香り・甘み・酸味の三拍子がそろう“いちご”は、子供から若い女性、そしてお年寄りまで各年齢層ともに人気が高い果実的野菜です。
日本では甘酸っぱいおいしさと手軽に食べられる便利さから、ショートケーキをはじめスイーツに欠かせない素材としてそのまま食べることが多く、世界一の生食用消費を誇ります。
栽培用のいちごは、18世紀にオランダで南アメリカのチリ品種と北アメリカのバージニア種が交配され、大粒の品種が育成されたのが原型といわれています。
日本に入ってきたのは、江戸時代末期。オランダ人が長崎に伝えたことで、「オランダイチゴ」と呼ばれました。しかし、野生のいちごを食べていた当時の日本人にとって、あまりにも大粒だったので、普及しませんでした。
本格的に栽培されるようになったのは、1899年に福羽逸人博士が新宿御苑でフランスから導入した品種を改良して‘福羽’の栽培に成功してからです。‘福羽’は日本のいちごの基礎を作った名品種で、これが親となって次々と新品種が生まれました。
1960年代までは春から初夏が旬でしたが、食生活の変化で需要が増加し、ハウス栽培の発展や品種改良が進んだことで、生産量が飛躍的に増加し、現在では11~5月頃までおいしいいちごを食べることができます。また、最近は夏場にとれる夏どりいちごの栽培技術が進んでおり、ケーキなど業務用においても一部国産のいちごが使用されています。
いちごは品種改良が盛んになされているため、品種の変化が激しく、昭和30年代の主力品種‘福羽’から始まり、‘ダナー’→‘幸玉’→‘宝交早生’→‘はるのか’→‘麗紅’→‘とよのか’、‘女峰’…と主力品種が変化しています。
最近は味わいや姿形のよいいちごを求めて、主産県の試験場で新品種を育成しており、現在は栃木県の‘とちおとめ’、福岡県の‘あまおう’、佐賀県の‘さがほのか’などが多く出回っています。
価格の動向を見ると、ショートケーキなどに向けた業務用いちごの需要が弱く、若干安値傾向で出回っています。
日本のいちごは甘みが強く、酸味が少ないので、生のままで十分おいしく食べられます。
品種によって、香り、甘み、酸味、果肉の硬さ、色などが異なるので用途に応じて好みの品種を食べることをおすすめします。ヨーグルトやアイスクリーム、ホイップクリームなどとの相性も抜群です。
しっかりした形の大きめの粒を選びましょう。
実は表面にツヤがあり、赤い色が鮮やかで、ヘタはみずみずしく緑色の濃いものが新鮮です。過熟すると果皮が白っぽくなり、糖度も下がるので避けましょう。
また、パック詰めのものは、底から見て粒がつぶれていないか確認しましょう。
いちごはよく「ビタミンCの王様」といわれます。主な野菜の中では、キャベツ、ピーマンなどに次いでビタミンCの含有量が多く、100g中62mgも含まれており、10粒ほど食べれば1日に必要なビタミンCを十分摂取できます。ビタミンCは有害な活性酸素から細胞を守る抗酸化ビタミンで、皮膚や血管の老化を防いだり、がんやストレスをブロックします。そのほかにも、正常な造血作用や胎児の正常な発育に不可欠な葉酸や、高血圧の予防・改善を促す効果があるカリウム、血糖上昇を抑制して生活習慣病を予防する食物繊維のペクチン、エネルギー産生を円滑にしたり、ストレスへの抵抗力をつける働きをするパントテン酸、細胞の老化を防ぐビタミンEなどが豊富に含まれています。
いちごには少量ですがビタミンEが含まれています。ビタミンEは、強い抗酸化作用を持っているため、有害な過酸化脂質の生成を防ぎ、細胞の老化を防いでくれます。また、血管壁へのコレステロール沈着を予防し、免疫力を高めるため動脈硬化の予防が期待できます。さらに、ビタミンEには、末梢血管をひろげ、血行をよくして肩こりや頭痛、冷え性などの改善効果も期待できます。
いちごに豊富に含まれるビタミンCの抗酸化作用は、ビタミンEと共存することで相乗的に効果が高まります。
いちごにはキシリトールが含まれています。キシリトールは天然素材の甘味料で、シラカバやカシを原料に主にフィンランドで生産されています。キシリトールはいちごの他にもラズベリーなどの果物や、レタス、ほうれんそう、カリフラワーなどの野菜に含まれています。
キシリトールは唾液の分泌を刺激し、中和を促進させて唾液中のカルシウムがエナメル質と結び付く再石灰化を活発にするため、食後にいちごを食べてから歯磨きをすると、虫歯を防ぐ効果が上がります。
いちごの全国の収穫量は190,600トン(平成18年)です。生育適温は18~23℃で比較的冷涼な気候を好みます。
いちごは、秋から冬の短日・低温で花芽分化します。人工的に夜間に冷蔵庫に入れて育苗する夜冷育苗などで花芽分化を促進させ、その後ハウス栽培により11月から収穫する栽培法もあります。
いちごの生産は、昭和40年代の高度経済成長期にハウス栽培の普及や品種改良により大幅に増加しました。かつては4~5月中心の出荷でしたが、品種改良と栽培技術の進歩で11~5月中心の出荷に変化しています。
いちごの豊富なビタミンCを生かすにはそのまま食べるのが一番です。
洗う前にヘタをとってしまうとビタミンCが減少しやすく、味も水っぽくなってしまうので、ヘタをつけたまま、流水で手早く洗いましょう。
砂糖やレモン汁と煮詰めてジャムにして保存したり、いちごを裏ごしして酢・サラダ油・レモン汁・塩・こしょうをまぜ合わせドレッシングにしたりと、ひと手間加えて食卓に添えれば、また違った楽しみ方ができます。