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調査・報告 野菜情報 2021年6月号

コロナ禍における家庭用にんじんの販売動向 ~徳島県JA板野郡を事例に~

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徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 講師 橋本 直史

【要約】

 今回は徳島県産の春にんじんを対象に、コロナ禍が本格化した2020年3月以降の販売動向を紹介する。例年、徳島県は3月から5月にかけて市場を占有する産地である。他方、徳島県産は卸売市場での高単価追求を販売戦略の柱とし、業務用需要の増加、輸入品攻勢の下で苦戦を強いられ続けてきた。しかし、2020年3月以降の“自粛”を背景とした家庭用需要の増加を受けて、徳島県産の春にんじんは想定以上の販売結果を示したのである。以下では、県内随一の主産地であるJA板野郡を対象にコロナ禍での販売動向を検討する。

1 はじめに

 近年、野菜を巡っては、社会・経済的環境の変化に伴う「食の外部化」の高まりを受けて、家庭における生食・調理用途(家庭用需要)の減少と、外食や加工向け用途(業務用需要)の増加が顕著である。2019年の冷凍野菜の輸入量が史上最高水準の100万トン超を記録したことは以上を雄弁に物語っている。だが、“天変地異ともいうべき変化が生じた。

 周知の通り、2020年1月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本国内においても拡がりをみせて以降、社会に計り知れない影響を与えていったのである。そして同年3月頃から本格的に、外出自粛、歓送迎会の制限など、コロナ対策が相次いで打ち出され、それまで当たり前にあった日常生活”が変容していった。その結果、「食の外部化」を担う幾多の産業が苦境に陥る一方、家庭用需要が息を吹き返す状況に転じた。今回は、家庭用販売を主眼とし、コロナ禍と出荷時期が重なった徳島県の春にんじん主産地である板野郡農業協同組合(以下「JA板野郡」という)における販売動向を報告する。

2 JA板野郡およびにんじん生産・販売の概要

(1)JA板野郡の概要
 JA板野郡は徳島県北部に所在し、現在の板野町、藍住町、北島町、上板町、阿波市一部地域(旧吉野町、旧土成町)に所在した七つのJAが1989年および2000年に合併して出来た農協である(図1)。当地域は県西部から流れる吉野川の下流域に位置し、明治期までは徳島県の象徴であった藍の栽培が盛んに行われていた。現在は、香川県との県境付近の山間部では果樹や酪農・畜産、平野部では稲作・野菜作と、多様な農業が取り組まれている。

図1

 JA板野郡の概要は次の通りである。2019年の組合員数は8738戸(正組合員:5585戸、準組合員:3153戸)であり、販売事業の取扱高は、野菜・果実・花き73億6000万円、米5億5000万円、畜産1500万円である。管内においては、にんじん以外にも、徳島県の特産品であるレンコン、なると金時(北島町)や、ブロッコリー、レタス、カリフラワー、かぶなど、多様な野菜の生産に取り組んでいる。
 
(2)JA管内におけるにんじん生産状況
 管内におけるにんじん栽培面積・農家数の推移を図2に示した。2020年産の栽培面積は654ヘクタールであり、徳島県の作付面積の2/3程度を占める(注1)。なかでも板野町、藍住町の2町が主要なにんじん栽培地域である。ただし、北島町を含め、藍住町は徳島県の中心地である徳島市に隣接することからベッドタウンとして人口の増加と集中が著しく、農地の農外転用・宅地化が進んできた。その為、一部の農家は近隣の石井町、吉野川市、阿波市への出作による出荷量の確保の対応を取っている。また、農家戸数については2020年で228戸と減少傾向にあるが、年齢層は40代から60代の層が厚く、一定程度後継者も育ってきている。

図2

 栽培面では、フジイシードの彩誉(あやほまれ)が主力品種(7割程度)であり、また、2000年代初頭にはハウストンネル設置から播種(はしゅ)・収穫に至る機械化体系が確立し、特に1990年代に普及した収穫機は面積維持・拡大に有効であったようである。そして、トンネルハウスを利用した栽培が当産地の大きな特徴である(写真1)。被覆したビニールに適宜穴を開けてトンネル内の温度管理を徹底することで、産品の甘さと柔らかさを追求している。トンネルハウスの費用は10アール当たりパイプ25万円(15年使用可能)、ビニール5万円(毎年更新)、収穫機は350万円(5~6ヘクタールの生産者で3~4年に一回更新)を要することから、露地栽培の競合産地よりも低コスト化が難しい。このような事情もあって、産地としては低価格が要求される業務用ではなく、高品質を訴求した家庭用向けの有利販売に専念してきたと考える。なお、にんじん専作農家は少なく、また、単収は例年5.2~5.3トンの水準で、管内の収穫量の8割以上が農協を通じて出荷される。
 
注1:農林水産省「野菜生産出荷統計」によれば、徳島県におけるにんじん栽培面積は1973年(421ヘクタール)から増加の一途を辿り、1993年にはピークの1170ヘクタールを示した。以降はおおむね1000ヘクタール台で推移したものの、近年は970ヘクタール程度の水準に低下している。なお、徳島県「徳島県統計書」などの資料やヒアリングから推察すると、出荷量の7割以上が農協組織を通じている模様である。

