就労する者もいる。
 2021年のMPIの報告によると、19年の園芸部門の労働力のうち、国内労働者は全労働者の約62%を占めている。同様にRSEは約21%、WHSは約11%であり、その他のビザ所持者(SSEなど)の約6%を合わせると、労働力の約38%は外国人労働者に依存していることになる(図7)。

タイトル: p067a

タイトル: p067b
 
ウ COVID-19流行による労働者数への影響
 NZでは、2020年2月28日にCOVID-19が初めて確認された際に、すべての渡航者(NZ人および居住ビザ保持者を除く)に対して国境を閉鎖し、ロックダウン措置を行った。その後、22年2月から5月にかけて、国境規制などを徐々に緩和し、同年10月にすべてのビザ保有者に入国が認められるまで、約2年8カ月を要した。
 NZ移民局(INZ)によれば、RSE制度により入国した外国人労働者数は、COVID-19流行前(18/19年度)の1万2581人から、COVID-19流行後(20/21年度)の2018人と、1万563人(84%)減少している(図8)。国別に見ると、20/21年度の太平洋島しょ国からの受け入れは2012人と前年度の5分の1程度である一方、アジア諸国などからの受け入れは台湾の6人のみであり、ほとんど受け入れがされていなかった(表5)。

タイトル: p068a

タイトル: p068b

3 政府による労働力不足の解消に向けた具体的な取り組み

 豪州およびNZでは、COVID-19流行の混乱の中、短期的な労働力を確保するためにさまざまな措置が講じられた。豪州では、慢性的な労働者不足の状況を打開するため、自国産業の成長を視野に入れた長期的な観点からの制度改善なども図られた。このような労働力不足は園芸部門に限らず、あらゆる産業で生じていたことから、両国政府の対応も園芸部門のみを直接のターゲットとしたものは限られていた。本項では、このような状況を前提としつつ、両国の政府による具体的な措置について紹介する。
 
(1)豪州
ア COVID-19パンデミックイベントビザ(408ビザ)

 2020年3月20日から国境が閉鎖され、国際便の運航が停止したことなどを踏まえ、豪州政府は同年4月、自国への帰国が困難となった外国人労働者に対する救済措置として、緊急的にCOVID-19パンデミックイベントビザ(408ビザ:Temporary Activity VISA)の運用を開始した。対象は豪州政府によって重要産業と位置付けられた農業、医療、高齢者介護、食品加工業などへの就労者または就労予定者であり、最長12カ月間(それ以外のセクターについては最大3カ月間)、豪州での滞在を延長することができた。20年5月から21年12月までの間に、7225人の外国人労働者が408ビザに移行し、その大半がSWP労働者であったとされている。COVID-19流行前とCOVID-19流行後のSWP、PLSおよび408ビザの各労働者数の推移を見ると、408ビザがCOVID-19流行中に大きな役割を果たしていたことがうかがえる(図9)。

タイトル: p069
 
イ 農業ビザ(AAV)
 2021年8月23日に発表された農業ビザ(AAV:Australian Agriculture VISA)は、園芸、食肉加工、酪農、羊毛、穀物、漁業(養殖を含む)、林業といった第一次産業を対象としたものである。農業分野の労働者を確実に確保することを目的として、外務貿易省が検討を進めていた。SWPやPLSといった既存制度は、豪州の農業部門にとって優先的な労働力の供給源であり続けるものの、AAVは国内季節労働者を含む既存の制度で埋められない労働力の不足に対応するものとして、供給国との交渉による二国間協定に基づいて実施されることになっていた。最初の適用国はベトナムで、22年3月28日に覚書が締結され、他の国との協定締結も目指しつつ、追って、現在の就労ビザの条件を改善し、永住ビザ取得への道を開くことも検討されていた。しかし、22年5月の国政選挙により新政権が発足した後は、AAVを単独のビザとして追求する計画は棚上げされている。

ウ PALMの改善
 豪州と太平洋諸国間の労働移動制度の管理と実行の効率化を図り、労働者の労働条件を改善し、より多くの外国人労働者を確保するため、既存のスキームであるSWPとPLSを改善しつつ、正式に太平洋豪州労働力移動計画(PALM)として一つに統合することが検討された。2022年6月から外務貿易省と雇用労働関係省と共同で協議を開始し、4回のPALM制度委員会において、産業界、雇用者、労働者、州・準州・地方政府、太平洋諸国政府なども含めた多数のステークホルダーの参加を得て、各関係者の利益を最大化するため、(1)家族同伴の許可(2)上述イのAAVのPALMへの移行(3)雇用主の旅費の負担軽減―などの主要改革点について議論された。この結果、SWPとPLSは、23年7月にPALMに正式に統合された(表6)。

