岡山大学大学院 環境生命科学研究科 准教授 大仲 克俊
【要約】
加工・業務用野菜の契約取引に取り組む大規模野菜作経営体は、加工・業務用野菜の実需を確認し、自社の農業生産体制を踏まえて実需者との契約取引を締結している。加工・業務用野菜では、「4定」(定時・定量・定質・定価)に加えて、低価格への対応が必要であるため、農業者は農業生産の大規模化や出荷・納入における合理化を課題として持ち、長期的な契約や日々の調整での取引相手との交渉・連絡が求められる。そのため、農業生産や取引の仲介だけではなく、経営管理なども含めた総合的な支援が必要となっている。
わが国の野菜消費においては、外食・中食の割合が過半を占めており(注1)、加工・業務用野菜の安定供給体制の構築が重要である。しかし、野菜産地では担い手の減少による産地の脆弱化や既存の野菜との流通体系やニーズの相違により、加工・業務用野菜の安定供給体制は不十分な面が多い。そのため、加工・業務用野菜の輸入が増加している。これらの課題に対応するには、加工・業務用野菜の生産に対応できる担い手の育成が必要である。加工・業務用野菜は、家計用消費向けに比べてサイズなどの規格面の出荷条件は緩いが、定時・定量・定質・定価に加え、外国産との競争から低価格での供給が求められている。そのため、農業生産側の生産面での機械化体系による効率化や、流通過程での出荷方法の合理化による低コスト化が求められる。また、農業経営体における取引関係の構築や日々の出荷・納入方法、代金決済、短期・長期での数量調整の在り方など、その経営における対応方法は十分に示されていない(注2)。
本調査の目的は、広大な圃場整備がなされた岡山県の笠岡湾干拓地(以下「笠岡干拓」という)において加工・業務用露地野菜の大規模生産に取り組む、大規模野菜作経営体の経営展開を分析し、経営における加工・業務用野菜の位置付けと展開について分析することにある。また、笠岡干拓の事例だけではなく、鹿児島県の薩摩半島の加工・業務用野菜の契約取引に取り組む大規模農業経営体と比較することで、加工・業務用野菜の契約取引の在り方や、加工・業務用野菜生産への取り組みが農業経営の生産規模および販売の拡大に与える影響について検証する。そして、加工・業務用野菜の生産拡大や農業経営体育成に関する普及の在り方について、実態調査に基づいて提起する。
注1:『平成24年 食料・農業・農村白書』によると、野菜の消費量・生産量は減少傾向にある中で、国内の野菜需要は、家計消費用から加工・業務用にシフトしている。野菜消費仕向けは、加工・業務用が56%(業務用:24%、加工原料用:32%)となっている。
注2:加工・業務用野菜の生産から流通過程まで網羅した研究には坂知樹氏の『フードシステムの革新と業務・加工用野菜』大学教育出版がある。
笠岡市は岡山県南西部にあり、広島県福山市に接している。人口は5万568人(2015年国勢調査)であり、総面積は136.36平方キロメートルである。
笠岡市では、昭和41年から平成2年にかけて、岡山県と笠岡市の要請による国営干拓事業が実施され、農地861ヘクタールが造成された。農地の1区画は10ヘクタール(500メートル×200メートル)であり、大区画圃場の基盤整備がなされた。
しかし、笠岡干拓では未配分農地や担い手の脆弱化による農地未利用の問題が発生した。そこで、平成17年から、公募での農地貸付による企業も含めた農業法人の参入などの遊休農地の対策が行われており、最近では地区内の農地利用の拡大が進展している。
笠岡干拓地に隣接している笠岡市神島内村が、農林業センサスにおける笠岡干拓地内の農業構造を示すと考えられるので(注3)、神島内村から笠岡干拓地の農業構造を見ていく。神島内村の農業経営体の経営耕地面積は442ヘクタール(うち畑面積は440ヘクタール)である。借地面積は182ヘクタールであり、借地率は41.2%となっている。経営耕地面積規模別の経営耕地面積の状況を見ると、神島内村の経営耕地は50ヘクタール以上層に集積され、50ヘクタール以上が60.6%を占めている。また、10~50ヘクタール未満層でも109ヘクタール(24.7%)の農地をわずか6経営体が保有し、集積されている。このように、大区画であり水利施設などの基盤整備がなされた笠岡干拓においては、大規模経営体の形成が進展している。
