野菜流通カット協議会 会長 木村 幸雄
野菜流通カット協議会(以下「本協議会」という)は、加工・業務用野菜を中心とする青果物の生産者との共生を図りつつ、青果物の流通・加工事業関連業界の健全な発展に資することを目的としている。平成27年5月、従来の青果物カット事業協議会と野菜ビジネス協議会の両協議会を統合して、新たに本協議会が設立された。29年5月現在、76(会員:58、準会員:1、賛助会員:17)者の会員により構成されている。
本協議会は、農林水産省の助成を受けて、青果物流通システム高度化事業(全国推進事業)(以下「高度化事業」という)を実施しており、27年度からは、
①国内産地の生産流通体系構築
②青果物の輸送コスト低減
③最先端貯蔵技術の確立・普及
─に向けた取り組みを行っている。
昨年は、夏から秋にかけての天候不順の影響により、主要品目の不作による市場価格の異常相場と加工・業務用野菜の原料不足が継続して起こり、特に産地と実需者をつなぐ中間事業者にとっては、大変な年であったといえる。今後も地球温暖化の影響などにより、異常気象が起こる可能性は高いが、現在本協議会で行っている、③の最先端貯蔵技術の確立・普及に向けた取り組みが、天候不順の不作時の野菜の安定供給の方策の一つと考えられるので、本稿では野菜の長期貯蔵を中心に紹介する。
以前は、市場流通と市場外流通の区分で表現されていた青果物流通だが、近年の加工・業務用野菜の需要増を受けて、市場外流通区分は、加工・業務用野菜の名称とされている現状がある。
加工・業務用野菜の需要者は、漬物業者、食品メーカー、カット業者、総菜業者などが挙げられるが、外食、居酒屋など注文に応じて納品する者も範囲としている。
市場流通いわゆる家計消費用への出荷では、既存のJAを中心とした大規模産地が出荷規格に沿って作況に合わせつつ、相場を重視して需給バランスを保ちながら継続出荷を行う流通が一般的である。
一方、加工・業務用では、産地は、受注予定数量に応じた計画生産を基本としているため
①契約取引を基本とする
②契約内容に出荷規格・出荷形態・数量・価格・品種などを盛り込む
③契約期間中の生育状況に合わせた産地出荷量と受注数量の調整を行う
④輸送体制および輸送費用負担を確認する
─など、家計消費用とは違う取り組みとなっている。
異常気象が発生すると、通常の産地リレーができなくなり、毎年いずれかの期間または地域で生育不良による減収が発生している。
家計消費用であれば、量販店を中心に販売戦術による売り場対応である程度の対応ができ、消費者への負担増には直結しない現状がある。しかし、定時・定量・定品質が求められる加工・業務用では、主要品目のキャベツ、レタス、だいこんなどでの減収が発生すると補完産地、後続のリレー産地を含めて影響が発生し、需要者への対応が厳しい状況になり、市場からの買い付けをせざるを得ない状況となり、異常高値相場の発生要因となっている現状がある。
加工・業務用では、カット業者、加工業者などの最終需要者が産地と直接契約をしている例は少ない。理由としては、毎日の数量調整機能、納品時点での品質確認、円滑な産地リレーなどが必要になるが、特に品質トラブル発生時での代替え納品などで、産地対応が難しい局面があるためで、産地と実需者をつなぐ中間事業者がその役割を担っていることが多い。
全部がそうとは言えないが、多くの中間事業者などが行っている販売先への条件として、数量に関しては週別または日別での発注数量確定であり、納品数量はキログラムでの重量納品が通例であり、価格もキログラム単価をシーズンごとに取り決めることが多いと推測される。
そのため、天候不順の生育不良による歩留まり低下は、重量不足を招き、契約数量の集荷が出来なくなることで、中間事業者などによる市場からの買い付けによる集荷が発生してしまう。
