農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト(課題名:安定したサプライチェーンを実現するための畑地灌漑を利用したスマート農業技術による生育環境制御およびkintoneを活用した生産・加工・物流の一元管理体系の実証)」(事業主体:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)から支援を受けた事業内容の一部をここで紹介する。なお、本事業に関わる主要な構成員は、太陽ファーム、マキタ運輸、(株)オクニ、サイボウズ(株)、(株)アグリスマート、ヤンマーアグリジャパン(株) 九州支社、宮崎県北諸県農林振興局、都城市、宮崎県総合農業試験場、宮崎県農業振興公社、東京農工大学、山口大学、(株)近代経営研究所である。
(1)太陽ファームのスマート農業の考え方
太陽ファームは、さまざまな顧客のニーズに対応するため、図4で示したように農作業の体型を改善すべく、生産・流通の全ての段階でスマート農業との連携を視野に入れた営農を目指している。ここでは、この中で、1)自動畑地灌漑システム、2)経営管理システムの二つのシステムを紹介する。
(2)自動畑地灌漑システムの実証
図5は、クラウドサービス「アグリスマート」を活用した自動畑地灌漑システムである。圃場環境を安定させるための必要な条件を把握するために、圃場データの管理を同システムで行っている。大きな特徴は、センシングデータを基に潅水量を算出できることである。圃場に設置した気象センサーと土壌環境センサーでリモートセンシングを行い、センシングデータを太陽ファーム本社に設置したゲートウェイ装置を経由し、クラウドサービス「アグリスマート」に無線で送り、データを集積させる。
本システムの導入効果としては、灌水に要する時間の7割減少と、対象品目であるしょうがの1株当たりの平均重量が増加したことが挙げられる。これらは、農作業効率の向上ならびに原料の品質向上などにつながる。
(3)kintoneを活用した業務改善
『kintone(キントーン)』は、サイボウズ社が開発した農作業の記録やトラックの輸送効率、顧客からのクレームが一カ所に集まる情報共有システムである(図6)。
太陽ファームは、生産・加工・物流を一貫して手がけているため、同一経営内で品質管理ができているものの、原料を仕入れ、加工してから生産者へのフィードバックが不十分であった。そのため、顧客からのクレームなどは、生産者まで届きにくい状況にあった。
また、太陽ファームは、輸送事業者と一体化していることから、トラックの輸送効率の向上を図り、効率のよい輸送体系の確立をしなくてはならない。業務改善の際に必要となる業務日報や農作業日誌の記録は、手書きや表計算ソフトへの打ち込みなどで行っていたことから、多大なる作業負担となっていた。
これらを解決するためkintoneを導入したことにより、情報の入力をスマートフォンやパソコンなどで行い、統一的なシステムとすること、記録を一カ所に集中させデータと記録に基づいた営農をすることが実現しつつある。kintone導入の効果は、特に、データに基づいた営農が可能になることから、農産物の品質向上のみならず、日報入力に要する時間もおよそ7割減となっている。以上のことから、出荷に対するリスク軽減やサプライチェーン全体の業務改善につながっている。
(4)スマート農機の利用実証
本実証では、自動操舵システム+プラウ、プラソイラ、ロボットトラクターなどによる作業効率化も行なっている。加工・業務用野菜は、農業機械とオペレーターの関係性が重要である。特にオペレーターの増員は、喫緊の課題となる。スマート農機利活用のメリットにおいて現段階で明らかになっているものは、1)作業時間の減少、2)熟練度に因らない作業体系の確立、3)疲労の軽減─である。太陽ファームでは、現段階で2割程度作業時間を軽減できていることから、実現性の高いシステムであるといえる。スマート農機のシステムは、圃場や現地の気候によって条件が大きく異なることから、本原稿では実施した結果を掲載したまでにとどめる。