笠岡干拓の農地利用を見てみよう。図1は笠岡干拓における作付推移を示す。作付合計は、麦類や大豆、小豆、露地野菜、施設園芸(なす、いちご、バラなど)、果樹(もも、いちじくなど)の合計である。平成13年から14年にかけては260ヘクタール前後であったが、17年には200ヘクタール前後まで低下した。その後、露地野菜により作付面積は増加し、27年には294.9ヘクタールまで拡大している。
露地野菜の作付状況を見ると、ブロッコリーの作付面積が急増している(図2)。この急速な面積の拡大は、県外の農業参入企業の規模拡大によるものである。もう一つは、かぼちゃ、たまねぎ、キャベツの生産拡大である。これらの作付面積の拡大は、有限会社エーアンドエス(以下「エーアンドエス」という)の作付拡大によるところが大きい。特に、かぼちゃについてはほとんどがエーアンドエスの作付けである。
注3:神島内村の経営耕地面積において、水田が0ヘクタールであり、畑が440ヘクタール、樹園地が1ヘクタールのため、当該地区の農地のほとんどが笠岡干拓地の農地と推測できる。
エーアンドエスは、資本金4000万円の有限会社であり、農地所有適格法人である。会社の設立は平成21年であり、2ヘクタールの農地を購入して笠岡干拓で農業経営を開始した。
エーアンドエスを設立し、経営を行っているのはYA氏である。YA氏は、三重県出身であり、18年から三重県で農業法人を経営してきた。笠岡干拓には大規模な露地栽培の畑作経営を行うために参入した。経営に当たっては、三重県と笠岡市を往復し、必要に応じてスカイプなどの情報機器を活用しており、また、自身で野菜販売の営業も担当している。現地の農業生産などの管理は社員兼役員のO氏が担当している。
エーアンドエスは、貸借を通じて規模拡大してきた。22年には10ヘクタール、24~25年には6ヘクタールを加え、27年に経営耕地面積は40ヘクタールに達しており、29年は60ヘクタールとなる予定である。借地の地代は10アール当たり1万5000円であり、農地に関する諸経費は地主の負担である。
経営当初は、大手スーパーとの契約取引でかぼちゃを栽培していた。その後、25年に加工・業務用のキャベツ栽培を、26年にはたまねぎ栽培を開始した。
加工・業務用向けに経営を転換した契機は、独立行政法人農畜産業振興機構と野菜流通カット協議会が実施している加工用途向けのマッチング・フェア(国産野菜の契約取引マッチング・フェア)で情報を取得し、イベントにおいて実需者との接点を得たことにある(注4)。このイベントで加工・業務用野菜の需要に気付き、生産を青果用から加工・業務用にシフトし、規模拡大を行ってきた。
注4:農業経営を行う前に関わっていた食品リサイクル事業でのカット野菜工場との取引の経験も寄与している。
平成27年度の営農状況を見ると、キャベツは年2作の栽培であり、春キャベツの作付面積は6ヘクタール、秋キャベツは20ヘクタールである。たまねぎは年1作で、作付面積は12ヘクタールである。かぼちゃは年2作で、1作目が5.5ヘクタール、2作目が5.0ヘクタールである。また、連作障害対策や地力維持のために緑肥(ソルゴー)の作付け(7ヘクタール)や休耕を行っている。28年11月の調査時点で29年末までの作付計画が策定されており、契約内容と輪作体系が一致しない場合は、輪作を優先するとしている。ただ、経営者のYA氏は、加工・業務用野菜の需要が大きいため過剰生産の心配はなく、輪作体系と実需との差から野菜が余る状況は現時点で考えられないとしている。
図3から取引の調整状況を見ると、播種の半年前に大まかな数量を定め、播種の直前に契約を締結している。この契約では、①出荷時期、②契約数量、③価格と代金の締め日、④納入方法を決定する。
年間の作業スケジュールは図4の通りである。作業期間が短く、短期集中で作業をこなす必要があるのがかぼちゃである。1作目、2作目ともに定植を1週間で行い、収穫作業も1日当たり1ヘクタールの面積をこなしている。
一方、作業ピークと判断しているのが、たまねぎと春キャベツの収穫作業が重なる5~6月である。この時期は、春キャベツ6ヘクタールとたまねぎ12ヘクタールの収穫作業を行う。たまねぎは取引先が常に必要とするため、計画的に収穫しても大丈夫だが、梅雨の時期の雨で畑が水につかると腐る可能性があり、品質維持のため適期収穫を必要としている。
