板野郡農業協同組合
営農指導部
技術顧問 須 藤 真 平
1.産地概要
板野郡農業協同組合は、徳島県の東北部にあり、日本有数の河川である吉野川中下流北岸に位置しています。当地域は、吉野川の豊かな水資源と沖積土壌を中心とする立地条件で、さらに瀬戸内の温暖な気候を生かして、にんじん(525ha)・レタス(294ha)・れんこん(60ha)などを主体とする県下有数の農業生産地帯として発展してきました。
最近、都市化の進むなかで、産地の減少、高齢化、担い手不足などの厳しさはあるものの、明石海峡大橋の開通や四国縦貫自動車道の延伸などにより、人および物の物流が飛躍的に増大し、これらの波及効果が地域農業の活性化につながると期待されています。
にんじん栽培は、昭和43年ごろから本格的に始まり、その後急速に普及・定着し、平成16年には、生産戸数372戸、栽培面積525haとなりました。
また、平成2年には、日本農業賞金賞を受賞し、指導的先導産地として名声を博しています。
表1 年次別販売実績
※土作りによる良質堆肥の投入は、土壌を団粒化し、質・量の増加に結びつけ、消費者好みのすばらしい人参を採ることができる。
(平成3年3t/10a当り~平成16年5t/10a当り)
2.栽培管理の特長
作型は、10月下旬~12月中旬に播種して3月下旬~5月下旬の収穫するものが主体です。種子の発芽と初期成育の条件を整えることを第一に考え、耕転、畦立て、播種、除草剤の散布、被覆までを機械化一貫体系で1日のうちに行い、土壌水分の保持に努める播種方法で成果を収めています。
トンネルの被覆資材は、フィルム幅3.6mと6.0m(5.4mもある)の2種類で、最近では、トンネル内の作業性や収量性から、6mタイプのものが急速に普及し、全体の85%を占めています。また、冬の季節風や春先の風でフィルムが飛ばされないよう、裾を畝間の土で完全に埋め込む被覆方法をとっています。また、圃場試験の結果、オレフィン系有孔フィルムが品質・収量を向上させ、特に早まきする場合に効果があることから、普及定着しています。(表2)
表2 被覆資材ごとの階級別発生比率
播種後126日目 3月3日調べ
※PO系有孔フィルムはそろいと肥大性がよい。多層では、無孔より有孔が好結果を示した。
窒素の施用量は、過去の試験成績を参考に、畑地では10a当り15kg、水田(転作)では20kgを目安とし、良質堆肥や有機物を投入し、減肥に結びつけ、環境にやさしい栽培を組織的に実施しています。
(表3)
トンネルの換気については、温度計を配置した換気モデル圃を設置し、データなどを参考にして、理想的なバランスのとれた換気を行っています。
畑の場合
※畑の施肥量は、「窒素15kg/10a当り」が適量で、生育肥大がよく、収穫に好結果を与えた。
3.土作りを栽培の基本に
平成6年から土作り試験圃を設置し、良質堆肥施用の参考にしています。(10a当り4tの施用効果が顕著)また、試験圃は現地研修の場として活用し、土作りの意識の向上に努めています。(表4)
土作りを栽培の基本にするという考え方から、土壌分析を年間1200点余り行い、分析診断の説明講習会を開催して、無理の無い施肥の合理化を進め、地力の増進と品質重視の生産の高位平準化を図っています。
堆肥供給センターができる前の平成4年は、土壌腐植値は低く、目標値2.0%以上の栽培面積は全体の4%(該当面積18ha)でしたが、平成15年になると66.0%(該当面積346ha)となり、堆肥の供給および啓発による波及的効果が顕著に現れました。(図1)
4.有機の里づくり
平成9年から「春夏にんじん有機の里づくり研究会」が、減農薬栽培とJA板野郡管内の畜産農家から供給される家畜の糞尿で作られる堆肥や有機質肥料を投入することにより地力の向上に努め、適正な土作りにより肥料成分の地下流出を減らし、地下水の汚染を防ぐなど環境保全型の栽培方法確立を目指し、生産農家、農協、県で組織されました。
土作りを基本に夏作ソルガムの投入、良質堆肥(4t/10a)と、オール有機肥料(「JA有機の里5・5・4」 240kg/10a慣行の4割減)を使って、環境にやさしい生産を目標に活動しています。(表5)
表5 有機の里づくり研究会 実証圃の成績
播種後146日目 4月11日調べ
※連年堆肥を4t/10a施用している実証区の生育肥大は早く、慣行区との差は顕著である。
5.販売戦略
にんじんの出荷販売は、3月下旬から5月下旬まで計画的な平準化した出荷が必要です。このため、生育測定圃を設置して、この生育データにアメダスデータをリンクさせ、出荷予測式を組み立て、適正分荷の調整や出荷の平準化に努めています。
また、集出荷場に専門検査員9名を配置し、規格の徹底管理により、品質格差の解消に努めています。
さらに婦人部による量販店でのキャンペーン、度重なる市場訪問など、安定供給と市場の信頼向上に努めています。
また、生産履歴の記帳の徹底、適正防除の推進、農薬残留分析の実施(JA:イムノアッセイ、県安心安全協議会:オープンラボによる検査)など、消費者に対してより高い安心感につなげるよう取組みを展開し、高い評価を得ています。
6.終わりに
今後の課題として、混在化が進むなかで、農村で活力と住みよい地域づくりをめざして生産の維持促進を図るために、担い手の確保、土作りによる品質収量の向上による収益性の増大が重要になっています。
一方では、農家の労働力減少傾向から、作業の向上のために機械化、省力化が必要となっています。これら産地の実態を見つめ生産組織の強化など、常に新たな飛躍を目指したいと考えています。