公益社団法人日本農業法人協会 会長 山田 敏之
農業生産法人の経営確立・発展のために設立された公益社団法人日本農業法人協会(以下「日本農業法人協会」という)は、正会員数が1935に達し、さまざまな活動を行っている。また、自主的研修会として野菜流通研究会を開催し、セミナーや研修会の開催、各種調査・研究を行っている。
日本農業法人協会は、わが国の農業経営の先駆者たる農業生産法人の経営確立・発展のための調査研究、提案・提言、情報提供などの活動を進めることにより、わが国農業・農村の発展と国民生活の向上に寄与することを目的として、平成11年6月28日に設立された。
設立に至る経過は、都道府県農業団体における「農業法人育成支援事業」などを通じて、組織化の機運が盛り上がり、都道府県段階では6年4月、秋田県下で全国初の農業法人組織(秋田県農業法人協会)が設立されたのをきっかけに、全国段階においては、8年8月8日、任意団体「全国農業法人協会」が設立された。この活動の中で、「勉強会だけでなく、社会的に認知された団体として発展すべき」との機運を受け、 社団法人化が検討され、現在に至っている。
農業生産法人は、昭和37年の農地法の改正により、『農業経営を行うために農地を取得できる法人』と明記されたのが、仕組みとしての「農業生産法人制度」の始まりとされている。
しかしながら、当初は絶対数が少ないこともあり、農業法人が農業政策の前面に出ることはあまりない時代が続いた。その後、平成に入り「新しい食料・農業・農村政策の基本方向」(新政策/平成4年)が制定され、「経営形態の選択肢の拡大の一環として、農業経営の法人化を推進する」とし、農業政策に初めて、法人化の推進が打ち出された。この新政策を踏まえ、平成5年、農業法人の事業の要件に製造加工などが加えられるとともに、構成員の一部に消費者や企業、農協を加えるなどの要件緩和が図られた。
また、「食料・農業・農村基本法」(新基本法/平成11年)の第22条に、「農業経営の法人化の推進」が明記され、今後の農業政策の基本となる「食料・農業・農村基本計画」(平成12年)でも、「専ら農業を営む者などによる農業経営の展開」として、「農業経営の法人化の推進」が盛り込まれ、農業政策の柱の1つとして位置付けられた。「農業構造改革推進のための経営政策」(経営政策大綱/平成13年)においても、育成すべき農業経営の明確化、施策の集中、農業経営の法人化の推進などを明確化した。
直近では、「日本再興戦略」(平成25年)において、「今後10年間で法人経営体数を2010年比約4倍の5万法人とする」ことが政策目標として決定され、「食料・農業・農村基本計画」(平成27年)において、「力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保」として、「農業経営の法人化などの加速化」が明記された。なお、「農業協同組合法などの一部を改正するなどの法律」(平成28年4月施行)の中で、農業生産法人の要件がさらに緩和されている。
平成29年10月12日現在の会員数は、表1の通りで全体では、2093となっている。そのうち正会員は、1935で、正会員のうち、野菜を主として生産している者は2割強、平均栽培面積は22ヘクタール、平均販売金額は2億5000万円となっている。
事業内容は、表2の通りであるが、具体的には以下のような活動を行っている。
正会員の経営実態や経営課題などについて調査・分析し「農業法人白書」を毎年発行、農業経営・税務・労務・雇用改善など情報紙「アグリビジネス経営塾」を毎週それぞれ発行している。
調査研究を踏まえた提案・提言として「農業の成長産業化と地方創生に向けたプロ農業経営者からの提言」を6月の総会にて発表している。
従業員などを対象とした団体割引保険料を適用した傷害保険制度の紹介を行っている。また、正会員の雇用支援として、東京をはじめ全国主要都市を中心に年間8回程度の合同会社説明会を実施している。
さらに、正会員での農業体験・就業体験を希望する学生、社会人、採用内定者を対象に農業インターンシップ事業を実施している。外国人技能実習生に係る取り組みとしては、実習生の受け入れに必要な研修事業と実習生を受け入れた会員企業への監査指導を実施している。
毎年日比谷公園で、日本農業法人協会のイベントでは最大規模の「ファーマーズ&キッズフェスタ」を開催。日本全国のプロ農業者が集い「子どもと農業をつなぐ懸け橋」として都会の子どもたちに元気なニッポン農業を発信している。29年は、「第8回ファーマーズ&キッズフェスタ」を11月11日(土)、12日(日)に開催する予定である。
さまざまな農業を営む会員向けに「畜産経営研究会」「酪農研究会」「土地利用型WG」「やまと凛々アグリネット」「気象情報システム利用経営研究会」「先端技術研究会」そして、「野菜流通研究会」など、自主的研究会を展開している。
野菜流通研究会は、野菜生産の振興と流通および経営の改善を図ることを目的に、平成26年8月22日に発足した自主的研究会である。
正会員20、賛助会員5の25会員により構成(代表は㈱石動農産 秋吉義孝氏佐賀県農業法人協会会長)され、当協会の会長である私もメンバーの1人である。正会員は、秋田県から鹿児島県まで広範にわたっており、指定野菜を中心に、ベビーリーフや有機野菜まで幅広く栽培している。栽培だけではなく、集荷・販売や加工まで手掛けている法人会員も多数在籍している。
(ア)情報懇談会やセミナー・研修会などを活用して、会員間のマッチング活動を推進し、野菜の安定供給や農業経営の安定化に役立てる。
(イ)会員間の情報連絡網を整備し、組織活動の運営に役立てるとともに、迅速かつ的確な情報伝達に取り組む。
(ウ)ホームページや当協会が行うセミナー、ブロック交流会などで本組織の活動を紹介し、仲間づくりの輪を広げる(現在、ホームページ作成中)。
(エ)情報懇談会やセミナー・研修会の開催を、年3回程度行う。
これまでに、神奈川・埼玉・京都・秋田・福岡・佐賀・長崎・岡山・香川・群馬・鹿児島・高知(開催順)で実施した。
会員や会員取引先など先進的な取り組みの視察や取引事例などを情報収集することで、野菜の生産技術、取引形態や物流構造などに関する調査・研究を行う。
これまでの現地研修は9回実施しており、新たな作目や流通、加工など会員の新規事業の展開に生かされている。
去る9月7日(木)から8日(金)に「第10回野菜流通研究会inいばらきが開催され、29名が参加した。農林水産省で政務官・事務次官などとの意見交換をはじめ、茨城県内の農業法人3社、関係機関を視察した(写真1~3、表3)。
その後、その時々の時宜にかなった話題を取り上げる情報交換会では、今回は「GAPとGFSI」について講師を招き、知見を深めるとともに、活発な意見交換を行った。
今までの野菜流通研究会は先進地視察や情勢交換を主な活動としてきたが、今後はホームページの作成を機会に、実際の生産・販売現場との連携をさらに強化して参りたい。
山田 敏之(やまだ としゆき)
【略歴】
昭和37年、京都府京都市で生まれる。
大阪学院大学商学部を卒業後、約8年のアパレル企業勤務を経て就農。
平成14年、有限会社竹田の子守歌を設立、のち19年にこと京都株式会社に組織変更を行う。26年にこと日本株式会社、27年にこと京野菜を設立。27年に九州大学大学院修士課程を修了。
現在、こと京都株式会社代表。
日本農業法人協会会長、日本食農連携機構理事、京都府農業経営者会議会長、野菜流通カット協議会監事などを兼務する。
著書に『脱サラ就農、九条ねぎで年商10億円』がある。