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調査・報告 野菜情報 2022年5月号

加工・業務用契約栽培におけるスマート農業の利用と評価 ~宮崎県都城市 有限会社太陽ファームの取り組みに焦点をあてて~

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山口大学大学院 創成科学研究科 農学系学域 准教授 種市 豊

【要約】

 本実証は、宮崎県都城市に所在する、有限会社太陽ファームにおいて、2年間にわたって実施された農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」の結果報告である。加工・業務用野菜の契約栽培を行う事業で、同社がスマート農機を導入した大きな効果は、次の3点である。第一は、オペレーター不足・過重労働問題へ対応できるようになったこと、第二に、各部門間の「情報の見える化」がある程度達成でき、情報の共有がしやすくなったこと、第三に、10アール当たりの単収の増加が達成できたことである。以上の点から、加工・業務用野菜の契約栽培におけるスマート農機の導入は、さまざまな点で業務改善につながり、定時・定量・定質を求める顧客企業のニーズへの対応が可能となる。また、顧客企業は、取引先である量販店や外食産業から製造商品の品質保証などを将来的に求められる段階にある。これらの達成に資するために、現在、システム化したスマート農業の導入が必要な段階に差し掛かったと考察できる。

1 本稿の内容と太陽ファームの概要

 本稿の目的は、スマート農業と加工・業務用の契約栽培を実証している農業生産法人を実証的に紹介するものである。なお、今回調査対象とした有限会社太陽ファーム(以下「太陽ファーム」という)の業務内容と取り組みの概要、実施予定事業の紹介は、野菜情報2021年3月号「加工・業務用野菜生産拡大の取り組み 輸送業・スマート農業と連携した加工・業務用野菜の産地形成~宮崎県都城市 有限会社太陽ファームの加工・業務用野菜の契約栽培とスマート農業~」の記事に詳細を掲載しているので、割愛する。なお、本実証は、農林水産省「スマート農業技術の開発・ 実証プロジェクト(課題名:安定したサプライチェーンを実現するための畑地灌漑(かんがい)を利用したスマート農業技術による生育環境制御およびkintoneを活用した生産・加工・物流の一元管理体系の実証)」(事業主体:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)から支援を受けた事業内容の一部であることを付記する。

2 kintoneシステムを活用した経営管理システムの利用効果

 経営管理システムによる一元管理の効果実証の結果は、次の通りである。図1は、クラウドシステムを活用した一元管理システムの概況である。

図1 実証プロジェクトで構築したシステムの概要図

 太陽ファームは、中小企業であることから、大規模な情報一元管理システムが構築されていない現状にある。そのため、サイボウズ社のkintone(キントーン)システムを活用した経営管理を構築した経緯がある。
 同システムを活用した管理の説明に入る前に、まず、同システムを活用しない外部組織へ向けた情報管理について確認しておく。一つ目は、コンプライアンス上重要な項目である税務申告・売上管理である。税務申告は、大手メーカーの管理ソフトを活用しない場合、税制の変更などに対応しきれないことから決算時に苦労をする。そのため、WEB上の会計ソフトを活用している。二つ目は、相手先企業からの受注情報や請求内容の管理である。これらの情報は、図1の下部で示した「販売大臣」ソフトを活用している。

1)kintoneシステムの活用範囲
 kintoneシステムを活用している範囲(図1の中央部)は、生産・加工・販売・物流の内部の情報である。大きな目的は、法人内部での情報共有である。システム導入以前の情報共有は、「生産部門」「加工部門」「販売管理部門」「物流部門」で部署ごとの縦割りの状態であり、あまり情報共有されていなかった。農業生産法人で業務改善を行う場合には、生産情報のみならず、加工場の生産性・歩留まり情報などを確実に共有しなければ、生産性の向上を望めない可能性もある。そのため、これらの情報を可視化するシステムの設計は、業務改善を図る上でも重要なものとなる。太陽ファームでは、kintoneシステムを導入することにより、会社の最終製品である農産物の生産性を可視化し、各部門の担当者が情報共有を行えるようにしている。
 太陽ファームのシステムは、生産性を可視化したデータをkintoneの初期画面に置き、関係者全員が確認できるように設定した。このシステムの導入メリットは、生産・流通に関わる情報を担当スタッフ全員が最初に確認できることにある。そのため、担当者全員への生産に関する数値化の意識付けが可能となった。従来、担当業務は、各部門間で縦割りとなっており、連携を取りにくい状況にあったが、本システムを活用することにより、部署同士の横の連携が図れるようになった。具体的な利用効果を2点述べると、一つ目に、管理者・生産担当者の中で情報共有ができ、生産性の向上につながることが挙げられる。二つ目は、畑を担当するオペレーターの実情と加工場でカット・加工される野菜の状況、販売管理の実情(顧客からの要望やクレーム)が全ての部門で共有できることである。以上のことから、kintoneシステムの導入は、各段階から集められたデータをもとに、より顧客の要望に近い生産を行うための重要な役割を果たしている。

