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調査・報告 野菜情報 2025年6月号

社員食堂における地産地消の推進~株式会社大塚製薬工場の取り組み~

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国立大学法人千葉大学大学院 園芸学研究院 教授 櫻井 清一

【要約】

 徳島県鳴門市にある株式会社大塚製薬工場の社員食堂は、10年にわたり地産地消を推進している。食材の調達では、担当者自ら産地に足を運び、圃場の様子を確認した上で生産者から直接調達を行っている。食堂では定食類に加え、サラダバーやラウンジコーナーでの飲料・デザートなど、地元食材を使用した多様なメニューを社員に提供している。食堂は同社が直接運営しており、担当者の主体的かつ臨機応変な取り組みにより地産地消が推進されている。

1 はじめに

 食の外部化が進む現在、一般的な飲食店だけでなく、働く場や学ぶ場にある施設、すなわち「施設型給食」も私たちの食事の場として重要な役割を果たしている。昨年の本誌で筆者は、施設型給食の一例として病院給食を取り上げ、病院食における地産地消について紹介した(野菜情報2024年10月号
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2410_chosa1.html)。
 今回は、施設型給食では最も市場規模の大きい「社員食堂」を取り上げる。一定規模の事業所では社員食堂を設けており、相当数の従業員が主に昼食の場として利用している。その市場規模はかなり大きく、近年は社員の福利厚生の一環として社員食堂の充実を図る企業も多い。中には事業所が立地する地域社会への貢献も考慮して食材を地元から調達し、地産地消を推し進めるケースも見られるようになった。一方で、従業員の経済的負担を考慮すれば高額な価格設定が難しいことや、事業所の規模により社員食堂の規模が限られるため、地産地消を進めるには、その事業所の規模に見合った地元食材の供給者を安定的に確保する必要があるなど、制約も存在する。
 そこで今回の調査では、10年間にわたり社員食堂の運営に地産地消の概念を取り入れ、野菜類をはじめとする地元産食材を導入したメニューを展開している株式会社大塚製薬工場の社員食堂が、どのような点を工夫しながら地産地消を実践しているか、その取り組みを報告する。加えて、同社食堂に野菜を納入している生産者を紹介する。

2 社員食堂給食の市場規模

 社員食堂は、広い意味での外食産業に該当する。一般社団法人日本フードサービス協会が公表する外食産業の市場規模推計値を基に、2000年(平成12年)以降の事業所給食と社員食堂の市場規模に関する数値を再整理したのが図である。
 一般的に、外食産業は、食事の提供を主とする給食主体部門と、飲み物の提供を主とする料飲主体部門(例:喫茶店、居酒屋、バーなど)に二分される。さらに給食主体部門は、飲食店や宿泊施設などでの不特定多数の顧客を対象とする「営業給食」と、学校、企業、病院など施設に所属する人々に対し食事を提供する「集団給食」に分けられる。社員食堂は、後者の集団給食に該当する。図の折れ線グラフは、社員食堂給食の年間売上額(実額)の変遷を示している。全体的に微減傾向にあり、特に新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた20年には売上げの減少が目立つが、それでも最新の23年ではある程度回復し、1兆1000億円に達している。図の棒グラフは、集団給食を構成する各部門の外食産業売上総額に対するシェア(構成比)を積み上げたものである。集団給食全体の外食産業におけるシェアは、おおむね14%程度で安定して推移している。そのうち社員食堂のシェアは、いずれの年も外食産業全体の5%前後である。コロナ禍の影響による増減が大きい営業給食の各部門と比べると、安定した構成比で推移しており、外食産業を構成する一部門として重要な役割を果たしていることがわかる。また、集団給食の中でも注目度の高い学校給食や、昨年の本誌で取り上げた病院給食に比べてもシェアは大きく、集団給食の中では最大の事業規模を維持している。換言すれば、社員食堂は日本の働く人々の胃袋を支えている重要な場となっている。
 
