担い手の高齢化と後継者不足から、軽井沢地区は遊休荒廃農地が増え始め、グリーンフィールドはこれらの農地を請け負うことで本産地の遊休地の増加に歯止めをかけてきた。しかし、組合員農家から請負を依頼される農地は後を絶たず、遊休荒廃農地は同社にますます集積していった。同時に、農地が集まれば集まるほど、グリーンフィールド本体は労働力不足にも陥っていく。
そのような中、グリーンフィールドは、新たな労働力として外国人研修生の受け入れを模索していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴い、その受け入れも実質的に不可能となってしまう。したがって、限られた労働力で栽培面積を拡大しながら、キャベツ産地を維持・存続していくための“飛び道具”が必要であった。
そこで、同社は、キャベツ栽培において最も多くの時間と労力を要する収穫調製作業の省力化を図るキャベツ収穫機の導入に着目したのである。
コロナ禍の2020年、JA全農長野を介して、株式会社クボタ(以下「クボタ」という)のキャベツ収穫機の実証実験に取り組む。同年7月、中山間地域におけるキャベツ収穫機械体系実証コンソーシアム(以下「コンソーシアム」という)の第1回研究推進会議が、JA佐久浅間の会議室で開催された。コンソーシアムは、グリーンフィールドをはじめ、JA佐久浅間、JA全農長野などの農協関係者、クボタ、長野県、農業大学校、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)などの多様な組織・機関で構成され、会議は12月までに計4回開催された。実証は、キャベツ栽培の収穫作業を機械化し、労働生産性を向上させることを狙いとして、中山間地域での実用性を検証するため、慣行の収穫出荷体系に近いスタイルで運用実証が行われた。
コンソーシアムのメンバーの多くは、本産地のキャベツ畑は一圃場面積が狭く、点在しているため、すでに導入が進んでいる北海道などの大規模圃場におけるキャベツ収穫機のような大型機械ではその性能を十分発揮できず、逆に効率が悪くなるのではないかとの懸念を抱いていた。
そこで、中山間地域におけるキャベツ収穫機の労働生産性や作業効率を調査するとともに、キャベツ収穫機にGPSで位置情報を取得し、地図上に記録するGPSロガーを搭載するなど、効率のよい運用方法が研究推進会議で検討された。
畝の長さが50メートル以下の小規模圃場の場合、反時計回りに旋回して収穫する「旋回移動」よりも、次の収穫の開始点までバックで移動する「フルバッグ収穫」の方が効率的であることが検証された(文献(3))。すなわち、キャベツ収穫機の効果を引き出すためには、圃場の傾斜や形状、旋回スペースの確保などの圃場条件整備が重要であり、いわば個々の圃場の性格を熟知していることがその導入の鍵となるのである。
導入されたキャベツの収穫機(写真3)は、機体の前方に設置された
掻き込み部によってキャベツを引き抜く方法であり、引き抜かれたキャベツをローラーベルトで挟み込み、機体上部へ移送する過程で根を切断する。ローラーベルトで機体上部まで運ばれたキャベツは、機上で人が選別調製した後、機体後方に搭載した大型コンテナに集積される。グリーンフィールドは、組合員農家とのすみ分けからも加工・業務用キャベツ出荷を基本としていたことにより、大型コンテナの導入もスムーズに運び、その後の荷役や出荷作業の効率化にもつながっている(写真4)。
引き抜いたキャベツを機上で作業者3人が選別調製し、大型コンテナへ収容するまで操縦者1人を加えた4人の作業者で、1日20アール程度の収穫調製作業が可能となる。これは、人手による収穫よりも約2倍もの効率アップしている計算となる。また、省力化が進んだのは、キャベツ栽培の全作業時間の約4割を占める収穫調製作業だけではない。キャベツ収穫機は、キャベツそのものを引き抜くために、根(茎)などが圃場に残っておらず、畑の片付け作業を含めた耕起作業も省力化されていることを見逃してはいけない。
なお、本産地におけるキャベツ収穫機の導入には、クボタのキャベツ収穫機との親和性を指摘することができる。グリーンフィールドが栽培するキャベツは、その畝幅が50センチメートル、株間が30センチメートルであり、株間を広く設定し大玉化を目指す加工・業務用キャベツとしては狭く、また栽培品種の「信州868」の短縮茎はやや長いため、収穫機の刃の部分が掻き込み部に接触しやすい。これら株間や短縮茎のいずれもが、クボタのキャベツ収穫機の掻き込み部との相性も良かった。
さらに親和性はそれだけではない。操縦者の小林史尚氏(24歳)(写真5)のゲームで培った操作能力の高さもあった。小林氏は「まるでゲームをしているようだ。操作棒を上下に微妙に動かしながら、一畝で一つも引き残さなかった時は快感です。後方に乗っているスタッフの方たちとの呼吸も大切。早く引き抜き過ぎてもいけない。スタッフの動きをバックミラーで見ながら、いつも操縦しています。それはゲームをしているような感覚です」という。