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岩手県 新岩手農業協同組合 
久慈営農経済センター 菌床しいたけ部会(生しいたけ)

菌床しいたけ県内一の高品質産地を目指して

新岩手農業協同組合 久慈営農経済センター
米穀園芸課 副主幹 澤里 文昭


産地の概要

 新岩手農業協同組合(以下「JA新いわて」)は、平成20年5月に旧JA新いわて、旧JAいわてくじ、旧JA北いわて、旧JAいわて奥中山、旧JAみやこの5農協が合併して誕生した農協です。西は奥羽山脈を境に秋田県と、北は青森県と接し、東はリアス式の陸中海岸により太平洋に面し、盛岡市以北の岩手県のほぼ半分に相当する5市8町6村という広大な事業区域を有した農協です。

 JA新いわてでは、事業区域を7つの地域に分け、それぞれの地域に営農経済センターを設置し、各地域の立地および気象条件を利用し、米をはじめ野菜・花き・果実・畜産・酪農など多種多様な農畜産物を生産しています。


(久慈地域の概要)

 そのうち久慈地域は、沿岸部の北端に位置し、耕地面積は約7,300ヘクタール(水田2,040ヘクタール、畑地5,246ヘクタール)、農家1戸当たりの経営面積では1ヘクタール未満の農家が70パーセントを占めています。また、気候は、当地域の大部分が海洋性気候の影響で、春から夏にかけてオホーツク海高気圧の影響により太平洋側から「やませ」と言われる冷たい北東風が吹くことにより夏期は冷涼で、冬は降雪も少なく比較的温暖な気象条件です。

 また管内は「やませ」が原因の冷害がたびたびあり、稲作・畑作とも被害を被ってきた歴史がありましたが、昭和55年の大冷害を契機にパイプハウスの導入による施設園芸への取り組みが進み、夏期は冷涼という特異な気象条件を逆手にとって、夏場の高温下では栽培が難しいほうれんそうを中心とした野菜産地の形成を図ってきました。さらに、この地域は以前より原木による乾しいたけの栽培が盛んでしたが、平成12年以降、夏期の冷涼な気候を利用した菌床しいたけの栽培の取り組みが進み、生産量および生産額はここ数年右肩上がりで推移しています。

図1 平成20年度 JA新いわて久慈地域販売実績
(単位:千円)

菌床しいたけの生産・出荷の概要

 菌床しいたけの栽培は、従来の原木しいたけ栽培と異なり、重いほだ木の移動・運搬といった重労働がないため高齢者や女性でも栽培が可能です。この地域では、多くの生産者は菌床ブロック(オガコやチップなどに水や米ぬかなどを加え、袋に詰め成型し、殺菌したものにキノコの種菌を接種したもの)を購入し、約4カ月間自家ハウスの棚の上で培養(菌床ブロックに接種したキノコの種菌をブロック全体に菌糸を回す作業)し、その後6カ月程度しいたけの発生と収穫を数回繰返します。一般的な作型は、冬から春にかけて培養し、その後収穫する夏採りと春から夏にかけて培養し、その後収穫する冬採りの二つの作型で栽培されており、一年を通じた出荷が可能です。収量は、岩手県の平均で菌床ブロック当たり0.7キログラムと言われていますが、この地域では約1キログラムと県の平均収量を上回っています。

図2 菌床しいたけの作型



パック詰め作業
菌床栽培風景

(培養のポイント)

 収量を支えている要因は、生産者の技術や努力のほかに、ウレタン吹き付けハウス(通常のパイプハウスの内側にウレタン樹脂を吹き付けたもの)と「やませ」にあります。菌床しいたけの収量に大きく影響を与えるのが培養期間の環境です。培養のポイントは、高温や低温などの温度差を小さくし、キノコの菌糸が動きやすい一定の温度にし、菌糸にストレスを与えないようにすることです。四季を通じて一定の温度に保つことは非常に困難なことですが、ウレタン吹き付けハウスにより、夏場の高温の遮熱や冬場のハウス内温度の放熱を防ぐことが可能となり、通常のパイプハウスに比べ温度管理を一定に行うことができます。また、「やませ」による夏期の冷涼な気候は高温に弱い菌床ブロックには最適であり、天然のクーラーの役割を果たしています。平成15年度には、栽培戸数12戸、販売額5,900万円であった菌床しいたけですが、平成20年度には、栽培戸数31戸、販売額2億3,770万円とわずか5年間で急成長し、岩手県内でトップクラスの実績を誇る産地となりました。また、市場からも品質の良さが評価され、年間を通じて安定した出荷が望まれています。