(2)日報の省力化
 次に、kintoneシステムには、機能別の役割、情報共有以外にどういった効果があるのかを確認したい。一つ目は、図2で示した日報作成の省力化である。農作業日報は、以前は農場職員が手書きをし、エクセルに転記していため、転記に時間を要していた。kintoneシステムの活用により、現場でタブレット端末を用いて入力することから、転記に要する時間を節減できるようになった。具体的には1カ月当たりの日報の集計時間を75%減の8時間以下にすることが可能となった(1カ月32時間→約8時間へ)。二つ目の効果としては、日報で集計したデータに基づいた生産指導体制を構築することが可能になったことが挙げられる。同社では、野菜のカット作業を実施する加工場においても、歩留まり・生産性を把握する日報をシステム上で作成することから、こうしたデータを活用して、月例で開催される業務会議において生産指導体制づくりを行えるようになった。

図2 kintone導入による省力化のイメージ

(3)販売と物流部門のシステム連携効果
 最後に、販売管理部門と物流部門のシステムが連携したことによる効果が挙げられる。具体的には、実証農場のシステムである『販売大臣』に入力した受注データをkintone上にある集出荷計画アプリに取り込み、物流部門であるマキタ運輸の『マキタシステム』に転記する方法において効果が見られた(図2)。以前は、紙による出荷伝票を手作業で入力する仕組みであったが、改善後は、kintoneシステムから直接転送できるシステムとなった。そのため、輸送業者の配車担当者の配送データの打ち込み時間が削減され、伝票の紛失や転記ミスなどがなくなる効果が確認できた。
 各段階では、生産・歩留まり・加工方法を意識することで、問題意識を共有し生産性の向上に努める役割を果たしている。また、社内での情報共有を今まで以上にしやすくする「見える化」の仕組みができるとともに、端末への入力システムを標準化することで、さらなる効率化が図れるようになった。その点でkintoneシステムの導入は、効果的であったと考察できる。

3 リモートセンシングシステムの利用効果

 実証農場において検証した、「自動畑地かんがいシステム」、「自動操舵システムの導入」の結果の一部を紹介したい。実証対象とした品目は、キャベツ・にんにく・かんしょ・しょうがの4品目である。

(1)自動畑地かんがいシステムの導入
 当該システムを導入する目的は、実証農場での灌水(かんすい)の自動化、ならびに圃場(ほじょう)環境を数値で把握することにより、水分を適正管理し、収量の増加と労働時間の削減をめざすものである(写真1)。主な利用効果は、次の通りである。例えば、しょうが10アールの灌水に要する時間は、実証試験前1.8時間であったものが、実証2年目で0.52時間(71%減)に変化した(図3)。

写真1 自動畑地かんがいシステムの写真


図3 自動畑地かんがいシステムによる省力効果

 次に収量に与える効果は、自動畑地かんがいシステムを導入しない無灌漑区とシステムを導入した畑地灌漑(かんがい)区を比較すると、キャベツは5307キログラム/10アールから6458キログラム/10アール(21%増)、かんしょ一株当たりの収量は1.32キログラムから1.58キログラム(19%増)、にんにくは622.5キログラムから639キログラム(2%増)に増加した(表)。また、キャベツの欠株率は、無灌漑区と比べ、35%から15%へ減少している。以上に述べた通り、システムの導入は、高い効果が得られたものの、一部の実験区において、生理障害(病害)が発生している点を付記する。その対策には、気象状況などの自然条件を加味した灌水システムの構築が求められる。

