同社社員食堂では、1988年の設立当初から地元の徳島県産の食材を意識的に使用していた。だが、本格的に社員食堂で地産地消を推進するのは、2015年以降のことである。同社が社員食堂で地産地消を推進する背景として、まず地域社会への貢献が挙げられる。地方都市に立地する企業として、社員食堂の運営において、地元産の食材を使用することで、地域の農林水産業や食品製造業に貢献しようという目的がある。さらに、社員食堂を直営方式とすることにより、徳島県産食材を求めて、社員食堂の管理栄養士・前田翼氏(以下「前田氏」という)は、県内各地を訪れ、産地の生産者から食材の特性など具体的に話を聴きながら、さまざまな調達ルートを見出してきた。このように、食材調達の段階から細やかな対応ができ、メニューを作成できるのも、直営方式のメリットと言える。
具体的にどのように地産地消が取り組まれているのか、調理・提供段階のいくつかの場面に分けて説明する。
(1)定食メニューでの地産地消
前田氏と調理スタッフが県産食材を活用したさまざまなメニューを開発しており、主菜だけでなく副菜にも県内産食材を使ったものは多い。主菜の一例として「鶏むね肉のすだち風味焼き」がある(写真3)。このメニューに使用されている「阿波すだち鶏」は、一般社団法人日本食鳥協会に銘柄鶏として認められている徳島県産の鶏肉である。これに徳島県の特産品であるすだちを原料とする酢や、すだちを加えた塩で調味している。
こうした県内産食材を使用したメニューは、食堂のサイネージディスプレイ(電子掲示板)を用いて産地や生産者情報、該当する場合は有機・無農薬栽培であることを利用者にアピールしている。さらに、徳島県産食材、また、それを利用したメニューの栄養価や健康に対する効果・機能性については、一部検証も行い、エビデンスを食堂でも展示している(写真4)。
(2)サラダバーでの地元野菜提供
社員食堂では毎日10種類の野菜類をサラダバーで提供しているが、その多くは徳島県産である。きゅうり、トマト、かんしょ、れんこんはほぼ周年で県内産を提供している。他の野菜類も、旬の時期には原則として県内産を提供している。
(3)調味料の工夫
サラダバーのドレッシングをはじめ、各種調味料も自家製のものが多く、その原材料は徳島県産食材を工夫しながら取り入れている。例えば、地元で収穫を終えた後に樹上に残ったキンカンや、収穫後に
圃場に残ったブロッコリーの葉や茎をペーストにして真空パックにし、このペーストでドレッシングを作っている。その他、味付け塩やしょうゆなども地元企業のものを利用している。また、塩麹やしょうゆ麹は社員食堂自家製である。
(4)ラウンジコーナーのメニューでの工夫
ラウンジコーナーでも地産地消を意識し、地元産の青果物を原料にしたスムージー(写真4)や、原料の一部に徳島県産の穀類が使用されているケーキなどのデザートが提供されている。
(5)その他
社員食堂でのメニュー提供を通じて、徳島県産の食材を意識的に発掘し、再評価する取り組みも行われている。例えば、徳島県
上勝町を中心とする山間部で生産されている
柑橘類の「
柚香」は、自然交配で生まれたユズの変種で、すだちと同様、徳島県が主産地となっている。強い香りとまろやかな味わいで、ポン酢などの調味料の原料として利用されているが、近年は生産量が減少し、徳島県内でも幻の果実と言われている。この柚香の価値を社員に知ってもらうために、ポン酢やサラダ、すしの味付け、ラウンジコーナーでのソーダに使用するとともに、実物も食堂に展示してその魅力をアピールしている。
社員食堂で提供されている緑茶も、徳島県産の茶葉を使用している。使用後の茶葉の一部も回収し、ふりかけを作ってご飯とともに提供し、茶葉の栄養成分を無駄なく摂取できるよう心がけている。
このように、通常の定食メニューだけでなく、スムージーや調味料など、さまざまな場面で地元の食材を利用し、さらに食材を余すことなくフルに活用している点が同社の社員食堂のユニークな特徴と言えるだろう。
近年では、前田氏は社員食堂における従業員の健康や地域貢献を意識した取り組みを対外的に発信している。また、同氏は、栄養学関係の学会・研究会で食堂での取り組みを定期的に報告し、大塚グループの環境報告書に紹介されたこともある。こうした食堂の一連の取り組みが評価され、2020(令和2)年度には、地産地消等優良活動表彰として中国四国農政局長賞を受賞している。