初夢に見る「一富士、二鷹、三茄子」と縁起物の代名詞として出てくる'なす'は、日本人にとってなじみ深い夏秋野菜です。
原産地はインド東部といわれ、東方へは4~5世紀に中国へ伝わったようです。その後、5世紀にアラビア方面、13世紀にヨーロッパの順に広がりました。
日本の文献に登場した最も古いものは、奈良時代に'なす'を献上したとの記録が残されている東大寺正倉院文書で、このころには日本での栽培が始まっていました。'なす'の語源は、夏に取れる野菜「夏の実(なつのみ)」「中酢実(なかすみ)」などに由来すると言われており、これが転じて‘なすび’となり、宮中に仕える女房(女官)の言葉から一般的に'なす'と呼ばれるようになったという説が代表的です。現在では、煮る、焼く、漬けるなど使い勝手の良さから、大衆野菜として定着しています。
国内で栽培される'なす'は、果実の大きさと形により、長卵形なす、長なす、丸なす、大長なす、小なすなどに分かれ、東海・関西の長卵形なす、関西以西の長なす、九州の大長なすなどを主として、北陸・京都の丸なす、山形の小なすなど地方独特の品種も多く見られます。多くの品種の中でも、栽培が容易で用途の幅が広い長卵から中長の品種が全国的に主流となっています。
施設栽培の普及により1年を通して出荷されますが、'なす'のおいしい時期は6月から9月にかけてです。
最近の価格動向を見ると、4月には日照不足や低温など天候不順により出荷量が伸び悩み、高値が続きましたが、5月に入り天候が回復し出荷量が増えたため、価格に落ち着きが見られました。しかし今後は、一部の産地で定植の遅れによる出荷量の減少から平年に比べ高値が予想されます。
油と相性が良いので、油で炒めたり、揚げたりして食べるのがおすすめです。皮をむきやすい大長なすは焼きなすにするとおいしいです。また、トマトやピーマン、ズッキーニなどの夏野菜と一緒にトマトで煮込んで作るラタトゥイユにもピッタリの食材です。
ほかにも、漬物にしたり、みそ汁の具にするなど色々な料理が楽しめます。
なすの栄養と機能性
なすに含まれる成分のほとんどが水分ですが、ビタミンKやカリウム、葉酸をバランスよく含んでおり、食物繊維が豊富なため生体調整機能に優れているといわれています。体を冷やす作用があるため、体のほてりが強いときには積極的に食べましょう。
また、なすの鮮やかな紫色の皮に含まれる‘アントシアニン(ナスニン)’や‘クロロゲン酸’と呼ばれる抗酸化成分は、活性酸素の働きを抑える‘ポリフェノール’なので、体の老化を抑制する効果が期待できます。
「五訂日本食品標準成分表」 なす(果実・生)より
30歳の女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合におけるなす(果実・生)100グラム中に含まれる主な栄養素の割合(ただし、葉酸・マグネシウムは推奨量の値を、そのほかは目安量の値を用いた)。
監修:実践女子大学教授
田島 眞
酵素の働きで変色しやすいので、切ったらすぐに水につけて変色を防ぎましょう。カレーやトマト煮など煮込み料理にする際には、油にサッと通すと色も味も良くなります。
焼きなすにする場合は、時間をかけて弱火で焼くと水分や旨みが逃げるので、強火でサッと焼きましょう。
また、漬物にするときは、‘焼きみょうばん’や‘古くぎ’を入れると、青紫色の美しい色が保てます。
【保存方法】
風味が大切な野菜なので、新鮮なうちに使いましょう。寒さに弱く5度以下では低温障害を起こすので、2~3日であれば、冷蔵庫に入れず日の当たらない涼しい場所で常温保存しましょう。
使い切れない場合は、冷やし過ぎないよう新聞紙でくるみ、水分を逃がさないようにポリ袋に入れて、冷蔵庫の野菜室で保管しましょう。
作付面積・収穫量の推移
なすの生産は、出荷時期により大きく冬春なす(12~6月)と夏秋なす(7~11月)に区分されます。施設栽培の普及や栽培技術の向上により周年供給体制が構築されており、冬春なすは、高知県や熊本県などの温暖な地域で施設栽培により生産されています。一方、夏秋なすは、群馬県、茨城県や栃木県などの大都市近郊で主に露地栽培により生産されています。
生産者の高齢化や労働力不足による規模縮小などにより、作付面積、収穫量ともに減少傾向にあり、平成20年の作付面積は10,600ヘクタール(冬春なす1,300、夏秋なす9,320)、収穫量は365,900トン(冬春なす134,800、夏秋なす231,000)となっています(作付面積・収穫量の全国計は、ラウンドの関係で冬春・夏秋なすの合計値と一致していない)。
作付面積の推移
収穫量の推移
平成20年の東京都中央卸売市場におけるなす類の月別県別出荷数量を見ると、7~9月が最も多く、冬季になると少なくなる夏型野菜といえます。
総入荷量約4万7千トンのうち、8割を長卵形なすが占めており(77.3%)、長なす(19.6%)、米なす(2.6%)、小なす(0.5%)がそれに続きます。
平成20年なす類の月別県別出荷数量
東京都中央卸売市場における平成21年の価格の推移を見ると、長卵形なすはキログラム当たり218~434円(年平均単価309円)、長なすは173~403円(同296円)となっています。
平成12年と比較すると、いずれも出荷量の多い夏場に価格が安くなっていますが、周年供給体制の構築により、年間を通した価格の変動幅が小さくなっています。
卸売価格の月別推移
総輸入量の9割以上を塩蔵のなす、小なすが占めており、その他、主に業務用の漬物に利用される生鮮なすや、はさみ揚げ、焼きなす、麻婆なすといった、より加工度の高い冷凍なすが輸入されています。
平成21年の輸入量を見ると、塩蔵なすは3,568トン(前年比17.9%減)、塩蔵こなすは1,921トン(同28.4%減)、生鮮なすは259トン(同21.6%減)、冷凍なすは18トン(同52.6%減)となっており、漬物需要の減少や中国産の食品の安全性が問題になったことから、いずれも減少傾向で推移しています。
平成21年の輸入先国を見ると、塩蔵のなす、小なすについては中国が9割以上を占め、残りをベトナムから、生鮮なすについは全量韓国から輸入しています。冷凍なすの検査数量は、中国が9割以上を占め、タイ、インドネシア、ベトナムがこれに続いています。
輸入量の推移
国別輸入量
14年塩蔵なす
21年塩蔵なす
14年塩蔵小なす
21年塩蔵小なす
14年生鮮なす
21年生鮮なす
14年冷凍なす
21年冷凍なす
消費量の推移
1人当たりのなすの年間購入量は、生産量が減少傾向にあることや漬物需要の減少、サラダ利用が少ないことなどから、減少傾向で推移しており、平成21年は1,567グラム(前年比0.5%減)となっています。
1人当たり年間購入量の推移