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【特 集】加工・業務用野菜生産拡大の取り組み 野菜情報 2021年3月号

輸送業・スマート農業と連携した 加工・業務用野菜の産地形成 ~宮崎県都城市 有限会社太陽ファームの加工・業務用野菜の契約栽培とスマート農業~

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山口大学大学院 創成科学研究科 農学系学域 准教授 種市 豊

【要約】

 宮崎県都城市に本社を有する有限会社太陽ファームは、宮崎県最大の輸送企業である株式会社マキタ運輸により創設された農業法人である。同社の強みは、輸送面において、(1))輸送会社が運営していることから、幅広い輸送網と物流施設が充実していること、2)加工場などの施設にて効率良い輸送体系ができていること―にある。また、加工・業務用野菜の供給は、定時・定量・定質が求められることから、スマート農業の取り組みも積極的に行なっている。主な内容として、1)クラウドサービス「アグリスマート」を活用した自動畑地灌漑(かんがい)システム、2)kintoneを活用した経営管理システムの2点である。スマート機器の導入は、単に業務効率の改善のみではない。供給する農産物の品質を向上させ、今後契約栽培を継続するにあたって顧客の満足度を上げるためにも欠かせないシステムであるといえる。

1 はじめに─輸送業者と生産法人がなぜ一体化したのか─

 加工・業務用野菜の契約栽培は、需要者の求めに応じて、定時・定量・定質で契約企業へ納品する必要が強く求められることから、産業財的性質を有した農産物である。こういった厳格な目標を達成するために、生産者は省力化を目指したスマート農業の導入も同時に求められる。また、生産者の圃場(ほじょう)と需要者の食品工場は、遠方に所在していることが一般的であることから、確実な納品を行うために輸送事業者との連携も重要となる。
 輸送業界が人手不足の問題を抱える現在こそ、スマート農業と輸送事業者との関係性に言及した報告が必要となる。そこで、本調査報告では、宮崎県都城市に本社を有し、グループ会社に株式会社マキタ運輸(以下「マキタ運輸」という)を有している農業法人である有限会社太陽ファーム(以下「太陽ファーム」という)に焦点をあてる。なお、太陽ファームで生産している代表的な生産品目は、キャベツ、にんにく、かんしょ、しょうがなどが挙げられる。
 マキタ運輸と太陽ファームの位置する都城市は、南九州地区の物流基地であり、高速道路網が充実した地域である。農業生産の概況は、表1で示したとおりである。畜産が主体であり、耕種の割合が低い。同地区の農業生産での課題は、台風や長雨などの厳しい自然環境、担い手の高齢化と後継者不足などがある。また、南九州地区の特徴として、雇用型の農業経営体数が多く、一経営体あたりの露地野菜の生産能力が高い特徴を有している。太陽ファームは、先に示したような野菜栽培が厳しい状況下にあるなかで、大規模生産とスマート農業の連携により地域農業の持続的発展を目指している。

2 太陽ファームの加工・業務用の取り組みとスマート農業を開始した経緯

 太陽ファームは、宮崎県最大の輸送企業であるマキタ運輸により創設された農業法人であり、農業とは無関係な異業種からの参入である。開始当初は、工場近隣の小さな農地を購入し、徐々に現在の規模に拡大した。また、グループ企業に輸送企業を有していることから、露地野菜の独自のサプライチェーン網を構築しながら、維持発展してきた。図1で示したように、同社は、農業法人として生産するだけではなく、グループ企業に輸送事業者を有していることを強みとして、一次加工施設、貯蔵庫などさまざまな物流施設も有し、拠点事業者としての役割も果たしている。同時に、天候などの自然的要件などにより原料供給にさまざまな問題が発生したとき、拠点事業者として、解決を求められる。加工・業務用野菜の取り組みにおいて、販売数量が変動することより、原料調達がぶれることが多く、それが拠点事業者の不安定な利益率につながっている。そのため、従来の出荷方法では、数量・価格が固定した販売契約であっても、相場変動、契約数量を達成するための外部購入・豊作による過剰在庫・長期貯蔵による品質劣化などのさまざまなリスクを背負ってきた。このような中、担い手不足などもあり、定時・定量・定質が求められる契約取引のリスクをより少なくするため、スマート農業を活用する必要性が出てきた。

3 太陽ファームとマキタ運輸との関係性と輸送経路

 太陽ファームは、マキタ運輸の輸送網を活用し、実需者へ加工・業務用野菜およびに一次加工品の周年供給を行なっている。周年供給を実現するため、北海道を代表とする産地など広域な連携網も有している。
 図2は、太陽ファームとマキタ運輸の関係性を示している。太陽ファームの加工・業務用野菜の取り組みは、都城市周辺に有する契約農場より野菜を仕入れ、自社工場によりカット処理をする(写真1)。カット処理後、グループ企業であるマキタ運輸の輸送網(図3)を活用し、関東・関西に所在している外食産業へ納品している。そのなかで、マキタ運輸は、農場から同社工場まで、また一次加工された商品を顧客企業まで輸送する役割の全てを担っている。








