ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > コロナ禍における家庭用にんじんの販売動向 ~徳島県JA板野郡を事例に~
今回は徳島県産の春にんじんを対象に、コロナ禍が本格化した2020年3月以降の販売動向を紹介する。例年、徳島県は3月から5月にかけて市場を占有する産地である。他方、徳島県産は卸売市場での高単価追求を販売戦略の柱とし、業務用需要の増加、輸入品攻勢の下で苦戦を強いられ続けてきた。しかし、2020年3月以降の“自粛”を背景とした家庭用需要の増加を受けて、徳島県産の春にんじんは想定以上の販売結果を示したのである。以下では、県内随一の主産地であるJA板野郡を対象にコロナ禍での販売動向を検討する。
近年、野菜を巡っては、社会・経済的環境の変化に伴う「食の外部化」の高まりを受けて、家庭における生食・調理用途(家庭用需要)の減少と、外食や加工向け用途(業務用需要)の増加が顕著である。2019年の冷凍野菜の輸入量が史上最高水準の100万トン超を記録したことは以上を雄弁に物語っている。だが、“天変地異”ともいうべき変化が生じた。
周知の通り、2020年1月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本国内においても拡がりをみせて以降、社会に計り知れない影響を与えていったのである。そして同年3月頃から本格的に、外出自粛、歓送迎会の制限など、コロナ対策が相次いで打ち出され、それまで当たり前にあった“日常生活”が変容していった。その結果、「食の外部化」を担う幾多の産業が苦境に陥る一方、家庭用需要が息を吹き返す状況に転じた。今回は、家庭用販売を主眼とし、コロナ禍と出荷時期が重なった徳島県の春にんじん主産地である板野郡農業協同組合(以下「JA板野郡」という)における販売動向を報告する。
(3)にんじん集出荷体制と販売先
表1に示した通り、JA板野郡には七つの部会が存在する。特に藍住町のB部会、板野町のC部会が大規模である。集出荷形態は基本的に全ての部会において個選・共販体制が採られており、重量測定以外は農家による手選別が基本となっている(写真2)。出荷規格は表2の通りであり、全ての部会で共通に用いられている。農協担当者によれば、中心規格となっている秀品のLとMの出荷量は全体の7割程度を占め、大手量販店向けの家庭用販売となっている。また、3L、2Lは学校給食用、S、2Sは大手小売店の袋詰め放題用、規格外となっているA品・B品は加工用原料向け(出荷量の2~3%程度)となる。部会単位で販売が行われており、出荷の全量が卸売市場を介して取引されている。
出荷地域は、関東(一部、東北)は48%、中京は21%、近畿は20%、中四国は11%の順となっており、なかでもB部会が関東をメインに販売しているとのことである。
以上のように、販売面では需要が増加する業務用向けではなく、上述した良食味性や規格の順守・厳選による卸売市場での生食用途向けの有利販売実現を志向してきた。それ故、近年の加工業務用の輸入品攻勢、市場価格の全般的低迷傾向の下で、産地として逆境に晒され続けてきたのである。
以上、コロナ禍における徳島県の春にんじん産地であるJA板野郡の販売動向について紹介してきた。栽培面ではトンネル栽培に基づく甘みとやわらかさの面での品質を訴求し、従前から家庭用需要に特化した販売対応を採ってきたJA板野郡においては、コロナ禍による需要の変化を背景に、2020年産はある意味で“幸運”な販売結果に繋がったといえる。ただし、現在も続くコロナ禍は未来永劫にわたって続く訳ではなく、いずれ業務用需要が復活していくことは間違いない。産地としては今後も現状の生産・販売スタイルを継続していくようであるが、状況次第では敬遠してきた業務用需要に嫌でも向き合わなければならなくなる可能性もある。最後に、社会・経済の基盤を切り崩しているコロナ禍には一刻も早い退場を願うが、視点を変えれば将来的な産地の存続・発展に結びつく取り組みや体制を構築する絶好の機会といえる。
謝辞:コロナ禍の中で、快く調査にご協力頂いたJA板野郡営農経済部・井上勝博氏に厚く御礼申し上げます。
(参考文献)
須藤真平「産地紹介・徳島県板野郡(にんじん)」 農畜産業振興機構「月報野菜情報2005年2月号」
(URL: https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/santi/0502_santi1.html)