福島県 農林水産部 農産物流通課
福島県は、東北地方の南に位置し東西約160キロメートル、南北約130キロメートル、都道府県で3番目に広い県土を有し、「浜通り」「中通り」「会津」の3地方ごとに異なる気候風土を生かして、一年を通じてさまざまな農産物が生産されている。本県の農業産出額の推移は、図1の通りで、東日本大震災前の平成22年の実績が2330億円で、震災直後の23年に1851億円まで大きく落ち込んだが、生産者など関係者の努力により29年には2071億円まで回復してきている。しかしながら、震災から8年4カ月を経過した今でも風評などの影響が根強く残り、米や牛肉、果物など本県の主要な農産物の取引価格は震災前の水準に戻ってはいない。
このような状況において、県産農産物の安全・安心に対する信頼を取り戻し、取引価格と販路の回復・拡大により風評の払拭を図るため、本県では、モニタリング検査をはじめとする安全確保対策の徹底を図ることに加え、平成29年度より、より良い農業の証であるGAPの日本一を目指して産地一丸となって取り組むこととした。
ここでは、本県を代表する夏秋期の野菜を例にその取り組みの概要を紹介する。
福島県と福島県農業協同組合中央会(以下「JA福島中央会」という)は、平成29年5月に「ふくしま。GAPチャレンジ宣言」(図2)を行い、GAP日本一を目指し認証取得に関係者一丸となって取り組むこととした。この取り組みを通じ、東日本大震災による原子力発電所事故で失われた福島県産農産物に対する信頼の回復、また、認証取得のプロセスを通じて生産者の誇りを取り戻すこと、さらに、令和2年(2020年)に開催される東京オリンピック・パラリンピック大会への本県産食材の供給を通じて、その魅力と復興を世界に発信するとともに、それを契機とした新たな販路開拓につなげていくことを目標としている。
認証GAPの取得推進にあたっては、県域および県内7地方に関係機関・団体からなるGAP推進協議会(以下「協議会」という)を設置するとともに、推進対象とする農業者などを明確にした上で、取得拡大に向けた取り組みを関係者が一体となって進めることとした。協議会は、県の出先機関が事務局となり、農業団体、流通事業者および市町村などと連携し効果的な推進が図られる体制を構築した上で、GAP指導員や内部監査員として県の普及指導員、JAの営農指導員、教員など延べ1360名(平成31年2月末現在)を新たに育成したほか、平成30年度より、GAPに取り組む先進的な法人の社員をGAP推進員として県庁に配置し、指導ノウハウの蓄積に努めている。また、福島県独自の認証制度である「ふくしま県GAP(FGAP)制度」(図3)により、実践農家の拡大を図っている。FGAPは、他の第三者認証GAPと取り組むべき基本項目は同じとし、新たに放射性物質対策を詳細に規定しているのが特徴である。さらに、補助事業で、認証取得にかかる経費(審査費用、残留農薬や水質などの分析費、民間コンサルタント活用経費など)の負担を軽減するなどの支援を行っている。
本県における認証GAPの取得状況は表1の通りで、取組開始前の平成28年度末時点で10件であった認証GAPの取得件数は、31年3月末時点で151件まで拡大(目標は令和2年度末までに361件)している。また、農業者だけではなく、農業高校10校と県農業総合センター農業短期大学校の計11校で認証を取得し、次世代を担う若者など農業後継者の育成も進められている。
認証を取得した農産物は、31年3月末現在で、米、野菜、果樹、きのこなど計59品目となっている(表2)。認証を取得した生産者からは、「販売単価の向上までは至っていないが、従業員の意識が変わり責任感が増した」「資材などの無駄が省かれ経営改善につながった」などの感想が寄せられており、経営の改善や意識改革にも寄与している。さらに、認証を取得した生産者情報の見える化と消費者などへのGAPの認知度向上を図るため、逐次専用ホームページ(「ふくしま。GAPチャレンジ」ホームページ https://gap-fukushima.jp/)で情報公開しており、本県の取り組みが認知されることにより、量販店などからの問合せも徐々に増加している。
これらの取り組みが評価され、福島県とJA福島中央会は、30年10月3日に(一財)日本GAP協会の「GAP普及大賞2018」特別賞を受賞した。
4 主要野菜産地におけるGAPの取り組みなどの推進状況
本県の野菜の農業産出額は米、畜産に次いで3番目で458億円(平成29年)となっている。また、生産量が全国上位の主要な農林水産物11品目を「ふくしまイレブン」とし重点的な生産振興・販売対策を講じており、野菜では、きゅうり、トマト、アスパラガスの3品目が指定されている。その他夏秋期の主要野菜としては、これら品目にさやいんげんやピーマンが加わる。
中でも夏秋きゅうりの生産量は全国1位を誇り、7~8月の東京都中央卸売市場における取引数量の約4割(表3)を占めており、福島県産がなければ夏秋期のきゅうりの流通が成り立たないとまで期待される一大産地となっている。
主要産地であるふくしま未来農業協同組合(以下「JAふくしま未来」という)および夢みなみ農業協同組合(以下「JA夢みなみ」という)では、ハウス栽培などの施設栽培が48%と増加するとともに、露地栽培においても自動かん水装置の導入により品質の安定化が図られ、共同選果施設により市場ニーズへの対応と選別調製の効率化が図られている(図4)。
また、トマトについては、県内各地で栽培が盛んであるが、会津よつば農業協同組合管内の南会津地域で生産される「南郷トマト」は、平成30年8月に地理的表示(GI)保護制度の認証を受け(注)、主に京浜市場に出荷されている。
こうした本県を代表する野菜産地においてもGAPの取り組みは拡大しており、JAふくしま未来とJA夢みなみの生産団体においてきゅうりでJGAPの団体認証を取得したほか、JA夢みなみおよび福島さくら農業協同組合においても同様にトマトでJGAPの団体認証を取得するなど、各産地における関心の高まりとともに、他の主要品目の産地でも認証取得の動きが活発になっており、特に夏場の時期の取得が多くなっている(図5)。
注:野菜情報2018年12月号『地域の財産「南郷トマト」が地理的表示(GI)登録』https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/1812/chosa01.htmlを参照。
5 おわりに
県内のGAP認証取得件数は、平成29年5月の宣言を契機に、関係者の尽力により着実に伸びているが、需要を満たすだけの生産量がまだまだ足りないことや流通・消費段階におけるGAPの認知度向上が課題となっている。このため、JAなどの生産者団体・組織による取り組みをさらに進めて生産量の拡大を加速するとともに、県内外の量販店など、流通事業者と連携したフェアの開催など(写真1)により、認知度の向上と流通量の拡大を図っていく必要がある。また、こうした取り組みが本県のみならず全国に広がることにより、消費者が日常的に認証品に触れることができる環境づくりが必要であろう。
さらには、30年6月に食品衛生法の一部を改正する法律が公布され、HACCP(ハサップ)の制度化が予定されていることから、食品安全を目的としている生産段階のGAPと加工・流通段階のHACCPの総合的な取り組みにより、安全と信頼のフードチェーンの構築につなげていきたい。
今後とも、福島県の農産物が消費者そして市場に信頼され選ばれるよう、産地づくりを推進するとともに、来年に迫った東京オリンピック・パラリンピック大会へ本県農産物などの供給を図りながら、さらに流通が拡大していくことを目指していきたい。
<問い合わせ先>
福島県農林水産部農産物流通課
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