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海外情報(野菜情報 2017年7月号)


主要国の野菜の生産動向等

調査情報部


1 中国

 日本が輸入する冷凍いんげん豆の約6割が中国産であることから、今月号では、主産地の一つであり、日本向けの輸出が多い山東省を中心に中国のいんげん豆の生産動向等を紹介する。

(1)日本における中国産いんげん豆の位置付け

日本のいんげん豆輸入量の大半は冷凍品であり、その6割近くが中国産となっている(図1、表1)。生鮮品や調製品の輸入もわずかにあるが、生鮮品はその大半がオマーン産であり、中国からは輸入されていない。一方、調製品は全量が中国産となっている。

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また、ここ数年の冷凍いんげん豆の輸入量および輸入先国は、安定して推移している。特に、中国産が最も多く、近年は輸入量の6割程度を占めている(図2)。

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中国産冷凍いんげん豆の月別輸入量を見ると、年間を通じて安定している(図3)。

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なお、本稿中の為替レートは1元=16円(2017年5月末日TTS相場:16.58円)を使用した。

(2)生産動向

中国のいんげん豆の主産地は、さんとう省、こう省などの東部沿岸地域やせん省、ほく省などの内陸部である(図4)。中でも山東省は、公式な統計値は明らかではないが、国内販売向けだけでなく輸出向け冷凍いんげん豆も多く生産している。

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山東省における国内販売向けいんげん豆の主産地は、りょうじょう市やりん市、たく(注)などで、北京や天津などに販売される。輸出向けは、周辺に加工工場が多いえんたい市で主に生産されている。

 注:中国では、大きい行政区分から順に、「省級(省、自治区、直轄市など)」、「地級(地級市、自治州など)」、「県級(県、県級市、市轄区など)」などとなっている。聊城市、臨沂市、荷澤市、煙台市は、地級市である。

山東省におけるいんげん豆の作型は、冬いんげん豆、春いんげん豆(露地、施設)および秋いんげん豆の主に4種類ある。冬いんげん豆は冬に施設で栽培されることが多く、作付面積の構成比は約5%程度である(図5、6)。春いんげん豆は露地栽培と施設栽培があり、しゅから収穫までの時期が若干異なる。構成比は露地栽培が約50%と最も多く、施設栽培は約12%となっている。秋いんげん豆は露地栽培が行われることが多く、構成比は約33%である。

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品種は主に国内出荷向けの「豆王」「碧豊」と、主に輸出向けの「濃緑5991」「江戸川」がある(写真1、2)。「濃緑5991」は比較的軟らかくて細いため、一本丸々の形で輸出されるが、「江戸川」は比較的太いため、カットされた状態で輸出される。現地生産者によると、2013年ごろまでの構成比は「江戸川」7割、「濃緑5991」3割ほどであったが、現在では「濃緑5991」の引き合いが強くなり同程度とされている。

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直近3年間の生産動向を見ると、2015年は、10月の低温による影響で、秋いんげん豆を中心に、単収、収穫量ともに前年を下回った。2016年は、8月に豪雨被害を受けたものの栽培への影響は少なく、基本的には天候に恵まれたため、単収、収穫量とも前年を上回った(表2)。

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(3)生産コスト

10アール当たり生産コストの動向を見ると、2016年は、5893元(9万4288円、2013年比34.6%増)と大幅に増加している(表3)。項目別に見ると、近年の中国の野菜栽培で常態化している土地代と人件費の増加が顕著である。加工業者の話によると、いんげん豆は1~2日ごとに収穫し、全ての収穫が終わるまでに7回以上収穫を繰り返すため、人件費の占める割合が大きく、負担になっている。

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(4)価格動向

直近3年間の山東省のいんげん豆の卸売価格を見ると、3月前後が高くなる傾向にある(図7)。これは、この時期に供給されるいんげん豆の多くは、①施設栽培によるもの②前年秋に収穫し、低温倉庫で貯蔵されたもの③海南省など南部地域で生産され、長距離輸送されたものであり、施設費、運搬費などがコストに加わるためである。

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(5)国内向け出荷動向

山東省で収穫されたいんげん豆の9割以上は、国内に仕向けられている。主な出荷先は、北京、天津などの大都市や黒龍省や省などの東北地域である(写真3)。

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(6)輸出動向

冷凍いんげん豆の輸出量は、年による増減はあるものの、2016年は約2万5200トン(2012年比17.1%増)であった。そのうち、日本向けは約1万4600トン(同22.6%増)と全体の約6割を占め、次いで、台湾の2500トン(同2.7倍)となっている(図8)。現地の加工業者の話によると、前述した人件費の増加による生産コスト高の影響で、冷凍いんげん豆の原価も毎年増加しており、企業の利益が減少している。そのため、企業の中には、いんげん豆の輸出量を減らしているところもあるという。

