古代ギリシャ・ローマ人も食用とした最古の野菜の一つ‘キャベツ’は、世界で最もポピュラーな葉菜です。
ヨーロッパ地中海・大西洋沿岸が原産で、「キャベツ」とは頭形の野菜という意味ですが、もともとの野生種は青汁の原料にも使われるケールのような非結球タイプのもの。これをケルト人がヨーロッパ各地に広め、その過程で花を食べるブロッコリーやカリフラワー、わき芽を食べる芽キャベツなどに分化し、現在のような結球タイプのキャベツが生まれました。
食用としてのキャベツが日本に渡来したのは、江戸時代末期です。最初は東京、横浜、神戸などの外国人居留地向けに栽培されていましたが、明治末から大正時代にかけて和製洋食ともいわれる‘トンカツ’が流行するにつれ、キャベツの生食が急速に普及しました。
キャベツは、出荷時期によって春系キャベツ、夏秋キャベツ、冬系キャベツに大きく分類できます。かつては、巻きの硬い冬系の「寒玉」が流通の大半を占めており、関西ではお好み焼き用などに現在でも根強い人気がありますが、つけ合わせやサラダなどにして食べることの多い関東では生のままでも柔らかくておいしい春系の品種が好まれ、近年、生産量が増加しています。
野菜を楽しむということにおいてキャベツは万能で、生のままでも、煮ても炒めても蒸してもおいしく、内食回帰傾向にある中、改めて見直したい野菜の一つです。
レストランや学校給食などの業務用需要で消費が一定化しており、大衆野菜であるだけに天候不順などにより生産が減ると、価格が急騰する危険性が高く、豊作時には真っ先に暴落するなど価格の変動が大きいのが特徴です。また、お好み焼きの骨材として関西の需給動向が全国の価格をも左右しています。今年は、4月の価格は全国的に生育が遅れて高めに推移していましたが、5月後半は主力の関東産が量的に回復して価格も平年並みに落ち着くと予想されます。
シャキッとした歯ざわりがおいしいキャベツのせん切りは、トンカツやコロッケ、しょうが焼きなどのつけ合わせに欠かせませんが、ギョーザの具材や和え物、野菜炒めなど何に入れてもおいしい万能野菜です。
鮮やかな緑色でツヤとハリがあり、芯の切り口が新しいもの、持ったときにずっしりと重量感のあるものを選びましょう。
カットものは、葉がぎっしりと詰まっており、芯の高さが3分の2以下のものを選びましょう。伸びすぎてとうが立つと苦味が出ますが、その直前の栄養分をたっぷりため込んだときが最もおいしいので、芯の高めのものがおすすめです。
骨の健康維持や止血に働くビタミンKのほか、風邪予防や疲労回復に効果的なビタミンC、腸内環境を改善する食物繊維が豊富です。ビタミンCは、右図のとおり、捨ててしまいがちな外葉と芯の周りに多く含まれており、大きめの葉であれば、2~3枚で一日の必要量を摂ることができます。
キャベツを別名‘
キャベツに含まれる‘イソチオシアネート’という成分には、抗がん作用があり、米国立がん研究所のデザイナーフーズ計画で、がん予防の可能性がにんにくに次いで2番目に高い野菜として挙げられています。
「五訂日本食品標準成分表」キャベツ(結球葉・生)より
30歳の女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合におけるキャベツ(結球葉・生)100グラム中に含まれる主な栄養素の割合(ただし、ビタミンK・カリウム・食物繊維は目安量の値を、その他は推奨量の値を用いた)。
古代ギリシャ、ローマ時代には胃腸の調子を整える保健食として食べられていたといわれるキャベツは、胃かいようや十二指腸潰瘍などの胃腸障害に有効な成分‘ビタミンU’を豊富に含みます。ビタミンUを主成分とする胃腸薬も市販されているほどで、胃腸薬の名前でも有名な「キャベジン」はビタミンUの別名です。ビタミンUは、特に春キャベツの中心に近い黄色い葉に多く含まれており、胃腸の粘膜を正常に整える効果のほか、消化を助けて胃もたれを防止する効果が期待できます。そのため、キャベツのせん切りは、機能的にもトンカツやコロッケなどの揚げ物や肉、魚料理などのつけ合わせに最適です。
ビタミンUは加熱によって損失してしまうので、この効果を期待する場合は生食がおすすめです。
2007(平成19)年の全国の作付面積は32,620ヘクタール、収穫量は約136万トン(春:35万、夏秋:44万、冬:57万)であり、葉菜類の中で最も消費量の多い野菜です。
生育適温は、15~20度。全国で露地栽培されているキャベツは、比較的冷涼な気候を好むことから、南から北へ、平地から高原へと全国各地の産地をつなぐリレー出荷や作型の多様化により周年供給体制が出来上がっています。
4~6月に収穫期を迎える春系キャベツは、海洋性気候で冬でも暖かい千葉の銚子地域や神奈川の三浦地域などが主産地です。7~10月に収穫期を迎える夏秋キャベツは、群馬の嬬恋、長野県の野辺山などの高原地帯や北海道や岩手などの冷涼地で栽培され、鮮度を保つため出荷前に予冷庫に入れて保冷トラックで出荷されます。11~3月に収穫期を迎える冬系キャベツは、愛知の東三河地域や神奈川、千葉の海岸地帯など暖かい地方が主産地です。
季節ごとの品種によって利用法も異なります。春系キャベツは水分が多く葉が柔らかで、つけ合わせやサラダなど生で食べるのが一番。繊維に沿ってせん切りにすると、シャキッと歯ごたえがよく、繊維に直角に切ると、口当たりがやわらかくなります。切ったキャベツはサッと水にさらし、ザルに上げてよく水切りすると、パリッとします。
一方、冬系キャベツは肉厚でしっかりしていて、加熱すると甘味が増すので、ポトフやロールキャベツなどの煮込み料理や炒め物に向きます。火を通すことでかさが減るため、食物繊維をたくさん取ることができます。
キャベツに含まれるビタミンCやビタミンUは、水に溶けやすいので、水にさらすときは短く、また熱にも弱いので、調理する時間を短縮したり、煮汁ごといただくと効果的です。
涼しい季節は、新聞紙などに包んでおけば室内で保存可能ですが、それ以外の季節は冷蔵庫の野菜室で保存しましょう。芯から腐り始めるので丸ごと保存する場合は、芯をくり抜き、水でぬらしたキッチンペーパーを詰めてビニール袋に入れ、冷蔵庫の野菜室へ入れると1週間程度保存が可能です。カットものは、ラップで包み、なるべく早めに食べ切りましょう。