世界の五大食用作物の一つ「ばれいしょ」は、ドイツやロシアなどでは、主食とされている野菜である。原産地は、南米のペルー、ボリビア付近といわれ、紀元500年ごろから標高3000~4000メートルのアンデスの高原地帯で栽培されていた。日本へは、江戸時代にオランダ人によってジャカトラ(現在のインドネシアのジャカルタ)から長崎に持ち込まれたことから、「ジャガイモ」と呼ばれるようになり、明治以降、本格的な栽培が始まった。
用途によって、家庭やレストランなどで消費される生食用、ポテトチップスなどに利用される加工用、かたくり粉や麺類などに利用されるでん粉原料用の3つに大別できる。国内総生産量の3割を占める生食用の二大品種は、粉質系でホクホクした食感が魅力で関東地方を中心に好まれる「男爵薯」と、粘質系で煮崩れしにくく関西地方で好まれる「メークイン」であるが、そのほかにも「ニシユタカ」「キタアカリ」「インカのめざめ」など、消費の多様化により、さまざまな品種が栽培されている。
作型は、大きく分けると北海道産の春植えと長崎県、鹿児島県の秋植えがあり、南北に長い日本では、早春から年の暮れまで一年を通して収穫されているため、それぞれの季節に各地で堀り立ての味を楽しむことができる。
春植えは、春に植え付けて夏に収穫する栽培法で、北海道では4月から6月に植え付け、7月から11月に収穫される。収穫したばれいしょは、貯蔵施設に保管され、主に翌年5月ごろまで出荷される。一方、秋植えは、8月から9月に植え付けて11月から翌年1月にかけて収穫する栽培法であり、西南暖地では春・秋年2作の生産が行われている。
作付面積は、25年は7万9700ヘクタール(前年比98.2%)と微減傾向で推移している。上位5道県では、
・北海道 5万2400ヘクタール (同 98.1%)
・鹿児島県 4410ヘクタール (同102.3%)
・長崎県 4000ヘクタール (同 94.8%)
・茨城県 1470ヘクタール (同 97.4%)
・千葉県 1280ヘクタール (同 96.2%)
となっている。
出荷量は、25年は199万9000トン(前年比97.0%)と微減傾向で推移している。上位5道県では、
・北海道 166万8000トン (同 97.2%)
・長崎県 9万 200トン (同 90.5%)
・鹿児島県 8万1900トン (同105.3%)
・茨城県 3万4400トン (同 95.3%)
・千葉県 2万4100トン (同 90.6%)
となっている。
10アール当たりの収量は、北海道の3.58トンが最も多く、次いで茨城県の2.84トン、長崎県の2.59トンと続いている。全国平均は、出荷量の約8割を占める北海道の影響から3.02トンとなっている。
主産地の作付品種は、北海道は早生で貯蔵中の品質劣化の少ない男爵薯が多く、九州地方は暖地ニ期作用で春作に極多収量となるニシユタカが多い。また、関東地方は早生でジャガイモシストセンチュウに抵抗性のある「とうや」が多い。なお、中生種のメークインは、北海道、九州地方などで作付けされている。
主な病害虫は、アルカリ性土壌で発生頻度が高まり、表皮にコルク上の病斑ができるそうか病と、北海道、長崎県などで問題となっており、根の発育阻害を引き起こすジャガイモシストセンチュウである。これらの病害虫に対しては、輪作や土壌消毒といった対策が一般的であるが、北海道は抵抗品種として「スノーマーチ」を育成し、平成19年に品種登録した。また、長崎県は「さんじゅう丸」を育成し、24年に品種登録した。
東京都中央卸売市場の月別入荷実績(平成25年)を見ると、8月から翌年3月までは北海道産が大半を占め、以降、鹿児島県産、長崎県産、静岡県産、茨城県産、千葉県産となる。出荷量第1位の北海道産は、8月から入荷が始まり、その後は貯蔵物の入荷が翌年の5月ごろまで続いている。年明け以降は、長崎県産、鹿児島県産の早春もの(以下、「新じゃが」という。)が入荷し、北海道産が減少する6月ごろまで続く。北海道産と九州産の端境期は、静岡県産、千葉県産、茨城県産などが入荷している。
