実証農場において検証した、「自動畑地かんがいシステム」、「自動操舵システムの導入」の結果の一部を紹介したい。実証対象とした品目は、キャベツ・にんにく・かんしょ・しょうがの4品目である。
(1)自動畑地かんがいシステムの導入
当該システムを導入する目的は、実証農場での
灌水の自動化、ならびに
圃場環境を数値で把握することにより、水分を適正管理し、収量の増加と労働時間の削減をめざすものである(写真1)。主な利用効果は、次の通りである。例えば、しょうが10アールの灌水に要する時間は、実証試験前1.8時間であったものが、実証2年目で0.52時間(71%減)に変化した(図3)。
次に収量に与える効果は、自動畑地かんがいシステムを導入しない無灌漑区とシステムを導入した畑地
灌漑区を比較すると、キャベツは5307キログラム/10アールから6458キログラム/10アール(21%増)、かんしょ一株当たりの収量は1.32キログラムから1.58キログラム(19%増)、にんにくは622.5キログラムから639キログラム(2%増)に増加した(表)。また、キャベツの欠株率は、無灌漑区と比べ、35%から15%へ減少している。以上に述べた通り、システムの導入は、高い効果が得られたものの、一部の実験区において、生理障害(病害)が発生している点を付記する。その対策には、気象状況などの自然条件を加味した灌水システムの構築が求められる。
(2)自動操舵システムの導入
本実証では、写真2で示したトラクターの自動操舵システムを実施した。具体的な内容は、GPSレベラー
(注1)を導入した上での、自動操舵実証の実施である。一口に自動操舵といっても、どの圃場でも簡単に導入できるものではなく、一定の条件を必要とする。第一に、当該システムを実現するためには、圃場を均平化することが条件となる。圃場は、凸凹や水溜り傾斜などの多様な障害を有しているため、円滑な操作が実現しないことも多く見受けられる。均平整地せず自動操舵システムのトラクターを使用した場合、蛇行などの問題が発生する。まずは、均平化を実施して、水溜りなどの障害物を最小限度にすることにより、円滑な操作を達成しなければならない。こういったスマート農機の取り組みは、除草作業、肥料散布、畝立、定植、中耕、収穫などにも有効である。
参考文献: 青森県産業技術センター『コンベア付きにんにく収穫機による作業省力化』
< https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/nosui/files/R2_ninniku_syuukaku.pdf >(2022年3月22日アクセス)
また、操作を行うオペレーターの作業技術は、熟練した者から経験の浅い者までレベルはさまざまである。特に技術力の高いオペレーターの場合、就農による退職や転籍などの多くの離職のリスクも有している。そのため、常に農業法人に熟練したオペレーターが存在し、一定の作業の質が保証されるとは限らない。太陽ファームは、ここ数年で独立就農のため数人のオペレーターが退職した。その後任として、農業未経験者を新卒オペレーターとして採用した。通常、新人のオペレーターは、円滑かつ高い機械操作(作業技術)を習得するために、長時間の経験を要する。しかし、本実証の結果で確認すると、GPSレベラーを基幹技術としたスマート農機の導入によって、入社後1年足らずで即戦力となった。
以上の点から、自動操舵システムの導入は、オペレーターの熟練度によらない作業体系を維持することも可能であり、今後も期待できるシステムの一つであると言える。そのほかの代表的な効果として、ブームプレイヤー
(注2)による農薬散布をあげたい。従来の農薬散布は、散布ムラなどが発生していた。しかし、自動操舵システムの条件を満たした圃場でした場合は、散布むらが解消され、病害虫や雑草が発生しにくくなったことに加え、一回当たりの防除効果が高まった。
大きなシステム導入実証の効果は、作業時間の減少であろう。具体的な数値から確認すると、耕起ではプラウ耕
(注3)13%減、プラソイラ耕
(注4)23%減、除草では74%減(3200時間程度→800時間程度)、施肥は54%減(10アール当たり84時間→39時間)、キャベツの畝立72%減(10アール当たり1.71時間→0.48時間)、キャベツの定植40%減(10アール当たり6時間→4時間)などである。このことから、オペレーターの作業時間削減に資しているといえる。
(注1) GPSによる位置情報を利用して圃場の凸凹を均平にする作業機。
参考:農業技術通信社の農業総合専門サイト「農業ビジネス」
https://agri-biz.jp/item/detail/7933(2022年4月3日アクセス)
(注2) トラクターに搭載して広い圃場の消毒作業、除草剤散布に使用するもの。
参考:丸山製作所ホームページ
http://www.maruyama.co.jp/products/12/index.html(2022年4月3日アクセス)
(注3) 天地を返すように深く耕耘すること。
参考:ノウキナビ「プラウ耕ってなに?」
https://www.noukinavi.com/blog/?p=10271(2022年4月3日アクセス)
(注4) 下層土を表層に持ち上げ、溝周囲の心土から土壌表層にかけて攪拌する耕起機能を併せ持つ作業機(スガノ農機株式会社の商標登録)
参考:ルーラル電子図書館「プラソイラ」
https://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku =14718(2022年4月3日アクセス)
(3)スマートシステムの効果のまとめと導入条件
先に挙げたシステムは、オペレーター数の削減と作業時間の削減、一人当たりの作業耕地の増加、作業の質の維持などが実現できるものである。しかしながら、単に導入すれば、効果が得られるものではない。導入条件を達成するためには、例えば、平坦かつ縦長の農地へ圃場整備をする必要となる。