不定期の地元食材献立は2013年から提供されていた。しかし、より多様な地元食材を使った料理を、喫食者にも意識して食べてもらうには、供給日を限定してでも定期的にかつ集中して地場産にこだわる献立を提供するのが望ましいのではないかとの考えから、笠岡中央病院では、月1回「地産地消御膳」の日を設けている。この日の昼食には徹底して地元産食材を活用した献立が用意される。また、食材や料理の特徴について、喫食者に詳細な情報提供をし、地元の食材を使った食事の魅力を理解して食べてもらえるよう努めている。
地産地消御膳のあらましは、まず年間計画にて決められる。その後、実際に提供する2カ月前に、必要な食材の品目、発注量、価格を生産者、食品製造業者と相談し確定する。さらに1カ月前に最終確認を行い、微調整の上で正式に発注する。
また、地産地消御膳を提供する際には、詳細な「お品書き」が配られる(図1)。当日の献立の特徴に加え、御膳に用いられた地元食材の特徴や生産者の情報、地域食・伝統食が供される場合はその由来なども説明されている。お品書きの体裁にも試行錯誤があったが、近年はA4サイズにカラーで両面刷りし、一面に献立と全体の情報、もう一面に食材と生産者に関する情報を印刷し、三つ折にして配るスタイルが定着している。また、食事の際に介添えが必要な患者に対しては、介添者がお品書き記載の情報を口頭で説明しながら食事を供するよう指導している。
なお、入院患者の約半数は、栄養成分や食事の物理的形状(大きさ、固さなど)に配慮すべき治療食として提供されているため、そのための対応も行う。
地産地消御膳に使用する食材のうち地元産品の割合は、当初は10%台だったが、現在は90%台に達し、時にはすべての食材を地元産品で賄えることもある。また、笠岡中央病院では、2016年度から18年度にかけ、毎回の御膳の地元産品利用率と残菜率を記録し、両者の関係性を分析している。図2は複数回提供された祭り寿司(岡山県の郷土料理)に限定して比較した場合の結果であるが、地元食材の導入がまだ本格化していなかった15年(平成27年)当時は地元産品率はわずか5%であったが、18年(平成30年)には94%まで拡大している。同じく、残菜率は12%から6%に低下している。献立を特定せず地産地消御膳全体を対象とした場合、16年度から18年度までの間に、地元食材率は10%台から90%台に上昇した。一方、2年間の残菜率は平均して8%であり、通常時の給食に比べ低かった。
地産地消御膳にて地元食材を集中的に利用し、説明することにより、食欲不振者や高齢患者が食事に関心を示すようになり、残菜率も低下した。また、お品書きを作成し詳しい情報提供を行うとともに、介助が必要な患者に対しては介添者が口頭で丁寧な説明をしたことにより、患者の喫食率の改善や食事全体に対する満足度の向上もみられた。
これら笠岡中央病院の地産地消をめぐる一連の取り組みは、マスコミなどを通じて院外にも知られるようになり、16年度および18年度に中国四国農政局より表彰を受けている。病院も自身の取り組みの公開に努めており、近隣の施設への献立紹介や、栄養士による学会発表が実施されている。また、本取り組みに携わった管理栄養士である粟村三枝氏は現在、まちむら交流きこうの地産地消コーディネーターとなり、全国に情報発信しているほか、22年度には長崎県の施設にて給食改善のサポートに取り組んでいる。