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2 米国

 米国からは、日本への輸出が多いブロッコリー、レタスおよびセルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)について、それらの主産地であるカリフォルニア州を中心とした生産動向などを紹介する。また、トピックスとして、米国の地域支援型農業(CSA)について報告する。

(1)ブロッコリー、レタスおよびセルリーの生産動向

ア ブロッコリー

(ア)作況および作付面積

4月上旬、カリフォルニア州のモントレー郡サリナスとサンタバーバラ郡サンタマリアでは、降雨による影響からブロッコリーの出回り量は低調に推移した一方、同月下旬以降には出荷が増えたため相場は下落した。5初旬時点では、価格は低調に推移し、品質も良好であった。

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以下、本稿中の為替レートは、1米ドル=112円(2017年5月末日TTS相場:111.96円)を使用した。

(イ)生産者価格

20173月の生鮮ブロッコリーの生産者価格は、降雨による出荷量の減少を起因とする価格の高騰により、前年同月比2.3倍の1キログラム当たり1.56米ドル(175円)となった(表1)。

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4月上旬は、降雨や低温の影響で出荷量が少なく、高値で取引されていたが、その後、天候の回復などに伴って相場は比較的安値で推移し、511日時点の販売価格は1カートン(14個入り)当たり19.5621.55米ドル(1キログラム当たり1.892.08米ドル:212233円)であった。

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(ウ)対日輸出動向

2017月のブロッコリーの対日輸出量は、前年同月比78.2%減の559トンであった(表2)。また、輸出単価は同23.3%高の1キログラム当たり1.43米ドル(160円)と、201610月以降上昇傾向で推移している。

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(エ)東京中央卸売市場の入荷量および価格

20173月の東京中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月の約4分の1に満たない41トンであった(表3)。また、卸売価格は、同19.7%安の1キログラム当たり252円となった。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かったのは愛知産で、入荷量は前年同月を大幅に上回る1203トン、卸売価格は米国産をかなりの程度下回る同230円であった。

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イ レタス

(ア)作況および作付面積

現地報道によると、4月下旬のロメインレタスの作柄は標準的な水準にまで改善し、出荷も5月初旬にかけて回復基調にあった。12月にモントレー郡でしゅされたロメインレタスの収穫が6月中旬以降に開始される予定だが、降雨の影響が大きいことから収穫量は期待できず、カリフォルニア州では品薄になると見込まれている。なお、結球レタスに関しては、5月上旬時点で出回りは回復しており、品質もかなり向上しているとの報道があった。

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(イ)生産者価格

2017月の結球レタスの生産者価格は、前月と比べわずかに値下がりしたものの前年同月比3倍の1キログラム当たり1.09米ドル(122円)となった(表4)。

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生産地の販売価格は、3月からの多雨による極度の供給不足が続いているため、4月下旬には高値で推移したものの、5月初旬に作柄が良好になると、軒並み値下がりが見られた。

こうしたことから、5月11日時点では、サリナス産レタスは、結球レタスが1カートン(24個入り)当たり9.4510.55ドル(1キログラム当たり0.420.47米ドル:約4753円)、ロメインレタスは1カートン(24個入り)当たり8.4510.55米ドル(1キログラム当たり0.370.46米ドル:約4152円)、グリーンリーフレタスが同約20.8524.00米ドル(同0.921.06米ドル:約103119円)で取引されていた。

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(ウ)対日輸出動向

2017月の結球レタスの対日輸出量は、前年同月比55.6%減の64トンで、輸出単価は同5.7%安の1キログラム当たり1.33米ドル(149円)であった(表5)。一方、結球レタス以外のレタスの対日輸出量は、同87.5%増の75トンで、輸出単価は同61.7%安の1キログラム当たり1.16米ドル(130円)であった(表6)。

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(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格

2017年3月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は前年同月比20.0%増の0.6トンであった。一方、卸売価格は前年同月並みの1キログラム当たり518円であった(表7)。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かった結球レタス以外のレタスは茨城産で、入荷量は同1.6%減の89トン、卸売価格は米国産のほぼ半値となる同257円であった。

