さつまいもは、中央アメリカ原産の芋が17世紀前半に中国から沖縄を経て薩摩(現在の鹿児島県)に伝わったことから「薩摩芋」と呼ばれるようになりました。1734年には蘭学者の青木昆陽が救荒作物として薩摩から種芋を取り寄せ、江戸の小石川薬園でさつまいもを試作。それをきっかけに、東日本各地にも栽培が広がりました。
単位面積当たりの供給熱量が米の約2倍、小麦の約3倍もあり、やせ地でも凶作の年でも収穫を見込めることから、大飢饉や戦中・戦後の食糧不足から多くの国民の命を救いました。
品種は、世界に4000種あるといわれていますが、日本での栽培は40種程度。他国の追随を許さないほど日本の育種は進んでおり、生食用、でん粉・アルコールなどの加工用、飼料用などそれぞれの用途に適した品種が開発されています。形、皮・肉色、食味などは品種によってさまざまですが、流通の大半を占めるのは、皮が紅色で甘くホクホクと食味のよい‘ベニアズマ’や、‘高系14号(鳴門金時、五郎島金時など)’です。また、最近は、‘パープルスイートロード’などポリフェノールを多く含む紫芋をはじめ、オレンジ色でβ‐カロテンを含む鹿児島県種子島産の‘安納芋’や‘ヘルシーレッド’などさまざまな色のさつまいもが機能性食品として注目されています。
キュアリング注)や貯蔵技術の普及により、現在では1年を通して出荷されていますが、おいしい時期は、新ものが9~11月、貯蔵ものが1~2月です。初夏から秋口に収穫され、冬から翌年春までは貯蔵されたものが出回りますが、その貯蔵ものの熟成が、ちょうど良い具合になるのが1~2月頃で、この時期は甘味が非常にのります。
スイーツブームや和風回帰の影響により、芋好きの女性や高齢者を中心に消費が増加しており、量販店では店頭に焼き芋機を増設したり、季節ごとの多彩な品種をそろえて消費を盛り上げています。
価格の動向を見ると、今年は各産地ともに豊作傾向で、前年をやや下回って推移しています。
注)収穫したさつまいもを貯蔵前に3~4日高温多湿の条件下(温度30~33℃、湿度90~95%)に保つと、収穫時にできる傷口にコルク層(傷を治す組織)ができ、貯蔵中に病原菌の浸入が少なくなる。この処理のことをキュアリングという。
もっとおいしく! オススメの食べ方
皮の色つやがよく、表皮に傷や凸凹がなくなめらかでハリがあり、太くて紡錘形のものが良品です。
極端に細いものや黒い斑点、傷があるものは避けましょう。また、ヒゲ根があるものは繊維が多いので避けましょう。切り口に蜜が出ていたり、黒い蜜の跡があるものは、糖度が高い証拠です。
主成分は、エネルギーのもととなるでん粉で、加熱すると一部が糖質に変わり甘味が増します。しかし、カロリーは米の3分の1程度と低く、コラーゲンの生成を助けるビタミンCはりんごの6倍程度含むうえ、加熱しても6割以上が損失しないで残ります。また、整腸作用のある食物繊維を豊富に含むほか、ビタミンEや、むくみの解消に効果的なカリウム、牛乳の3分の1に相当するカルシウム、マグネシウム、銅などのミネラル類もバランス良く含みます。
「野菜を凝縮するとさつまいもになる」といわれますが、さつまいもは1回に食べる量が多いので、栄養量としてはかなり大量の野菜を食べたのと同様の効果があるといえます。
「五訂日本食品標準成分表」 さつまいも(塊根・生)より
30歳女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合におけるさつまいも(塊根・生)100g中に含まれる主な栄養素の割合。(ただし、ビタミンC、B6、葉酸は推奨量の値を、その他は目安量の値を用いた。)
さつまいもは、食物繊維が水溶性・不溶性ともに豊富で、ばれいしょの約2倍の含有量です。食物繊維は、消化管の運動を活発にし、腸内を有用細菌が活動しやすい環境にして、腸の中をきれいにします。便秘を解消したり、大腸がんを予防したりするほか、余分な糖質、血中コレステロールや食塩の吸収を妨げたり体外に排泄することによって、糖尿病、高脂血症や高血圧を予防します。
切ったときに包丁につく白い液体成分‘ヤラピン’(樹脂の一種)も昔から緩下剤として用いられています。そのため、さつまいもを食べると食物繊維とヤラピンの相乗効果により便秘解消の効果が期待できます。
全国の収穫量は968,400トン(平成19年)ですが、これにはでん粉原料用や焼酎原料用などの加工用や飼料用なども含まれるため、生食用は4割程度とみられます。
生育適温は20‐30℃と高温を好むため、関東以西が主産地です。でん粉原料用や焼酎原料用を含めると鹿児島県がトップで全体の4割近くを占めますが、生食用は1割にも満たないため、野菜としての生産量が多い産地は茨城県、千葉県です。
さつまいもの収穫は、超早掘が5月中旬から始まり、7月の早掘、そして普通掘が8月から12月下旬まで続きます。温度と湿度をコントロールして休眠状態にするとでん粉が糖質に変わり甘味が増すため、それを見越して出荷時期が決められます。9~11月の出荷がピークですが、ウィルスフリー苗注)の生産・普及のほか、土壌消毒技術やキュアリング、貯蔵技術の進歩により品質保持が長期間可能になり、1年を通して出荷されています。
注)ウィルスに感染していない苗。さつまいもは種芋から苗を取って栽培し、次年度の種芋を生産しますが、一度ウィルスに感染すると、1年、2年と経過するごとに収量が減ってしまいます。そのため、産地では、収量を減らさないようウィルスフリー苗を使用しています。
皮をむいたさつまいもは空気に触れると黒く変色しやすいので、切ったらすぐに10分程度水にさらしてアクを抜きましょう。アクは皮の下にあるので、むく場合は厚めに。
さつまいもに含まれるアミラーゼと呼ばれるでん粉分解酵素は60℃位で最もでん粉の糖化を進めるので、じっくりと煮たり、焼いたり、蒸したりして、時間をかけて加熱すると、電子レンジでの急激な加熱よりも甘味が出ます。一度調理して甘くなったものを温め直すには、電子レンジが便利です。
最適貯蔵適温は12℃±2℃前後です。低温にとても弱いので、冷蔵庫には入れず、乾燥しないように新聞紙などでくるんで常温で保存します。ポリ袋などに入れたまま放置すると、蒸れて腐敗の原因になるので、袋から出しましょう。切ったものは傷みやすいので、ラップをして野菜室で保存します。