 写1
 

(3)にんじん集出荷体制と販売先

 表1に示した通り、JA板野郡には七つの部会が存在する。特に藍住町のB部会、板野町のC部会が大規模である。集出荷形態は基本的に全ての部会において個選・共販体制が採られており、重量測定以外は農家による手選別が基本となっている(写真2)。出荷規格は表2の通りであり、全ての部会で共通に用いられている。農協担当者によれば、中心規格となっている秀品のLとMの出荷量は全体の7割程度を占め、大手量販店向けの家庭用販売となっている。また、3L、2Lは学校給食用、S、2Sは大手小売店の袋詰め放題用、規格外となっているA品・B品は加工用原料向け(出荷量の2~3%程度)となる。部会単位で販売が行われており、出荷の全量が卸売市場を介して取引されている。

表1

写2

表2

 出荷地域は、関東(一部、東北)は48%、中京は21%、近畿は20%、中四国は11%の順となっており、なかでもB部会が関東をメインに販売しているとのことである。
 以上のように、販売面では需要が増加する業務用向けではなく、上述した良食味性や規格の順守・厳選による卸売市場での生食用途向けの有利販売実現を志向してきた。それ故、近年の加工業務用の輸入品攻勢、市場価格の全般的低迷傾向の下で、産地として逆境に晒され続けてきたのである。

3 コロナ禍が及ぼした販売面への影響

 前述の通り、JA板野郡の出荷先はほぼ100%が卸売市場向けである。市場への出荷は計画的に行われ、委託先の卸売業者が量販店と2週間先の取引数量を交渉し、1週間刻みで価格交渉を行う。産地には卸売業者からの注文が日毎に入り、トラックによって輸送される。
 例年、農協担当者は2月の卸売市場への入荷数量・価格の状況に基づき3月以降の販売動向を予測している。2020年2月にはCOVID-19感染拡大防止対策に伴う休校措置により、学校給食向けの3L、2Lの注文が想像以上に少なく、また価格水準が2019年産と同様の低迷傾向であり、販売の苦戦を想定していた。
 しかし、奇しくも歩調を合わせるように、徳島県産の出荷時期と国内におけるコロナ禍の進展が重なった。2020年3月初頭には旅行や飲食を伴う会合の自粛が既に始まっており、翌4月には7都府県(7日)、および全国(16日)における「緊急事態宣言」の発令や、以降のリモート・ワークの推奨等を受けて、家庭用需要が高まったことは疑いない。
 図3により、2019年産と2020年産の東京都中央卸売市場におけるにんじんの入荷量・価格(日別、2月~5月)を比較した。3月以降、徳島県産が過半を占める点、2020年産の方が入荷量・平均単価ともに上回った点が確認できる(注2)。なお、図3の徳島県産はJA板野郡以外も含まれるものの、主産地であるJA板野郡の販売実績が反映されたものと考えられる。

図3

 2020年産の販売実績について図4から長期的な視点で検討してみよう。結果的には2020年産の出荷量は例年より多め、かつ単価も平均的といえる。上述の通り、出荷直前までは2019年産と同様の販売低迷を想定していたのに対し、コロナ禍により量販店向けの需要が例年の1.5倍の水準に至り、ある意味で望外の結果となったのである。最終的な販売実績は、2019年産の出荷量3万5000トン、平均単価1キログラム当たり111円に対し、2020年産は出荷量3万6000トン(前年比103%)、平均単価1キログラム当たり148円(同133%)を記録した。当時、筆者の所属ゼミ生がアルバイト先として出向いていた当JA管内の生産農家によると、2020年産のにんじんの売上動向に管内の生産者はおおむね満足とのことであった。ただし、価格低迷基調が長年続いてきた中での2020年産の結果であり、1990年代には当然であった1キログラム当たり200円以上の水準は望むべくもない状況である。

図4

 今後の方針は、集出荷体制と販売先の両面において現状維持を最優先するようである。ただし、価格水準の低迷は課題と認識しており、大都市圏での更なるPRが重要と考えていた。なお、集出荷過程については労働力問題がより一層深刻になった場合に共選化が必要になるとのことであった。
 
注2:徳島新聞(2019年4月13日付)によれば、2019年は暖冬の影響もあって徳島県産の出荷量が3月に史上初めて1万トンを超えた一方、平均単価は例年の半値の水準を示したことから農家経営への悪影響に対する懸念が示されている。

4 おわりに

 以上、コロナ禍における徳島県の春にんじん産地であるJA板野郡の販売動向について紹介してきた。栽培面ではトンネル栽培に基づく甘みとやわらかさの面での品質を訴求し、従前から家庭用需要に特化した販売対応を採ってきたJA板野郡においては、コロナ禍による需要の変化を背景に、2020年産はある意味で幸運”な販売結果に繋がったといえる。ただし、現在も続くコロナ禍は未来永劫にわたって続く訳ではなく、いずれ業務用需要が復活していくことは間違いない。産地としては今後も現状の生産・販売スタイルを継続していくようであるが、状況次第では敬遠してきた業務用需要に嫌でも向き合わなければならなくなる可能性もある。最後に、社会・経済の基盤を切り崩しているコロナ禍には一刻も早い退場を願うが、視点を変えれば将来的な産地の存続・発展に結びつく取り組みや体制を構築する絶好の機会といえる。

 

謝辞:コロナ禍の中で、快く調査にご協力頂いたJA板野郡営農経済部・井上勝博氏に厚く御礼申し上げます。

 

(参考文献)

須藤真平「産地紹介・徳島県板野郡(にんじん)」 農畜産業振興機構「月報野菜情報2005年2月号」

URL: https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/santi/0502_santi1.html)




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