タイトル: p070
 
エ AgMoveの改善
 豪州政府は、国内の労働力供給を促進するための取り組みも行った。具体的には、地方部において、豪州人および一時的なビザ保有者が短期間の収穫作業を行うために生活拠点を移転する必要がある場合に、豪州政府が移転費用の支払いを支援するもの(AgMove)であり、2020年11月から導入された(表7)。その後、2021年5月に、最低労働時間を6週間から2週間に短縮したこともあり、22年2月までに約7000件の雇用契約が交わされたとされている。

タイトル: p071a
 
(2)NZ
ア ブリッジング・ビザおよび就労ビザの自動延長

 NZ政府は2021年10月、COVID-19流行による飛行機のキャンセルなどの問題で帰国できないRSE労働者の滞在期間を延長する新しい「ブリッジング・ビザ」を発表した。このビザを取得した人は、NZに滞在しながら引き続き仕事をすることができたため、RSE労働者の経済状況だけでなく、NZにおける夏季の労働力不足の問題解消にも寄与したとされている(写真2)。
 また、NZ政府は、労働力の確保を目的として、21年6月から12月の間および同年12月から22年6月の間に失効するWHSおよびSSEの就労ビザについて、それぞれ自動的に延長すると発表した。これにより、前者で約1万人、後者で8500人以上が恩恵を受けたとされている。

タイトル: p071b
 
イ 「Opportunity Grows Here」キャンペーン
 NZ政府は、COVID-19流行だけでなく、長期的な成長も視野に入れ、園芸部門で働くNZ人を増やすために、さまざまな政策やキャンペーンを実施した。その一つが、MPIが2020年に開始した「Opportunity Grows Here」キャンペーンである。 このキャンペーンの目的は、国内の第一次産業(畜産、漁業、園芸など)のさまざまな職種に、より多くの自国民労働者を呼び込むことである。4年以内に1万人の自国民を第一次産業に従事させることを目標としている。
 同キャンペーンは、園芸業界団体をはじめとする第一次産業の業界団体や訓練施設の支援を受け、この分野でどのようなキャリア、仕事、訓練の機会があるのかについての情報を提供している。また、季節労働だけでなく長期労働まで多様な職種があり、都心に近い場所でも働くことができることなど、同分野の魅力をアピールしている。主に専用ウェブサイト、SNSやプレスリリースといった形で情報発信が行われており、研修に関する情報も併せて提供されている(図10)。同キャンペーンにより、これまで収穫作業の主要な労働供給源ではなかった主婦や学生への働きかけが行われている。

タイトル: p072
出典:MPIウェブサイト(https://www.opportunitygrowshere.nz

4 業界団体などによる労働力不足の解消に向けた具体的な取り組み

 業界団体などによる取り組みの多くは必ずしもCOVID-19流行を受けて始まったわけではなかった。しかし、COVID-19流行による移動制限と、それによる労働力不足のさらなる悪化は、業界団体などの深い関与を促した。特に、豪州の業界団体からは、政府への政策提言が多く行われており、その一部は上述3(1)ウのPALMの改善という形で政策に反映されている。本項では、これら政策提言については割愛するが、両国の業界団体によるその他の具体的な事例について紹介する。
 
(1)Fair Farms認証(豪州)
 豪州では2019年、園芸部門のためのコンプライアンストレーニングと認定プログラムを提供する非営利組織のFair Farmsが設立された。COVID-19流行前後にタイムリーにスタートしたことで、外国人労働者が公正に扱われ、搾取されないことを目指す業界主導の取り組みがクローズアップされた。同認証は、生産者・雇用者側の利害関係者の第三者監査、研修、農場の認証などを通じてこれを実現しようとするものであり、認証農場からの調達を奨励している(写真3)。この取り組みは、全豪農業者連盟(NFF)やコールズ、ウールワース、アルディなどの大手小売業者からも支持されている。

タイトル: p073a
 
(2)Horticulture New Zealand(HortNZ)の取り組み(NZ)
 HortNZは、NZの商業的な園芸部門の生産者を代表する最大の業界団体である。同団体は、COVID-19流行による急な入国制限を考慮し、雇用主が国内で季節労働者を確保できるようにするため、2021年9月に「PickNZ ジョブボード」を公開した。同サイトは、園芸部門の季節労働者に関する求人情報と利用できる各種制度の詳細を掲載した総合プラットフォームで、RSE労働者だけでなく、NZ市民や居住者(NZでの就労が認められている一時的なビザ保持者を含む)を対象とした短期就労へのリンクも含まれている。同サイトの開設以来、高度な技術を要する職種から収穫作業まで、3万3000以上の求人情報が掲載されている(図11)。