タイトル: p037

3 大塚製薬工場と社員食堂について

 株式会社大塚製薬工場(以下「同社」という)は、大塚ホールディングス株式会社の主要事業会社である。同社は、創業地である徳島県鳴門市に本社を有し、1921年に化学原料を製造する大塚製薬工業部として創立した。戦後、各種輸液・注射液の製造を皮切りに医薬品分野に参入し、以降、医薬品や医療機器、さらには医療の場で役立つ食品を製造販売する企業として発展を遂げている。
 同社の社員食堂は、鳴門市の本社および工場エリア内に設けられている。席数は330席と大変広く、開放的な空間である(写真1)。鳴門市の本社エリアでは現在およそ1000人の従業員が働いているが、そのうち500~600人が昼食時に社員食堂を利用している。
 毎日提供するメニューは、定食形式がメインで、常時3種類用意しており、これらに加えてカレーや麺類も提供している。ほかにサラダバーも提供しており(写真2)、毎日10種類程度の野菜類から自由に選ぶことができる。さらに、食堂の一角にラウンジコーナーが設けられており、スムージーやデザート類を食べながら社員同士がコミュニケーションを図る場となっている。このコーナーで提供するメニューにも、野菜類をはじめとする新鮮な地場の食材や、栄養価や機能性で注目される食材が用いられ、従業員の健康に配慮した取り組みがなされている。
 食堂の運営は、調理担当13人、管理栄養士1人、栄養士1人の計15人で、スタッフ全員で一体となって切り盛りしている。
 同社が社員食堂を設けたのは1988年であるが、当初から食堂の運営を外部に業務委託せず、同社が雇用したスタッフによる直営方式を堅持している。これは、近年の社員食堂ではあまり見られないユニークな特徴である。他社の社員食堂の運営は近年、経費の節約や人事採用業務の負担軽減のため、専門業者に委託するケースが多いと聞く。しかし同社では、人々の健康に貢献することを企業理念としていることもあって、製品づくりに関わる社員の健康管理の重要性を常に意識し、昼食を提供する社員食堂も自社のメンバーで責任をもって運営することが重要だという方針を貫き、直営方式を続けている。
 
タイトル: p038

4 社員食堂での地産地消の進め方

 同社社員食堂では、1988年の設立当初から地元の徳島県産の食材を意識的に使用していた。だが、本格的に社員食堂で地産地消を推進するのは、2015年以降のことである。同社が社員食堂で地産地消を推進する背景として、まず地域社会への貢献が挙げられる。地方都市に立地する企業として、社員食堂の運営において、地元産の食材を使用することで、地域の農林水産業や食品製造業に貢献しようという目的がある。さらに、社員食堂を直営方式とすることにより、徳島県産食材を求めて、社員食堂の管理栄養士・前田翼氏(以下「前田氏」という)は、県内各地を訪れ、産地の生産者から食材の特性など具体的に話を聴きながら、さまざまな調達ルートを見出してきた。このように、食材調達の段階から細やかな対応ができ、メニューを作成できるのも、直営方式のメリットと言える。
 具体的にどのように地産地消が取り組まれているのか、調理・提供段階のいくつかの場面に分けて説明する。
 
(1)定食メニューでの地産地消
 前田氏と調理スタッフが県産食材を活用したさまざまなメニューを開発しており、主菜だけでなく副菜にも県内産食材を使ったものは多い。主菜の一例として「鶏むね肉のすだち風味焼き」がある(写真3)。このメニューに使用されている「阿波すだち鶏」は、一般社団法人日本食鳥協会に銘柄鶏として認められている徳島県産の鶏肉である。これに徳島県の特産品であるすだちを原料とする酢や、すだちを加えた塩で調味している。
 こうした県内産食材を使用したメニューは、食堂のサイネージディスプレイ(電子掲示板)を用いて産地や生産者情報、該当する場合は有機・無農薬栽培であることを利用者にアピールしている。さらに、徳島県産食材、また、それを利用したメニューの栄養価や健康に対する効果・機能性については、一部検証も行い、エビデンスを食堂でも展示している(写真4)。
 
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(2)サラダバーでの地元野菜提供
 社員食堂では毎日10種類の野菜類をサラダバーで提供しているが、その多くは徳島県産である。きゅうり、トマト、かんしょ、れんこんはほぼ周年で県内産を提供している。他の野菜類も、旬の時期には原則として県内産を提供している。
 
(3)調味料の工夫
 サラダバーのドレッシングをはじめ、各種調味料も自家製のものが多く、その原材料は徳島県産食材を工夫しながら取り入れている。例えば、地元で収穫を終えた後に樹上に残ったキンカンや、収穫後に圃場(ほじょう)に残ったブロッコリーの葉や茎をペーストにして真空パックにし、このペーストでドレッシングを作っている。その他、味付け塩やしょうゆなども地元企業のものを利用している。また、塩麹やしょうゆ麹は社員食堂自家製である。
 
(4)ラウンジコーナーのメニューでの工夫
 ラウンジコーナーでも地産地消を意識し、地元産の青果物を原料にしたスムージー(写真4)や、原料の一部に徳島県産の穀類が使用されているケーキなどのデザートが提供されている。
 
