イタリア料理に欠かせない“トマト”の原産地は、ペルーやエクアドルなどアンデス山脈の高冷地帯が原産地といわれます。コロンブスの新大陸発見をきっかけにヨーロッパへ伝わり、ピザやパスタ、ブイヤベース、ガスパチョなどさまざまな料理の素材として世界各地で栽培されています。
日本には江戸時代に長崎に伝えられましたが、当時は臭みが強かったことから鑑賞用でした。昭和初期に米国から甘みに富んだトマトが導入されると、食生活の洋風化とともに本格的な栽培が始まりました。
トマトは、大きさによって「大玉トマト」「中玉トマト」「ミニトマト」に、果皮の色によって「桃色系」「赤色系」「黄色系」に大別できます。調味料としての需要が大きい欧米では、濃厚な味で加熱するとうま味が増す赤色系が主流ですが、生食することの多い日本では、甘みが強くトマト臭の少ない桃色系が主流となっています。なかでも昭和60年代に登場した‘桃太郎’は、熟してから収穫するため食味がよく、輸送性に優れるという特性から急速に普及し、現在、その改良種が流通の大半を占めています。
近年は、消費者の好みを反映し、食べ切りサイズの中玉トマトや、栽培方法の工夫によってさらに糖度を高めたフルーツトマトの需要が増えています。特に最近は、糖度の高さが品質評価の一つの基準となるなど、フルーツ感覚で食べる野菜になりつつあり、トマトを使ったゼリーやケーキはベジタブルスイーツブームに一役買っています。また、イタリア料理の人気の高まりや健康志向により、‘シシリアンルージュ’などの「リコピン」含有量の多い赤色系調理用トマトの需要も伸びており、消費者の年間支出金額は野菜の中で第一位と人気の高い野菜です。
多様な作型や施設栽培の普及によって 一年を通して流通していますが、おいしい時期は6~9月。この時期は太陽に当たって、栄養価も高まります。
最近の価格動向を見ると、北日本を中心とする曇天による日照不足の影響で着色が遅れ、やや高値で推移しています。
生でサラダやサンドイッチの具、ジュースなどにするほか、うま味を丸ごと活かせるトマトパスタやミネストローネ、トマトチャンプルーなどいろいろな楽しみ方が できます。
おいしい“トマト”を選ぼう!
ヘタの緑色が濃くピンとしており、皮に色ムラがなくツヤとハリがあるものを選びましょう。
全体に丸みがあり、ずっしりと重みがあるものは、果肉が緻密で甘くておいしい証拠です。凸凹があったり角ばっているものは、中に空洞があったり水分も少ないことが多いので避けましょう。
「トマトが赤くなると医者が青くなる」という西洋のことわざがあるとおり、トマトにはさまざまな効能があります。
ビタミンAの含有量は思ったほど多くありませんが、一回に食べる量や頻度が高いため、緑黄色野菜とされています。
赤い皮の色素であるリコピンには、有害な活性酸素の働きを抑える強い抗酸化作用があり、ガンや動脈硬化などの生活習慣病を予防する効果が期待できます。また、コラーゲンを合成するビタミンCや、タンパク質や脂肪の代謝を助けるビタミンB6、整腸作用のあるペクチン、高血圧を防ぐカリウムやルチンなども含みます。さらに、クエン酸やリンゴ酸などの独特の酸味が胃液の分泌を促す働きがあるため、食欲が低下しがちな夏場に食欲を増進させる効果も期待できます。
「五訂日本食品標準成分表」 トマト(果実・生)より
30歳の女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合におけるトマト(果実・生)100グラム中に含まれる主な栄養素の割合(ただし、カリウム・ビタミンB6は目安量の値を、その他は推奨量の値を用いた)。
「トマトの時期に下手な料理はない」ということわざがあるとおり、ほかの野菜には見られないほど、うま味成分の‘グルタミン酸’を多く含みます。
グルタミン酸は、果肉よりも種の周りのゼリー部に多く含まれており、肉や魚に含まれるうま味成分のイノシン酸と一緒になると、相乗効果でうま味が10倍にも感じられます。欧米では、このようなトマトの効果が古くから知られ、料理に加えたり、ソースにするなど調味料的な使い方が多くなされています。
さらに、トマトにはうま味成分の一つ、‘アスパラギン酸’も多く含まれており、料理をおいしくする効果があります。
平成20年の全国の作付面積は12,500ヘクタール(前年比98%)、収穫量は732,900トン(前年比98%)となっています。
トマトの生育適温は25~26度。昼夜の大きな温度差と強い光を好み、雨を嫌います。
収穫時期によって、大きく冬春トマト(12~6月)と夏秋トマト(7~11月)に区分でき、冬春トマトは熊本、愛知、千葉などを中心に、夏秋トマトは北海道、茨城、福島、青森などを中心に生産されています。
かつては露地栽培で夏場を中心に出荷されていましたが、現在では、病気や裂果を防ぎ作業効率性を高める雨よけ栽培のほか、ガラスやビニールなどで温室やハウスを作り寒いときには暖房するなど、施設栽培の普及と保冷輸送の発達によって全国各地から周年出荷されるようになっています。
加熱調理する場合だけでなく生食する場合も、ひと手間かけて皮の湯むきをすると、口当たりがなめらかになり味がよく浸透するうえ、より安心して食べられます。
湯むきする際は、花落ち側に浅く十字の切れ目を入れ、たっぷりの熱湯に15秒ほど通します。皮がめくれてきたら冷水にとり、あとはするすると皮をむくだけ。ラップで包んで電子レンジで30秒程度加熱してから冷水につけても簡単に皮がむけます。
【保存方法】保存適温は10度前後です。5度以下では低温障害により味が落ちるため、冷やしすぎないようにしましょう。
完熟トマトは、ヘタを下にしてビニール袋やパックのまま冷蔵庫の野菜室で保存すれば4~5日保存が可能です。青さの残っている未熟トマトは、常温で追熟させてから冷蔵庫に入れます。
余った完熟トマトは、丸のまま冷凍すると水で洗うだけで皮が簡単にむけるので、ソースや煮込み用に便利です。