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ウ セルリー

(ア)作況および作付面積

現地報道によると、3月以降の作柄は悪く、オックスナード郡などで収穫が遅れていることから、5上旬時点においても慢性的な供給不足が続いているとされている。

(イ)生産者価格

2017月のセルリーの生産者価格は、極度の品薄により前年同月比31.7%高の1キログラム当たり0.54米ドル(60円)となり、前月から0.20米ドル値上がりした(表8)。

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なお、極度の品薄を反映して現地価格は上昇傾向で推移している。511日時点のオックスナード郡産セルリーの販売価格は前週より値上がりし、1カートン(24茎)当たり42.5544.85米ドル(1キログラム当たり1.561.64米ドル:175184円)であった。

(ウ)対日輸出動向

20173月のセルリーの対日輸出量は、前年同月比1.1%増の797トンで、輸出単価は、同34.5%安の1キログラム当たり0.55米ドル(62円)となった(表9)。

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(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格

2017年3月の東京都中央卸売市場の米国産セルリー入荷量は33トン(前年同月比43.5%増)で、卸売価格は1キログラム当たり204円(同10.5%安)であった(表10)。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かったセルリーは静岡産で、入荷量は前年同月並みの320トン、卸売価格は米国産を大幅に上回る1キログラム当たり254円であった。

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(2)トピックス

~米国の地域支援型農業

CSACOMMUNITY SUPPORTED AGRICULTUREについて~

ア CSAの歴史的背景

CSAは、地域住民が農業を支援する制度であり、地域会員となる消費者が、生産者に代金前払いにより、直接かつ定期的に農産物を購入する仕組みである。すなわち、消費者が「地域の農業(農地)を守りたい」「環境に配慮した持続可能な農業を応援したい」という目的をもって、「近くの畑・農園で、実際に生産者や『農』と触れ合いながら、収穫された生産物を地域社会で消費する」という地産地消の仕組みの一つであり、米国では1985年にマサチューセッツ州のIndian Line Farm とニューハンプシャー州のTemple Wilton Community Farm で始まったとされている。

今日、CSAは地域振興や有機農業の振興など、多様な効果をもたらす新たな農業モデルとして注目されており、2003年には国際提携運動ネットワーク(URGENCI)という国際的な連携団体も設立されている。米国農務省(USDA)によれば、米国におけるCSAは2001年には約1000件であったのが、2010年には約3000件と、10年間で3倍に増え、2011年時点でCSAを通じて農産物を供給している生産者は1万2500戸に上るとされている(表11)。

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このように米国でCSAが急速に拡大した背景には、企業型大規模農業に対する消費者の不信や、地域密着型かつ有機農法の下で生産された農産物へのニーズが増加したことがあると考えられる。

イ CSAの特徴

米国においてCSAは既に市民権を得た状況にあり、USDAによると、CSAに取り組む農家の1戸当たり会員消費者数は平均141人で、CSAが農家の売上げに占める割合は平均で53.2%であるという。このようなCSAのメリット・デメリットは、以下の通りである。

(ア)メリット

販売代金は前払いなので、農家は、天候不順による不作のリスクを、消費者にも負担してもらえる。

農家は、収量に関係なく、一定額の収入が得られるため、安定して経営できる。また、中間流通コストがかからず、CSA会員である消費者の払う代金を100%受け取れるため、農村地域内で資金が循環する。

消費者は生産者の顔が見えるため、安全で質の高い農産物を入手することができる。

消費者は、農作業への参加を通じて、自然とふれあうことが可能となる。

農家は、配送時間が大規模流通より短いため時間で新鮮な農産物を供給できる。

農家は市場出荷では規格外とされる農産物も、消費者の元に届けることができる。

(イ)デメリット

消費者にとって、一年分の前払い金額は、小売店で購入するときの金額とほぼ同じ(500~1000米ドル:5万6000~11万2000円)であるため、価格面でのメリットがない。

1年を通じての供給に対応できる地域がカリフォルニア州やアリゾナ州などの温暖地域に限られる。

ウ 今後の課題

ここ10年でCSAは一層の変化をみせている。CSA農家の中には、会員に多様な種類の加工食品を提供したり、複数の農家と提携して野菜の種類を増やすところも現れている。こうした背景には、従来のCSAは農家の利益を中心に考えていたのが、最近は消費者・顧客をいかに満足させるかを中心に考えるものに変わってきたことがあるとみられる。時代と共により身近になり、顧客主義へと移行するCSAは、今後ともその動向が注目を集めることだろう。


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