夏野菜の定番として、木桶の冷たい水に浸した涼しい姿を連想させるのが、緑の彩りが鮮やかで、水分たっぷりのみずみずしい野菜‘きゅうり’です。
原産地はインドのヒマラヤ山麓で、アジアで栽培された‘きゅうり’は、ヨーロッパ、中国北部(華北ルート)、中国南部(華南ルート)の3方面へと広がっていきました。
日本にきゅうりが最初に伝わったのは、平安時代中ごろと言われ、華南ルートを経て「黒いぼ系品種」が持ち込まれました。現在、流通の主流となっている「白いぼ系品種」は、華北ルートを経て江戸時代末期に伝わり、食用として定着していきました。異なる2つのタイプのきゅうりが交雑を繰り返しながら、特徴のある品種を日本各地に産みだしていきました。
現在、日本の‘きゅうり’は、大別すると「白いぼきゅうり」と「黒いぼきゅうり」に分かれます。このうち、白いぼきゅうりが日本で栽培される品種の大半を占めています。また、白いぼきゅうりは、その見た目の違いから、表面に白い粉(ブルーム)が出る「ブルームきゅうり」と、白い粉が出ない「ブルームレスきゅうり」に分かれます。現在は、日持ちが良く表面に光沢があることや白い粉が農薬と勘違いされることから、ブルームレスきゅうりが主流となっています。
今年の生産動向を見ると、天候不順の影響で春先の出荷量は平年を下回りました。その後、天候は回復したものの、7月以降の露地物の収穫は遅れています。出荷のピークは例年7月下旬の「海の日」前後ですが、今年は平年ほどの多さではない状況です。
きゅうりは、施設栽培の普及によって1年を通して出回っています。このため旬が分かりにくくなっていますが、旬は夏ですので、おいしい季節は6~9月です。サラダから漬物、炒め物まで用途も広く、その彩りでも私達の目を楽しませてくれます。
巻きずしや冷やし中華の彩りに欠かせませんが、やはり定番の浅漬け、ぬか漬けが栄養価も高くておすすめです。
ぬか床の管理は手間が要りますが、昔ながらのぬか漬けに挑戦するのも面白いかもしれません。
きゅうりの栄養と機能性
きゅうりは、その大部分を水分が占めていることから、栄養はそれ程有りませんが、体を冷やす効果が有るので、熱中症の予防になります。汗で消耗したカリウムやビタミンCも含まれていますので、水分補給も兼ねて、これらを補うとよいでしょう。
そのほか、ビタミンA 、Kなどのビタミン類や亜鉛、マグネシウムなどのミネラル類も、少量ながらバランスよく含んでいます。調理をしなくても生で食べられるので、ヘルシーで毎日食べられる野菜といえます。
「五訂日本食品標準成分表」 きゅうり(果実・生)より
30歳女性1日当たりの栄養摂取基準量を100とした場合におけるきゅうり(果実・生)100グラム中に含まれる主な栄養素の割合(ただし、ビタミンC、葉酸は、推奨量の値を、そのほかは目安量の値を用いた。)
監修:実践女子大学教授
田島 眞
【調理のヒント】
調理の前には、きゅうりに塩を振り、まな板の上でゴロゴロと転がす「板ずり」をしましょう。この一手間で表面のいぼが取れ、おいしさが増します。さらに、殺菌効果が有る上、味が染み込みやすくなります。また、「板ずり」の後は、塩を洗い流して熱湯にサッとくぐらせると緑色が鮮やかになります。
酢の物にするときは、薄い塩水に漬けて水分を適度に取っておくと、酢が馴染みやすくなります。
【保存方法】
きゅうりは、熱にも水にも弱い野菜なのでラップかポリ袋に入れて保存しましょう。また、「きゅうりの風邪ひき」という言葉が有るように、低温に弱く、冷やし過ぎるとビタミンCが壊れるので、10~15度で冷蔵庫の野菜室に立てて入れれば、4~5日は保存可能です。寒い冬場には冷蔵庫で保存せずに、風通しの良い冷暗所で保管するのが最適です。
作付面積・収穫量の推移
きゅうりの生産は、出荷時期により大きく冬春きゅうり(12~6月)と夏秋きゅうり(7~11月)に区分されます。施設栽培の普及や栽培技術の向上により周年供給体制が構築されており、群馬県、埼玉県、千葉県などの関東地方、福島県、宮城県などの東北地方、そのほかにも宮崎県や高知県など全国的に生産されています。
生産者の担い手不足による規模縮小などにより、作付面積、収穫量ともに減少傾向にあり、平成20年の作付面積は12,500ヘクタール(冬春きゅうり3,240、夏秋きゅうり9,270)、出荷量は527,900トン(冬春きゅうり302,800、夏秋きゅうり225,100)となっています(作付面積の全国計は、ラウンドの関係で冬春・夏秋きゅうりの合計値と一致していない)。
作付面積の推移
出荷量の推移
明治末の作付面積は、なすの3分の1にすぎませんでしたが、現在では、総入荷量約7万8千トンと果菜類の収穫量の首位をトマトと競うほどの取扱量を誇っています。
平成20年月別県別出荷実績(東京都中央卸売市場計)
東京都中央卸売市場における平成21年の価格の推移を見ると、きゅうりはキログラム当たり177 ~398円(年平均単価280円)となっています。
平成12年と比べると、いずれも出荷量の多い夏場に価格が安く、加温ハウスが主体となる冬季の価格は高い傾向にあります。
卸売価格の月別推移
平成21年の総輸入量のほとんどを塩蔵用きゅうりが占めており、そのほかに、酢調製用きゅうりが輸入されています。
生鮮きゅうりの輸入先を見ると韓国となっていますが、平成13年に日本向けの輸出価格が低落し、韓国の生産者が輸出用品種から国内用品種に変更したため平成14年以降輸入量が激減しています。
塩蔵用きゅうりは、漬物用などの加工品として主に中国から輸入されていますが、近年、日本では、浅漬けが好まれるようになり輸入品の使用量が減少したため、塩蔵用きゅうりの輸入量が減少傾向にあります。
酢調製品は、平成12年には、ピクルスなどの加工品が米国から多く輸入されていましたが、平成21年には大幅に減少し、首位のスリランカが全体の5割以上までシェアを伸ばしています。
輸入量の推移(生鮮きゅうり)
輸入量の推移(塩蔵用きゅうり)
輸入量の推移(酢調製用きゅうり)
資料: 農畜産業振興機構「べジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)
注:ガーキンを含む。
国別輸入量
12年生鮮きゅうり
21年生鮮きゅうり
12年塩蔵用きゅうり
21年塩蔵用きゅうり
12年酢調製用きゅうり
21年酢調製用きゅうり
資料:農畜産業振興機構「べジ探」(原資料:財務省「貿易統計」)
注:ガーキンを含む。
消費量の推移
1人当たりのきゅうりの年間購入量は、ほぼ横ばいで推移しており、平成21年は2,895グラムとなっています。
また、以前は、表面に白い粉の出るブルームきゅうりが多く出回っていましたが、現在では、ブルームレスきゅうりが主流となっています。
1人当たり年間購入量の推移