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話題 野菜情報 2022年10月号

最近の焼きいもの動向

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一般財団法人 いも類振興会 理事長 矢野 哲男

1 はじめに

 焼きいもは、さつまいも(かんしょ)の生いもを丸ごと焼くという、極めてシンプルな食品である。幼少の頃、風呂を薪で沸かした後のおき火の中に生のさつまいもを埋め、灰の中から具合よく焼き上がったものを掘り出して食べたのが懐かしい。おそらく、日本人のソウルフードといっても過言ではないであろう。

2 国内での焼きいもの歴史

 さつまいもは約400年前にわが国に伝来したとされるが、いつの時点から焼きいもが誕生したかは定かではない。地域によって、人と焼きいもとの接点はさまざまであったと思われるが、文献として確認できるのは、1719年(享保4年)の朝鮮通信使の記録で、京都郊外の道端で焼きいもを売っている情景が記述されている。
 その後、江戸時代には商品として庶民に広く親しまれるようになり、300年の時を経て、現在ではスーパーやコンビニエンスストアの店頭で誰もが気軽に買えるようになった。現在にいたるまで4回ほどあった「焼きいもブーム」については、東京を中心に以下のように整理している。

【第1次ブーム】 江戸時代後期の文化文政期(1800年頃)から江戸末期まで
 ・木戸番屋(町ごとに警備のために設けられた詰め所)で、甘くておいしく、値段が安い焼きいもが売られ、人気を博した。
 ・原料のさつまいもは、新河岸(しんがし)(がわ)で結ばれる川越と、海路がある幕張から大量に送られてきた。
 ・土のかまどに焙烙(ほうろく)(素焼きの平たい土鍋)を載せていもを丸ごと、あるいははす切りにして並べ、蒸し焼きにした。

【第2次ブーム】 明治維新(1868年)から関東大震災(1923年)まで
 ・東京の人口が急増し、低所得者も多かったため、安価な焼きいもが大人気となった。
 ・大きなかまどを幾つも並べた大型専門店が続々現れ、最盛期には2000軒を数えた。
 ・関東大震災を境に食習慣がパンや洋菓子に移り、かまど焼きの焼きいもは衰退した。

【第3次ブーム】 太平洋戦争後の食糧事情がやや緩和して、さつまいもの統制が解除された頃(1950年)から大阪万博(1970年)まで
 ・墨田区向島の三野輪(みのわ)万蔵(まんぞう)氏が「石焼きいも」を考案、リヤカーで「引き売り」を開始。
 ・これが東京中に広まり、冬場の出稼ぎに来た売り子は1000人以上に達した模様。
 ・しかし、大阪万博を機にファストフードやコンビニエンスストアに押されて、売れなくなった。

【第4次ブーム】 2000年初頭から現在まで
 ・甘くてねっとり系の「安納芋」の焼きいもが若い女性を中心にスイーツ感覚で注目され、2007年に公表された食味の良い品種「べにはるか」の登場でブームに一気に火が付いたとされる。
 ・この背景には、電気式焼きいも機が開発されてスーパーやコンビニエンスストアなどに設置され、ねっとり系の焼きいもが気軽に購入出来るようになったことが大きな要因としてある(写真1)。
 ・寒い時期のみならず夏でも人気の「冷やし焼きいも」が定着するなど、季節を問わず一年を通じて国民生活に浸透している。

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 ・寒い時期のみならず夏でも人気の「冷やし焼きいも」が定着するなど、季節を問わず一年を通じて国民生活に浸透している。

 

3 焼きいもの栄養と機能性

 焼きいもは、健康に良いというイメージが定着しているが、それは栄養学的には以下のように説明できる。第1は栄養機能である。主な成分はでん粉とでん粉が一部糖化した麦芽糖で、たんぱく質や脂質は少なく、生命の維持に欠かせないエネルギー源となる。第2の機能はおいしさ。麦芽糖がショ糖などと混ざって穏やかな甘さになり、「ほくほく」や「ねっとり」した食感と香ばしい香りがおいしさをさらに引き立てている。そして第3に食物繊維やフィトケミカル(植物中の化学成分で植物の色や香り、アクなどの成分を形成している)による生体調節機能である。
 食物繊維は、白米めしの約12倍、玄米めしの2.5倍も含まれており、腸内の働きを刺激して、腸内に発生した有害物質の排出を促す作用がある。また、フィトケミカルとしては、ミネラル(カリウムなど)、ビタミン(C、B1、B2など)、クロロゲン酸、アントシアニン、カロテノイド、特殊成分の白い乳液「ヤラピン」などが体の生理的機能を活性化させることが知られている。
 このように3つの機能を持つ焼きいもは、食生活指針で策定された食事バランスガイドの沖縄版では主食に数えられている。日常生活では、100~200グラムの焼きいもに主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物と組み合わせて摂取することが理想とされるが、実際にダイエットを目的に毎朝150グラムの焼きいもを食べ続けている美容家もいる。また、アスリートが試合前に炭水化物をたくさん取ってグリコーゲンとして筋肉に蓄える、いわゆるカーボローディングの素材としても適しており、携行性と腹持ちの良さが評価されているという。

