ほうれんそうは西アジア原産の野菜で、イスラム教の広がりに伴って東西に伝わった。東に当たるシルクロードを経て中国に渡ったのが東洋種で、中国から日本に伝わったのは江戸時代初期である。一方、北アフリカ、ヨーロッパ経由で米国に渡った西洋種は、日本には江戸時代末期にフランスから伝わった。
現在主流になっているのは、東洋種の優れた点(味など)と西洋種の優れた点(収穫量が多い、抽苔(注)しにくい)を生かすため、両種を掛け合わせた一代雑種である。
ほうれんそうの生育適温は15~20度で、冷涼な気候を好み、高温に弱い。そのため、夏は高冷地などの栽培が中心となり、温暖な関東以南の地域では秋から春にかけての作付けが多い。
注:花茎が伸び、葉の成長が止まってしまう現象。 「とう立ち」ともいう。
平成27年の作付面積は、2万1000ヘクタール(前年比99.1%)と、前年よりわずかに減少している。
上位5県では、
●千葉県2250ヘクタール(同100.4%)
●埼玉県2130ヘクタール(同97.7%)
●群馬県1830ヘクタール(同100.5%)
●岐阜県1310ヘクタール(同100.0%)
●茨城県1180ヘクタール(同100.9%)
となっている。
27年の出荷量は、20万9800トン(前年比97.6%)と、前年よりわずかに減少した。
上位5県では、
●千葉県3万2100トン(同99.7%)
●埼玉県2万1700トン(同89.3%)
●群馬県1万8600トン(同108.8%)
●茨城県1万5500トン(同102.6%)
●宮崎県1万5300トン(同91.8%)
となっている。
出荷量上位5県について、10アール当たりの収量を見ると、宮崎県の1.75トンが最も多く、次いで千葉県の1.57トン、茨城県の1.51トンと続いている。その他の府県で多いのは、京都府(1.55トン)、静岡県(1.54トン)であり、全国平均は1.19トンとなっている。
現在出回っている品種は、東洋種と西洋種の優れた点を生かした一代雑種である。また、播種時期の違いなどにより、さまざまな品種が出回っている。播種から収穫までの期間が短く、播種時期をずらすことで長期間の収穫や周年栽培を実現している。べと病に対する抵抗性、耐病性や耐暑性・耐寒性などを持たせた品種も多い。比較的多くの産地で作付けされているミラージュは夏まき品種であり、クロノスやオシリスは秋まき品種である。
また、一般的なほうれんそう以外にも、生食用のサラダほうれんそうなどが注目されている。サラダほうれんそうには、ディンプル、赤茎ミンスター、早生サラダあかりなどの品種がある。
東京都中央卸売市場の月別入荷実績(平成27年)を見ると、年間を通じて、群馬産、茨城産、埼玉産、千葉産など、関東近在産地から入荷している。夏場は高冷地ものが多くなり、群馬産、栃木産、岩手産などの入荷が目立つ。
大阪中央卸売市場の月別入荷実績(平成27年)を見ると、冬から春にかけては、徳島産や福岡産を中心とした入荷となっている。夏から秋には、高冷地からの出荷が多い岐阜産の入荷が多くなっている。
東京都中央卸売市場の価格(平成27年)は、1キログラム当たり295~857円(年平均521円)の幅で推移している。夏場は気温が上がり、平たん地での栽培がむずかしく、高冷地などに生産が限定されるため、価格は高めとなる傾向にある。気温が低下し、平たん地で安定した栽培が可能となる秋から春にかけては、価格は低めとなる。
冷凍ほうれんそうの輸入量を見ると、平成22年以降は増加傾向にあり、27年は4万657トンとなっている。外食や中食に利用されることが多い冷凍ほうれんそうであるが、国内の天候不順などの影響で国産品が品薄となった際は、輸入量が増加する傾向にある。
国別の冷凍ほうれんそう輸入量は、27年では中国が3万6924トンと、全体の9割以上を占め、20年(1万7516トン)と比べると2倍以上の増加となっている。
ほうれんそうは、昭和40年代の健康食ブームに乗って消費量が急増した野菜であり、和食・洋食を問わず、さまざまな料理に使われている。1人当たり年間購入量は減少傾向にあり、平成27年は1109グラムとなっている。
ほうれんそうは、緑黄色野菜の中でも栄養価が高く、カロテン、ビタミンB1・B2、ビタミンCを多く含み、ビタミンK、葉酸、鉄分も豊富である。また、一年中購入できるほうれんそうであるが、ビタミンCの含有量を見ると、冬どりのものは夏どりに比べ3倍の量を含んでいるといわれている。
加工食品として、製造時にボイルしてある、長期間保存のきく冷凍ほうれんそうもあり、最近は国産も増えていることから、家庭で気軽に使うことができる。おなじみの野菜であるが、栄養価が高いことから、毎日の食卓に上手に取り入れたい食材である。