(5)その他
 社員食堂でのメニュー提供を通じて、徳島県産の食材を意識的に発掘し、再評価する取り組みも行われている。例えば、徳島県上勝町(かみかつちょう)を中心とする山間部で生産されている柑橘(かんきつ)類の「()(こう)」は、自然交配で生まれたユズの変種で、すだちと同様、徳島県が主産地となっている。強い香りとまろやかな味わいで、ポン酢などの調味料の原料として利用されているが、近年は生産量が減少し、徳島県内でも幻の果実と言われている。この柚香の価値を社員に知ってもらうために、ポン酢やサラダ、すしの味付け、ラウンジコーナーでのソーダに使用するとともに、実物も食堂に展示してその魅力をアピールしている。
 社員食堂で提供されている緑茶も、徳島県産の茶葉を使用している。使用後の茶葉の一部も回収し、ふりかけを作ってご飯とともに提供し、茶葉の栄養成分を無駄なく摂取できるよう心がけている。
 このように、通常の定食メニューだけでなく、スムージーや調味料など、さまざまな場面で地元の食材を利用し、さらに食材を余すことなくフルに活用している点が同社の社員食堂のユニークな特徴と言えるだろう。
 近年では、前田氏は社員食堂における従業員の健康や地域貢献を意識した取り組みを対外的に発信している。また、同氏は、栄養学関係の学会・研究会で食堂での取り組みを定期的に報告し、大塚グループの環境報告書に紹介されたこともある。こうした食堂の一連の取り組みが評価され、2020(令和2)年度には、地産地消等優良活動表彰として中国四国農政局長賞を受賞している。

5 地産地消にこだわった食材調達について

 社員食堂で使用する徳島県産の食材各種の調達も、前田氏をはじめとする社員食堂スタッフが直接行っている。前田氏は常日頃から徳島県内の産地を回り、食材に関する情報収集に努めている。社員食堂での取り扱いを検討する場合は、産地の生産者と直接交渉し、社員食堂の方針も説明した上で、納入する量・期間・価格を個別に交渉している。納入量が多い場合は、契約書を交わすこともある。価格の設定はまず年間通じての目安価格を提示した上で、双方で相談しながら最終決定する場合が多い。旬の時期であれば、市況よりも若干安いレベルに設定されることが多いという。
 現在利用している徳島県産食材のうち、米を除くほとんどの食材は個別の生産者から直接調達している。これは食材の特性、特に品質・健康への貢献度を見極めた上で調達したいという意向を、前田氏はじめ食堂スタッフが強く持っているからである。調達する食材には、有機栽培、無農薬栽培など一般的な流通経路では長期で安定的に調達するのが難しい食材や、品質には問題のない規格外品サイズの食材が多く含まれているが、その理由も、欲しいものを生産者に直接伝え、交渉できるからである。
 食材の発注は、利用する2週間前にメールまたはファックスで行う。食堂までの輸送は生産者側の負担であるが、納品する時間や容器・パッケージは特に指定がない。支払いは月決めである。
 調理後に発生する残渣(ざんさ)の処理費用を削減するため、大量に使用する一部の食材は、皮むきやカットといった一次加工を生産者に施してもらった上で納入してもらうこともある。
 天候などの影響により、契約時に想定していた量が大幅に不足することや、逆に超過してしまうこともある。不足時には、メニューを変更することで対応している。超過時も、サラダとして提供できる野菜類であれば、サラダバーで多めに提供することで、ある程度は対応できるという。こうした臨機応変な対応は、食材の契約からメニュー決定までを自身で判断できる直営方式だからこそ可能と言えるだろう。