主な農業機械の所有状況を整理すると、トラクターは、100馬力2台、79馬力1台、70馬力1台、60馬力1台、55馬力1台、16馬力3台である。そのほかに、鉄コンを圃場内で運搬するクローラーが4台、キャベツ用乗用定植機2台、たまねぎの乗用収穫機2台や乗用定植機1台、また、ブームスプレヤー(135センチメートル)3台や、農作物の運搬を行うフォークリフトやトラック、育苗用ビニールハウスを保有している。
従業員の状況を見ると、社員は6人であり、事務が1人(20代女性)、農作業を行う社員が5人(女性1人、男性4人で、全員が20~30代)である。アルバイト登録しているのは22~23人であり、全員が毎日出勤するわけではなく、恒常的な従事者は8人程度である。社員は育苗、トラクター、収穫と、担当が大まかに分かれている。
キャベツの生産体制を見ると、定植作業は、定植機2台を8人(苗運びなども含めて)で運用し、トラクター作業は1人で行う。定植は1日当たり2ヘクタールをこなす。収穫作業は、キャベツの切断が15人、クローラーでの回収が5人、フォークリフトやトラックでの運搬が2人で、合計22人で行う。1週間で平均約60トンの収穫・出荷を行っている(1日当たり20アール・10トン)。
かぼちゃの生産体制は、定植作業は手押しの定植機を5~6人で運用し、1日2ヘクタール前後をこなしている。収穫作業は、トラクター1台を2人で運営して葉を刈り取り、鎌でつるからかぼちゃを切除するのが4人、回収するのが2~3人、圃場外へ運ぶトラクターが1人、それを受け取ってフォークリフトでトラックに積み、出荷するのが1人である。1日当たり2ヘクタール、約30トンを収穫する。
たまねぎでは、定植作業は乗用の定植機械1台を4人、トラクター1台を1人の5人で行う。1日当たり1.5ヘクタールの作業を行う。定植は、11月から翌1月にかけて、天候の条件が良い日に集中して作業を行っている。収穫作業は、乗用収穫機1台を3人、根切り・葉切り・掘り起こしを行う16馬力のトラクター2台を4人、軽トラでの運搬が2人で、計9人の組作業で行っている。1日当たり1ヘクタール、約50トンを収穫している。
このような作業体系により、エーアンドエスは10アール当たりの農作業時間の圧縮に成功している。平成19年度の品目別経営統計における春キャベツとたまねぎの全国平均の10アール当たり農作業時間と比較すると、春キャベツは全国平均に比べて64.2%の労働時間となり、たまねぎは28.6%となる(図5)。
27年度の売上高を見ると、キャベツ(春・秋含む)が4786万9000円、たまねぎが2898万8000円、かぼちゃ(2作合計)が2614万4000円である。キャベツの10アール当たりの出荷量は5500キログラム、たまねぎが4800キログラム、かぼちゃが1500キログラムである。
10アール当たりの売上高は、キャベツが28万2000円、たまねぎが24万2000円、かぼちゃが26万1000円である。YA氏は、販売単価では、キャベツとたまねぎは出荷手数料込みで1キログラム当たり65~70円、かぼちゃは100~110円を目標としている。物流マージンとJA手数料を除いた手取りの売上高は、キャベツとたまねぎは1キログラム当たり50円、かぼちゃは90円を目標とし、27年度の経営実績ではおおむね達成している。
加工・業務用野菜の取引関係において、エーアンドエスは独自の工夫を行い、代金の決済や発注、商品の物流において独自の体系を築いている。
契約期間は取引先により異なっており、主要な取引先であるKグループ(岡山県)とは、5年間の契約を締結している。
取引関係を見ていくと、契約取引において実需者(相手側)からの注文や数量の決定はエーアンドエスと実需者で調整する。しかし、実需者に野菜を納入するのはJA系統組織(地元JAと全農岡山県本部)であり、代金も実需者から地元JAへ支払われる。そして、地元JAのエーアンドエスの口座に振り込まれる。この関係は図6のようになる。納入などの伝票や代金請求などの事務作業は、地元JAが担当する。エーアンドエスは、実際に代金が振り込まれているか確認するだけでよい。出荷する野菜の計量も、地元JAの出荷施設でJA職員が行う。そのため、エーアンドエスは農業生産に集中できる体制となっている。また、エーアンドエスは野菜の契約取引の交渉は行うが、実需者との契約締結は、地元JAが行っている。