販売戦略について

 市場の評価は上々とは言え、近年の菌床しいたけの販売は、長引く景気の低迷に加え、資材費などの生産コストの上昇などで厳しい状況が続いています。国産品である事の「安全・安心」をアピールし、「定時」「定量」「定品質」の三つの「定」を目標に生産に取り組んでいます。

 取り組みの内容は、月一回の種菌メーカー、JAによる生産農家巡回指導、また生産者相互のほ場巡回の実施による栽培技術の向上対策、出荷規格目揃会、菌床しいたけ品評会などにより品質の向上に努めています。また、取引市場や量販店における研修を行い、消費地でのニーズの把握などについても積極的に取り組んでいます。

図3 菌床しいたけ栽培戸数および栽培棟数

菌床しいたけ部会の設立

 旧JAいわてくじのしいたけ部会は、これまで原木栽培が中心でしたが、菌床しいたけの生産者の増加に伴い、平成19年3月に生産者28名により「菌床しいたけ部会」が設立され、平成19年度の販売額は2億円を大きく上回り、出荷量も205トンとなりました。

(産地リーダーの存在)

 この菌床しいたけ部会の活動において、強力なリーダーシップで牽引しているのが越戸俊男さんです。越戸さんは、それまでの原木によるしいたけ栽培を止め、平成12年から菌床しいたけ栽培を始めた久慈地域における菌床しいたけ栽培の先駆者です。

 また、越戸さんは、平成15年に(有)越戸きのこ園を設立し、それまでの菌床しいたけ栽培に加えて菌床ブロック製造施設を導入し、管内外の菌床しいたけ生産者へ菌床ブロックの供給を行うなど、産地育成に大きく貢献しています。さらに、平成19年度には岩手県農業農村指導士に認定され、JAにおいても発足以来、菌床しいたけ部会長の任を担い、JAが委嘱する産地リーディングサポーター(地域の技術の高い生産者が一般の生産者に技術の普及を図る)としても活躍されています。

 このような産地のリーダーの存在もあり、菌床しいたけ部会発足以降、異業種から2名の方が新たに就農されました。菌床しいたけは早期に収益をあげることができる品目として注目されており、今後も就農者の増加が予想されます。

関係機関の支援

 岩手県では、県北沿岸振興ビジョンの中で、菌床しいたけを雨よけほうれんそうに次ぐ品目として位置づけ、菌床しいたけを周年栽培する農家と雨よけほうれんそうと菌床しいたけを組み合わせて経営を図る農家の育成に力を入れています。平成19年度からは「パイプハウス利用菌床しいたけ栽培実証」が実施されました。これは、既存の雨よけほうれんそうのハウスに内張りハウスを設置し菌床しいたけを栽培するものです。その結果、肉厚で品質も良好な菌床しいたけが採れましたが、ウレタン吹き付けハウスに比べ施設建設コストは低いという長所があるものの、暖房コストがかかるという欠点が明らかになりました。今後は、全体的な経営収支の実態を把握し、雨よけほうれんそうと菌床しいたけの生産の拡大につなげる計画です。

一言アピール

 しいたけはこれからが旬です。鍋物、煮物、炒め物に、そのまま焼いて食べてもおいしく頂けます。ぜひ、久慈地域の肉厚のおいしいしいたけをお試し下さい。
パック詰めの生しいたけ

お問い合せ先

新岩手農業協同組合久慈営農経済センター
岩手県久慈市中央一丁目57番地
TEL:0194-52-1318
FAX:0194-52-3659

 
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