 太陽ファームの加工場の立地であるが、もともと工業団地の周辺に位置している。野菜加工場の周辺には、マキタ運輸の事業所も隣接し、同時に高速道路のインターも付近にあることから、輸送を行うには、好立地な条件である。また、都城市は、宮崎県の宮崎港と鹿児島県の志布志港との間に位置しており、どちらも30分圏内であるため、関西圏への輸送には、好条件といえる。
 同社は、本社のある宮崎県のほかに、福岡県、鹿児島県、大阪府、東京都に営業所を有している。契約企業までの輸送経路は、大阪出荷を例にあげると次の通りとなる。ほとんどの契約野菜は、トレーラーにより都城市内にある太陽ファーム加工工場を出発し、宮崎港・志布志港へ到着する。到着後、トレーラー(貨物)部分を切り離し、フェリーに載せる。大阪に着荷したのち、大阪営業所にあるトレーラーに再び連結し、顧客の加工工場へ出荷する流れである。加工場を出発したのち、翌日までに顧客へ納品される。太陽ファームで収穫された農産物は、生産地から加工場、そして契約先企業に到着するまで一貫して、マキタ運輸で運ぶ仕組みであり、大阪および東京の拠点を小ロットの中継やドライバーの休憩拠点として活用し、労働時間の短縮を図っている。

4 契約農業の概要と資源循環への取り組み

 太陽ファームにおける令和元年度加工・業務用野菜の重量別の取り扱い実績は、次の通りである。キャベツ8500トン、焼酎の原料となるかんしょ1500トン、だいこん1000トン、たまねぎ850トン、にんじん500トン、はくさい500トン、にんにく200トン、しょうが100トン、こまつな・ほうれんそう100トンである。農場の面積は、太陽ファーム直営で30ヘクタール、契約農場(およそ150戸)で280ヘクタールである(写真2)。取引先は、冷凍食品メーカー、関西に本部を有する外食産業チェーン、弁当総菜向けのベンターを主としている。大消費地圏への出荷を主としており、近県や県内向けの供給はしていない。また、契約先の決定方法は、継続的な取引がどこまで可能であるのか、財務状況などを勘案し、決定している。この継続により顧客とのパートナーシップを構築し、安定的な栽培が可能な体制を構築している。



 その他に、太陽ファームは、一次加工場から発生した野菜ゴミを利活用し、地域循環型農業へ積極的に取り組んでいる。たとえば、カット工場から出た端材は、工場近隣の畜産農家から出た糞尿などを活用して堆肥化され、工場周辺にある太陽ファームの圃場へ散布している。

5 スマート農業への積極的な取り組み

 農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト(課題名:安定したサプライチェーンを実現するための畑地灌漑を利用したスマート農業技術による生育環境制御およびkintoneを活用した生産・加工・物流の一元管理体系の実証)」(事業主体:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)から支援を受けた事業内容の一部をここで紹介する。なお、本事業に関わる主要な構成員は、太陽ファーム、マキタ運輸、(株)オクニ、サイボウズ(株)、(株)アグリスマート、ヤンマーアグリジャパン(株) 九州支社、宮崎県北諸県農林振興局、都城市、宮崎県総合農業試験場、宮崎県農業振興公社、東京農工大学、山口大学、(株)近代経営研究所である。

(1)太陽ファームのスマート農業の考え方
 太陽ファームは、さまざまな顧客のニーズに対応するため、図4で示したように農作業の体型を改善すべく、生産・流通の全ての段階でスマート農業との連携を視野に入れた営農を目指している。ここでは、この中で、1)自動畑地灌漑システム、2)経営管理システムの二つのシステムを紹介する。



(2)自動畑地灌漑システムの実証
 図5は、クラウドサービス「アグリスマート」を活用した自動畑地灌漑システムである。圃場環境を安定させるための必要な条件を把握するために、圃場データの管理を同システムで行っている。大きな特徴は、センシングデータを基に潅水量を算出できることである。圃場に設置した気象センサーと土壌環境センサーでリモートセンシングを行い、センシングデータを太陽ファーム本社に設置したゲートウェイ装置を経由し、クラウドサービス「アグリスマート」に無線で送り、データを集積させる。



 本システムの導入効果としては、灌水に要する時間の7割減少と、対象品目であるしょうがの1株当たりの平均重量が増加したことが挙げられる。これらは、農作業効率の向上ならびに原料の品質向上などにつながる。

(3)kintoneを活用した業務改善
 『kintone(キントーン)』は、サイボウズ社が開発した農作業の記録やトラックの輸送効率、顧客からのクレームが一カ所に集まる情報共有システムである(図6)。