契約取引先の数は、経営者であるYA氏は10社程度あれば問題ないとしている。全ての契約取引先への納入は、必ずJA系統組織を通じて行っている。取引先は、地元の卸売業者であり自前でカット野菜などを生産するKグループや、冷凍食品メーカーなどである。
以上のような契約取引や出荷体制により、販売管理費、一般管理費の削減に努めている。また、地元JAを通すことで、地元の農地情報などが入ってくる点もメリットとしている。
エーアンドエスの契約取引の主要な相手先であるKグループの平成28年度の売上高は180億円前後(目標)である。10年よりカット野菜事業を行っている。
業務用野菜については、「定時・定量・定質・定価の4定」と「低価」が重要であるとしている。加工・業務用野菜における「低価」については、海外産との競争となるため、物流経費の縮減による低価格化への対応が必要としている。この「4定+低」を満たす取引先は、多数の農家が参加する大型産地部会、大規模な農業法人、ある程度の規模のそろった農家グループと捉えている。
エーアンドエスとは5年契約を締結しており、数量や価格を定めた契約を行っている。ただ、長期契約の中で適宜、数量などを調整している。互いに経営計画を立てやすくするために長期契約を結ぶとしている。
「定質」に関しては、加工・業務用野菜では栽培品種にこだわることはなく、とにかく求める水準を安定して生産できることが重要としている。また、品質としては大玉であることを条件としている。これは、小さい野菜も大きい野菜も作業の手間は変わらないためである。
「定時」では、日にち単位で納入を受けている。納入に当たっては、1週間前に取引先に連絡を行い、納入日を指定している。
「定量」については、1月から12月の年間計画を策定する中で、自社の締結した契約取引量を積み上げていく。その際に、契約内容を調整していく。契約取引で100%調達することを目指すが、10~20%は市場から調達できるようにするとしている。
「定価」に関しては、契約生産者との交渉や、JA系統組織と折り合いを付けながら価格を設定している。ただ、市価の変動によって契約取引価格より市場価格が安くなることがあるが、それでも定めた価格で取引し、信頼関係を構築するのが重要としている。
物流は、鉄コンの積極的な導入により、出荷の手間やコストを省くようにしており、生産者にも対応を求めている。また、物流コストの削減につなげるため、県内産の確保を重要視している。
Kグループは、長期契約に基づく取引を行っている。また、物流コストを抑えるために県内産の確保を目指し、さらに、契約取引の相手の選択において、一定の農業生産規模を重要視している。これらの点から、エーアンドエスはKグループにとって取引がしやすい存在であるといえる。
株式会社指宿やさいの王国(以下「やさいの王国」という)は、鹿児島県指宿市の農地所有適格法人である。社長のYO氏は平成17年に農業経営を開始し、当初は40~50アール(借地)でスナップエンドウやかんしょの生産を行っていた。やさいの王国を立ち上げたのは22年であり、28年現在で50ヘクタールまで経営規模を拡大している。経営地は、笠岡干拓と同様に、かんがい設備などの基盤整備が完了した地域である。
作付内容は、21年まではスナップエンドウやかんしょが中心であったが、22年からキャベツやレタスの栽培を他の農業法人の下請けとして開始した。23年からは独自販売と加工・業務用野菜の契約取引を開始した。
現在の社員数は役員3人、常時雇用社員が9人、外国人技能実習生が8人であり、期間アルバイトが数十人となっている。また、子会社が2社ある。
27年度の売上高は3億9000万円であり、うち3億円は自社生産、9000万円が仕入販売である。売上高の6割は加工・業務用であり、4割はスーパーとの契約や市場出荷である。
27年度経営実績における経営耕地面積は40ヘクタールであり、全面積が借地である。作付内容はキャベツ40ヘクタール、レタス40ヘクタール(玉レタス20ヘクタール、リーフレタス20ヘクタール)、オクラ、たまねぎなどである。
