西洋のマッシュルーム、東南アジア・中国のフクロタケとともに、世界三大栽培きのこの一つとされる“生しいたけ”は、日本と中国が原産の野菜です。
温暖湿潤な日本は、まさにきのこの宝庫で、種類は6,000種以上もあります。このうち、食用きのこは約200種類、栽培きのこは約100種類あり、その代表がしいたけです。
江戸時代にコナラやシイなどの原木に自生したきのこを採取したのが、日本におけるしいたけ栽培の始まりといわれています。当時の栽培は、伐採した原木に傷を付けて、しいたけの胞子が付着するのを待つというものでしたが、昭和になって人工的に菌を植え付ける「原木栽培」が開発されました。原木栽培は野生に最も近く、食味も優れますが、原木の持ち運びが大変なことや、気象条件によってしいたけの発生が左右されることから、減少傾向にあり、現在は、おがくずに米ぬかなどを混ぜて固めた培地に菌を植える「菌床栽培」が栽培の8割近くを占めています。
菌床栽培の普及により、一年を通して出回りますが、本来の旬は3~5月と9~11月です。冬を越した春のしいたけは‘春子’と呼ばれ、身が締まってうま味があります。また、秋に出回る‘秋子’は香り高いのが特徴で、すき焼きや湯豆腐など鍋物に欠かせない商材として、10~12月にかけての出回り量が多くなります。
健康志向や内食・和食回帰の傾向がある中、低カロリーで栄養豊富な生しいたけは、鍋ブームも相まって、ほかのきのこ類とともに改めて見直されている野菜の一つです。
価格動向を見ると、これから旬を迎え、秋商材としての販売が本格化するため、堅調な価格で推移すると予測されます。
新鮮な生しいたけを網焼きにして、レモンじょうゆをかけていただく味は格別です。また、風味や歯ざわりを生かしたバター炒めや天ぷら、鍋料理、炊き込みご飯、肉詰めなどいろいろな料理が楽しめます。
おいしい“生しいたけ”を選ぼう!
肉厚で、笠が開ききっておらず、軸の太いものが味のよい良品です。また、全体的に乾いており、笠の裏側のひだが白く、変色や傷のないものが新鮮です。
「不老長寿の妙薬」として昔から中国で珍重され、現在でも漢方薬として利用されている生しいたけは、食物繊維やミネラルのほかにもビタミンB群・Dなどのビタミン類を豊富に含む低カロリーのヘルシー野菜です。
食物繊維には、コレステロールを調整したり、便秘を解消して腸内環境を改善する働きがあります。また、血中コレステロールを低下させて高脂血症を予防する‘エリタデニン’というほかのきのこ類にはない特有の成分を含みます。そのため、食物繊維とエリタデニンの複合作用で、高血圧や動脈硬化などの生活習慣病を予防・改善する効果が期待できます。
さらに、免疫細胞を活性化させるきのこ特有のβ-グルカンの一種‘レンチナン’を含むため、がん予防の効果も期待できます。
「五訂日本食品標準成分表」 生しいたけ(生)より
30歳の女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合における生しいたけ(生)100グラム中に含まれる主な栄養素の割合(ただし、葉酸は推奨量の値を、その他は目安量の値を用いた)。
生しいたけに豊富に含まれる‘エルゴステロール’という物質は、紫外線に当たると、ほかの野菜からは摂ることのできないビタミンDに変化します。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を促す働きがあるため、カルシウムを多く含む乳製品などと一緒に摂ると骨粗しょう症を予防したり歯を丈夫にする効果が期待できます。
調理する際は、生しいたけを30分~1時間ほど笠を下にして天日干しにし、笠の裏側のひだの部分に日光を当てましょう。これにより、エルゴステロールがビタミンDに変化してビタミンDの含有量が倍増するほか、うま味成分の‘グアニル酸’やしいたけ特有の香り成分‘レンチオニン’が生じて、風味もアップします。
平成19年の全国の生しいたけの収穫量は、67,155トン(前年比101.2%)です。このうち、原木栽培は15,952トン、菌床栽培は51,203トンとなっており、菌床栽培が全体の76%を占めています。
生育適温は10~20度。屋外で生産されることが多い原木栽培は、春と秋を中心に出荷が行われ、主に群馬、茨城、栃木などで生産されています。一方、菌床栽培は、発生を自然条件下で行う自然栽培型と培養から発生までを空調施設内で行う施設栽培型に大別でき、主に徳島、岩手、北海道などで生産されています。
生産者の高齢化や低価格な輸入品との競合による市場価格の低迷により、生産量は近年、減少傾向で推移していましたが、中国製冷凍ギョーザ事件などを契機とする国産の巻き返しで、ここ最近、増加傾向にあります。
産地では、個人生産から企業生産へ、原木栽培から菌床栽培へと、機械化や施設の大型化による省力化が進められ、工場内で温度や散水量などの生産管理を行うことで、良質の生しいたけを安定して収穫できる周年出荷体制作りに取り組む生産者が増えています。