タイトル: p073b
出典:HortNZウェブサイト(https://www.picknz.co.nz

【コラム】 労働力不足に対応するための省力化技術の導入例

 2022年11月から12月にかけ、豪州ではVIC州の州都メルボルンおよびその周辺を、NZでは北島のウェリントンおよび南島のオークランド周辺の野菜生産農場や関連企業などを訪問し、労働力不足に対応するための省力化技術の導入状況などを取材した。
 
(1)豪州
 豪州では、特に小規模農家にとって、新技術の導入が労働力不足や生産コスト上昇への対応策となり得ると考えられている。同国アデレード大学が2019年1月に報告した調査では「自動化は園芸部門の国際競争力を向上させ、新技術を管理する高技能職を創出する可能性がある」と指摘している。
 COVID-19流行前の19年に設立されたLYRO Robotics社は、メルボルンとQLD州の州都ブリスベンに拠点(製造工場)を構え、作物の識別、選果、梱包、さらに異なる基準(形状、サイズ、色、長さなど)に合わせて、全自動で箱詰めができるロボットシステムを開発した(コラム-写真1)。この技術は、葉物野菜への適応はまだできないとされているものの、ズッキーニ、マンゴー、アボカド、かんしょなどの農作物で利用可能とされており、トウガラシやすいかといった他の生鮮農作物でも調整により利用可能とされている。
 同社によると、COVID-19流行を受けて生産農家の新技術への関心は高まっており、現在、同ロボットシステムは実用化に向けた現場試験の段階ではあるものの、実用化されれば作業員1人当たりの梱包コストが1シーズン当たり70%削減できる点も大きなセールスポイントになるとしている。また、小型のロボットアームは本体に納まっているため、小規模のハウスでも設置が容易であるとしている。

タイトル: p074
出典:LYRO Robotics社ウェブサイト
https://www.youtube.com/watch?v=C6Tjzkv-PyE) 
 
(2)NZ
 NZでも、COVID-19流行を受け、特に施設園芸作物の生産における機械化に注目が集まった。
 オークランドにあるFTEK社は、施設園芸向けの機械の維持や収穫装置の設計・製造を専門とする技術系スタートアップ企業である。12年前にピッキングリフト(コラム-写真2)の製造を開始し、その後、豪州とNZで500台以上を販売した実績を有している。同社によれば、COVID-19の大流行時に、収益性が高く、収穫時に多くの人手を要するいちごなどの施設園芸作物の生産で、ピッキングリフトの需要が急増したとしている。NZでは、同社顧客の50%が家族経営の農場であり、ピッキングリフトは0.5ヘクタールで2人の労働者で運営されているような零細農場であっても使用可能であるとしている。

タイトル: p075a
 
 また、機械化だけではなく、生産手法でも省力化の取り組みが行われている。オークランドでパプリカ、トマト、いちごなどを施設栽培しているNZグルメ社では、パプリカ栽培の効率化に工夫を凝らしている。同社は、パプリカの植え付け時に茎を切り、V字型に成長するように仕向けることにより、果実(パプリカ)が常に株の外側(通路側)に向かって実るようにし、作業者が収穫しやすくすることで省力化を図っている(コラム-写真3)。

タイトル: p075b

5 おわりに

 豪州で実施されたPALMの改善について現地関係者の間では、外国人労働者の労働環境に配慮し、雇用者に対して、福祉支援、宿泊施設の基準、十分な労働時間の提供などの追加要件が課せられていることから、同制度を利用できる農家が限られるのではないかとの指摘もある。すでに雇用者に対して政府の厳しい要件やプログラム関連費用(宿舎、滞在のためのケアなど)の負担が課されているNZのRSE制度については、雇用者の負担の大きさから、特に小規模農家では、必ずしも同制度を利用することができていないとの声も聞かれるとのことであった。制度が改善され、労働者にとって魅力的な制度となっても、それを利用する雇用者が減れば、結局は労働力不足の解消にはつながらない。このため、労働者の権利と雇用者の負担のバランスが重要となることに留意が必要である。
 一方で、豪州でのFair Farms認証の取り組みにあるように、外国人労働者が公正に扱われ、搾取されないことを目指すとの動きは、今後、両国でより強く求められると考えられる。また、このような労働者の権利の保護および尊重の流れは、豪州やNZに限った話ではなく、世界的な潮流でもあることから、今後、労働力を確保するためには、これまで以上にコストを要する可能性があると考えられる。
 少子高齢化が進み、労働力不足が進む日本においてもこれらの動きは他人事ではない。今般の両国の労働力不足への対応が、今後、実際にどのように労働者の確保につながっていくかが注目される。