表 「自動畑地かんがいシステム」導入が10アール当たり収量に与える効果

(2)自動操舵システムの導入
 本実証では、写真2で示したトラクターの自動操舵システムを実施した。具体的な内容は、GPSレベラー(注1)を導入した上での、自動操舵実証の実施である。一口に自動操舵といっても、どの圃場でも簡単に導入できるものではなく、一定の条件を必要とする。第一に、当該システムを実現するためには、圃場を均平化することが条件となる。圃場は、凸凹や水溜り傾斜などの多様な障害を有しているため、円滑な操作が実現しないことも多く見受けられる。均平整地せず自動操舵システムのトラクターを使用した場合、蛇行などの問題が発生する。まずは、均平化を実施して、水溜りなどの障害物を最小限度にすることにより、円滑な操作を達成しなければならない。こういったスマート農機の取り組みは、除草作業、肥料散布、畝立、定植、中耕、収穫などにも有効である。

写真2 自動操舵システムの写真例
 参考文献: 青森県産業技術センター『コンベア付きにんにく収穫機による作業省力化』
  < https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/nosui/files/R2_ninniku_syuukaku.pdf >(2022年3月22日アクセス)


 また、操作を行うオペレーターの作業技術は、熟練した者から経験の浅い者までレベルはさまざまである。特に技術力の高いオペレーターの場合、就農による退職や転籍などの多くの離職のリスクも有している。そのため、常に農業法人に熟練したオペレーターが存在し、一定の作業の質が保証されるとは限らない。太陽ファームは、ここ数年で独立就農のため数人のオペレーターが退職した。その後任として、農業未経験者を新卒オペレーターとして採用した。通常、新人のオペレーターは、円滑かつ高い機械操作(作業技術)を習得するために、長時間の経験を要する。しかし、本実証の結果で確認すると、GPSレベラーを基幹技術としたスマート農機の導入によって、入社後1年足らずで即戦力となった。
 以上の点から、自動操舵システムの導入は、オペレーターの熟練度によらない作業体系を維持することも可能であり、今後も期待できるシステムの一つであると言える。そのほかの代表的な効果として、ブームプレイヤー(注2)による農薬散布をあげたい。従来の農薬散布は、散布ムラなどが発生していた。しかし、自動操舵システムの条件を満たした圃場でした場合は、散布むらが解消され、病害虫や雑草が発生しにくくなったことに加え、一回当たりの防除効果が高まった。
 大きなシステム導入実証の効果は、作業時間の減少であろう。具体的な数値から確認すると、耕起ではプラウ耕(注3)13%減、プラソイラ耕(注4)23%減、除草では74%減(3200時間程度→800時間程度)、施肥は54%減(10アール当たり84時間→39時間)、キャベツの畝立72%減(10アール当たり1.71時間→0.48時間)、キャベツの定植40%減(10アール当たり6時間→4時間)などである。このことから、オペレーターの作業時間削減に資しているといえる。

(注1) GPSによる位置情報を利用して圃場の凸凹を均平にする作業機。
   参考:農業技術通信社の農業総合専門サイト「農業ビジネス」

   https://agri-biz.jp/item/detail/7933(2022年4月3日アクセス)

(注2) トラクターに搭載して広い圃場の消毒作業、除草剤散布に使用するもの。
   参考:丸山製作所ホームページ

   http://www.maruyama.co.jp/products/12/index.html(2022年4月3日アクセス)

(注3) 天地を返すように深く耕耘すること。
   参考:ノウキナビ「プラウ耕ってなに?」
    https://www.noukinavi.com/blog/?p=10271(2022年4月3日アクセス)


(注4) 下層土を表層に持ち上げ、溝周囲の心土から土壌表層にかけて攪拌する耕起機能を併せ持つ作業機(スガノ農機株式会社の商標登録)
   参考:ルーラル電子図書館「プラソイラ」

   https://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku =14718(2022年4月3日アクセス)

(3)スマートシステムの効果のまとめと導入条件
 先に挙げたシステムは、オペレーター数の削減と作業時間の削減、一人当たりの作業耕地の増加、作業の質の維持などが実現できるものである。しかしながら、単に導入すれば、効果が得られるものではない。導入条件を達成するためには、例えば、平坦かつ縦長の農地へ圃場整備をする必要となる。

4 顧客であるイートアンドフーズ社の評価

 株式会社イートアンドフーズは、外食チェーン「大阪王将(全国350店舗)」の運営をはじめ、冷凍食品の製造、全国の生協・量販店・コンビニエンスストア向けの商品・食材の販売、外食向け食材の製造および卸など幅広い業務を手がけている。主力の販売商品は、ギョーザ・シューマイ・中華丼・チャーハンなどである(写真3)。同社の工場は、関東工場第一・第二(群馬県)、関西工場(大阪府枚方市)、岡山工場の4工場を有している。また、同社は、製造の際に発生する食品残さの堆肥への再利用にも関わるなど、循環型社会への取り組みへも積極的である。