4 海外でのニーズと輸出動向

 日本での第4次焼きいもブームの頃までは、海外で焼きいもが食習慣として定着していたのは中国、韓国、台湾、ベトナムであったとされる。その後、粘質で高い糖度を持つ「べにはるか」をはじめ、多様な品種がアジアを中心とした海外でも人気となり、消費者のヘルシー志向と合致して、ここ数年は日本から焼きいも用を含むさつまいもの輸出が急増している(図)。



 輸出業者によれば、海外での焼きいも人気の要因は3つあり、まずは美味であることで、日本産は甘くてとろっとしており、その味への厚い支持があるという。次に、店頭で焼くことにより、甘い香りと焼き上がったタイミングでしか買えないことが人気を呼んでいるとのことである。さらに3つ目は、東南アジアにおける食べ歩き文化と相性が良いことで、片手に持って歩きながら、そのまま食べられるのが好まれているそうである。
 特に焼きいもブームにより旺盛な需要が見られるタイについて、2つの調査結果を紹介する。

●アジア6カ国・地域及び米国における農林水産物・食品8品目についての流通実態及び消費者調査(2022年7月 日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO))
 ・日本産さつまいもの消費者の95%は、高所得で訪日経験のあるタイ人(一部の業界関係者へのヒアリングによる)。
 ・生いもは茨城と鹿児島から「べにはるか」「シルクスイート」などが輸入され、小売業者からは、ベトナム産とは異なる独特の甘味と滑らかで「ふわっとした」食感が高く評価されている。
 ・タイの消費者の7割が月1回以上焼きいもを食べている。また、日本産の特長を示した上での購入意向は「非常に買いたい」「やや買いたい」が合わせて8割と高かった。
 ・購入意向が高い理由としては、「おいしそう」が6割と最も高く、「食感がねっとりとしていそう」「品質が高そう」「甘味がしっかりしていそう」が続く。

●バンコク居住タイ人の日本産焼きいもに対する嗜好性調査(2020年2月 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という))
 ・焼きいもを食べた経験がある人は約7割、ほとんどの人が焼きいもが好きと回答。
 ・焼きいもを食べる頻度は週1回以上が約半数、月2~3回が約4割で、シンガポールよりも頻度が圧倒的に多い。
 ・焼きいも購入した経験がある人は約9割で、購入時に最も重視する項目は肉色(35%)や香り(30%)。
 ・この調査では、糖度が最も高かった「べにはるか」が最も甘いと評価される一方で、「全体評価」は「ふくむらさき」が最も高かった。
 

5 おわりに

 2011年秋に埼玉県坂戸市の女子栄養大学で「第1回国際焼き芋交流フォーラム」が日本いも類研究会の主催で開催され、その成果として2014年10月には「焼きいも事典」、2015年1月には単行本「焼きいもが、好き!」が焼きいもに関する知識の普及啓発を目的に出版された。上記のフォーラムに際しては、「YAKIIMO を世界の共通語に!」が関係メンバーの合言葉であったが、この10年の間にそれが現実になりつつある。
 現在、焼きいもの世界では、甘くてねっとり系の「べにはるか」が圧倒的なシェアを占め、冷凍焼きいもとして夏場にも売られているが、同じく粘質の「安納芋」やしっとり系の「シルクスイート」も人気が高い。このほか、小ぶりで肉色が鮮やかな黄肉の「ひめあやか(写真2)」、肉色がオレンジの「ハロウィンスウィート(写真3)」、食味の良い紫いもである「ふくむらさき(写真4)」など、実にさまざまな焼きいも向きの品種が揃ってきたのに加え、2021年には、8月の収穫直後からねっとりと甘く、鮮やかな黄色でおいしい焼きいもを作ることができる「あまはづき」という新品種が公表されている(写真5)。また、焼きいもショップが全国各地で展開され、焼きいもにバターやアイスをトッピングするなど、ひと手間かけたスイーツとして提供されるようになっている。
 一方で、このような多様で豊かな焼きいもを支えるさつまいもの生産現場では、南九州でサツマイモ基腐病による被害が多発しており、北海道まで発生が確認されている。現在、研究成果を結集した防除マニュアルを現地適用するなど対策を徹底しているところであり、関係機関の連携により、今後も国内外への安定供給が確保されることを期待している。










【参考文献】
季刊誌「いも類振興情報」(http://ebook-viewer.com/imoshin/
野菜情報2015年11月号「焼きいもブームの歴史とその背景」(https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/1511_wadai.html


矢野 哲男(やの てつお)
【略歴】
愛媛県出身。京都大学農学部卒。1979年農林水産省入省。1997年農蚕園芸局畑策振興課で課長補佐(いも類班)を担当した際に日本いも類研究会を立ち上げ、ホームページ https://www.jrt.gr.jpに『さつまいもMiNi白書』などを掲載。大臣官房評価改善課情報室長を経て2015年退職。2021年から一般財団法人いも類振興会理事長。