(1)作付面積、生産量
イタリアの国土面積は約30万平方キロメートルと日本の約5分の4程度であるが人口は日本の半分以下である。
2020年のイタリアの農業産出額を部門別に見ると、野菜・園芸部門は21%と最も高く、同国の農畜産業の中で主要部門となる(図4)。
地中海に面したイタリアは、夏の日差しが強く、国土の大部分が年間を通じて降雨量の少ない地中海性気候に属しているため、温暖な気候を生かした野菜の露地栽培が盛んであり、EU有数の生鮮野菜生産国である。このため、イタリアのほうれんそう生産量はEU域内で最も多い(表2)。
ほうれんそうの栽培適地は、低地の南地中海性気候の地域とされている。イタリア国家統計局によると、露地栽培のほうれんそうの主な産地はエミリア=ロマーニャ州、プーリア州、ラツィオ州、マルケ州、アブルッツォ州である(図5、表3)。作付面積の上位5州でイタリア全体の約7割を占めており、生産量も同様に上位5州で約7割を占めている。
ほうれんそうは露地とハウスの両方で栽培されており、20年の作付面積全体の92.8%が露地栽培で5697ヘクタール(前年比1.8%減)となり、同7.2%がハウス栽培で444ヘクタール(同8.8%減)であった(図6、写真1、2)。また、同年の生産量は露地栽培で8万7986トン(同0.3%増)と全体の86.5%を生産し、ハウス栽培では1万3790トン(同7.3%減)と同13.5%であった。17年にはハウス栽培の作付面積と生産量が前年から大幅に増加したが、20年時点で露地栽培の方がハウス栽培に比べて作付面積で12.8倍、生産量で6.4倍多く、現在もなお、ほうれんそうの生産は露地栽培を中心に行われている。同年の単収は、露地栽培で10アール当たり1.5トン、ハウス栽培で同3.1トンとハウス栽培の方が約2倍多い。なお、日本のほうれんそうの単収は同1.0トンのため、イタリアの単収は日本よりも高い水準となっている。
イタリアの野菜生産者の多くは比較的小規模な家族経営が中心とされ、農場労働力のほとんどが家族で構成されている。加えて、先祖代々受け継がれた特定品目の生産に特化していることが多い。イタリア国家統計局によると、生鮮野菜の生産者戸数は16年時点で8万6198戸である。16年以降の統計数値がないが、13年には9万5862戸であったことから、作付面積に大きな変動が見られない中で、生産者の規模拡大化の傾向があるといえる。
(2)栽培および収穫
イタリアは、年間を通じて降雨量の少ない地中海性気候に属していることから、年間を通して安定的にほうれんそうの収穫が可能である(図7)。
播種から収穫までの期間は、栽培時期によって異なるが、夏は播種後20~25日、冬は播種後40~50日で収穫が行われる。
潅水は、圃場にスプリンクラーを設置して行われ、収穫は、自走式の収穫機で行われることが多い(写真3)。圃場で収穫したほうれんそうは、不要部分の下処理を行った後、品質低下を避けるために速やかに低温を維持出来る運搬用トラックにより加工工場へ運ばれる(写真4)。
(3)今後の生産見通し
ほうれんそうの生産は、小規模農家による栽培が中心とみられているが、今後は生産や流通の効率化に向けた取組みが進むと予想されている。また、現地の生産者や加工業者によると、ほうれんそうの生産量は全体的に増加傾向であり、現在は需要に見合った量となっている。一方で、需要に応じて、生産量を増やすことは可能との声も聞かれるため、まだ生産余力はあるものと思われる。