6 社員食堂に地元の食材を納入する生産者の紹介 ~すずきファームの場合~

 同社社員食堂に徳島県産野菜を納入している生産者を一例紹介しよう。鳴門市に隣接する北島町のすずきファームは、24年より社員食堂にばれいしょを納入している。
 すずきファームの経営主である鈴木陽仁氏(以下「鈴木氏」という)は、祖父が耕作していた農地を継承して23年より農業を始めた20代の新規参入者である。現在は鈴木氏(農業に専業従事)と臨時雇用者4人、外国人技能実習生2人で、借地を含め1.1ヘクタールを耕作している。主な栽培品目はかんしょで、徳島のブランド品種「なると金時」を栽培している。他にばれいしょと花のケイトウに取り組んでいる。現在の主な販路は農協の系統出荷ルートだが、SNS(インターネット交流サイト)を通じた直販も始めている。今後は栽培期間中に農薬と化学肥料を使用しない「なると金時」を栽培するとともに、加工施設を設けて干し芋を製造し、農場近隣に設置する直販施設にて販売する計画もあり、生産・販売双方の多角化を進めている。
 ばれいしょ栽培は、10アールの農地で「インカのめざめ」を無農薬で栽培している。農場全体の売上げに占める割合は5%程度である。販路は他の2品目と異なり、系統出荷は行わず、CSA(Community Supported Agriculture)方式で地域の消費者に直接販売している。CSAは、日本では「地域支援型農業」と直訳して紹介されることもあるが、北米諸国で一定の普及を見せている直販型の流通システムである。消費者が生産者と事前に購入品目と購入量、価格について契約を交わした上で(年間契約が一般的)、生産者が定期的に顧客(消費者)に産品を納入する。消費者が事前に支払いを行うことで生産を支援し、買い支えることを重視する流通システムである。そのため、北米では消費者が自ら農場を訪れて産品を受け取ることや、各種援農活動を付帯条件としているケースも多い。すずきファームでは、徳島県で生産者と消費者の関係強化を目指している一般社団法人とくしまCSA風土(代表:金村真友子氏)と連携してCSAに取り組んでいる。ただし、収穫体験には契約した消費者だけでなく一般の参加者も受け入れるなど、より緩やかなルールのもと運営されている(写真5)。
 すずきファームがばれいしょを初めて同社の社員食堂に納入したのは、24年の夏である。このシーズンは生育がよく、想定量以上の収穫があったため、鈴木氏は新たな売り先を探していた。この時、金村氏が、以前よりとくしまCSA風土が主催するイベントに興味を示していた前田氏を紹介した。その後、前田氏自身がすずきファームの圃場の様子を確認した上で購入を決定し、すずきファームは7月から8月にかけて80キログラムのばれいしょを社員食堂に提供した。その際、ばれいしょの皮は加工施設で取り除き、真空パッケージされたものを納入した。これは前述の通り、社員食堂での調理加工の手間と、発生する皮の処理の負担を減らすためである。幸い、農場のある北島町周辺は全国有数のれんこん産地であり、その皮むきやカットを行う加工業者が存在するため、スムーズに一次加工を手配することができた。価格は社員食堂と農場の交渉により、出荷期間中は定額とされ、加工費を考慮して市況をやや上回るレベルで設定した。また、規格は特に条件を定めなかった。
 結果として、24年に収穫したばれいしょの20~30%を社員食堂に出荷でき、すずきファームとしては生産余剰を無事解消することができた。その後、社員食堂から今後も無農薬のばれいしょを調達したいとの意向を受け、25年も出荷することが内定している。
 
タイトル: p042

7 まとめ

 今回紹介した同社の社員食堂では、従業員の健康への配慮から良質な地元の食材に着目し、10年にわたって調達・調理・情報提供それぞれの場面において地産地消を推進してきた。最後に、同社の社員食堂の取り組みで特に注目されることを再整理しておく。
 まず食材の調達面では、前田氏をはじめとする社員スタッフが産地・生産者の元に足を運ぶなどして、その様子を把握した上で生産者との直接交渉、調達を行っている点が注目される。交渉は多岐にわたり労力も要するが、結果として地域の優れた食材、また、規格外でも個性的な食材を調達できている。さらに、一部の品目では、皮むきなどの一次加工を施した食材を仕入れている点である。一定規模の調理・加工を行う企業・組織が、原材料供給業者に一次加工品の納入を求めることはよくある。一次加工による付加価値の重要性やニーズを、生産者などの納入側は再認識する必要があると言える。
 調理と食事提供の場面では、定食メニューを主として、主菜・副菜それぞれに積極的に徳島県産食材を利用して独自のメニューを考案している。定食以外にも、サラダバーやラウンジコーナーで県産食材を提供している点、さらに、調味料や調理段階で発生する可食な残渣などの有効活用にも配慮している点が注目される。併せて、食材の産地・生産者情報や食材の機能性について、随時食堂で情報提供している点が注目される。
 上記のような主体的かつ臨機応変な地産地消推進を可能にしたのは、社員食堂開設当初から堅持されている直営方式の影響も大きいことを最後に改めて強調しておく。もちろん、委託方式により運営を任された企業が、地産地消を推進できないというわけではない。しかし、直営方式により自社で雇用したスタッフであるからこそ、社員の健康と地域社会への貢献を強く意識した企業の方針に則って、実際の食材調達や調理の場で発生する諸問題に対しても自主的に、かつ即座に意思決定し対応することができると言えるだろう。