大阪中央卸売市場の月別入荷実績(平成25年)を見ると、東京都中央卸売市場同様、北海道産が大半を占めており、3月以降は鹿児島県産、長崎県産が主に入荷している。入荷量の減少する6月から8月は、熊本県産、静岡県産、千葉県産、青森県産が入荷している。
東京都中央卸売市場における価格の推移
国内産の東京都中央卸売市場の価格(平成26年)は、1キログラム当たり89~157円(年平均単価108円)の幅で推移している。年別の推移を見ると、各産地の生産量により大きく変動する。全般的に、北海道産の入荷が始まる8月ごろから下降基調となるが、10月以降は貯蔵ものの調整出荷となることから、安定した値動きとなっている。1月以降は、九州産の新じゃがの生産量により大きく変動し、また、北海道産と九州産の端境期である夏季は、入荷量が減少することから、価格が上昇基調となる。
輸入量の推移
輸入量の約9割を占める冷凍ばれいしょは、主に外食産業のフライドポテト向けに使用されており、平成19年の30万8351トンから、24年には38万5554トンと増加したものの、26年には32万7036トンと減少している。26年の減少は、米国西海岸の港湾労使交渉により荷役作業が遅延した影響などが要因である。
生鮮ばれいしょは、わが国は植物防疫法で、シストセンチュウなどの病害虫が発生している国からの輸入を禁じており、米国産も、ジャガイモシストセンチュウなどの発生から、これまで輸入を禁止していた。しかし、国産のポテトチップス加工用ばれいしょ(北海道産)の端境期である2月から6月に限り、ポテトチップス加工用、ジャガイモシストセンチュウの発生していない州などの条件付きで、米国産の生鮮ばれいしょの輸入が、18年2月1日に解禁された(22年からは7月まで延長)。22年の国産の不作に伴い23年以降、輸入量が増加しており、26年には1万9982トンとなっている。
26年の輸入量を国別で見ると、冷凍ばれいしょは、米国25万3763トン(輸入量に占めるシェア77.6%)、カナダ2万7671トン(同8.5%)のほか、ベルギー、中国などからも輸入されている。生鮮ばれいしょは、米国1万9953トン(同99.9%)のほか、中国からも輸入されている。
消費の動向
ばれいしょは、煮物や揚げ物など、一年中、料理に欠かせない野菜の一つで、関東は粉質系の男爵、関西は粘質系のメークインと、食文化に合わせた品種が人気となっている。新じゃがは、水分が多く軟らかく、香りを楽しめる。1人当たりの年間購入量は、平成20年をピークに、国内の天候不順の影響などにより、価格が堅調に推移したことから22年まで減少したものの、23年以降は出荷量の増加とともに、購入量も微増傾向で推移しており、26年は3582グラムとなっている。
主成分であるでん粉は、エネルギー源になる。また、皮膚や骨などの結合組織を構成するコラーゲンの合成に欠かせないビタミンCも豊富に含まれるため、ストレスに強い体を作る他、動脈硬化や脳卒中などを予防する効果などが期待できる。さらに、ビタミンCは熱に弱いため、加熱すると減少するが、ばれいしょの場合は、主成分のでん粉に守られているため、加熱しても損失が少ないという利点を持っている。その他に、ナトリウムを排泄し、高血圧予防に効果的なカリウム、腸内環境を改善する食物繊維なども豊富である。
この時期、北海道産の貯蔵物と九州産の新じゃがの両方が出回っている。5月以降は静岡県産、8月以降は北海道産の新物が市場に出てくる。時期により各地のばれいしょを楽しんでみたいものである。