辛み・甘み・うま味の三拍子そろった‘たまねぎ’は、「西洋のかつお節」と呼ばれるほど西洋料理のベースに欠かせない料理の名脇役です。
原産地は中央アジアとされています。栽培の歴史が古く、古代エジプトで栽培され、にんにくとともにピラミッドを築いた労働者の活力源として食されていました。
日本には、江戸時代に南蛮貿易の副産物として長崎にもたらされましたが、本格的な栽培が始まったのは米国から導入された‘イエロー・グローブ・ダンバース’が北海道で栽培に成功した明治以降です。明治初期に関西地方にコレラが発生した際に、コレラに効き目がある薬効野菜として爆発的に売れたのが普及のきっかけになりました。
たまねぎは、生で食べたときの辛みの強弱によって辛み品種と甘み品種に、また皮の色によって黄、赤、白の3つの品種に大別できます。
現在の日本の主流品種は、米国から導入された辛み品種の黄たまねぎをもとにしたF1品種です。北海道の‘札幌黄’に代表される春まき秋どりの品種群と府県産の‘泉州黄’に代表される秋まき春・初夏どりの品種群があり、貯蔵性が高いため一年を通して出回っていますが、旬は春と秋の2回。春先から初夏にかけて出回る府県産の新たまねぎは、香りも味もやわらかくたまねぎらしい風味を味わえます。また、秋には北海道産の辛たまねぎが出回り始めます。
台所の常備野菜として、また学校給食やお総菜などの素材としても需要は堅調で、量販店では、ばれいしょなどとともに棚持ちがよい商材として安定した価格で販売されています。さらに、たまねぎに豊富に含まれる硫化アリルには、生のまま食すと血液をサラサラにする効果も期待できることから、最近の健康志向の高まりに伴って新たまねぎやサラダたまねぎなど生食用たまねぎの需要が増えています。
価格動向を見ると、今年は、府県産の肥大期である3月に雨が少なかったため小玉が多く、豊作傾向で大玉が多かった昨年と比べて入荷量が減少してやや高値で推移しています。
カレーやシチュー、肉じゃがなどの煮込み料理やハンバーグ、ポテトサラダ、炒飯など和洋中、主役、脇役と何でもこなす便利な野菜です。
ずっしりと重く、表皮にツヤがあり、よく乾燥して傷のないものを選びましょう。頭部から傷むので、頭部が硬くしっかりしたものがおすすめです。
先端から芽が出ているものや根が伸びているものは、香りも味も悪いので避けましょう。
野菜の中で最も糖質(オリゴ糖)を多く含み、生のたまねぎはいちごと同じ位の甘みを持ちます。辛みと特有の刺激臭はユリ科ネギ属の植物に特有の硫化アリルが含まれているためで、加熱すると失われ、オリゴ糖の甘みが引き立ちます。
そのほか、少量ですが、ビタミンB1、B2、B6、Cなどのビタミン類やカリウム、カルシウム、鉄などのミネラルを含みます。
「五訂日本食品標準成分表」 たまねぎ(りん茎・生)より
30歳の女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合におけるたまねぎ(りん茎・生)100グラム中に含まれる主な栄養素の割合(ただし、ビタミンB6・C・葉酸は推奨量の値を、その他は目安量の値を用いた)。
たまねぎに豊富に含まれる硫化アリルには、血栓やコレステロールの代謝を促進して血液をサラサラにする機能があり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病や、動脈硬化、脳血栓、脳梗塞などの予防に効果的です。そのほか、ビタミンB1の吸収を助けて新陳代謝を活発にする働きがあり、イライラや疲労回復、食欲増進効果も期待できます。
硫化アリルは加熱により消失するため、上記の効果を期待する場合は生食がおすすめです。
~たまねぎの‘ケルセチン’~
たまねぎの褐色の外皮にはポリフェノールの一種である‘ケルセチン’が含まれています。ケルセチンには、抗酸化作用や抗炎症作用があり、発がんの抑制や動脈硬化予防、毛細血管の増強、花粉症抑制などの効果のほか、体内に摂取した脂肪の吸収を抑制する働きが期待できます。
ケルセチンは外皮に近い方により豊富に含まれるので、調理の際は皮をむき過ぎないようにしましょう。
2007(平成19)年の全国の収穫量は126.5万トン(前年比109%)となっています。
生育適温は20度前後で、寒さに強く氷点下の低温下でも凍害はほとんど見られませんが、25度以上の高温では高温障害が起こります。
たまねぎは、栽培体系によって大きく春まき栽培の北海道産と秋まき栽培の府県産に区分できます。全国の生産量の6割近くを占める北海道では、3月頃に種をまき、8月から10月に収穫し、低温貯蔵施設での保管により翌年4月まで全国に出荷されます。
一方、佐賀県、兵庫県、愛知県を中心とする府県産は、9月頃種をまき、翌年の4月から6月頃に収穫します。4~6月にかけては、早生の黄たまねぎの茎を青切りして早どりした新たまねぎが出荷されます。それ以降は、日持ちをよくするために収穫後1カ月ほど風干しして乾燥貯蔵したものを夏から秋に出荷、さらに兵庫などでは冷蔵貯蔵することで翌年3月頃まで出荷されます。
たまねぎを切ると涙が出るのは、たまねぎに含まれる硫化アリルが空気に触れると催涙性物質が発生し、これが涙腺を刺激するためです。
切る前に冷蔵庫でよく冷やしておけば、硫化アリルの蒸発量が減り目への刺激を抑えることが出来ます。また、切れない包丁を使うと、たまねぎの細胞をつぶして催涙性物質が発生しやすいので、よく切れる包丁を使って細胞を鋭く切るようにしましょう。硫化アリルは水溶性なので、ドレッシングに入れたり、サラダなど生で食べるときは、切ってから水にさらすと辛みがやわらぎます。
【保存方法】湿気に弱いので、通気性のよい日の当たらない場所で保管します。ネットに入れて吊るすか一個ずつ新聞紙に包みカゴなどに入れれば、1~2カ月間保存が可能です。使いかけはラップに包んで冷蔵庫の野菜室で保存します。新たまねぎ、紫たまねぎは水分が多く傷みやすいので、野菜室で保存し早めに使い切りましょう。