(1)豪州
ア 園芸部門の概要
豪州の主な園芸作物は、野菜のほか、果物、ナッツ類、芝(草)、苗木であり、その多くは伝統的に小規模な家族経営の農家で栽培されているが、近年は中・大規模農家も増加している。主要生産地域は、大都市近郊、沿岸部、内陸部の主要河川を利用したかんがい設備を有する地域など、水資源を確保できる地域となっている(図1)。
豪州農業資源経済科学局(ABARES)の報告では、2022/23年度の果物・ナッツ類生産額は63億120万豪ドル(約6124億円)であり、野菜生産額は57億9900万豪ドル(約5636億円)となっている(図2)。これら園芸部門は農業総産出額の13%に相当し、全体で第3位となる。一方、同年度の輸出額は、それぞれ26億2562万豪ドル(約2552億円)、3億9025万豪ドル(約379億円)と、農畜産物の総輸出額の4%弱となっている。
イ 園芸部門に従事する労働者
豪州の園芸作物の生産では、特に収穫時期の作業は、外国人労働者と国内の季節労働者に大きく依存している。
外国人労働者は、同国政府が制定した季節労働者プログラム(SWP:Seasonal Worker Programme)および太平洋労働スキーム(PLS:Pacific Labour Scheme)
(注2)による太平洋島しょ国9カ国および東ティモールからの労働者か、ワーキング・ホリデー・メーカー(WHM:Working Holiday Maker)プログラムにより、豪州で休暇を過ごしながら働くことが認められたワーキング・ホリデー労働者である(表2、写真1)。
注2:SWPとPLSを合わせて、太平洋豪州労働力移動計画(Pacific Australia Labour Mobility、PALM)と呼ばれる。
ABARESが2022年に行った園芸部門の農家9763戸を対象とした2021/22年度の労働力に関する実態調査によれば、大規模農場(労働使用量の上位1位(上位25%)にある農場)が総労働者使用数の64.4%、外国人労働者使用数の86.3%を占めるとされている(表3)。
また、COVID-19流行前である19年7月~20年3月においては、園芸部門の全労働力のおよそ3割は外国人労働者(WHM、SWPおよびPLS)に依存していた(図3)。
ウ COVID-19流行による労働者数への影響
豪州では、2020年1月にCOVID-19が初めて確認されて以降、感染が拡大し、同年3月20日にすべての非居住者に対して国境が閉鎖された。その後、22年2月21日にワクチン接種証明書の提出など一定の条件を満たすことにより豪州への入国が認められるまで、約2年を要した。
上述のABARESの調査結果によれば、1カ月当たりの平均総労働者数は、COVID-19流行前(19年7月~20年3月)の14万8594人から、COVID-19流行後(20年7月~21年3月)には13万6694人と、1万1900人(8%)減少した。このうち、最も減少幅の大きかったのはWHMであり、COVID-19流行前の3万9022人からCOVID-19流行後には2万8684人と、1万338人(26%)減少した(図3)。
国境閉鎖期間中の推移を見ると、WHMの減少は豪州政府による国境閉鎖が解除された22年2月まで継続していた(図4)。一方、SWPおよびPLSについては、一時的に減少する時期もあったものの、国境が閉鎖されていた期間中も堅調に増加していた。これは、園芸部門を含む農業分野と食肉加工分野での労働需要に応えるため、豪州政府が20年9月から太平洋諸国(太平洋島しょ国9カ国および東ティモール)からの再入国を許可するとともに、3(1)ウに後述するような、制度改善が図られたことなどが影響したと考えられる。
(2)NZ
ア 園芸部門の概要
NZの園芸作物は輸出主導型であり、主力はキウイ、リンゴ、アボカドなどの果物である。野菜では、たまねぎ、ばれいしょ、かぼちゃが主要作物となっている。北島は粘土質な土壌が多く、たまねぎ、ばれいしょなどの野菜のほか、キウイ、リンゴ、アボカドなどさまざまな果樹も栽培されている。南島は砂質の土壌が多いため、農用地などの利用にはかんがい施設が必要となっている(図5)。
NZ第一次産業省(MPI)の報告では、2022/23年度の園芸品目の輸出額は69億2000万NZドル(約6173億円)である。そのうちキウイが24億2000万NZドル(約2159億円)と全体の35.0%を占めており、生鮮および加工野菜は7億1000万NZドル(約633億円)と同10.3%を占めている(図6)。
イ 園芸部門に従事する労働者
NZの園芸部門は、豪州と同様に、特に収穫時期の作業について、外国人労働者と国内の季節労働者に大きく依存している。
外国人労働者は、認定季節雇用者(RSE:Recognised Seasonal Employer)制度により雇用された、太平洋島しょ国9カ国およびアジア諸国などからの労働者か、ワーキング・ホリデー・スキーム(WHS:Working Holiday Scheme)により、NZで休暇を過ごしながら働くことが認められたワーキング・ホリデー労働者が中心となっている(表4)。その他にも、すでに留学生ビザなどでNZに滞在しており、園芸部門で季節的な仕事をしたい場合に認められる補足季節雇用(SSE:Supplementary Seasonal Employment)の就労ビザなどにより就労する者もいる。
2021年のMPIの報告によると、19年の園芸部門の労働力のうち、国内労働者は全労働者の約62%を占めている。同様にRSEは約21%、WHSは約11%であり、その他のビザ所持者(SSEなど)の約6%を合わせると、労働力の約38%は外国人労働者に依存していることになる(図7)。
ウ COVID-19流行による労働者数への影響
NZでは、2020年2月28日にCOVID-19が初めて確認された際に、すべての渡航者(NZ人および居住ビザ保持者を除く)に対して国境を閉鎖し、ロックダウン措置を行った。その後、22年2月から5月にかけて、国境規制などを徐々に緩和し、同年10月にすべてのビザ保有者に入国が認められるまで、約2年8カ月を要した。
NZ移民局(INZ)によれば、RSE制度により入国した外国人労働者数は、COVID-19流行前(18/19年度)の1万2581人から、COVID-19流行後(20/21年度)の2018人と、1万563人(84%)減少している(図8)。国別に見ると、20/21年度の太平洋島しょ国からの受け入れは2012人と前年度の5分の1程度である一方、アジア諸国などからの受け入れは台湾の6人のみであり、ほとんど受け入れがされていなかった(表5)。