農業機械を見ると、トラクター12台、ブームスプレヤー3台、移植機8台、管理機、フォークリフト3台、トラック10台(2トン車3台、ウィング車1台、軽トラ2台など)である。また施設としては、事務所、機械倉庫、育苗ハウス、冷蔵倉庫、選果場、社員寮を有する。
加工・業務用野菜の契約取引では、天候などのリスクから野菜を確保できない場合があるため、契約相手に自社をメインとしないことを求めている。また、契約において、欠品の補償を負担しない取り決めを結んでいる。取引先の選定では、代金決済の早い加工会社との取引を選んでいる。
取引先との関係構築で重要なのは、①多数の取引先を確保、②取引先との人間関係の構築、③需要の強い農作物を持つこととしている。
加工・業務用野菜の契約取引は、毎年度契約更新して取引数量の調整を行っている。この契約取引の数量については、事業年度内から見直しを行う。
加工・業務用野菜の生産については。安定的に販売できることや単価がぶれない点をメリットとしているが、デメリットとして加工用としての歩留まりの問題、出荷の安定性(定量・定時・定質)が厳しく見られる点を挙げている。
YO氏は加工・業務用野菜の生産に取り組むのは、底堅いニーズがあることや、粗利で約20%の利益を達成できるとの見通しが得られたためとしている。そのため、やさいの王国の加工・業務用野菜による農業生産の規模拡大も、需要が先にあり、それに対応するために行われてきたのである。
本事例における大規模農業経営体の加工・業務用野菜生産は、規模拡大において重要な役割を果たしている。エーアンドエス、やさいの王国の両事例とも、加工・業務用野菜のニーズの把握から契約取引による生産の開始を契機に規模拡大を進展させており、ニーズを受けたことにより(またはつかんだことにより)、農業生産基盤の拡大を早めることになった。また、農業経営体の経営展開において、加工・業務用野菜の契約取引は経営計画・方針を策定する上で大きく貢献しているといえる。
農業生産上の工夫では、両事例とも、契約取引における安定出荷やロット確保のために、大規模化と機械化、雇用労働力の導入が見られる。中でも、エーアンドエスは、生産面では機械化による作業の構築に取り組み、流通面でも地元JAを利用することで合理化している。加工・業務用野菜は「4定+低」が求められ、価格面でも海外産との競争が求められるため、効率化は経営にとって重要である。
一方、契約取引や日々の出荷調整においても事例経営体に工夫が見られた。エーアンドエスの欠品に対する取引先との早期の情報共有や、やさいの王国の欠品リスクを自社が負担しない契約の締結などである。その際の取引先との関係では、自社の規模や農業生産の特徴を踏まえた交渉が重要である。
実需者としても、特定の取引先に偏ることは避けたいが、ある程度の規模を持つ取引先に絞ることを望んでおり、生産者側に一定の規模が求められている状況がうかがえた。加工・業務用野菜の契約取引に対応するには、取引相手先の必要とする品目、数量、取引価格、納入体制の整備が必要であり、効率的かつ一定規模以上の生産基盤が必要であると指摘できる。
そのため、加工・業務用野菜の契約取引による農業経営体の育成・発展には、農地確保や農業機械・施設の導入の支援だけではなく、雇用型農業に適合した農業技術や経営管理への支援が必要となる。また、経営規模に合わせた適正な数量・納入方法などといった契約交渉・調整などの方法も支援する必要がある。
これらの点を踏まえると、加工・業務用野菜の国産化を普及するには、生産過程、流通過程、そして契約取引の方法などのトータルサポートを通じた経営体の育成が必要である。また、本事例のエーアンドエスの急速な経営成長の背景には、笠岡干拓という基盤整備がなされた農業条件の存在という観点も欠かすことはできない。指宿市の事例も、かんがい設備などの基盤整備のなされた地域である。今後、このような加工・業務用野菜の取引に農業生産者が適応できるようにするには、土地条件の整備も重要なことが示唆されるのである。
参考文献
中四国農政局笠岡湾干拓建設事業所『明日を拓く大地と水』、1990年3月
農林水産省『平成24年 食料・農業・農村白書』、2013年6月
坂知樹『フードシステムの革新と業務・加工用野菜』大学教育出版、2014年8月