写真3 イートアンドフーズ社が推進するファイブフリーと同社の商品
出典: 株式会社イートアンドフーズHP
https://www.eat-and.jp/foods/life/5free/〉(2022年3月22日アクセス)


  多くの外食・冷食製造企業は、リーズナブルで身近な商品を提供することが多い。企業規模では、大手が多く、競合が困難な状況にある。そのため、大手企業と対抗するために、同社は、「原材料は可能な限り、早い段階から国産の野菜や肉を利用し、こだわりの食品を提供する」ことで差別化戦略をとっている。冷凍食品は、商品の特性上、毎日安定的に店舗へ供給しなくてはならない。仮に、荒天による野菜不足になった際は、定時・定量・定質の条件が達成しにくくなる。その点において、太陽ファームは、安定供給を担う法人としての役割を果たしている。また、農業生産法人との契約は、製造方法と使用原料で差別化を図るため、原料野菜の多くを生産方法のトレースがしやすい利点も有している。
 同社は、商品と品質の安定を目的に、長きにわたり太陽ファームと契約している。同社の担当者は、「荒天などで野菜供給が困難なときも、欠品のない供給のため、スマート農業の必要性がある」と述べている。また、今後、同社の冷凍工場は、さまざまな国際認証の取得を目指している。認証を取得するためには、製造工場の整備のみならず、農場から供給される原料までも厳しい基準を満たすものではければならない。トレーサビリティや安全性が保障された野菜を安定的に提供するためには、スマート農業の導入が欠かせないものになりうると考えられる。そのため、「スマート農業の評価は、現段階において困難な状況にあるものの、将来的に供給と品質の安定性を担保するため、必要不可欠なものなることから、大いなる期待をしたい」と述べている。

5 まとめと課題―加工・業務用野菜でスマート農業を普及させるためには―

 本実証は、加工・業務用野菜の契約栽培において全国に広めることができるほどの大きな結果を残した。
 農作業においては、スマート技術を活用することにより、農業経験の少ないオペレーターが作業をする場合でも、ベテラン職員との差を小さくすることが可能であることがわかった。情報共有の点では、太陽ファームのような比較的規模の大きな農業法人は、生産の各段階に多くの生産者・加工担当者・事務職員・輸送企業が関わっているものの、業務内容が多岐にわたるため部門ごとに縦割りになりやすい環境であったが、「情報の見える化」により各部門間の情報共有が容易になると、農産物の質向上にもつながるだろう。スマート農業が食品製造に与える効果については、現段階で十分な確認ができなかったことから、今後の残された課題としたい。
 最後に、筆者が要望する点は、次の通りである。太陽ファームでの実証結果は、契約栽培で重要となるスマート農業の全てではない。スマート農業を利活用するための一段階であり、まだまだ余地をもっている。輸入野菜が高騰する中で、多くの食品産業は、緩みない国産野菜の供給を強く求めている。今後は、太陽ファームのモデルの発展、また、多くの法人でのスマート農業の導入と活用が進むことが強く望まれる。しかしながら、現時点では、十分な普及がなされていないことから、導入にかかるコストが安価ではない。そのため、多くの法人が導入できるような支援などを強く望みたい。
 

参考文献:
(1) 種市豊・相原延英・野見山敏雄(2017)『日本農業市場学会研究叢書16 加工・業務用青果物における生産と流通の展開と展望 』筑波書房。
(2) 農研機構 令和2年度スマート農業実証プロジェクト「太陽ファーム」
https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/r2/subject/rojiyasai-kaki/136366.html〉(2022年4月13日アクセス)
(3) 種市豊:(2021)「【特 集】加工・業務用野菜生産拡大の取り組み 輸送業・スマート農業と連携した 加工・業務用野菜の産地形成 ~宮崎県都城市 有限会社太陽ファームの加工・業務用野菜の契約栽培とスマート農業~」『野菜情報204』:p.14-22.
https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/senmon/2103_chosa2.html
(4) サイボウズ社「kintoneホームページ」
https://kintone.cybozu.co.jp/〉(2022年2月23日アクセス)
(5) 株式会社イートアンドフーズ ホームページ
https://www.eat-and.jp/foods〉(2022年2月24日アクセス)