葉の形が菊の葉に似ており、春に黄色の花を咲かせることからその名が付いた“しゅんぎく(春菊)”は、地中海沿岸が原産といわれています。
菊の香りを食用として好まない欧米ではもっぱら花を愛でる鑑賞用で、食用として栽培しているのは、日本をはじめ中国、インドなどのアジアだけです。日本へは室町時代に中国を経て渡来したといわれており、江戸時代末期頃から西日本を中心に各地で栽培が始まりました。
第二次世界大戦後、食生活の変化に伴い肉料理などが普及すると、にらやセルリーなどの香味野菜とともにしゅんぎくの需要も増加し、栽培が盛んになりました。
品種の分化は多くなく、葉の大きさや切れ込みの程度によって
栽培が容易で、繰り返し収穫が可能なことから、‘
一年を通して出回りますが、鍋物需要が活発になる10月から3月の出回り量が多く、12月に出荷のピークを迎えます。冬から春先にかけてのしゅんぎくは、夏場のものに比べて香りが高く、味も充実しています。
最近の価格動向を見ると、葉物野菜全般が安値傾向にある中で、肉や魚の臭みを和らげて鍋の味を引き立てる野菜として根強い需要があることから、一束150円前後と比較的安定した価格で販売されており、これから旬を迎えるため、堅調な価格の推移が予測されます。
すき焼きや湯豆腐、豚しゃぶなど、定番の鍋料理はもちろん、かき揚げ、和え物などにすると独特の香気を楽しめます。旬のものは香り高く葉も柔らかなので、葉先をちぎって生のままドレッシングや酢みそで和えてもおいしいです。
おいしい“しゅんぎく”を選ぼう!
傷みやすい野菜なので、購入時には鮮度をよく確認しましょう。緑色が濃く香りの強いもの、葉は肉厚でみずみずしいものが新鮮です。
茎の切り口の断面が古くなったものや、葉がしおれていたり黄ばんでいるもの、茎が堅いものは避けましょう。
「食べる風邪薬」ともいわれ、漢方においても、のぼせを鎮めて抵抗力や回復力を高める食材として珍重されているしゅんぎくは、栄養価の高い緑黄色野菜です。中でも、体内でビタミンAに変わるカロテンの含有量は、ほうれんそうやこまつなを上回ります。そのため、抵抗力を付けて風邪などの感染症を予防したり、目の健康を維持するほか、老化やがんの抑制効果が期待できます。
また、止血したり骨を強くするビタミンKや正常な造血作用に不可欠な葉酸、むくみや高血圧を予防するカリウム、血行を良くし冷えを改善するビタミンEなどをバランスよく含みます。糖質の代謝を高めるビタミンB群(B1・B2・B6)も豊富に含むため、肉や魚介類などの鍋料理にしゅんぎくを入れるのは栄養的にも理にかなっています。
「五訂日本食品標準成分表」 しゅんぎく(葉、生)より
30歳の女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合におけるしゅんぎく(葉、生)100グラム中に含まれる主な栄養素の割合(ただし、葉酸・ビタミンA・カルシウムは推奨量の値を、そのほかは目安量の値を用いた)。
しゅんぎく特有の香りは、葉や茎に含まれる精油成分(フィトケミカルの一つテルペンを中心としたα-ペネン、ペリルアルデヒドなど複数の成分)によるものです。この成分は、胃腸の働きを促進して食欲を増進させたり、胃もたれを解消するなど、胃腸の調子を整える働きがあります。
また、咳や痰を鎮めたり、自律神経を落ち着かせてイライラを鎮める効果も期待できます。豊富に含まれるカルシウムも神経の高ぶりを抑えるのに役立つので、ストレスの多い人にもお薦めの野菜です。
平成20年度の全国の作付面積は2,380ヘクタール(前年比98%)、収穫量は38,800トン(同96%)となっています。
生育適温は15~20度。比較的冷涼な気候を好みますが、耐寒性・耐暑性があり、温度に対する適応性が広い野菜です。
鮮度の低下が早いしゅんぎくは、千葉や茨城、群馬、大阪、福岡など、消費地近くにおける生産量が多い大都市近郊型野菜です。産地では、周年栽培のほかにも、こまつなや水菜などとともに葉物野菜の一つとして取り入れられたり、なすやトマトなど果菜類の前後作として多く作付けされています。
作業効率性を高める雨よけ栽培のほかにも、夏期栽培では遮光により温度上昇を防いだり、冬期栽培ではトンネルやハウスで保温することにより、長期摘み取りが可能となっており、周年出荷がなされています。
しゅんぎくに豊富に含まれるカロテンは、油やたんぱく質と共に食べると吸収率が高まるので、天ぷらや豚しゃぶなどにすると栄養効果満点です。
【保存方法】傷みやすく、栄養価も収穫後急速に減少するので、できるだけ早めに使い切りましょう。
保存する場合は、葉先を乾燥させないよう湿らせた新聞紙やキッチンペーパーに包んでビニール袋に入れ、冷蔵庫の野菜室に立てて入れます。冷凍する場合は、硬めにゆでて水気をよく切り、1回分ずつ適当な長さに切ってからラップで包めば、2~3週間程度保存が可能です。