現在、量販店のカット野菜、および業務用カット野菜の販売価格はほとんどが年間での変動なく同一水準となっているため、減収時に発生する歩留まり低下から原料使用数量増、市場からの買い付けなどに伴う仕入れ増の費用は、肩代わりする中間事業者などの負担増に直結している。
このような状況が毎回のように発生してしまう現状を含めて何をすべきかと模索する中で出てきたのが、長期貯蔵への取り組みである。
野菜の長期貯蔵へのもともとの発想は、キャベツの4月~5月の全国的な端境期への対応である。加工・業務用で使用されるキャベツは、この時期に多い春系ではなく、冬系(寒玉)であることから、どうしても端境期が発生してしまう。そのため、栽培可能な品種の開発と栽培試験をメインに対応を行ってきたところ、一昨年ごろから、適応品種が少し出始めているものの、主力産地では、従来からの通常での冷蔵貯蔵による貯蔵出荷を行ってきた。しかし、歩留まりが悪く、品質低下の発生、貯蔵臭も残ってしまうなど、多くの課題があったことから、新しい貯蔵技術を探す必要性に迫られていた。
また、台風や集中豪雨、長雨で一番早く影響の出るレタスも貯蔵の必要性を求める声はあったが、できないという先入観から、ほとんどトライアルが実施されていない現状が続いていた。
そうした状況の中、本協議会では、前述したように高度化事業の中で最先端貯蔵技術の確立・普及の取り組みを行っている。平成27年度は、貯蔵技術検討委員会を立ち上げ、千葉大学教授の椎名氏を同委員会の委員長とし、関係会社の協力を頂きながら、農林水産省をはじめとする各委員からの課題抽出を行い、現状できる技術からの貯蔵試験を行った。品目としては、キャベツ、レタス、ねぎ、きゅうり、トマト、にんじん、レモン、すだちなどを選定し、加湿区と対照区(無加湿)などでの比較検証、7月~8月のレタスの貯蔵実験などを行うことにより、多くのデータを得ることができ、貯蔵施設の必要要件、期間、品目選定などにより、貯蔵による安定出荷実現への道筋を見い出すこととなった。
貯蔵実験の結果だが、品目により条件整理が違うので、主要品目のキャベツを例とすると、貯蔵可能期間は時期にもよるが、1カ月が可能なのは確認できた。冬季品種であれば2カ月の貯蔵も可能と思えるが、今後の実現化に向けて
①中間事業者と最終実需者が、貯蔵による循環(入れ替え)方式による安定供給への相互理解と認識を共有して運用することが不可欠
②貯蔵場所(ストックポイント)については、立地は消費地エリアが最適であり、適正設備環境を有しており、相応の受け入れ数量が可能である規模が必要
③運用は、数量の設定において取引数量の確約が無ければ貯蔵数量全体からの運用ができないため、メンバー(中間事業者・契約産地)制での運用が不可欠
④契約産地は、最善の出荷数量について貯蔵施設の管理会社と相談しながら、生育状況と輸送効率から検討していく
⑤品目を拡大していく状況下になった時には、品目別貯蔵環境設備が不可欠
⑥契約産地・管理会社・メンバー会社間での強固な信頼関係の構築
─などの条件整備が必要と考える。
加工・業務用野菜を安定的に供給するためには、端境期への対応としてではなく、産地からの輸送効率をより上げるための物流改革として、大消費地エリアに鮮度保持機能設備を確保したストックポイントを整備することが重要である。また、そのストックポイントの運用は、管理会社が担い、入れ替え式貯蔵を共通認識としたメンバー制で運用することで年間を通じて集出荷業務を継続することが重要と考える。
また、次号(平成29年7月号)では、今回の長期貯蔵実験の一端を担った株式会社前川製作所より実験結果の詳細を報告することとしているので、参考としていただければ幸いである。
木村 幸雄(きむら ゆきお)
【略歴】
昭和51年 東京農業大学農学部卒業
量販店の青果物バイヤー、総合商社を経て、平成24年~ 株式会社彩喜取締役社長。
25年~ 野菜ビジネス協議会会長、27年~ 現職。