図6

 太陽ファームは、生産・加工・物流を一貫して手がけているため、同一経営内で品質管理ができているものの、原料を仕入れ、加工してから生産者へのフィードバックが不十分であった。そのため、顧客からのクレームなどは、生産者まで届きにくい状況にあった。
 また、太陽ファームは、輸送事業者と一体化していることから、トラックの輸送効率の向上を図り、効率のよい輸送体系の確立をしなくてはならない。業務改善の際に必要となる業務日報や農作業日誌の記録は、手書きや表計算ソフトへの打ち込みなどで行っていたことから、多大なる作業負担となっていた。
 これらを解決するためkintoneを導入したことにより、情報の入力をスマートフォンやパソコンなどで行い、統一的なシステムとすること、記録を一カ所に集中させデータと記録に基づいた営農をすることが実現しつつある。kintone導入の効果は、特に、データに基づいた営農が可能になることから、農産物の品質向上のみならず、日報入力に要する時間もおよそ7割減となっている。以上のことから、出荷に対するリスク軽減やサプライチェーン全体の業務改善につながっている。

(4)スマート農機の利用実証
 本実証では、自動操舵システム+プラウ、プラソイラ、ロボットトラクターなどによる作業効率化も行なっている。加工・業務用野菜は、農業機械とオペレーターの関係性が重要である。特にオペレーターの増員は、喫緊の課題となる。スマート農機利活用のメリットにおいて現段階で明らかになっているものは、1)作業時間の減少、2)熟練度に因らない作業体系の確立、3)疲労の軽減─である。太陽ファームでは、現段階で2割程度作業時間を軽減できていることから、実現性の高いシステムであるといえる。スマート農機のシステムは、圃場や現地の気候によって条件が大きく異なることから、本原稿では実施した結果を掲載したまでにとどめる。

6 コロナ禍の影響と今後の発展性

 太陽ファームの加工・業務用の契約栽培は、コロナ禍による影響が比較的小さい方である。その理由として、契約先の外食産業が多様性に富んだ販売をしていることにある。取引先A社は、餃子をメインとしている。コロナ禍前は、外食店舗での販売に主眼を置いていたが、コロナ禍では、テイクアウトへのシフトや冷凍食品販売の割合が大きく増えた。    2020年4月は、多少の減少はあったものの、現段階において、コロナ禍以前の安定的な供給をする状況に戻りつつあることから、大きな影響を受けにくい状況にある。現段階にあるような厳しい状況下にあっても安定的な取引を可能としており、長きにわたる契約生産の継続が望まれる段階にある。野菜は、仮に外食への出荷量が減少したとしても、消費者の消費量に影響を与えにくいものである。そのため、従来外食向けに出荷したものが、冷凍食品やテイクアウトにシフトしており、その影響は、比較的小さいといえる。

7 おわりに─新技術などを活用した新しい産地形成とは─

 新技術などを活用した新しい産地形成について、太陽ファーム取締役である牧田幸司朗氏は、「定価・定量・定品質・定期の原料サプライチェーンの精度をスマート農業の技術の導入で向上させ、顧客を儲けさせる。目の前の顧客を満足させることで、信用を勝ち取り、仕入先である産地の安定した農業経営に寄与する。また、畑地灌漑は、納期(雨を待たない作付)、契約数量(単収維持)の契約履行に欠かせない技術であるが、本実証で取り入れたスマート農業技術体系は原料サプライチェーンの精度向上を図るものである。加工・業務用野菜の取り組みは顧客満足度が安定した産地形成に欠かせない」と述べている。
 以上のことから、加工・業務用野菜の契約栽培は、産地と取引先との信用構築が重要であると言える。太陽ファームは、自社で加工し、系列企業で輸送を担うことで、より原料サプライチェーンとしての精度を高め、取引先の信用を得る方法をとっている。このことが取引先の選択へもつながることから、長きにわたり継続的な農業へとつながるきっかけともなっている。しかしながら、加工・業務用野菜の需要は、増える一方にある。需要の増加と反比例するように、農業従事者の数は、減る一方にある。増え続ける需要に対応するため、スマート農業を導入し、ロスの発生しない生産、作業員一人当たりの作付面積の増加などにより、省力化しなくてはならない一面も有している。また、新規に採用されたオペレーターが即戦力になり得るよう、作業の熟練度にとらわれない農業生産を行ううえでも、スマート農機の活躍が望まれている。以上の点より、今後、加工・業務用野菜の契約栽培を行う上でスマート農機の導入は、必要なものであると考察される。


参考文献など
(1) 野見山敏雄(2020)「農業経済vol43運送業とリンクした加工・業務用野菜経営」『産直コペル43』産直新聞社:32。
(2) 種市豊・相原延英・野見山敏雄(2017)『日本農業市場学会研究叢書16 加工・業務用青果物における生産と流通の展開と展望 』筑波書房。
(3) 農研機構 令和2年度スマート農業実証プロジェクト「太陽ファーム」
   URL:http://www.naro.affrc.go.jp/smart-nogyo/r2/subject/rojiyasai-kaki/136366.html(2021年1月11日アクセス)
(4) サイボウズ社「kintoneホームページ」
   URL:https://kintone.cybozu.co.jp/ (2021年1月10日アクセス)
(5) 株式会社スマートアグリ社 ホームページ「2020年7月:宮崎県都城市の(有)太陽ファームの「スマート農業プロジェクト」にアグリスマートAIシステムを納入しました。」
   URL:https://agrismart.net/publicity-tf/(2021年1月10日アクセス)



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